19:00第49回「REALFIRECAR(マジで火の車)」
19;00時。頭のおかしい妹のせいで、ゴーゴーヘブンされそうになった(というか近い将来に高確率で死ぬことが確定した……)俺は、その妹と現実から逃げ出すように家を出た。といっても家出とかじゃない。単なる食後の散歩だ。これ以上事態が悪化しないよう、忍を連れて、親父のカードも持ち出して、新月には亜里沙を見晴らせて、気分転換の散歩に出たのだ。何でそこまでする必要があるのかというと……まあ、前回読んでれば分かると思うから、あえて言わない。というか、言いたくない……もう、思い出したくない……
そんなこんなで、夜の帳が落ちた静かな住宅街を、肩を落としてブルーな気分で、俺はさんぽしてた。その足元ではしゃぐ人間の姿をした犬っころは、俺とは対照的に物凄いルンルン気分だ。俺をブルーな気分にさせた張本人とは思えないぐらい上機嫌だ。反省の色なんてこれっぽちもないんだろうな。やっぱ、犬にとって散歩は楽しいものなのかね……
などと思っていると、何かに気づいたように突然忍が立ち止まった。
「ご主人様!! ご主人様!!」
「どうした、腐れファッキンミニマムウンコ下種野郎チンカスドッグ?」
「長っ!! そして、ひどっ!!」
「うるさい、バカ、黙れ。で、何だ? ウンコか? ウンコなら我慢しろよ。今のお前は幼児にしか見えないんだから」
「違うでしゅ!! ウンコさんじゃないでしゅ!! 新月姐さんの匂いさんがするでしゅ!!」
「新月のウンコか。よし、分かった。後であいつには、外でウンコをしないようきつく叱っておこう」
「だから、違うでしゅ!! というか、ウンコさんから離れるでしゅ!!」
うるさいな……じゃあ、何なんだよ、この腐れファッキンミニマムウンコ。
「あのタクシーさんから新月姐さんの匂いさんがするでしゅ」
そう言って忍がビシッと指差したその先には、確かに白いタクシーが止まっていた。
「は!! もしや、新月姐さんはあのタクシードライバーに誘拐されてしまったでしゅか!?」
「や……それはないと思うよ……」
どこぞの未確認生物保護団体じゃあるまいし、ただのタクシードライバーが新月を誘拐する理由なんてないからな。ていうか、ヤクザを一網打尽にするほどの高スペックをお持ちなあのスーパーニャン子が、そうやすやすと人に捕まるとは思えない。もしそうだとしたら、捕まえた奴の身が心配だ。それに何より、あいつは今家にいるはずだ。
じゃあ、何で新月の匂いがタクシーからするんだ? 忍が、頭だけでなく鼻までおかしくなったとか? いや、そんなはずはないと思うんだが……じゃあ、何でだ? うーん…………………………
「あああああぁぁぁぁぁ!!」
「ど、どうしたでしゅか、ご主人様!?」
「思い出した!! あいつ昨日の晩、タクシー使って警視庁まで行ったんだよ!!」
「…………ここからでしゅか? 相当かかる気がするでしゅけど……」
「ああ、それで四万八千円もかかったんだが、二千円しか持っていなくて、タクシーの運ちゃんも笑い泣きしながら走り去ったそうだ……」
「か、かわいそうに……」
「うむ。ここであったが、百年目だ。昨日の不足分を支払っておこう」
「そうでしゅね……あ!! 大変でしゅ、ご主人様!! タクシーが走りだしたでしゅ!!」
「何!?」
いかん!! ここで見失えば、次にどこで出会えるか分からない!!
「よし、忍!! あのタクシーを追いかけるぞ!!」
「でっしゅ!!」
力強く頷いた忍と共に、俺はタクシーを全速力で追いかけた。
19:30時。俺と忍は……
「待ちやがれええぇぇ!!」
「ひいいいいぃぃぃぃ!!」
時速100kmぐらいで逃げるタクシーを、全速力で追いかけていた。
ていうか!! 何であのタクシーは逃げんだよ!!(注:少年と幼児が時速100kmで走って追いかけてきたら、普通逃げます) こっちはただ金を払おうってだけなのによ!!(注:向こうは化け物に追いかけられていると思っています) 強盗か何かと勘違いしてるのか!?(注:それ以上の勘違いをしています)
ていうか、マジで止まってくんねえかな……俺もう本当に体壊れるって……俺だけじゃないなんだよ? 忍だって……
「ハッ♪ ハッ♪ ハッ♪」
楽しそうだな、こん畜生!! さすがお犬様だよ!! 走るのは全然苦じゃなかったよ!! 苦しいのは俺だけだったよ!! あ、いや……もう一人苦しそうな奴が俺の横に……
「ご……ごー……ゴーへ~ぶ……ゲホ!! ゲホ!!」
なあ死神……そんな無理してゴーゴーヘブンを歌わなくてもいいんじゃないか? 何だかお前のほうがゴーゴーヘブンしちまいそうだぞ?
いや、こんな生物がどうかもいかがわしいおっさんの心配をしている場合じゃない。猛スピードでタクシーが逃げるもんだから……
『そこのタクシー!! 止まりなさい!!』
後ろからパトカーに追いかけられてるんだよな……
『あと、そこの少年と……こ、子供!?』
やべ、気づかれた!! くそ、このまま警察に捕まって騒ぎを起こしたことが親父にばれたら……ぐああぁぁ!! もう想像もしたくねえ!!
「おい、死神!! 後ろのパトカーを何とかしろ!!」
「ほへ……? おまわりさんの魂をゴーゴーヘブンさせればよろしいんですか?」
よし、お前はもう何もするな!!
「おい、忍。このおっさんは役にたたん。頼りになるのはお前だけだ。何とかして後ろのパトカーを止めろ!!」
「了解でしゅ!!」
ビシッと敬礼をすると、忍は時速100kmで走りながらケツを出し…………て、ちょっと待て!! お前何する気だ!? おい、まさか……
「忍法ウンウンまきびしの術でしゅ!!」
“ぷりっ♪ ぷりっ♪”
やりやがった!! こいつ最低な方法で足止めしやがった!! ていうか、こんなものでパトカーが止まるわけ……
『やべ!! ウンコだ!!』
“キキー……ドカン!!”
あった……ウンコよけようとして事故りやがった……乗ってる奴は大丈夫なのか……ありとあらゆる意味で……なんかこの町の治安が著しく低いわけが分かったような気がするぜ……
「ふー……大変すっきりしたでしゅ」
「………………」
満足げな表情でケツをしまう忍。まあ、結果オーライで助かったからよかったようなものの……ていうか……うん、まあ、食後の散歩でウンコがしたかったのも良く分かるんだけど……こいつ今ケツ拭いてなかったような気が……あ、いや、もともと犬だから別にいいのかな……
まあ、そんなことよりも、あのタクシーを止めるか……
「ねえ、早くあのタクシー止めてよ!! もうおじさん限界なんだよ!! 体力の限界なんだよ!! 死神っていっても基本スペックはあんまり人間と変わんないだよ!!」
横にいる死神もうるさいし……俺のことはあきらめて、どっか行けばいいのに……
まあ、方法がないわけでもない。
A、クナイや手裏剣でタイヤをパンクして止める。
B、運転席の窓をぶち割って運ちゃんをぶん殴り気絶させて止める。
C、忍術で運ちゃんを驚かせて、車を止めさせる。
まあ……タクシーや運ちゃんを壊したら、修理代や治療費がかかるし……それ以前に倫理的に間違っているような気がするし……何をどう考えたって、C以外あり得ないよな……ていうか、何でAとかBのプランが出てくるのか分からない……俺の頭そうとうイカれてるな……
よし、作戦はこうだ。まず、俺が科学忍法火の鳥で、タクシーの前に炎の鳥を出現させる。すると、タクシーの運ちゃんは驚いてブレーキを踏む。その瞬間に運ちゃんを引きずり下ろし、事情を説明して昨日の不足分を渡し、走り去る。
完璧な作戦だ。よし、行くぜ!!
「科学忍法火のと……へ……へ……へっくしゅん!!」
あ、やべ。狙いがそれ……
”ボオオォォ!!”
タクシーに直撃しちゃった……
「あ、あの……ご主人様……? タクシーさんが止まるには止まったんでしゅが……物凄く炎上してるような気が……」
「そ、そうだね、忍君……」
「これが本当の火の車って奴でしゅかね……?」
「は、はは……上手いこというね、忍く……」
“ドカーン!!”
爆発した!! ガソリンに引火してタクシー爆発した!! ちょっと運転手さん大丈夫!?
と、思ったら、戦闘機の脱出装置のように、車のシートごと上空に放り出された運転手さんが、俺たちの前に着地てきた。なぜかハンドルを握ったまま……なぜか不思議なことに全裸になって……光を失った目で虚空を見つめながら、運転手さんは言った……
「ぶ……ぶ~ん……」
無理です!! いくらそんな効果音を口で言っても、あなたの車はあなたの後ろで絶賛炎上中です!! 大破しています!! もう二度と走ることはありません!!
「カチャ……カチャ……」
無理です!! いくらそんなシフトレバー(チンコ)をいじっても、ギアは変わりません!! ただあなたがオーガニズムを感じるだけです!!
おい、どうすんだよこれ!! どうしたらいいんだよ!! 何だよこの悲壮感溢れる変態は!! どう対処していいか分かんねえよ!!
俺が頭を抱えていると、運転手さんは光の失った瞳で俺を見つめ、言った……
「おい……なんだよこれ……何なんだよ!! 俺が一体何をしたっていうんだよ!!」
いえ……何もしてません……
「俺には女房や子供もいるんだよ!! あのタクシーで食わしていってんだよ!! 分かってんのか!!」
いえ……存じ上げません……
「4歳の息子と3歳の娘がいるんだよ!! 息子の将来の夢は、俺のようなタクシードライバーなんだよ!! お前は俺の息子もこんな目に合わせる気なのか!? タクシードライバーからスタードライバーにクラスチェンジさせるって言うのか!?」
いえ……言っていません……何も言っておりません……ただ、二・三言わせてもらえるなら……スタードライバー=露出狂ではないと思うかと……どっちかっていうと、キラボシの方かと……あと、いい加減そのシフトレバー(チンコ)をカチャカチャ動かすのをやめろ!! いじくりすぎてさっきより大きくなってっぞ!! もう、泣いていいのか、笑っていいのか、突っ込んでいいのか、殴っていいのか、よく分かんねえ!! どうすりゃいいんだ、この状況!! 昨日の不足分を払いに着たとか言えねえぞ!!
「何なんだよお前!! 俺に何の恨みがあるんだよ!! 俺にどうして欲しいんだよ!! 死んで欲しいのか!? 家族もろとも一家心中して欲しいのか!?」
「……!!」
おい、死神!! 目を輝かせるんじゃない!! この人だって本気で言ってるわけじゃないんだから!! 本気だとしても、本気にしちゃダメだから!!
あー……もう……こうなったら、仕方ねえ……
「すいません……あの……壊した弁償します……」
こうして俺は、硬くなったシフトレバー(チンコ)をカチャカチャ動かす、悲しみと変質者のオーラが溢れる運転手さんに中古車をプレゼントすることにした。もちろん……親父のカードで……限度額いっぱいいっぱいだったよ……これどう言い訳したらいいんだろうな……
次回予告
長輔がぐれようとします。そして失敗します。
次回の更新は4月16日午後8時になります。
ラスト4回!! 頑張ろう!!
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