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前回のあらすじ……一つのテロ組織が一分足らずで壊滅した。
家族の団欒第二十九回「思いを伝えるために言葉を話すことは大切だ。しかし、誤解を招くような紛らわしい言い方ならしない方がいいと思う」
 俺の親父は古風というか、昔かたぎという、少し時代遅れなほど古臭い考え方をする。たとえば、『男は女を守る物だ』とか、『男は簡単に涙を見せてはいけない』とか、そんな感じの親父だ。
 しかし、亭主関白なのかというと、そうではない。むしろその逆で、ひたすら妻に媚を売って甘えようとする、キモ親父だ。

 ある日の晩飯。食卓にカレーライスが並んだ時のことだ。
 いつものように、四角いテーブルに家族みんなで座った。位置も同じだ。親父の隣に俺。その向かい亜里沙。その隣に母さんだ。(ちなみに、犬畜生たちは食事はいつも外でする。『別に一緒に食べてもいいぞ』とは言ってあるが、『これは動物界のけじめニャ』とか何とか言って、同じ場所で食べようとはしない)
 四十二歳なるはずの母さんだは、他のお母さん方曰く、まだまだ二十代後半で通る肌のつやと張りと美貌を持ちぬし、らしい。そこまで行くと逆に恐い。まるで妖怪だ。
 だが、息子の俺から見ても美人の部類に入る顔立ちだ。例えるなら、世間知らずの箱入り娘なお嬢様、と言った感じの大人しそうな顔をしている。そして背中まで伸びた長い髪は黒く、ぴっちりとセンターわけにしてある。オシャレをすれば似合いそうなほどスタイルはいいのだが、派手な服が嫌いな母さんはいつも地味な色の服を着ている。その日も深い緑のトレーナーに茶色いロングスカートをはいていた。
 そんな母さんは過保護なぐらいに子供に甘く、辛い物が苦手な亜里沙のために、カレーはいつも甘口にしてある。
「どう、アーちゃん? 辛くない?」
「うん、ママ。とってもおいしいよ」
「そう、良かった」
 そう言って母さんは無邪気な少女のように笑った。本当に四十代なのか疑わしい。
 普通の人が食べたら甘すぎるかもしれないが、俺にしてみれば、これがおふくろの味なので、美味いと錯覚してがっついてしまう。そのせいで、ご飯粒がほっぺたについているのを見つけた母さんが、
「もう、長君ったら。ほっぺたにご飯粒ついてるわよ」
 と言って、恋人のようにそのご飯粒を指ですくって自分の口に入れた。親子とはいえ、正直恥ずかしいからやめて欲しい。
 しかし、親父にとっては相当羨ましかったのか、自分もしてもらおうと、明らかに、意図的に、ご飯粒を口の周りにつけた。頭おかしいんじゃねえの?
 母さんは母さんで、絶対に気づいているにも関わらず、ガン無視してるし。やってやれよ、夫婦なんだから……
 と、呆れていると、母さんにご飯粒をとってもらえないことに業を煮やしたのか、あるいは本気で気づいていないとでも思ったのか、いきなり……
"べちゃ"
 自分のカレーライスに顔面を突っ込んだ……
「おっと。私としたことがうっかり顔にご飯粒をつけてしまった。誰かにとってもらうことをキボンヌ」
 何がキボンヌだよ!! キモいんだよ、発想と行動が!! お前、ご飯粒どころか、顔の半分ご飯まみれだよ!! 残りの半分カレーまみれなんだよ!! 顔面でカレーライス形成しちゃってるよ!! あしゅら男爵みたいになってんだよ!!
 そんなカレーライス男爵に母は言った。
「もう、あなたったら何をやっているの? 食べ物を粗末にしちゃいけません、って教わらなかったの? あんまりふざけたことばかりしてると、顔面の皮膚剥ぎ取って生ゴミに出しちゃうぞ♪」
「ごめんなさい……」
 悲しい!! 悲しすぎる!! 自分でつけたご飯粒、自分で食べてるよ、このおっさん!! ていうか、母さん可愛い言い方してるけど、言ってることめちゃくちゃ恐いよ!! 親父が涙目になってるよ!!
(ていうか、親父!! 何とかフォローしろよ!! このままじゃ、今度遊園地に誘っても母さんついて来てくれないぞ!!)
(そんなこと言われなくても分かっている。心配は無用だ。ちゃんと対策を立てている)
(対策って何だよ?)
(私の武勇伝を聞かせる。お前達には私が警察官であることは黙っていたが、母さんは知っている。若い頃、犯罪者と戦う警察官の私の勇姿に、母さんは惚れたのだ)
(本当か?)
(すまん。ウソだ。少し見栄を張った。本当は、新宿歌舞伎町のSMクラブで、全身をロープで拘束された私が、全裸で泣きながら土下座して結婚してくれと懇願し、母さんがそんな私の尻をムチで叩きながら、ロウソクの……)
(もういい!! もう聞きたくないから!! そんな両親の嫌過ぎるなれ初め聞きたくないから!! マニアックな趣味も知りたくないから!! とっとと、警察官の武勇伝を聞かせて!!)
(了解した)
 親父が警官で母親がSM嬢って、まんま変態仮面と同じ設定じゃねえか……この世で最もかぶりたくない奴と、かぶっちまってるよ……ていうか、俺の母さんSM嬢だったの……? あんな大人しそうな顔して、人は見かけによらないな……
「亜里沙。少し、話がある……」
 そう言って親父は母さんの隣に座る亜里沙の方を向いた。
「心配をかけまいと、お前には黙っていたが実は父さんの職業はただの公務員ではない。警察官だ」
 なるほど、まずは亜里沙に警官であることを打ち明けてから、凶悪なテロリスト達との死闘や、まるで映画のような諜報活動などの武勇伝を語るわけだな。考えたじゃねえか、親父。
「へえ、凄いすごーい! アリサのパパはおまわりさんだったんだ!」
 よし、亜里沙がうまい具合に食いついた。さあ、親父。お前の武勇伝を言ったげて!
「えー、でも――」
 と、そこで、母さんがいい感じに温まった空気に水を差しにきた。
「『私の所属する部署は、命に関わるような危険な職務が多いから、長輔や亜里沙には警察官であることは秘密にしておいてくれ』とか何とかほざいていたのに、その秘密を自分で打ち明けるってことは、危険でも何でもない安全な窓際に異動させられたってことよね? 左遷、乙♪」
 違うから!! そうじゃないから!! ていうか、母さん辛口すぎる!!
「え……パパの仕事ってそんなに危ない物だったの……?」
 う……!! 亜里沙が母さんの言葉を真に受けて心配している!! 違うぞ、亜里沙!! 確かにこの親父の仕事は超がつくほど危険な任務ばかりだろうけど、こいつの実力を持ってすれば……なんて言っても理解できるとは思えない!!
 おい、親父。分かってんだろうな? 亜里沙に心配かけるようなことだけは言うな。こいつ、普段はあんたのこと嫌っているような素振りしてるけど、本気で嫌ってるわけじゃないんだから。本当は結構親父のことも大好きなんだから。テロとかスパイとか、Aランクの話題は絶対話すなよ。危険レベルXからZランクのしょぼい奴にしろよ。
「心配するな、亜里沙。私の仕事は映画やドラマのように命に関わるような物ではない。実際の警察の仕事というのはほとんどが書類整理で終わる」
「そっか~……良かった♪」
 そうそう、そんな感じ。
「つまり、暇人ってことよね。大変よね警察も。暇なくせして忙しいふりして家族を旅行にも連れて行ってあげられないなんて。どうせ、あれでしょ? 付き合いとか言って、上司のへったくそなゴルフにごますったり、キャバクラで捜査会議とか言ってホステスを口説いてんでしょ?」
 母さんは黙ってて!! お願いだから!!
 さあ、親父。名誉挽回のチャンスはここしかないぞ。警察官っぽく、それでいてあんまり危険じゃない犯罪者の逮捕劇を聞かせてやれ! お前のちょっとした武勇伝を言ってやれ!!
「そんなことはない。私も警察官としての職務は全うしている」
「へ~。どんな職務?」
「先日も、電車内でアイちゃん(警察の隠語で『スリ』と言う意味)を見つけてな」
「へ~~愛ちゃん(どっかのスナックのホステス)を見つけて、どうしたの?」
 何でわざわざ隠語で言うんだよ、あほ親父!! 母さん絶対誤解してるよ!! こめかみピクピクしてるよ!!
「私の管轄外ではあったが、一人の男として見過ごすわけにいかないと思ってな。ビラをとる前に手錠をかけたよ(訳:公安部の仕事ではないが、警察官として見過ごすわけにいかないと思ってな。逮捕状を請求するまでもなく、現行犯で逮捕した)」
「ふーん。管轄外だったけど、男として見過ごすわけにはいかないから、ビラをとる前に手錠をかけたね……(訳:守備範囲(好み)じゃなかったけど、男としてこんなチャンスを見逃せないと思って、ビラビラを手に取る前に手錠で拘束したのね……)」
 何かますます誤解が深まっているような気が……
「初めて(初犯)なら身体検査と厳重注意だけで許してやろうかと思ったんだが……」
「初めて(処女)なら身体検査(お触り)と厳重注意(言葉責め)で許してやろうかって……十分でしょ!! ていうか、そんな女初めてなわけないでしょ!!」
「よく分かったな。その女の顔を見て、こいつはまぶだと直感で思った私は、ハコに連れて行ってケツを洗った。すると、思った通りプロのはこしで、たれがこれでもかというほど出ていた(訳:その女性の顔を見て、こいつはプロだと思った私は交番に連れて行って、前科を調べた。すると、思ったとおり電車内で犯行を重ねるプロのスリ師で、被害届がわんさかと出ていた)」
「ほー!! まぶいからハコに連れ込んでおケツを洗ったら、プロのはこしでたれが出たんですか!? それはようござんしたね!!(訳:美人だからラブホテル『箱』に連れ込んで、お尻を洗ったら、プロの風俗嬢から嫌らしい液体が出たんですか!? 良かったね!)」
「私のことをこまそうとしていたが、長年の経験とテクニックからそいつの弱みを見つけ、そこを徹底的につくと簡単にうたった。(訳:私のことを騙そうとしていたが、長年の警官としての経験と取調べテクニックで、過去にその女性が男にみついだ挙句捨てられたことがトラウマになっていることを見抜き、そこをついたらあっけなく自白した)」
「はーん!! こまそうとされたけど、長年の経験とテクニックから弱点を見つけて、そこをついてうたわせたんだ!!(訳:アッハン、ウッフン、されかけたけど、長年風俗店に通った経験とテクニックでその女の性感帯を見つけ、そこをついていやらしい声をあげさせたんだ!!)」
「……美月。何をそんなに怒っている?」
「あんたがそんなS(サドスティック)だったとは思わなかったわ!!」
「確かに私はS(スパイ)かもしれないが、そんなに怒られるようなことなのか?」
「あたしはあんたが犬(畜生)だと思っていたけど、これからハム(豚)野郎に格下げよ!!」
「ああ、確かに私は犬(警察)だが、その中でも特殊なハム(公安警察)だ。そのことに誇りを持っている。というか、犬(普通の警察)よりハム(公安警察)の方が格は上だと思うのだが」
「特殊なハムね!!(マニアックな趣味の豚ね!!) 確かにそれは犬より格上だわ!!(普通の変態より格上の変態だわ!!) しかも、そのことに誇りを持っているって、あんたどんな汚れキャラよ!?(変態であることに誇りを持っているって、どんな汚れよ!?)」
「確かに私は、普通の警察官に比べれば汚いと思われる仕事もするし、そのせいで同じ警察にもあまり好かれてはいない(公安部はその職務の特殊性から、スパイ活動などを行ったり、犯罪組織に内通者を作ったり、汚いやり方もするし、そうして得た情報を他の部署に提供することはないから、あまり警察内部の人間にも好かれていない)」
「汚すぎるのよ、あんたのやってることは!! 女のケツ洗うような男が警官に好かれるわきゃねえだろ!! そんな物警察じゃなくても嫌だわ!! あたしでも嫌だわ!!」
 なあ、あんたら……もう、わざとやってんだだろ……
「なあ、美月。今度、座席に拘束された状態で上下や回転などの不規則かつ激しい運動を強制されたり、密閉された空間内で高層ビル十数階分の高さから地上を観測したり、上下運動しながら無意味に動きまわる馬の作りに物にまたがったり、暗闇の中で非科学的な怪物の着ぐるみを着用したスタッフに心拍数を上昇させられたり、市場価格より割高な料金でたんぱく質と炭水化物を摂取したり、そこでしてか入手できない玩具などを購入したりしないか?」
 何で、今このタイミングでそれを言う!? そして、何でそんな分かりにくい言い方をするんだよ!! お前、ぜったいわざとやってるだろ、このクソ親父!!
「はあ!? あんた、ふざけんじゃないわよ!!
 座席に座った状態で上下や回転などの不規則かつ激しい運動を強制されるって何よ!? それどんなエロエロマッシーンよ!! どんだけあたしのあそこにエクスタシー感じさせる気よ!! つーか、何でホステスは自分のテクでヒーヒー言わせて、あたしは機械任せなのよ!!
 ていうか、密閉された空間で高層ビルから地上を見下ろすって、それどんな監禁露出恥辱プレイよ!! 絶対嫌よ、そんなの!! 何のためにラブホテルにカーテンが備え付けられ、外界からの視線を完全シャットアウトしているのか、考えたことないの!?
 つーか、上下運動する馬の作り物って、どんな三角木馬!? そんなバイブレーション機能内蔵の木馬が出ていたなんて知らなかったわ!! でも乗りたくない!! むしろそれにまたがったあんたのケツを鞭で思い切りぶっ叩きたい!!
 あと、暗闇の中で怪物の作り物を着たスタッフに心拍数を上げられるっていうのは、どういう意味なのかしら? それはもしかしてあれ? 部屋を暗くして、ネコ耳のコスプレした風俗嬢と3Pで興奮しようってこと!? 殺されたいの!?
 それとね、ラブホのハンバーグセットなんて食べたかないわよ!! あんな高いだけで、味もそっけもないクソ不味い飯、なんで食べなきゃ行けないのよ!! あんなところで食べるぐらいなら、びっくりドンキー連れて行きなさいよ!!
 最後に、おもちゃなんてわざわざラブホで買うことないでしょ!! 家にいっぱいあるんだから!! 欲しかったらドンキホーテで買いなさい!! あそこ安いから!!」
 あの母さん……それ超ウルトラ誤解……ていうか、お願いだから黙っててくれる? あんたが口を開くたびに知りたくもない親の性癖がどんどん耳に入ってい来るから。もう亜里沙も顔真っ赤にして、必死に聞こえないふりしてるから。
「あのさ、母さん。それ誤解だよ。ていうか、全般的に勘違いなんだよ」
「長君、それはどういうこと?」
「あのね――」
 このままでは家族関係が危うくなると思った俺は、仕方なく親父の言ったことを全部通訳してやった。
「親父が行ってることを最初から分かるように説明すると、
 『電車内でスリをしている女性を見つけた。スリなどの犯罪は本来他の部署の担当だが、一人の警察官として目の前の犯罪を見過ごすわけにはいかず、その場で現行犯逮捕した。身体検査をして他に盗んだ物がないようなら、つまり初めての犯行なら厳重注意だけで許してやろうかと思った。しかし、その女の顔を見てプロだと思った私は、交番に連れて行き前科を調べさせた。すると、思ったとおり、電車内で犯行をするプロのスリ師で、被害届がたくさん出ていた。女はしらをきろうとしたが、長年の警察の勘と取り調べのテクニックで、その女が過去に男に捨てられたトラウマから犯行を重ねていることを見抜き、そこをついた。すると、あっけなく女は自白した』
 てな具合になるの」
「へ……? スリ?」
「そうスリ。んで、母さんが言ってたSがどうのこうのからは……
 『確かに私はスパイだが、そんなに怒られるようなことなのか? 私は警察で、その中でも特殊な職務の公安警察だ。そのことに誇りを持っている。というか、普通の警官より公安の方が上だと思っている。しかし、公安部は犯罪組織に内通者を作ったり、あるいは小さな犯罪なら泳がせて大物を釣り上げようとしたり、汚いやり方をすることもある。そして、そうして得られた情報を他の部署に開示することも少ないから、あまり警察内部でも好かれてはいない』
「ふ、ふーん……な、なかなか大変みたいね……」
 母さん、ちょっと反省したな。何か物凄い悪いことしちゃったかなー……っていう顔してる。
「すっごーい!! パパ格好いい!! 何だか映画みたいだね!?」
「いや、そんなことばかりをしているわけではない。あくまで一例だ。さっきも言ったが、私の仕事は主に書類整理だ。そこいらのサラリーマンとなんら変わらんよ」
「そうやって、自慢しないところが格好いい!! アリサ、パパのこと見直しちゃったな」
 亜里沙の好感度は上がったみたいだな。ていうか、親父……? テログループを一分足らずで壊滅させるサラリーマンなんて、地球上にあんたぐらいだよ……
「でもでも、最後のあの言葉はないよね!? 長君やアーちゃんの前であんな破廉恥なこと言うなんて……」
「あのね、母さん。それも母さんの誤解だよ。ていうか、それに関しては親父の言い方より、母さんの思考回路がどうかしてるとしか言えないよ……」
「あら、長君。それはどういう意味よ?」
「だからね。親父は、
 『今度、ジェットコースターに乗ったり、観覧車に乗ったり、メリーゴーランドに乗ったり、お化け屋敷に入ったり、レストランで食事をしたり、売店で土産を買ったりしないか』
 って言いたかったんだよ」
「え、それってもしかして……」
「要約すると……『遊園地に行かないか?』ってこと」
「…………」
 あまりの急展開に頭がついていけず、母さんは固まってしまった。無理もない。親父がこんなこと言うなんて今まであり得なかったもんな。
 固まってしまった母さんの代わりに、その心の内を代弁するように亜里沙が親父に問い詰めた。
「ウソ……本当? 本当に連れて行ってくれるの? 本当に?」
「ああ、事実だ。たとえ、警視庁がテロリストに占拠されても、お前たちを遊園地に連れて行く覚悟だ」
 いや、親父!? そんな覚悟要らないよ!? さすがにそこまで行ったら仕事を優先して!! たかが家族の思い出作るのに、その代償はあまりにも大きすぎるから!! 素直に楽しめないと思うから!! ていうか、そんなことしたら色々大問題になっちゃうからやっちゃダメだよ!?
「やったー!!」
 まあ、いいか……
 両手を挙げて喜ぶ亜里沙の姿を見てそう思った。家族みんなで遊園地に行く。ささやかだが、俺たち兄妹にとっては凄い夢だったもんな。
 けど、母さんが浮かない顔をしてるのは何でだろう?
「あ、あの……それは嬉しいんだけど、急に言われても、着ていく服がないわよ……」
 あ、そうか……そう言えば母さんの服ってみんな地味な色の奴ばっかで、お出かけ用の明るい服なんてないもんな。授業参観や三者面談の時も葬式みたいに真っ黒な服着て、周りのお母さん達ドン引きさせてたもんな。
 じゃあ、まずは母さんのお出かけ用の服を買いに……
「そう言うと思って、美月のお出かけ用の服を購入しておいた。君好みのシンプルな作りで、爽やかな明るい色の服だ。これなら大丈夫だろう」
 すげーな、親父!! よくそんなこと想定できたな!? どこまで以心伝心!? さすが夫婦!!
「で、でもでも、あたしメイクとか下手ッピだし……」
 あー……それは本当にあるよね。母さんって普段化粧とかしないから、たまに授業参観とかで頑張りすぎて、マジで妖怪人間みたいになっちまうもんな。そんな顔で喪服みたいなスーツ着てくるからマジでホラーなんだよな……
 が、この問題に関しても親父は対策を打っておいた。
「心配ない。すでに科捜研の連中を脅し…………説得してある。あいつらは白骨死体から、生きていた頃の顔を復元するメイクのプロだ。何も心配は要らない」
 心配ありまくりだよ!! お前、母さんにどんなメイクさせる気だ!! 特殊メイクでも施すの!? お化け屋敷のスタッフが逆にビックリするからやめてやれよ!! ていうか、お前今『脅し』って言ったな!? 脅したんだな!? 何で普通に頼めないの!? むしろ、普通に同僚の婦警さんに頼むっていう発想はなかったの!?
「でもでも、遊園地なんて久しぶりだから、どう遊んだらいいか分からないし、せっかくのあなたの休暇を無駄に使っちゃったらどうしよう……」
「安心しろ。若い奴を拷問にかけて遊園地での遊び方についてはかせた。あいつら仕事はできないくせに遊ぶことに関しては一人前だからな。私の時間も、お前達の時間も、一分一秒たりとも無駄にはさせない」
 全然安心できねえよ!! 何でその若い奴拷問にかけたの!? いらねえだろ、その拷問は!! 普通に聞けよ!! ていうか、お前それ絶対仕事できないことに腹たってやっただろう!! スパルタカスなんだよ、あんたは!! 息子に対しても、その若い奴に対しても!!
「あー……でも、はしゃぎすぎてお金を使いすぎたらどうしよう……あたし、そういうの本当無頓着だから……」
「大丈夫だ。すでに警視総監と話をつけてある。いざとなったら、捜査費用という名目で、経費で落ちる。問題になったら総監が全ての罪をかぶる手はずになっている。総監は『休暇に仕事入れたら殺すぞ』と言ったら、絶対に休ませてくれる心の広いかただ。何も問題ない」
 だから、全然大丈夫じゃねえんだよ!! お前のその発想と発言が大問題なんだよ!! お前、どんだけ恐ろしいことしてんだよ!! 休みもらえなかったからって、警察のトップ脅すなよ!! 罪をなすりつけようとすんなよ!! どんだけ根に持ってんだよ!! ていうか、何で家族サービスの費用が経費で落ちんだよ!! 捜査費用って何の捜査!? それもう横領ってレベルじゃないよね!?
 おい、これもう手放しで喜べないんだけど!! 俺たち家族が笑顔になるために、一体どれだけの人間が涙を流さなきゃいけないの!? 家族サービスってそこまでしてするものなの!?
「あー、でもでも、遊園地に行ってもたくさん並んでたら、あんまり遊べないかも……」
「任せておけ。その時は前に並んだ人間を片っ端から暗殺(説得)する」
 もう何もしないでください、お父さん!! ルビで誤魔化してるつもりか知らないけど、魂胆ばればれだから!! 恐ろしいことぶっちゃけてるから!! ていうか法律を守れないなら、せめて順番は守ろう!! その程度のマナーは一警察官としてではなく、一人の人間として守ろう!! 前の人を殺さなくていいから!! あと、母さんも何も言わないで!! あなたが口を開くたびに、この親父は障害となる者だけじゃなく、全然関係ない人まで不幸にする気だから!! 家族サービスのためならテロをも辞さない覚悟だから!! つーか、誰かこのおっさん逮捕して!!
「じゃあ……行っちゃおうかしら」
「そうだな」
 母さんが承諾し、父さんが頷き、亜里沙が無邪気な子供のように喜んだ。
 まあ、何だかんだで家族で遊園地に行くという夢が叶うんだから、俺も素直に喜んでおくか。たとえその裏にどんな悲劇が起こっていようと、忘れよう。気にしないようにしよう。俺は悪くない。たぶん、俺は悪くな……
「あ、でもでもでも、お化け屋敷とかでビックリして心臓麻痺で死んじゃったらどうしよう♪」
「案ずることなかれ。その時は我が力で魑魅魍魎どもを皆殺しにしてくれよう」
 いやあああぁぁぁ!! あんたら、お化け屋敷には絶対入るな!! ていうか、母さんは冗談っぽく言ってるけど、親父マジで恐い!! 目も恐いし、言ってることも何かおかしいし、ちょっとマジ臭い!! お前、今マジでお化け皆殺しにしようと思ったろ!! 絶対するなよ!! あれは中に人が入ってるんだから!!
 こうして、今度のゴールデンウィークに生まれて初めて家族みんなで遊園地に行くことが決まったけど……夢が叶ったんだけど……俺、楽しめるかな……?

次回予告
 結婚二十周年を記念して、服部夫妻が小旅行に出かけた。しかし、留守を任された長輔と妹の亜里沙は風邪を引いてしまう。風邪で体がだるく、頭もボーっとしている時に限って、次から次へと長輔の前でトラブルが起こる。仕方なく、重い体を引きずってトラブルを解決していく、長輔受難の一日。そして、彼のちょっと変わった趣味が明らかに。
 なお、次回の更新は話の内容と私の仕事探しの関係上、一ヶ月後ぐらいになるかもしれません。しかし、一か月分のエネルギーを溜め込んだ、力作(?)にするつもりなので、お楽しみに。


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