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短編集

残酷な神は気まぐれに槌を振り下ろす

作者: 山川四季

 その場所を見つけたのは偶然だった。

 退屈しのぎに今まで行ったことのない場所まで足を延ばし、面白いものは無いかと見渡していたら目に留まった。

 彼は早速その地に留まり、作業を開始した。心はすっかり新しいおもちゃに夢中になっていた。

 全てのものをゼロから創り上げる――。誰にも教わったことは無かったけれど、やり方は知っていた。彼の同族が同じことをするのを、何度も側で見てきたのだ。

 幸いにも材料は揃っている。こんなに好条件の場所が、手つかずで放置されていたこと。そして自分がそれを見つけたという幸運に小躍りしたいぐらいだった。

 初めに彼が創り出したのは、大型の生物だった。少し前に、彼の同族が創っていたものを参考にしたのだ。

 彼は夢中になって作業に没頭した。次々に新しい生物を生み出し、地上に送りだしては、それらが数を増やし育っていく様子を嬉しそうに眺めていた。

 けれど、やがて彼は退屈を感じるようになった。

 彼の創りだした生物は、思っていたよりも学習能力が無く、向上心というものに欠けていた。与えられている基礎本能に忠実すぎた。

 食べて、寝て、生み、育て、死ぬ。正に己の生活に何の疑問も無く暮らしている家畜のようだった。

 自分の思い通りになる生物たちを眺めて悦に浸る同族も居るのだろうが、彼には物足りなさ過ぎた。単調な日々をただ眺めて過ごすのが、次第に面倒くさく感じるようになってきた。

 ある日、彼は唐突に決めた。ゼロからまたやり直そうと。

 彼は何のためらいもなく、自らが創りあげた世界を消し去った。さすがにリセットボタンを押す間際にはこれまでの労力が少し惜しまれもしたが、だからと言って決心が鈍ることは無かった。

 白紙に戻った世界を前に、胸がわくわくした。これからどんなものを創り上げよう。どんな計画を立てて実行に移そう。

 考えた末に彼は、今度は小型の生物を創ることにした。大型の生物の方が見ていて迫力はあったけれど、その分、生命維持のための本能が大きくなる。

 彼が望むのは、与えられた環境に甘んじることなく、常に創意工夫して予測もつかないような方向に進化する生物だった。

 見ているこちらを飽きさせないような、そんな生物。

 そのために彼は、前回は重要視しなかった、向上心や競争心をふんだんに盛り込むことにした。身体を小型にした分、脳の進化する余地を大きくした。

 こうして創りだした生物を地上に送りだすと、思った通り彼らは驚異的なスピードで環境に慣れ、それを快適化するための工夫を自ら考え出した。

 繁殖のサイクルも早くしたおかげで、瞬く間に彼らは地上を覆い尽くすほどに増えた。

 そして次々に生み出された新しい命が、次々に新しいことを考え出し実行していった。

 彼はその様子を興奮した様子で眺めていた。これこそ彼の求めていた世界だった。

 彼の眼下でめまぐるしく変わる生物たちの世界は、まるで活動喜劇を見ているかのように彼の目を楽しませた。

 自分の試みが成功したことに満足していると、同族からの呼び出しがかかった。

 つい作業に没頭していたせいで、予定していたよりも長く自分の所有地を離れていた。それを気にかけた同族たちから顔を見せるようにと言われたのだ。

 後ろ髪をひかれるような心残りを感じながら、しぶしぶ彼はその場所を離れた。しかしかえってそれが良かったのかもしれない。

 同族たちへの挨拶を済ませて戻って来ると、少し目を離したすきに生物たちは更なる進化を遂げていた。

 その後も、度々留守にして戻って来るたびに新しい発見があり、彼は一向に飽きるということが無かった。

 彼が創りだした生物たちは、自分たちだけの力で見事に生活を営んでいた。彼の助けは必要なかった。

 しかし彼は、気まぐれに彼らの生活に手を出した。それは自分の創った世界に干渉したいという、ごく当たり前の衝動だ。

 彼が手を出したことによって、生物たちから感謝されたこともある。彼らは自分たちを救ってくれたのが誰か分からなくても、彼に向かって感謝の祈りを捧げた。それは少しくすぐったい気持ちだった。また、彼が助けたことによって生物たちが幸せな人生を歩んでいくのを見ると、誇らしい気持ちになった。

 時に彼は大規模な改革を行った。中には生物たちの多大な犠牲を伴ったものもある。しかし彼がいつも感嘆するのは、そうした経験を乗り越えて、生物たちがより強く逞しく進化していくことだった。

 彼らの中にはどんな悲劇にもめげない強さがあるらしい。自分が創りだしておきながら、彼はその事実に驚くのだった。

 そうして彼らの生活を見守り、時に手出しをしながら瞬く間に時間は過ぎて行った。

 地上は生物たちに支配されるようになり、飽くことを知らない彼らの探究心は宇宙に目を向けるようになって来た。

 けれど最近の彼らの様子は、創造主である彼にとって少し不満な部分が多かった。

 以前に比べて進歩するスピードが遅くなったように感じられたのだ。与えられた環境に慣れきっている生物たちの数が増えたようにも思われた。

 進歩や進化を望まず、安寧に日々を過ごすだけの生物の割合が。

 特にそれは生物たちの中でも、地上での権力の大きい国ほど数が多いような気がしてきた。

 国民を統治するための代表機関は、どうでも良いような些細な問題を取り上げてお互いの足を引っ張り合うことに固執する。彼の与えた競争心は、そんなつまらないことに使うためでは無かったのに。

 経済は停滞し、新たな需要を生み出すために打ち出される政策は、苦し紛れの小手先の技だ。

 無気力な生物が増え、不満を抱えていても行動に移すことはしない。その状況に甘んじていて、自分には何の非も無い、何も出来ないと思い込んでいる。

 それは見ていて非常につまらない光景だった。


 だから、彼は手を出した。


 危機的状況を創り出してやった。


 否が応でも生物たちの一体感が高まるような状況を、創り出してやった。


 復興作業を通じて、停滞していた経済も動きだすだろう。


 地上の全地域に及ぶ大規模な改革。今回もやはり、多大な犠牲を伴うものだ。けれど生物たちは今まで通り、悲劇を乗り越えて見事に復活を果たすに違いない。そしてまた次なる段階へと進歩を続けるのだ。

 だから彼は、何事もなく槌を振りかざす。ためらいもなく槌を振り下ろす。それが当然の権利だから。

 そこは彼の創りだした世界だから。

 全てが、彼の手の平の上の世界だから。

目には見えない大きな力を、私は信じています。

それを「神」という単語で現すのが最もしっくりくるので「神」と呼びますけれど。

決してその力が、人類にとって幸せのみをもたらすということは考えていません。

そんな都合の良い存在は宗教の教義の中だけにしか居ないと思います。

救いにも害にもなる。それが「神」の正しい姿ではないでしょうか。

(2011.3.12)

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[良い点] 非常に現実感が出ていてあり得なくはないところがすごくよかったです。
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