前回のあらすじ……今日晩御飯にハンバーグを作ってみました。焼き加減といい形といいなかなかいい感じに焼けたんですが、量が多くてちょっとお腹が痛いです。
活目せよ!第三回「教師だって人間だ。もう一つの顔ぐらいある」
これはたぶんどこの学校でも同じだと思うんだけど、毎週月曜日の朝は校庭なり体育館なりに全校生徒が集められ、グダグタと校長先生の長い話を夢うつつの中聞いたり、「ねえねえ。昨日の日曜洋画劇場見た?」とかいう会話をひそひそと交わしたりする全校集会が行われる。むろん、うちの学校も例外ではない。
だが、今日だけは例外だ。というか異例の事態だ。
全校生徒が余裕で入る体育館の真ん中にプロレス同好会が特設リングが設置し、その四方を囲むようにパイプ椅子がズラリとならび、リングサイドでは放送部が長机とパイプ椅子だけの簡易的な放送席まで作っていた。
そう、今日は会長VS副会長のスペシャルマッチ「THE・GEKOKUJO」が開催されるのだ。こんなバカなことするの全国探してもうちの学校だけだと思う……こんなんで盛り上がれるのもうちぐらいだろう……
生徒達はリングを囲むパイプ椅子に座って、野次馬根性むき出しで試合を今か今かと待ちわびている。中にはポップコーンやコーラを手にする者や、誰がいつ作ったのか、パンフレットやグッズのような物を手にしているバカもいる。まあ、一番喜んでそうな人が俺の隣にいるんだけどな……
黒髪のみつあみにメガネとおとなしそうな外見とは正反対に、うっとうしいぐらい元気ハツラツな放送部部長・二年の鏡実さん。小柄な体型だが声とテンションは誰よりも高く、マイクを離したとこを誰も見たことがないという変わり者の女性だ。
『今や体育館は闘志という熱い情熱の炎に包まれております。その炎に胸を焦がされたのは戦士だけではないでしょう。この会場にいる私を含め全ての観客が今や遅しと戦いの火蓋が切って落とされるのを待ちわびています。力で己の正義を示し、体で己の誇りを勝ち取る……下克上の時を! 実況はわたくし放送部部長の鏡実ことマコちゃんと、解説はこの後にスペシャルマッチを控えた期待の新星、一年にして生徒会の副会長を務める伊賀の宝刀・服部長輔君にお願いしたいと思います。服部君よろしくお願いします』
「解説なんて出来るかわかりませんが、よろしくお願いします。あと伊賀とか忍者とかとは関係ありませんから、そういうこと言わないでください。今度言ったらひっぱたきますよ」
そう、なぜか知らんが俺は解説として放送席に送り込まれたのだ。まあ、俺だけじゃないんだけど。
『そして、もう一人は同じく生徒会の書記を勤める一年生、女の子に人気の出そうなハニーフェイスにもかかわらず実はロリコンという残念なイケメン・記野崎翔太君にお願いしたいと思います。記野崎君お願いします』
「残念なイケメンって……」
事実だ。受け止めろ。
そんなことをしていると、突然体育館の照明が落とされ、リングの上にたたずむ女教師にスポットライトが当てられた。あの顔は忘れもしない、美術部顧問の壊賀先生だ。あのクソふざけたポスターを描いた人である。しかも、そのことで文句を言いにいった俺に「生徒の分際で教師様のやることに口出しすんじゃないわよ!!」と謎の逆ギレをして鞭でぶっ叩いてきたクレイジーウーマンだ。あんなのコメディーじゃなかったら社会問題だぞ。
あのくそ女がマイク持ってるって事は司会進行はあいつがやんのか?
「レディイイイイィィィィス……エン、ジェントルメン!! 大変長らくお待たせしました!! これより、THE・GEKOKUJO・エキシビジョンマッチを行います!! 学校の覇権を巡り今おっさん達が醜い争いを起こす!! さあ、若者よ!! 中年男の無様な雄姿をとくと見よ!!」
言いたい放題だな……クビにされても知らねえからな。
"ユア、シャック!! 愛で空が落ちてくる!!"
え、何これ!? 入場曲!? そんなのまであんの!? ていうか、何で北斗の拳!? 何でよりによってこんなレトロなアニソン!? て、んんん!?
『おおぉぉっと!! 黒王号にまたがりラオウのコスチュームで入場してきたのは教頭だ!!』
馬ああぁぁ!? 何で馬!? ていうか、いい歳こいてラオウみたいなコスプレしてんだけどあのおっさん!! 痛すぎるんですけど!!
『教頭先生は馬術部の顧問でもあり、黒王号もといエリザベスちゃんは競走馬を引退したのち、我が校の馬術部にお世話になってる牝馬です。とってもおとなしい性格から「こいつ競走馬向いてないんじゃね?」という理由で引退した子なので、暴れることはありません。その辺はご安心ください』
あ、ああ、そうなんだ……この学校馬術部なんてあったのか……ていうか、エリザベスちゃんのプロフィールはいいから教頭の説明しろよ、この人。
『さあ、教頭先生、エリザベスちゃんから降り、今リングイン! ちなみにエリザベスちゃんはブラッシングの時間ですので馬小屋に帰されます。エリザベスちゃんと戯れたいという新入生は放課後の部活動見学で馬術部をたずねてください。いっぱい、さわさわしてあげてください。特に耳の後ろのあたりをなでなでしてあげると喜びますよ』
「もういいよ、エリザベスちゃんのことは!! どんだけ押すんだよ!! ていうか、これって馬術部の宣伝か何かですか?」
『違います、服部君。これは部員数が5人以下の少数の部活動及び、同好会のPRをかねてのイベントです』
「え、そうなんですか?」
驚いた……会長が言ってた、普段なら活躍の場がもらえない生徒達を主役にするって、部員数が少なくて地味な部活が目立てるようなイベントにするってことだったのか。
そうだよな……放送部もプロレス同好会もいつもはパッとしないし、馬術部に至っては存在すら知らなかったからな……そんな連中はこんなイベントでも無い限り、ずっと日陰で細々とやっていくしかないもんな。でも周りの一年生たちの反応を見る限り……
「ねえねえ、あの放送部の部長さんちっちゃくて元気でかわいくない? あたしも放送部入ろうかな……」
「いや、そんなことよりあの教頭の衣装って演劇部の手作りらしいよ!! 凄くね? あんなクオリティー高いのが作れるんだったら、お姫様役の衣装とかもきっと相当凄いよ!! はぁ~……お姫様になれるんなら、あたし演劇部に入ろうかな」
「馬って何だよおい……ここ公立だろ? 何で馬術部なんてあんだ? あー、でも……あの馬ちょっとかわいかったな……俺、乗るのはちょっと恐いけど、触るだけなら……」
「何言ってんだ。男ならプロレス同好会だろ。こんな本格的なリングがあるんだぜ? 男ならリングに上がるしかないだろ」
このイベントのおかげで強烈なインパクトを残せたみたいだから、これからは少し賑やかになるだろう。このイベントは文句ナシに成功だ。
こんなことを思いつくなんて、あの会長はやっぱ凄い人だな……て、待て!! 今、一瞬だまされかけたけど、それだったら校長VS教頭戦だけでよくね!? 俺と会長が戦う必要なんてなくね!? 俺達が戦ったところで誰の得にもならないぞ!? じゃあ、何のために……あー、やっぱり、さっぱり、あの人の考えることは分かんねえわ。
『おや? その顔はチヨピーから何も聞かされてなかったのですか?』
「チヨピー? 誰それ?」
『我らが生徒会長です』
マジで!? あの人そんなあだ名つけられてるの!? 似合わねえ!!
"あ~いをとりもど……"
会長のどうでもいい新情報に驚いていると、入場曲が中途半端なところで切れて終わった。
"ひーかる雲を突き抜けたよFLY AWAY~"
と、思ったら今度はドラゴンボール!? 何で二人ともアニソンを入場曲に選んでんだよ!! もっと、他にも格好いい奴色々あったろ!! 何でアニソンをチョイスすんだよ!! てか、待てよ……教頭が北斗の拳で黒王にまたがって入場してきたってことは、まさか校長はきんとう……
『おおぉぉっと!! 校長は空飛ぶベッドに乗って優雅に登場だああぁぁ!!』
何でだああぁぁ!! お前そこは筋斗雲だろう!! 何で空飛ぶベッドなんだよ!! それドラゴンボールじゃなくてドラゴンクエストだろ!! おっさん臭い間違いしてんじゃないよ!! ていうか何でそんなもん持ってんだよ!! どこで手に入れたんだよ!!
『校長先生が顧問をしております囲碁部は、現在部員数が一名と廃部の危機にさらされています。しかも、その一名もあまり部に顔を出すことはなく、部活動の時間は顧問の校長先生もやることがなく、ニトリで買ってきた空飛ぶベッドでゴロゴロするか、かなり昔のドラクエをするか、教頭先生の馬術部に執拗な嫌がらせをして時間をつぶしています』
「何やってんの、あのおっさん!? 何で教頭に喧嘩売るような真似してんの!? 仕事すりゃいいじゃん!! ていうか、あのベッドってニトリで買ってきたの!? 何でそんなの売ってんの!? ニトリすげくね!?」
『ちなみに、この物語はフィクションですので、実在するニトリに行っても空飛ぶベッドは売っていませんのであしからず』
うん、そんなの言われなくても分かると思う!! 分かんない奴はニトリじゃなくて病院に行ったほうがいい!!
“チャーラ♪ ヘッチャ……”
『さあ、校長先生も空飛ぶベッドから飛び降り、今リングイン!! 両者リング中央で激しく睨み合っております』
うわぁ、本当だ……すんげえメンチきりあってる……あれもう教育者の目じゃねえよ。完全に街中で肩がぶつかったチンピラの目だよ。
二人が睨み合う中、壊賀先生が両者にマイクを渡した。どうやら、マイクパフォーマンスまであるらしい。
「きょおぉとう。今日は無礼講だ。前みたいに遠慮せず全力でかかって来い」
「上等だ、クソが!! 今日こそてめえをぶっつぶして俺がこの学校の校長になってやるよ!!」
「ほざけ小童!! 貴様がワシに勝とうなど100年早いわ!!」
「おもしれえ!! その老いぼれた腸をこのリングにぶちまけてやるよ!!」
「貴様こそその貧弱な体をばらばらに切り裂き、あのバカ馬の餌にしてくれるわ!!」
ねえ、あの二人本当に教育者? 言ってることがもうチンピラ通り越して悪魔超人みたいなんだけど……ていうか、もう今にもガチンコでどつきあい始めあいそうなんだけど……
「両者ともコーナーにお下がりください」
と、ここで二人はコーナーに引き剥がされ、壊賀先生のアナウンスが始まった。
「青龍の方角!! 187cm、105kg!! 何でもアリならならこいつが恐い……きょおおぉぉとぉぉ!!」
何で地価闘技場風のアナウンスなんだよ。ていうか、何で教頭バーリトュードなんてできんだよ。何者なんだよ。
「白虎の方角!! 163cm、97kg!! 謎の暗殺拳法の使い手……こおおおぉぉぉちょおおぉぉ!!」
暗殺拳法!? あのバーコードハゲそんなの使えんの!? あのメタボリックな体型でそんなの使えんの!?
「なお、この試合はノールール・ノーレフェリー、どちらか一方がぶっ倒れるまで何でもアリの完全デスマッチとさせて頂きます」
それもうただの殺し合いじゃなくね!? そんなのやっていいの!?
俺の心配をよそに壊賀先生がリングの外に出て、ゴングが鳴らされた。
"カーン!!"
『さあ、今戦いの火蓋が切って落とされたわけですが、解説のお二人はこの勝負どう見ますか?』
「いや、そんなの俺らにふられても分かるわけないでしょ。俺ら二人ともこの前入ったばっかだし、校長のことも教頭のことも全然知らないんだから……なあ、記野崎?」
「そうですね……教頭は総合格闘技を得意と謳っている上あの体格差ですから、この勝負はどう見ても教頭の方が有利でしょう。しかし、校長の使う謎の暗殺拳法というのが気になりますね」
何でお前は普通に解説してんだよ……俺だけおいてけぼりかよ……
そんなやりとりを放送席でしていると、リングの上でとんでもない現象が起きた。
校長の体から紫色のオーラのような物があふれ出たかと思うと、メタボリックな体が筋肉質な物に変わり、身につけていた拳法着の上半身だけが木っ端みじんに吹き飛んだ。分かりやすくいうならケンシロウがプッツンした時と同じ現象が起こったのだ。顔つきも、おっとりとした安西先生からゴルゴ13のように変わってしまった。
『おおっと、ぷにょぷにょだった校長の体が突然ジャック範馬のようなゴツイ物へと姿を変えた!! これは一体どういうことなんだ!? 解説の服部君、これはどう思われますか?』
「さあ……俺には校長が化け物だということしか分かんないっす。何か変な秘孔でも押したんじゃないんすか」
「僕にもちょっと分かりかねます。ただ、あの急激な肉体改造を可能にしたのが謎の暗殺拳法というのなら、六合八法拳かもしれません」
『六合八法拳とはなんですか?』
「太極拳、形意拳、八卦掌に続く四番目の内家拳と知られ、この世で最後の秘伝的拳法と言われています。数え切れないほどの技と、計り知れないほどの戦闘能力を兼ね備えた百科事典のような拳法ですから、その技の一つに肉体改造があっても不思議ではありません。ただ、僕もあまり詳しくは知らないので、興味のある方はググって下さい」
『なるほど。クソの役にも立たない服部君と違って、丁寧な解説ありがとうございます、記野崎君』
あの、すいません。もう帰っていいですか? 一人で泣いていいですか?
そんなことをしているうちに、リングの上では校長と教頭がガッチリと組み合っていた。
『でたあぁ!! 校長の十八番、「教壇のロックアップ」だあぁ!! この教壇のロックアップは組み合った相手の、教師としての能力・生徒からの人気・PTAの好感度・その日の体調・三大成人病の進行具合・ドラクエの攻略具合を総合した数値、すなわち教員強度を瞬時に計測する校長先生のオリジナル技です』
「いや、全然オリジナル技じゃないでしょ!! これモロにネプチューンマンの審判のロックアップのパクリでしょ!! ていうか、その他の項目はまあ分かるとして、何でドラクエの攻略具合が教員強度の計測に含まれるんだよ!! 別にドラクエと教育は関係ねえだろ!! それただ単にあのおっさんがドラクエ好きなだけだろ!!」
そんなやりとりをよそにリングの上では、校長がこんなことを言い出した。
「ほう……教員強度2000万パワーか。不良だった生徒を更正させ、三ヶ月で東大に合格できるレベル……まあまあだな」
いやいやいや!! それめちゃくちゃ凄いだろ!! あの教頭ドンだけ優秀な教師なんだよ!!
「ふ……校長よ。人間の価値を数値で推し量るなど愚の骨頂! 貴様は考えも教育に対する姿勢も甘いのだあぁ!!」
"ゴツ"
教師っぽいこと言いながら頭突きした!!
『おっと、組み合ったままの状態で教頭の頭突きが炸裂!!』
「オラァ!!」
『炸裂!!』
「ウオラァ!!」
『あ・三・連・発!!』
おい、この実況何とかしてくんない? テンション高すぎでウザいんだけど。て、校長頭から血出してるぞ! 大丈夫なのか?
『校長の額が割れたあぁ!! 先にキャンバスを朱に染めたのは校長の血だぁ!! やはり、年齢には勝てないのか? 老兵は去り行くのみなのか? 校長、あなたはもう限界なのですか?』
「ふふふ……バカをいっちゃいかんよ、鏡くん。ワシはまだまだ……これからだ!!」
「ぐお!」
『校長も負けじと頭突きぃ!! しかもこれは強烈!! たった一発で教頭がグロッキーだ!!』
「まだ、終わらんよ!」
『さらに校長すばやいフットワークで教頭の背後を取った!! そして……』
両腕を腹の辺りにまわし、右手で左手首を掴み、教頭の体を背後から抱きしめるような形でガッチリと捕らえた。
「50!! 80!! 喜んで!!」
そして、どっかで聞いたことのあるような台詞と一緒に、綺麗な放物線を描くように背中を反らし、教頭の背中から後頭部にかけてを思い切りキャンバスに叩きつけた。この有名なプロレス技はバックドロッ……
『決まったぁ!! アメリカン・ホーム・ダイレクトドロップだ!!』
何だよその技の名前……もう普通にバックドロップでいいじゃん。ていうか……
『服部君、今のAHDドロップは見事でしたね』
「ええ、もう本物のプロレスラー並みに見事な動きだったんですけど……校長って暗殺拳法の使い手じゃなかったんすか? 今のどう見てもプロレス技じゃ……」
『確かに言われてみればそうですね。生徒の質問には何でも答える、がモットーの校長先生! この疑問はどういうことでしょう?』
おい、実況が試合中に選手に質問していいのか? てか、あれ……? 校長、何だか「やっちゃった」って顔してない? え、俺なんかまずいこと言っちゃった?
「…………」
『おっと、校長の顔色が悪いぞ。これは出血のためではなさそうだ!』
「い、いや……そんなことはないぞ」
『では、質問にお答えしてください』
「……全ての格闘技は中国拳法に通ずる!! って、烈海王が言ってました!!」
それ漫画じゃねえか!! あんたもグラップラーバカかよ!!
そんなことしている内に回復した教頭が立ち上がり、校長にキックの連打を浴びせかけた。
「オラ、オラ、オラ!!」
『凄い凄い!! 教頭先生回復するやいなや、キックの雨あられだ!! ロー!! ミドル!! ハイ!! ロー!! ミドル!! ハイ!! 校長に反撃する隙を与えない!!』
「ぬぅ!」
『しかし、校長これを全て綺麗にさばく!! ここで初めて拳法らしい動きを見せた!!』
「ふ……」
『だがしかし!! 教頭これを待ってましたと言わんばかりにその右腕を取り、腕ひしぎ逆十字に移行した!!』
「なんと!?」
『校長さすがにこれは厳しいか!? 教頭さすがに総合格闘技の道場に足しげく通っているだけはあるのか!?』
教頭の趣味はどうでもいいとして、技の入りは完璧なんだけど、これ……
『服部君、これは校長先生ピンチですね』
「いや、これ校長ノーダメージなんじゃないんすかね?」
『え……』
「服部君の言うとおりです。腕ひしぎは腕が伸びきって初めて肘関節が悲鳴を上げる技です。でも、校長先生の肘を見てください」
まあ、見事に直角、90度なんだよ。これじゃ極まらないんだよな。てかさ……
『本当だ! 校長、腕力で技をねじ伏せていた!! まさに柔よく剛を制すの逆!! 剛よく柔を握りつぶす!! 凄いぞ校長!!』
「いや、鏡先輩。校長の凄いのはそれだけじゃないんですよ」
『どういうことですか服部君?』
「さっき記野崎が言ったとおりこの技は腕が伸びきって初めて極まるんです。そして普通は腕力より背筋力の方が遥かに強いから腕一本じゃ簡単に伸ばされちゃうんです。だから、技をかけられた方は腕が伸びきらないように、普通は右手と左手で握手するみたいにがっちり腕をくむでしょ? でも、あのおっさんよく見て」
両手を上に上げてボディービルダーみたいなポーズとってんだよ。シュワちゃん気取りなんだよ。腕一本でもう一匹のおっさんの全体重を支えてんだよ。もう余裕なんだよ。もう人間の領域じゃねえんだわ。
『す……凄すぎるぞ校長!! お前は本当に人間かぁ!!』
「まだまだ!!」
『回る回る!! 教頭を腕一本で支えたまま、竜巻のように校長が回る!!』
「オラァ!!」
『そして、教頭をコーナーポストに叩きつけて引き剥がした!! これは強烈!! これは痛烈!! 立てるか教頭!?』
「ぅ……ぁ……」
『ダメだあぁ!! 教・頭・白目!! もはやその目に勝利の光は映らない!!』
いや、勝利の光どころか命の光まで消えかかってるような気がすんだけど、あれ大丈夫なの?
『しかし、これで手を休める校長ではない!! 教頭をコーナーに座らせ高らかに右手を上げた!!』
「うおおおぉぉ!!」
『そして雄たけび!! ここで出るのか!? ついに決めるか!? 校長先生伝家の宝刀……』
校長はコーナーを駆け上がり両足で教頭の頭を挟んだかと思うと、
「オラアアァァ!!」
そのままバック転をするように後ろに飛んだ。
『でたぁ!! 校長の必殺・雪崩式落第シュタイナーだああぁぁ!! これは決まったああぁぁ!!』
俺もそう思ったその時、
「ふん……」
空中で意識を取り戻した教頭がすばやく校長の体をロックし、
「があぁぁ!!」
そのままパワーボムに移行し、校長の背中をキャンバスに思い切りたたきつけた。
『な……な……何が起こったああぁぁ!! あまりに一瞬の出来事でわたくしには何が起こったのか分からないいぃぃ!! ここはさっきからあんまりしゃべってない解説の記野崎君に説明をお願いします』
「え、僕ですか……分かりました。フランケンシュタイナーの雪崩式っていうのは、見た目にも派手で威力も絶大なんですけど、実は結構諸刃の剣なんですよ。足のロックが甘かったら自爆して一人パワーボムになっちゃうし、がっちり掴んでても今みたいに相手のパワーが勝ったら強烈なパワーボムで返されちゃうんです」
『なるほど。まさに教頭が危機一髪のところで逆転したというわけですね』
「え、ええまあ……」
簡単にまとめすぎじゃね? この人本当に分かってんのか?
『おっと、ここで教頭がいまだに動けない校長の両足を取ってスコーピオン・デスロックに移行した!!』
「うがああぁぁ!!」
『今度はしっかり決まってる!! 腕ひしぎの時のように力技ではどうすることも出来ない!! あえぐ校長!! どうする校長!!』
と、ここでプロレス同好会顧問である体育教師の角田闘真先生がリングに飛び込んできた。
「校長!! 来週のオリエンテーリングのこともありますし、この辺でギブアップしますか?」
『この試合は基本ノーレフェリーですが、今後のことも考えて両者のどちらかが肉体的に危険とみなされた場合、特別に体育の角田先生にギブアップを申し出ることが出来ます』
じゃあ、教頭がコーナーポストで頭殴られたときに止めろよ。つか、止めに入る理由、オリエンテーリングに支障がきたすからって……
「校長ギブ? 校長ギブ?」
「ノオオォォ!! ノオオォォ!!」
「ファイ!!」
『続行!! 校長の辞書に降伏という文字はない!!』
いや、でもあの技って足関節もやばいけど、綺麗に極まると息が出来なくなって窒息死するんだよな……やめといた方がいいと思うけどな……良い子のみんなや悪い子のボケは間違っても冗談半分でさそり固めを友達にかけるんじゃないぞ。人生のフィニッシュホールドになってしまう可能性があるからな。
『しかし、校長はこのピンチをどうやって乗り切るのか!?』
「ククク……教頭ごときにこの力を使うことになろうとはな……」
『校長何か秘策があるのか? 不適な笑みを浮かべる! その秘策とは一体なんだ!』
「ペ……ル……ソ……ナ……」
は?
『おおぉぉっと!! ドラクエ派と思われた校長、意外にもペルソナもやっていたああぁぁ!!』
「いや、鏡先輩? 驚くとこそこじゃないっしょ。校長もう頭にきてるって。ヤバイって、あれ」
『服部君の言うとおり!! 校長はゲームのやりすぎと極度の疲労で、現実とゲームの区別がつかなくなってる!! そんなものを呼んだところで何も出るわけが……』
"ブオン"
『な……な……何か出たああぁぁ!! 本当に校長の体からもう一人の校長が…………』
いや、ちょっと待って。これって……
『ていうか、これは普通に幽体離脱しただけだああぁぁ!! 校長ペルソナを呼び出すどころか自分がペルソナになってしまったああぁぁ!!』
いやいやいや、言ってる場合!? ある意味もう一人の自分だけれども!!
『会場騒然!! 教師陣大パニック!! そして何より、誰より……』
「え、えぇ……」
『教頭がドン引き!! そりゃ無理もありません!! 憎き宿敵とは言え、その手で殺しかけているのだから!!』
「ちょ、校長……いったん体に戻りましょう。私も技ときますから、ほら」
「ククク……この土壇場に来てやはりお前は人間だ……ごく短い時の流れでしか生きない人間の考え方をする……「後味が良くない」とか「人生に悔いを残さない」とか……便所のねずみの糞にも匹敵するそのくだらん考えが命取りよ!!」
「いや、校長? 私、そんなこと言ってないよ?」
「だが、この校長にそれはない……あるのはたった一つのシンプルな思想だけ……たった一つ!「勝利して支配する!」それだけよ……家庭や方法などどうでも良いのだああぁぁ!!」
何かどっかで聞いたことある台詞というか、校長にあるまじき発言してんだけどあの人。ていうか、家庭じゃなくて過程なんじゃ……あ、いや校長の場合あってんのか……嫁さんに逃げられてるし……
「ちょ、校長待っ……!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
『おおぉぉっと!! 校長の幽体が猛ラッシュ!! 幽体にも関わらず教頭を殴りまくる!!』
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
『殴る、殴る、殴るううぅぅ!!』
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!」
『その勢いは止まることを知らないのかああぁぁ!!』
「ぐっは……」
『教頭がキャンバスに沈んだああぁぁ!!』
おい、あれ本当に大丈夫なのか?
「そして、時は動き出す」
『校長の幽体が何かほざきながら肉体にイン!!』
こいつはこいつで頭大丈夫か? 時なんか止まってねえよ。いつまでDIO様気取ってんだよ。
『そして……』
"カーン、カーン、カーン"
『ここでゴングウゥ!! ついに決着!! 校長、28度目の防衛に成功したぁ!!』
28度目!? あの二人そんなにやりあってるの!? バカじゃないの!?
『おっと、ここで校長がもう動けない教頭を肩に担いだ!! 一体何をする気だと言うのだ!! これ以上はさすがにヤバイぞ!!』
「安心しなさい鏡くん。ワシはこいつをちょっと保健室に連れて行くだけだ」
『漢おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!! 漢すぎるぞ、校長おおぉぉ!! 宿敵をその手で保健室に連れていくなんて、わたくし実況のマコちゃんも惚れてしまいそうなほどの男っぷりだ!! 校長あたしと付き合ってええぇぇ!!』
「ハハハ。気持ちは嬉しいがワシには嫁さんいるから。今は……その…………別居してるけど…………」
『心の傷をえぐってしまったああぁぁ!! 校! 長! ごめんなさあああぁぁい!!』
ねえ、あんた本当に反省してる?
何はともあれ、校長のチート発動という形でエキシビジョンマッチは幕を閉じたのだが、放送席からその様子を眺めていた俺が思ったのは、「前座で気合入れすぎじゃね?」ということでもなく、「結局校長の暗殺拳法って何だったの?」ということでもなく、「お前ら教師辞めてプロレスラーになれ」ということでもなく、たった一つのシンプルな疑問……たった一つ……
「教頭あれ……保健室より病院連れて行った方がよくね?」
ということだった。
次回予告的な
時は来た!! 全校生徒よ、活目せよ!! 力こそ己の正義を示す武器なり!!
最強の忍と謳われた服部半蔵の末裔 副会長・服部チビ輔!!
VS
生徒のために闇を切り裂く金色の姫 会長・会田蝶!!
男と女……否! 修羅と夜叉が己の誇りをかけて、その牙を剥く!
THE・GEKOKUJO!
次回は血の雨が降るだろう……by美術部顧問・壊賀絵里子
この次回予告は決して手抜きではない。ちょうどいいから使っただけである。
※サブタイを間違えて投稿していたことをここにお詫びします。AM01:15
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