前回までのあらすじ……長輔は二人の女の子とお手々をつないで接着剤でくっつけられた。羨ましいな……おい、ちょっと俺と代われ。
御食事処!第59回「定食屋って、たまにとんでもない低価格でレストランより美味い飯出してくるからビビるよね。あれってどうやって採算とってんだろう?」
美術が終わった後、俺たち三人は力を合わせ、ついでに手も合わせ……連結状態を維持したまま、授業を受け続けた。ついでにクラスのみんなから嘲笑の眼差しも受け続けた……そして、あっという間に昼休み。
周りのクラスメイトと同じように……とはいかないが、俺たち三人は横並びで机をくっつけて、お弁当タイムに入った。のはいいんだけど……
「はい、スーちゃん。アーンして」
「……」
「アーン。もぐもぐ……ありがとう記野崎君」
「……」
「いえいえ、困った時はお互い様ですよ」
このように、右利きの記野崎が自分の弁当を食べながら、スーちゃんの弁当をスーちゃんに食べさせてあげているのだが……気づいて!! 君たちの間に、弁当を食べるどころかまだ鞄から出すことすら出来てない子がいることに気づいて!! あまりにスルーされすぎて声まで出し忘れている子がいることを思い出して!!
「何ですか、服部君? その何かを訴えかけるような目は? 何か言いたいことがあるなら、口で言ってください」
「だったら、言うね!! 俺の弁当も鞄から出して、俺にもお昼ご飯食べさせて下さい!! お願いします、記野崎さん!!」
「ダメです」
「何で!?」
「心が折れるのが早過ぎです。もっと頑張って、耐え忍んで、粘って、それから心が折れて、僕にお願いして断られてください。その時に見せる絶望に打ちひしがれた顔を見て、僕は始めて幸せを感じます」
言うと思った、このドS野郎!! でも、嫌いだな!! 僕、君のそういう鬼畜なところ嫌いだな!!
「か、可哀想だよ、記野崎君。服部君にも食べさせてあげなよ」
うぅ……スーちゃん、ありがとう……
「嫌です。たとえ、スーちゃんの頼みでも、壊賀先生の話で興奮して前かがみになるような変態に食べさせてあげたくありません」
それは仕方ないじゃん!! だってあの女が思春期の妄想を遥かに逸脱するようなエロティックな話をしてくるんだもん!! そりゃ、引きこもりがちの息子もちょっと外の空気に当たってみようかな……て、気分になるって!! ザクが指揮官アンテナおっ立ててグフに進化しちまうって!!
「で、でも、それは仕方ないことだよ。ほら、先生も言ってでしょ? そういう話をしたら、男の子のガンダムはみんなサイコガンダムになっちゃうんだよって」
ありがとうスーちゃん……でも、俺のはガンダムどころかザクだから……頑張ってもグフにしかなれないから……
「だとしても、嫌です!! スーちゃんはいいですよ。教科書とってくれたり、ノートを開いてくれたり、色々してくれましたから。でも、服部君は何もしてくれないじゃないですか!! そんな見ているだけの人は助けたくありません!!」
仕方ねえだろうが!! 俺は両手がふさがってんだぞ!! それで何をどうしろってんだ!!
「そ、それはあたしが服部君の左手を握っているから……」
そうだ、そうだ!! スーちゃんの言うとおりだ!!
「だとしても、服部君なら何とかできるはずです!! だって忍者なんだもん!!」
何その屁理屈!? もう、あったまきた!! もう、お前なんかに頼んねえ!! もう、自力で何とかしてやる!! だって、忍者なんだもん!! 忍者の底力なめんなよ!!
俺は上履きと靴下を脱ぎ捨て、素足を両手のように器用に使い、鞄から弁当箱を取り出した。
「ふはは!! ざまあみろ記野崎!! お前のちっぽけな力なんて頼んなくても、俺は自力で何とかできたぜ!! だって忍者だもーん♪ 悔しいか? え、こら?」
「や……別に……」
呆れる果てる記野崎を尻目に、俺は足で包みを開き弁当箱の蓋を開けた……が、中は空っぽだった。誰かに食われたとか、そんな系統のオチではなく、最初から何も入れられてなかった。否、そこには弁当の代わりに、一枚のメモと、一枚の野口が入っていた。
――長君へ。朝、ドタバタしてたから、お弁当作れなかった。ごめんね? 代わりにその千円で何か買って食べて頂戴――
そりゃねえだろ、かっつぁん!! 何でよりよって、こんな時にこんな凡ミスしでかすんだよ!! ていうか、何!? 前々回のワンニャン戦争はこのための前フリだったの!? 一話丸ごと使ってやることかよ!! ふざけんなよ、くそ!! ちくしょう……
イカレ教師に顔面をムチでひっぱたかれ、鬼畜外道なクラスメイトにはバカにされ、畜生風情のせいで弁当は食えず……なんで俺ばっかりこんな目に……なぁ、神様……俺、何か悪いことしたか? いい加減にしねえと三丁目の商店街にあるてめえの屋台に火つけんぞ!!
悲しみと悔しさのあまり、俺は野口さんの顔を涙で歪めてしまった。
「服部君。アーンしてください……」
すると、それまで俺に弁当を食べさせることを断固拒否していた記野崎が、何を思ったか急に自分の弁当に入っていた卵焼きを俺に差し出した。
「何の真似だよそりゃ……ひょっとして、アレか!? 同情か!? 同情してんのか!? バカにすんじゃねえ!! 同情なんていらねえんだよ!! 同情するなら弁当くれ!!」
「だから、やるっつってんだろ。とっとと食えよ、オラ」
あ、ごめん……ちょっとカリカリして気が動転しただけだから。本当は超嬉しいから。だから、そんなマジで怒らないで。女の子にこんなこと言うのは何だけど、お前がマジで怒った顔は、ちょっとマジで迫力あり過ぎるから……
「10……9……」
「記野崎君!? 何の前フリもなしにいきなりカウントダウンとかやめて!! そんなの超恐いから!!」
「3……2……」
まさかの6個飛ばし!? て、突っ込んでる場合じゃねえ!! ゼロになったら何されるか分からないし、その上つながっているから逃げることも出来ねえ!!
「ハンム!!」
俺はのどに突っ返そうな勢いで、記野崎が差し出してくれた卵焼きを食べた。
「いいですか、服部君。人の好意は素直に受けろ。やれと言われたことは五秒以内にとりかかれ。これが僕の家の家訓です。覚えておいてください」
「う、うん……分かったよ」
でも、それは記野崎君のお家のルールでしょ? 僕は記野崎家の人間じゃないよ? 服部家の忍者だよ? 何で俺がお前ん家のルール押し付けられなきゃいけないの?
てか、何気にお前の家って厳しいんだな……そういやこいつの親父さんって建築会社の社長なんだよな。それも、職人気質でやり手の……そりゃ厳しく育てられてるわけだ。でも、だからって俺にまでその厳しいしつけを押し付けるなよ……
「ねえ、服部君。僕の作った卵焼きはおいしいですか?」
「はい!! それはもう大変美味でございます!! ……いや、ていうか、これマジでお世辞抜きに美味いな」
「本当ですか!? 嬉しい♪ ンフフ……」
「……?」
自分の料理を褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、記野崎は本当に嬉しそうに笑った。ちょっと、オーバーなぐらいに。
怒るとすげえ恐いけど……こうやって笑っている顔は本当可愛いな。そんな可愛い女の子に食べさせてもらえるとか、今の俺ってちょっと幸せかも……
しかし、幸せはそれだけではなかった。
「ねえ、服部君。今度はあたしの作ったハンバーグも食べてみて」
俺と記野崎のやり取りを横で見ていたスーちゃんも、俺に弁当を分けてくれたのだ。
そして、スーちゃんの真心がこもったハンバーグが、記野崎の手で俺の口に……
「どう? おいしい?」
「うん、超おいしい……そして、超幸せ……幸せ過ぎて今日死んじゃうじゃないかってぐらい幸せ……」
「え~ヤダもう! 服部君たら大げさだよ♪」
そう言って、スーちゃんは体をくねくねさせながらはにかんだ。やべ……こいつもちょっと可愛いかも……
こんな清純派アイドルのようなヒロインのスーちゃんと、小悪魔的なヒロインみたいな記野崎の二人と連結状態って……これぞまさに男子の夢!! 両手の花!! しかも、記野崎がスーちゃんに食べさせてあげる時なんて、自然と体を寄せ合うから、二人の体が俺の両腕に密着する!! その上、眼前には可愛い子ちゃんが二人!! 何だというのだ、この桃源郷は!! こんなおいしい思いができるなんて夢にも思わなかったぜ!! 神様ありがとう!!
だがしかし、神に感謝の意を述べたのもつかの間、俺の幸せタイムは終了の時を告げようとした。
「いいな!! いいな!! 長ばっかり!! 二人の女の子と連結するだけでも幸せなのに、スーちゃんの弁当を記野崎にアーンしてもらうとか、どんだけおいしい思いしたら気がすむんだよ!! お前ばっかりずりーよ!! 友達だったら俺にもその幸せおすそ分けしろよ!! 俺にもちょっと連結させろよ!! 俺もジョイントパーツ持ってるからよ!! 俺の早漏をアーンしてくれよ!!」
チンピラのように絡んできたタカのせいで……
「あのな、タカ……ジョイントとか出来るわけね」
「うっせんだよ、この腐れファッキンリア獣が!!」
「な……!!」
「てめえには聞いてねえんだよ!! すっこんでろ!!」
こいつがこんなにキレるなんて……そんなに俺が羨ましかったのか? ていうか、残りの三人はどうし……は!!
ふと教室の隅に目をやると、そこにボコボコにされて動かなくなったハル、ヒロ、シンの姿があった。
三人のあのありさま……そして、タカの制服の汚れ具合……まさか、こいつ!!
「気づいたか、長……そう、俺は仲間たちの屍を超えてここまでたどり着いたんだ!! これは俺一人の問題じゃねえんだよ!! 俺は友達の願望も背負ってんだよ!!」
「いや、お前格好いいこと言ってるつもりか知らんが、ただ単に仲間割れして生き残っただけだろ?」
「うるせえ、この腐れファッキンミニマムチンコが!!」
てめえ、この両手が使えるようになったらどうなるか分かってんだろうな?
「ねえねえ、スーちゃん。そんなことより、俺と君のお弁当を交換しない? 俺、実は大村食堂っていう定食屋の跡取り息子で、小さい頃から料理作るの手伝わされてるから、俺の作った弁当は超おいしいよ。こいつに食わせる弁当なんて、運動部の連中に売ってる店のあまり物で作ったそのあまり物で十分だよ!! だから、スーちゃんのお弁当は僕ちゃんにちょーらい♪」
「……」「……」「……」
「……て、あれ? どうして三人ともそんな呆れきった顔で俺を見るの?」
たぶん、横の二人は「どうしてそのことをもっと早く言ってあげないの?」って思ってるんだろうけど、俺は違う……俺は思った……
どうして、このタイミングで現れて、そんなことを言っちまうんだよ……そんなことしたらどうなるかぐらい考えろよ……
で、結局……
「はい、長。あーんして……」
タカがうつろな目でから揚げを俺の口へ運び
「あーん……もぐもぐ……」
俺が光を失った目でそれを食べるという図式ができあがった。
「どう……? 俺の作ったから揚げおいしい……?」
「うん、とってもおいしいよ。ありがとうね、タカ」
「て、何だよこれ!! 何で俺がお前の食事の補助をしなきゃいけねえんだよ!! お前はどこのジジイだ!!」
「知るか!! 俺がジジイならてめえはヘルパーだ!! もっと俺をいたわり、そしてヘルプしろ!!」
ていうか、文句が言いたいのはこっちの方だぞ!! てめえが現れたせいで俺の桃源郷は崩壊して、両手の花が「二人の邪魔になるといけないから」とか言って、俺の後ろにまわっちまったんだぞ!! もう、あのかわいい顔も見れないし、ドキドキウキウキなスキンシップもできないんだぞ!! おまけにイスに座って両手を後ろに伸ばしてるから、何だかパロスペシャル決められてるみたいな格好なんだぞ!!
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ、服部君。パロスペシャルみたいに腕間接はきまってないでしょ?」
「うるせえな、記野崎!! 物の例えだよ!! ていうか、いちいち心の声に突っ込むな!!」
くそ!! 何の罰ゲームなんだよ、これは!! 後ろの二人は仲良く食事できるかもしれないけど、俺たち二人はそうはいかないよ!? もう100%狂気!! すでに喧嘩腰だもん!! 超殺伐としてるもん!! 俺たちの友情にヒビ入るかもしんねえわ!!
「ぐだぐだ言ってんじゃねえぞ、長!!」
「あんだとこの変態料理人!!」
「から揚げだけじゃ満足できねえだろうから、ごはんもくれてやんよ!! とっととその口あけやがれ!!」
「上等だ、かかって来いや!!」
「オラァ!!」
「もぐもぐ……相変わらずてめえの弁当はうめえな、バカヤロー!!」
「当たり前だろうが!! 朝の四時半に起きて、仕込みして、米も土鍋で炊いてんだ!! 創業70年を超える大村食堂の品質なめんじゃねえ!!」
「毎朝、毎朝、バカみてえにご苦労なこったぁな!! 小遣い稼ぐためにそんな朝早く起きるとか、お前本当バカなんじゃねえの!?」
「お客様のニーズに答えるのがプロなんだよ!! そんなことも分かんねえバカは、この金平ごぼうを食らいやがれ!!」
「あむ……もぐもぐ……うめえじゃねえかよ、クソが!! 俺、金平ごぼう大嫌いなのに、思わずうめえって言っちまったじゃねえか!! 折角、糞まずいって言えるチャンスだったのによ!! これのどこかニーズに答えてんだ、ボケ!!」
「だったら、このポテトサラダはどうだ!!」
「もぐもぐ……うめえよ!!」
「梅干!!」
「うめえ!!」
「焼き鮭!!」
「うめえよ!!」
「じゃあ、じゃあ……もうねえよ、クソったれ!! あっさり完食してんじゃねえよ!!」
「んだよ、もう終わりかよ!! ぶっ殺したくなるぐらい美味かったぞ!! まったくごちそう様でした!! どうもありがとうだ、バカヤロー!!」
「どういたしましてだ、コンチクショー!! 何だったら、今度俺ん家来いよ!! もっと美味いもん、いくらでも食わしてやんよ!!」
「上等じゃねえか!! 行ってやるよ!! その時はてめえ、どうなるか分かってんだろうな、あぁん!?」
「てめえこそ、覚悟してろよ、ボケが!! 腹いっぱいにして晩御飯とか食べられなくしてやるからな!!」
そんな感じで俺とタカが火花を散らしていると、後ろスーちゃんがぼそりとつぶやいた。
「二人って仲いいんだね」
「「全然良くねえよ!!」」
その瞬間、非常に悔しいが、俺とタカの意思が連結してしまった。
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