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第82話 プレゼント

「今日だと……ミニスちゃんかな。応援にミレイちゃんとかもいるかもね。」

「相変わらずお前は店員が誰なのか把握しているのか……。」

 西町の酒場へ行く途中、アルの呟きに、カイトが呆れて溜め息を吐いた。

「ここと南町のカフェだけだよ。他は……あ、北町のカフェと居酒屋も把握してた。あれ?南町の酒場も何軒か……。」

 どれぐらい知ってるかな、と考え始めた騎士とそんな騎士に頭を痛める主、主を慕う妖精を先頭に、一同は店へと入っていった。

「いらっしゃーい。あ、アル様、カイトさん。珍しいですね、こんな時間に。あ、ユリィさんもいるんですね。」

 そう言ってミニスが近づいてきた。ミニスは犬の獣人の小柄な女の子であった。

「ああ、ソラの祝いでな……10人頼む。」

 カイトは後を振り向いて人数を数え、ミニスへと人数を告げる。

「はーい。ソラさん、なんかあったんですか?」

「ああ、今日めでたくランクDに昇格した。」

「それはおめでとうございます!」

 カイトの言葉を聞いたミニスは、嬉しそうに祝辞を述べる。

「それで今日は宴会を開こうと思って、な。悪いが……」

「はい。お酒、ですね。あと、適当に料理も見繕っておきます。」

「ありがと。……皆、席確保したよ。」

 そうして話が纏まったのを見たアルが外に出て、他の面子と一緒に戻ってきた。カイトとユリィはその間に席に着いていた。

「カイトー、お酒ってまた飲むつもり?わかっちゃいたけど、相変わらずお酒好きだね。」

 とは言え、カイトがお酒を好む理由を知っているユリィは、苦笑しながらもそれを許す。言っても無駄だということもある。

「しょうが無いだろ。好きなんだから。まあ、悪酔いせん様に飯も食うからな。」

 そう言ってツマミ代わりに出されたおにぎりをつまむカイト。一度カイトが悪酔いした時、飲兵衛だった昔の知り合いに言われ、こうする様になったのである。

「酔って学園まで連れて帰るの私なんだからね!」

 自身もお酒を口にしながら、何処か嬉しそうにユリィが告げる。

「そこまで酔ったことは無いだろ?大抵仁龍の爺さんが一番酷いだろ。まあ、飲む量も一番多いけどな。」

「でも、仁龍様の場合は燈火が手綱握っているから、その前に終わるじゃない。大抵泥酔してるのってカイトが燈火に襲われている時でしょ?結局カイトが悪いんじゃない。」

「……それ、オレが悪いのか?」

 二人がそんな話をしながら待っていると、何時の間にか他の面子も全員席に着いた。それを見たミニスがテーブルへと近づいてきて

「もう少ししたら飲み物お持ちしますんで……ってミリアちゃん!久しぶり!」

「わぁ!ミニスちゃんも久しぶり!」

 どうやら二人は知り合いだったらしい。二人は手を取り合って喜び合っていた。

「何時ぶりだっけ?」

「この間会ったのは……ミニスちゃんが依頼出しにきた時じゃないっけ?」

「ああ、あの時。一ヶ月ぐらい前だっけ?」

「緊急に団体様来ることになって応援の依頼だっけ?結局私も応援に駆り出されたんだよね。」

「そだっけ?懐かしいねぇー。」

 再会を楽しむ二人だが、そこで店長が怒号を上げた。急に10人も来店したので、にわかに厨房が忙しくなり始めたのである。

「おい!ミニス!飲みもんできてんぞ!さっさと運べ!」

「あ、はーい!すいません!じゃ、いくね!」

「うん!」

「知り合いか?」

 仲が良さげなミリアに、いい具合に酒が入ったカイトが問い掛ける。

「はい。私とミニスちゃんは同じ孤児院の出身なんですよー。」

 事も無げに自分が孤児院出身であることを暴露するミリア。ミリアは特段気にした様子は無かった。

「……えーと、それ言ってよかったの?」

 魅衣が少し聞き難そうにミリアに問いかけたが、ミリアに気にした様子は無く、普通に話す。日本では馴染みが無いが、魔物の襲来等があるエネフィアでは、孤児は珍しくないのだ。だからこそ、誰もそれを気負うことは無いのである。

「いいんですよー。公爵家のやっている孤児院だったんで、普通に公爵家の魔導学園にも通わせてもらえましたしね。」

「公爵家ぐらいだからな。孤児をこんな厚遇してくれるの。公爵様に感謝しろよ?」

 ライルの言葉に、ミリアが本当に明るい顔で答えた。

「ええ。私達孤児にとっては公爵様には足を向けて寝られませんよ。」

「公爵様ってクズハさん?」

「あ、いえ、勇者様の方ですよ。勇者様が肝いりで孤児院を設立されて以降、今でも続いている歴史ある孤児院ですよ。孤児院出身者の中には公爵家の重臣になった方もいるぐらいきちんとした孤児院です。」

 ホントは無い方がいいんでしょうけどね、魅衣の問いかけにそう言うミリア。そこには暗い面は一切無かった。それどころか、そこ出身である事を誇っている様な感さえある。

「……そうか、ならいいんだ。」

 カイトがそれでこの話は終わり、と終わらせる。ミリアもあまり食事時にする話題では無いと思ったらしく、それ以上続けるつもりは無かった。

「はーい!お待ちどさまです!此方が飲み物になります!すぐに食べ物もお持ちしますね!」

 そう言ってミニスが飲み物を持って来た。そうして、それが一同に行き渡った所で、ソラを中心に全員が盃を上げる。

「全員行き渡ったな?じゃあ、ソラのランクD昇格を祝って、乾杯!」

「かんぱーい!」

 カイトの音頭に合わせて乾杯する一同。それを皮切りに全員が会話を開始する。

「よし、じゃあ、ソラ。オレたちからの昇格祝いだ。」

 カイトがそう言って密かに持っていた少し大きめの布でくるまれた箱をソラへと渡す。大きさは1メートルも無い大きさだ。

「お!ありがと!開けていいか?……ん?結構重いな。」

「うん。いいよー。あ、落とさない様に気を付けてね。」

 それなりの重さを訝しんだソラにユリィが促すと、一同が注目する中、ソラが包みから中身を取り出した。

「ん?中に更に木箱が……って!まじか!新しい盾と剣じゃねぇか!」

 ソラは木箱の中身を確認して、大喜びで取り出す。

「さすがにここで全部抜くなよ?」

「わかってるって。」

 そうは言うものの、ソラは少しだけ剣を鞘から出してみる。すると、鞘からは一切の汚れの無い綺麗な鋼の両刃の刀身が現れた。

「やっぱ、新しい武器は綺麗だなー……ん?なんか今までの武器とは違う?」

 ソラは隙間から見える剣の色に違和感を覚えた。それに、今回の仕掛け人であるカイトが少しだけ嬉しそうに説明を開始した。

「気づいたか。そいつは今までの鉄じゃなくて中津国の玉鋼製だ。今までより段違いの切れ味と強度、魔力親和性を有している。剣と盾のセットで少しだけ割り引いてくれたんでな。なんとか手を出せた、というわけだ。」

 実際にはカイトが中津国まで足を運んだので、かなり割安で入手したのである。カイトと一緒に財布の紐を握る魅衣には偶然安い店を見つけることが出来た、とごまかしたが。

「あんたもこれでもう少し攻撃力が上がるんだから、ちょっとは戦いやすくなるでしょ?わざわざ探してくれたカイトにも感謝しなさい。」

「おお!皆、ありがとな!」

 ソラは今まで身に着けていた片手剣と盾を外して新しい剣と盾を装備した。そして外した装備を置こうとして、置所が無い事に気付いた。

「……これ、どうすんだ?」

 これ、とは今まで装備していた武器のことである。よく考えればゲームの様に捨てていくわけにもいかなかったし、一応は公爵家から譲られた学園からの貸与品なので、売りに行くわけにもいかない。使えなくなったら返却するルールになっていたのである。

「……すまん。そこまでは考えていなかった。」

 とは言え、これに気付かなかったのはカイトも一緒だ。なので彼もどうしたものか、と頭を悩ませる。

「そういやゲームみたいに道具欄で一括管理してるわけじゃないもんな。」

 翔も苦笑してどうするか、と他の一同と一緒に頭を悩ませる。全員がソラにプレゼントを送ることに手一杯で元々装備していた武具については考えが至っていなかったのであった。

「ま、まあ、とりあえずは僕が持ってる異空間の中に一緒に入れておくよ。まだ少しぐらいなら容量あるからね。」

「……すまん。」

 そうしてソラはアルに元の武具を渡して、アルはそれを異空間へと収納。

「学校全体としてなにか考えたほうがいいねー。これからも武器や防具は増えるだろうしー。」

 この由利の発言を切っ掛けとして後に、学園全体で武具を一括管理する魔導具を購入することになるのだが、それは当分先のことであった。

「まあ、嵩張るのはソラの装備だけじゃからな。他の面子はそれほど荷物にもならんじゃろ。当分はソラの武器を買い換える必要は無いじゃろうから、今考える必要はなかろう。冷める前に料理を食べんとな。」

「そうね。とりあえず当分は問題ないでしょ。」

 ティナと魅衣にせかされるように一同は食事を始める。そうしてこの後は一同楽しく食事を楽しんだのであった。カイトに事件の一報が入るまでは。



「おお!カイト、お前さん結構いい飲みっぷりだな!」

「まあな……ここの店はツマミもいい。」

 ライルがカイトが普通にお酒を呷るのに感心し、気前よく次のお酒をカイトの小さめのコップに注ぐ。それを受けたカイトはそれを一口口にして、店のツマミの味を褒める。

「おお!わかってるな……と言うかお前さん、鶏皮ってシブすぎんか?ほんとにソラと同年齢か?そういえば、エール―発泡酒―は頼まんのか?」

 カイトの言葉を聞いたライルが、ふとカイトの年齢を思い出して少しだけ苦笑する。カイトはお酒を片手に鶏皮串を頬張っていたのだった。実におっさん臭いが、何処ぞのおっさん―ライルの祖先―の影響なので仕方がない。

「エールは苦手なんでな。」

「そうか?この苦味と喉越しがいいぞ?」

 そう言って喉を鳴らしてエールを一気に飲み干すライル。こういう所は昔の冒険者時代のままなのか、かなり豪快であった。

「味はともかく腹に溜まるのがいただけん。」

「あー、まあ確かに腹には溜まるな。」

「あ、カイトさん、お注ぎしますね。」

「お、すまん。」

「ミリアの嬢ちゃん、こっちにも頼むぜ。」

 ぐいっと、一気にエールを飲み干したライルが、グラスをミリアに差し出す。それを受けたミリアがグラスにエールを注ごうとして、中身が空なのに気付いた。

「はーい……あ、ミニスちゃーん、おかわりお願いー!」

「はーい!」

 そんなこんなでライルと二人ですでに飲み会となっているカイト。ミリアは二人について、酒を注いでいた、

「あいつ、相変わらず酒好きじゃな。しかも、ちびちびと長時間飲むという、完全なる飲兵衛じゃ。」

「相変わらずって……。ま、桜ちゃんいたら速攻で止められるからな。」

 そう言うソラとティナは度数が低いと聞いた精霊水を色々な飲み物で割った物を呑んでいる。実は密かに一同にも少量の酒が振る舞われていた。

「……いいのかなぁ。私達も飲酒して。」

「いいよいいよー。ここ日本じゃないんだからー。」

 魅衣と由利は二人して飲酒してもいいのか、と若干後ろ髪引かれているが、実はこの会話はすでに繰り返されている。

「……あいつらも意外と呑んでるなぁ。」

 一人、早々に危険から遠ざかった翔は遠目にそれを眺めている。アルはすでに仕事を終えたつもりらしく、可愛い女の子を見つけてはナンパしにいった。

「……まあ、いいの……か?」

 一人素面であるので判別がつかない翔は、一人黙々と料理に手を出すも即座にすでに酒の味をしめたソラによって絡まれる。

「おーい、翔!お前も飲めよ!結構美味いぞ!」

「うむ!エネフィアの酒もなかなかに美味いのじゃ!」

 そう言ってティナが地球で言うところのリキュールに相当する酒を翔に手渡す。それを受けた翔は、段々と一人で真面目を突き通すのが嫌になったらしく、意を決して渡されたコップを睨んだ。

「ちっ!こうなりゃ破れかぶれだ!呑んでやる!」

「おお!いい飲みっぷりじゃ!」

 一気に酒を呷った翔に、ティナとソラがヤンヤヤンヤと褒めそやす。そうして翔も参加して、止めるものの居ない宴会が続くものと思いきや、アルが真剣な顔をして通信機を手にしていた。それに気づいたカイトだが、即座にクズハから念話が届く。

『お兄様、悪いお知らせが。』

『クズハか。アルも今通信を受け取っていた。何があった?アルにも通信が入る、ということは学園絡みか?』

 すでにアルの顔から悪い話である事を察していたカイトは、今までの陽気な顔は何処へ行ったのやら、冷徹な眼をして問いかけた。

『はい。……学生の一人が亡くなりました。』

『そうか。一ヶ月か、意外ともったものだ。』

 小さく、誰にもばれないように溜め息を吐いたカイト。カイトの予想ではもう少し早い段階で死者が出る予想であった。それ故に驚きはなかったのである。

『ええ。死因はオークによる殺害。オークはそのまま逃亡したようです。場所は北西の森です。』

『ふむ。……学生たちの動揺を抑えるようにしてくれ。』

 そこまでクズハに伝えた所でクズハが何か報告を受け取っている気配を感じたカイト。クズハが何か言うのを待つことにした。と、念話に戻ってきたクズハだが、何処か慌てた様子があった。

『お兄様!状況が悪化しました!』

『何?』

『どうやらその話を生き残った学生から聞いた一条さんが運動部系の冒険者十数名を引き連れて仇討ちと言って北西の森に向かった様子です!』

『ちぃ!遅かったか!即座にルキウスらの部隊から人を向かわせて止めろ!』

 再度クズハが報告を受け取る気配。カイトは嫌な予感しかしなかった。

『……更に状況が悪化しました。一条さんを止めるために桜ちゃんのパーティと生徒会役員で一条さんらのパーティの後を……なんです!……分かりました。』

 そうして、かなり苛立った様子のクズハに、カイトは状況の悪化を悟る。

『……また悪化したか?』

『はい。時を同じくしてゴブリンとオークからなる軍勢が学園付近で発見。数は大凡100。先の一条さんと桜ちゃんの集団はこれを発見し、学園を守ろうとこれと戦闘。ルキウスらも救援へと向かったのですが、桜ちゃんと桜田副会長、その他数名の女生徒が攫われたようです。現在ルキウスらはこの集団と戦闘を継続している模様。救助にはもう暫く時間が掛かるかと。』

 そこまで聞いたカイトは思わず声を上げてしまった。

「くそ!馬鹿ガキが!」

 いきなり怒声を上げ、机を叩いたカイトに周囲が何事か、と静まり返る。カイトはそれに手で謝罪し念話を続行する。ティナとユリィはカイトの様子から只事ではないと感じ取り、即座にカイトとクズハの念話へと自分の意識をつなげた。

『で、何故ルキウスらがいながらそんな事が起きた?あいつらが本気になればゴブリンやオークどもでは相手にならんだろう。普通なら女を拐うこともなく逃げ出すだろ。』

『どうやらあそこの森で更に一段階上の魔物が現れたようですね。先ほど北西の森にてブラッド・オーガの存在が確認されました。ユニオン支部が手配書を作成し、先ほど公爵家にも連絡が来ました。』

『ちっ、碌な事がないな。』

『どうされますか?』

『……オレが行くしか無いだろ……オレの恐ろしさを忘れた馬鹿に目に物を見せてやる。』

 現状で、桜達を救い出せる可能性があるのは、どう考えてもカイト達しかいなかった。正体がバレる云々よりも、桜の身の安全を優先したのである。

『ご存分に、お兄様。して、ルキウスらは?』

『今もまだ戦闘が続いているなら、そのまま討伐を続けるよう命じる。その後は負傷者の収容と、更なる援軍を警戒させろ。今回の行動は異常だ。どこからかの横槍も考えられる。』

『分かりました。』

『来週にはエルロードが復帰するだろう。そうなれば少しは暴走を抑えられるはずだ。』

『ええ。エルとブラスには対策を立てさせておきます。』

『ああ、そうしてくれ。では、行ってくる。』

『いってらっしゃいませ。』

 そうして念話を終了させたカイト。直ぐ様立ち上がり、声を上げた。

「アル!状況は理解しているな!」

「うん。さっき兄さんから連絡があった。」

 カイトの言葉を聞くまでもなく、連絡を受けたアルはこの後の行動を察してすでに武装を整えていた。

「ソラ、悪いが宴会は終了だ……ミニス!会計を頼む。」

 カイトのいきなりの言葉に、唖然となる一同。だが、カイトはそれを一切無視して会計を済ませる。

「おい、何があった?」

 尋常ではない様子の二人に、ソラが只事では無いことに気づいた。

「桜がさらわれた。これから救助に向う。」

 その言葉に事情を知らない一同は騒然となる。それに、カイトが事情を説明しはじめるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年1月11日 追記

・誤字修正

 『動揺』が『同様』になっていた所を修正しました。


 2018年1月25日 追記

・誤字修正

 『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。

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