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第83話 救出作戦

「桜が攫われた。これから救助に向う。」

 西町の酒場で祝賀の席の最中。ソラの疑問を受け、カイトが準備をしながら口を開いた。その言葉に騒然となる一同だが、慣れているミリアらエネフィアの面子には動揺が少なかったらしく、事情を聞いてくる。

「いったい何があったんですか?」

 ミリアに質問されたカイトは全員に状況を説明していく。学園生の死、現在学園へ100を超えるゴブリンやオークの集団が向かっている事、動揺する一同だがアルはそれを一切斟酌せずアルが真剣な、されど気負いない表情でカイトに問いかけた。騒いでいる場合では無い事ぐらい、軍人である彼には理解出来ていた。

「で、桜ちゃんはどこへ連れて行かれたのかわかる?」

「ああ、少し待ってくれ。」

 アルの質問を受け、カイトは自身の精神世界に居座る8体の大精霊達に問いかけた。彼らに、学園生達の居場所の把握を頼んでいたのである。

『誰か拐われた桜達の行方を知っている奴はいないか?』

 すると返答が即座に帰ってきた。澄んだ声の音色から、水の大精霊ことウンディーネであった。

『私が。現在はマクスウェル北西の森中央部にある洞窟内へ向かっているようです。彼らの住処のようですね。迷宮(ダンジョン)ではない様です。』

『ディーネか。助かる。そのまま監視を頼んでいいか?』

『ええ、構いません。丁度テキサス・ホールデムで決着が着いたところです。』

『……圧勝か?』

『はい!』

 嬉しそうにそう言うディーネに、カイトは少し緊張をほぐされる。同時に頭の中に他の大精霊によるディーネへの悪態が聞こえてきたのだが、それは無視し、カイトは口を開いた。

「北西の森中心部の洞窟へ向かっているらしい。」

「あそこは天然の洞窟だから、魔物が湧いて出ることは無いよ。」

 カイトの答えを聞いたアルが、即座にその洞窟の説明を入れる。

「ああ、オレも聞いた。」

「何時拐われたかにもよるけど、ここからなら急げば洞窟に入られる前に間に合うかもね。」

 とりあえずは一安心かな、そう言うアル。その二人を見て、救出作戦を行う事を悟ったミリアとライルの二人が更に情報を補填する。

「桜さんが攫われたのは北西の森の洞窟ですか。相手はゴブリンとオークがメインになると思われます。ご武運を!」

「桜っていや、あの長い黒髪のスタイルの良い嬢ちゃんだったな。ゴブリン共にさらわれて、あんまり時間をかけると碌な事にならん。さっさと行ってやれ。」

 二人がさっさと行け、と激励を受け、カイトは

「ああ、そのつもりだ。ミニス、会計はこれで頼む。」

 そう言ってカイトは公爵家の正式な小切手をミニスへ渡す。

「は……本物!なんでカイトさんがこんなの持ってるんですか?」

「詳しくはどうでもいいだろ。とりあえず、急いで悪いが、ごちそうさま。」

「……よくわかりませんが、はい。ご武運を。」

 ミニスにしても、冒険者達が急な要件で足早に出て行く事は多く、状況も察しているので詳しくは聞いている場合ではないと理解している。そうして唖然とする一同を残してアルやティナ、ユリィと共に足早に外へ出るカイト。他の4人も慌ててそれに続く。

「ちょ、ちょっとまてって!俺達が行ってなんとかなるのかよ!」

 翔が慌てて外へ出たカイトへと問いかける。そうして、カイトに追い付くと、更に続けた。

「行くならアル一人の方がいいんじゃないのか?」

「いや、俺も行くぜ。折角新しい武器を手に入れたんだからな。活躍させてもらう。」

 とは言え、そんな翔の疑問を、鉄製の具足を鳴らして追いついたソラが否定する。

「ソラ……いや、君たちは」

「ああ、そうしてもらう。」

 ソラ達を止めようと何かを言い掛けたアルだが、カイトがそれを差し止めた。

「え?でも、カイト。彼らだとブラッド・オーガ相手だと……」

「ブラッド・オーガ相手はさせない。戦うのは周囲のゴブリンだけだ。他はオークやオーガはアル、お前に頼む。」

「あ、うん。それはいいけど……でも、連れて行くと時間が掛かるよ?」

「それについては考えがある。一つ問うが、お前ら全員が来るのか?」

 そう言ってカイトは後ろに居た魅衣、由利、翔に問いかける。その眼は、誰もが見たことの無いぐらいに真剣な光が宿っていた。 

「余は当たり前じゃな。久しく見なんだ馬鹿共に目にものを見せてやろう。それに……余らの復帰戦としては良かろう?」

「そうだな。魔物の手から囚われのお姫様を救い出す。いい復帰戦だ。と言うか、お前には聞いてない。」

「これがドラゴンや魔王であれば良いのじゃがな。」

「はぁ……魔王はお前だろうに。」

「元、じゃな。」

 くくく、と冷酷で、妖艶な笑みを浮かべるティナは、どこからか杖を取り出して一振り。そんなティナに唖然としつつも、魅衣が意を決して口を開いた。

「え?……まあ、ティナちゃんが行くなら私も行くわよ!桜ちゃんとも折角仲良くなってきたのに、こんな所で失ってたまるもんですか!」

「私も当然いくよー。」

 そう言って、仲の良い友人を救いに行く為に意を決した二人を前に、翔が少しだけ悩み、大きく息を吐いて静かに言った。

「……俺は……っ、俺も行くぜ。お前らだけ行かせて俺だけ残ったら後で後悔する。後悔はしたくない。」

 そうして、4人が同行を願い出たのを見て、アルが呆れ100%の顔でカイトに尋ねた。

「皆……はぁ、でも、どうするんだい?カイト。」

「放って置いてもついてくるだろうからな。」

 何処か呆れた様な、何処か嬉しそうな顔を浮かべるカイト。呆れるのは無謀さに呆れ、嬉しいのは仲間を見捨てようとしないその心意気である。

 そして、カイトの言葉に頷くソラと魅衣。他の面子は頷いていないが心情は同様であった。今更ゴブリン程度に苦戦する事も無く、おいて行ってもものの数十分で追いつける距離だ。それに、ここにいる面子は翔を除いて全員元武闘派だ。オークやオーガの相手をアルに任せれば、地球時代での経験から、6人でなら数十体のゴブリン相手にも戦える自信を得ていたのだ。

 それをこれまでの付き合いから理解していたカイトは、どうせ正体がバレるのなら、と自身の実力を知ってもらう為に連れて行くことにしたのだ。

「さてここまでくればいいか。」

 かなりの速度で街の中を歩きながら話していたので、すでに街を出ていた一同。周囲は暗くなっており、人目は無く、月明かりだけが一同を照らしていた。

「なにするんだ?」

 悪戯をしようとしているかの様なカイトの様子を訝しんで、ソラが問いかけた。既にカイトの正体をおおよそ察しているソラは、何が起きるのか、と少し楽しげであった。

「まあ、見てろ。……ルゥ、久しぶりだが頼む。」

 カイトが常用するロングコートに魔力を通すと、次第に薄っすらとだが人影が現れた。そうして、その影が確たる実体を持つと、現れたのは年の頃は30前、スタイルの良い艶やかな美女であった。スタイルの良さならば大人状態のティナをも上回っており、白銀の髪に白銀のファーの着いた衣を纏う白銀の美女である。月明かりに照らされたその姿は幻想的ですらあった。

「まあ、旦那様。久しく呼んでくださらなかったと思ったら、人使いの荒いこと。」

 そうして、ルゥが何処か拗ねた様子を作ってみせると、カイトは彼女を抱き寄せて謝罪した。

「悪いって。まあ、人使いが荒いのは承知している。だが、そこを頼む。」

「はぁ……承りました、旦那様。まったく、未亡人に手を出した挙句に他の女を助けるために使うなんて……非道ですこと。」

 抱き寄せられたルゥは、カイトに口づけをねだり、カイトがそれに応ずる。そうして、口を離してカイトが口を開いた。不満は口だけで、実際には心にも思っていないのである。

「契約なんだから、しょうが無いだろ?お前はオレの契約する使い魔の中でも結構な魔力を食うんだから。」

「娘もいる身ですのに貞操を汚され、酷使される私。ああ、かわいそう。」

 涙を流す演技さえなく、彼女は抱き寄せられたままでふふふ、と笑みを浮かべた。だが、そんな演技でさえない演技に乗ってきた人物がいる。ユリィである。彼女はここぞとばかりにカイトの事をルゥに密告―と言う名の流布―する。

「酷いよねー。それにカイトってば私とクズハにも手を出したんだよ?それなのにまだ女の子に手を出そうとするなんて……ケダモノだね。」

「余にも手を出しておるしの。」

「まあ、遂に可愛い義妹と信頼する仲間二人にまで手をだすなんて……旦那様は本当に、ケダモノなことですわ。」

 くすくすと笑いながらカイトをからかう三人。娘とは現神狼族の族長で名をルゥルという。この白銀の美女は先代の神狼族族長なのであった。神狼族は獣人種の中でも最上位の種族の1つだ。

「はぁ、あんまり時間無いんだ。三人共気が済んだか?」

 やる気もないのに自身を弄る三人に、一区切りが着いた所でカイトが肩を竦めて問いかけた。

「むぅ、少々物足りませんが、仕方ありませんね。」

 幼子の様に拗ねて見せるルゥ。見た目は30前の美女なのに、その動作が何処か、似合っていた。

「まあ、桜の身が心配だしね。」

「うむ。」

 そうして、三人が気の抜けた会話を中断する。次の瞬間、ルゥの姿が光に包まれたかと思うと、小さな小屋にも匹敵する巨大な、白銀の毛皮を持つ狼が現れた。これでも彼女の本来の大きさよりは小さいのだが、それでも、地球には居ない巨大な狼である。ソラ達がその圧倒的な威容に唖然となる中、カイトはジャンプだけで彼女の上に跳び上がり、彼女の背に跨る。

「久しぶりだな、お前に乗るのも……全員、さっさと乗せてもらえ。」

 そう言ってティナとアルを除く面子を見るカイト。カイトは、ポンポンとその背を撫ぜていた。

「……えーと、何、今の?」

「真っ白な大きな狼がいるんだけどー、さっきのお姉さんはどこいったのー?」

 何が起こったのか分かっていない魅衣と由利は、ルゥの巨体を見上げながら、ルゥの変身について考えている。

「カイト、やっぱお前は……」

 すでにソラはカイトの正体に確証を得ていた為、驚きは少なかった。

「……今日はもう驚くのやめよ。」

 翔は驚く事を放棄してルゥにおっかなびっくり近づこうとして、足が動かなかった。

『急いでらっしゃるんでしょう?皆さん、早く乗ってくださいませんか?』

「ああ、あまり時間をかけると桜や他の生徒が危ない。さっさと乗れ。」

「あ、ああ。」

 ソラが若干恐れながらルゥに近づく。それに合わせてルゥは屈んで乗るように促す。

「ほら。」

「ああ、サンキュ。よいっしょっと。」

 なんとか差し出されたカイトの手を借りてルゥに乗っかれたソラを見た翔も、同じようにルゥの上に乗る。しかし、魅衣と由利は動けないでいた。仕方がないので、ルゥが近づいていき屈んだ。そしてカイトが手を差し伸べる。

「二人共、手を。」

「ありがと。えっと、お邪魔します。」

「おじゃましまーす。」

『はい、どうぞ。』

「良し、全員乗ったな?」

 後を見て、しっかりとルゥの上に乗った事を確認したカイトは、前を向いた。

「ティナちゃんとアルは?」

 魅衣の言葉に、カイトはアルへと尋ねる。

「アル、お前は北西の森までどの程度で行ける?」

「僕は……後の事を考えれば10分。考えなければ5分だね。」

「3分だ。」

「え?……わかった。飛ばすよ。」

 一瞬無理だと言いそうになるが、カイトの眼を見て全力を出せば可能だと判断し、真剣な眼で頷いた。

「それでいい。二人は上空から周囲の警戒を頼む。アルは出来る限りでいい。もし、ゴブリン共の集団を見つけたらすぐに報告してくれ。ティナ、一応周囲から見られない様に隠蔽しておいてくれ。」

「了解。」

「任されたのじゃ。」

 そう言ってアルは魔導鎧の飛翔機に魔力を通し、ティナは自前の魔術にて飛翔し少し高い位置で周囲の警戒を行う。

「飛んじゃった……」

「飛んでるねー。」

 ふわり、と宙へと舞い上がった友人を見て、魅衣と由利がぽかん、と口を開けて呆けている。

「ユリィ。お前は4人に補助魔術でルゥの速度に耐えられる様に防御頼む。」

「うん。どのぐらい?」

「音速は超える。」

「りょーかい。」

 魅衣と由利の二人を無視して指示を出していくカイト。ソラと翔も只々流されるがまま、唖然としている。

「さて、行くか!ルゥ、全速力で頼む!」

 口端を歪めて獰猛な笑みを作り、カイトはルゥに指示を出す。

『承りました、旦那様。』

 そういってルゥは音を置き去りにして一気に駆け出した。一方の上空でも出発前の最後の会話が繰り広げられていた。

「アル、遅れるでないぞ?」

「あはは、頑張ってみるよ。」

 勝つことは無理だ、だから、見失わない事をモットーにする事にしたアルが、何処か自信なさげに頷いた。

「うむ、その意気じゃ。さて、あまり気が乗らんが、桜のためじゃ。ひとつ余も本気になるとするかの。」

 そう言ってティナは姿を大人に戻し、魔力を隠すことをやめ、一気に加速した。

「……あれに遅れないようにって……奥様でも無理じゃないかなぁ。」

 音速などとうに越えた速度で加速し始めたティナを見て、苦笑いするアルだが気合を入れて自身も飛翔機に魔力を通す。自身の全力を遥かに超えた所に安全マージンを設定された飛翔機は、こんな事では一切問題ない。

「ま、僕も一応公爵軍正規部隊最強の称号を戴いている身。頑張るしか無いよね。」

 大きく息を吸い込み、そして吐いた次の瞬間、アルも一気に加速し始めた。そうして一同は音を置き去りにした速度で、攫われた桜と学生たちの救助へ向かったのである。

 お読み頂き有難う御座いました。

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