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第81話 ランクアップ

マクスウェルの中心部にあるユニオン支部へと戻った一同。ドアを開けて中に入ると気の良い男性職員がソラへと片手を上げた。

「おぉ!小僧、戻ったな!で、どうだった?」

「おっちゃん!やったぜ!」

 片手を上げた男性職員に大して、ソラが満々の笑みでハイタッチを行う。今回依頼の請負人はソラであったので、ミリアが受付に立つ必要はなかった。それ故、ソラが登録初日より懇意にしている30代半ばのガタイの良い男性職員がソラの受付に出てきたのである。

「おお!そうか!これでソラもひよっこ脱出か!」

 がはは、と豪快に笑う男性職員。カイトはその豪快な笑い方に何処かかつての友を幻視する。

「こりゃお祝いせんといかんな!」

「おお!まじかよ!期待してるぜ!」

 そうして、続けて男性職員から放たれた言葉に、ソラが歓喜する。

「が、その前に……登録証みせてみろ。」

 しかし、急に真剣な顔をする男性職員。そうして、ソラに登録証の提出を命ずる。

「ん?ああ、これか?」

 意味が理解できず片眉を上げて訝しんだソラだが、自分の登録証を職員へと渡す。

「なあ、おっちゃん、今朝昇格試験受けるときも登録証になんかやってたけどよ、何やってんだ?」

「……ん?ああ、こりゃ冒険者昇格試験用の魔術式を確認してるんだよ。」

 受付に幾つか備え付けられた魔導具を操作しながら、男性職員が答えた。

「は?そんなもん入ってんのか?」

「まあ、詳しい方法は超極秘ってやつだが……。普通に試験って俺達職員の居ない所でやっとるだろ?そんなんじゃ、普通に手助けしてもらおう、って奴もいるんだよ。」

「まあ、当たり前だよな。楽なんだし、安全だし。」

「おう……そんでよ、始めは俺達職員が付き添いしてたんだが……ランクBの昇格試験ぐらいともなると、俺達職員の方が邪魔になっちまってな。逆に職員が死にかねんってんで、大昔の偉い魔術師に頼んで、特定の魔物を単独で討伐出来た場合にのみ、反応する魔術を創ってもらったんだと。まあ、もう一個の理由としちゃ、職員と組んで試験結果を偽装する奴が出るかもしれねぇ、ってことらしいがな。」

 男性職員は今度は別の受付備え付けの魔導具に登録証を置き、ユニオン本部にある情報統括用の魔導具の情報を変更しながらソラの疑問に答える。それを聞いたソラが、納得した顔で頷いて言う。

「へぇー。ってことは、オレの登録証にも入ってんのか?」

「もちろんよ。で、こいつがその魔術式なんだが……きちんと討伐できてるみたいだな。」

 そう言って男性職員はプレートの部分に出現した幾つかの魔術式を確認していく。

「おし、全部確認した。おらよ。……少し待ってろ。今こっちの登録内容を変更してやる。」

 男性職員はソラから預かった登録証を備え付けられた魔導具に取り付けて、魔導具を操作していく。

「なあ、それって何なんだ?」

 ソラが受け付けに備え付けられた魔導具に興味を持つ。

「……ん?ああ、こりゃ各地のユニオン支部と本部の情報を繋いでいる魔導具らしいが、詳しくは聞くな。聞かれてもわからん……おし、これで変更終了だ。」

 インターネットにつながったパソコンみたいなものか、ソラはそう思うことにした。事実、そう考えて問題は無いだろう。そうして、返却された登録証を受け取って変化がないか確認するが、何も目立った変化は見当たらなかった。

「おぉ!ってことはこれで?」

「お前さんはランクDってこった。まあ、ここまでは数ヶ月もあれば誰でたどり着ける簡単な場所だ。お前さん方は幸い公爵家の戦闘訓練を受けてっから2ヶ月ですんだけどな。こっから先はそうはいかんぞ。」

 バシバシ、と男性職員はソラの肩を叩いて陽気ながらも、何処か剣呑な雰囲気で語る。

「わかってるよ。俺達だってこの一ヶ月結構苦戦しまくってたしな。」

「こっから先はそんなもんじゃねぇ。おんなじランクでも魔物の強さはピンきりになってきやがる。ランクが一個上った途端にわけのわからん魔術や(スキル)を使ってくるような奴も大量にいやがる。油断したら即お陀仏だ。ランクが上ったからと実力に見合わん依頼を受けて死ぬ奴も数多出てくる。ランクBへ昇格後に俺も同じことやって、死にはしなかったが、引退することになっちまったな。今思えば幸運だった。」

 苦い思い出らしく、男性職員は口端に自嘲の笑みを浮かべていた。

「おっちゃんも元冒険者だったのか!」

「ああ、まぁな。……気が向いたら酒の肴にでも話してやるよ。」

 何処か穏やかな笑みでソラの問いかけに応ずる男性職員。そこには、少しの後悔が刻まれていた。

「……そっか。で、次の試験相手ってどいつ?」

「……ソラ、お前さん俺の話聞いてたか?」

 どこかしんみりとした話だったのに、直ぐに気分を切り替えたソラに男性職員が少しだけ呆れる。

「ん?気を付けろってことだろ?その前に次の目標知っとかねぇと、どうしようもないだろ。」

「まあ、そうだが……とりあえずランクCへの昇格試験はここら辺だと南の森にいるラース・グリズリーだ。真っ赤な熊っぽい魔物だ。両腕の爪による一撃と巨体に似合わん速さに気を付けろ。」

 南の森で最も強いと目される魔物である。少なくとも今の天桜学園の冒険者で敵う相手ではない。

「ん?今度は<<火の息(ファイア・ブレス)>>みたいに変な技は使わないのか?」

「ああ。今のところは知られていないな。」

 意外ときちんと注意するんだな、男性職員はソラがきちんと相手の事を知ろうとした態度に、意外感を得つつも答えた。

「つまり……そんだけ身体能力がヤバイってことか?」

 少しだけ考えこんでソラが尋ねる。そうして告げられたソラの言葉に、男性職員はソラの評価を一段階上げる。勢いだけだと思っていた少年が、きちんと物事を推察できると理解したからだ。

「そういうことだ。少なくともリザードなんぞは奴にとって手頃な餌にもならん。リザードの硬い鱗は奴にとっちゃ紙と一緒よ。そのくせムンバなんぞのものともしねぇ速さときやがる。何人もの冒険者がこいつから逃げようとして殺された。おまけに奴の毛皮はこっちの攻撃を殆ど防ぎやがる。奴を倒そうとするなら少なくとももっといい武器を仕入れるべきだな。ま、奴の肉は時々市場に流れるんだが、これがかなり美味い。値段が高いってんで、それを目的に森に入る冒険者も居やがるな。ま、一体1トンはあるから解体して必要な部位のみ持って帰る感じになるな。」

 始め真面目そうな会話だったのだが、話していて腹が減ったのか、少し涎でも垂らしそうな顔になる男性職員。ソラはそんな男性職員を笑うと、そこで漸く彼もそんな顔を自覚したのか、少し恥ずかしそうであった。

「ははっ。まあ少なくとも玉鋼か合金製の武器が欲しい、ってことか?」

「そういうこった……まあ、こんなとこにしとくかな。お前さんこっからの予定は?」

「あー、どうなんだろ。今大体……15時ってとこか。こっから依頼受けんのかなぁ。」

 さすがに15時ぐらいになれば依頼を受けることは無いと思うのだが、ソラは念の為カイトに聞いてみることにした。

「おーい、カイト!こっからなんか依頼受けんの?」

 隣のアルや魅衣、ミリアと雑談していたカイトはそれに気づいてソラの方を振り向いた。

「ん?今日はこれで終わりだってさっき言っただろ?」

「あれ?そーだっけ?」

「ああ。浮かれてて気付かなかっただけか、忘れてるだけだろ。」

「そか、悪い。」

「いや、いい。まあ、これから西町の酒場へ向うつもりだがな。」

「ん?そうなのか?」

「ああ、ソラの祝いで遅くなると桜に伝えたんでな。今日は夕食をこっちで食べて帰るつもりだ。」

「おぉ!マジ!?ありがとよ!」

「いいさ。」

「おお、それなら俺も参加させてもらってもいいか?」

 男性職員も祝いの席なら、と参加を希望してカイトに問いかける。

「いいですよ。それにその方がソラも喜ぶだろ?」

「おう!」

「あと、支部長にたまたま会ってミリアの参加も許してもらった。」

「おぉ……って、なんでお前支部長と話してんだ?」

「ん?ああ、少し気になる依頼の話があったんでな。偶然支部長が居たんで、話してみたんだ。」

「そっか。それ、俺達で受けんのか?」

「いや、やめておいた。場合によっては苦戦する可能性がある。」

「ほぅ。お前さんは慎重派だな。依頼について気になる点を質問をするのも良い考えだ。始めたばかりの冒険者でそんなことする奴は少ないからな。それが命取りだとも知らん奴の多い事多い事。」

 カイトの考えを聞いていた男性職員が嬉しそうにそう言う。

「これでもパーティの命を預かっているんでね。慎重にもなるさ。」

「って、ことはお前さんがソラのパーティのリーダーか。悪くないリーダーで良かったじゃねぇか。」

 そう言ってソラの肩を叩く男性職員。その顔には笑みが浮かんでいた。

「ま、これでもう少し買い食いとかに目溢しあったらいいんだけどな!」

 そう言って男性職員と二人で大笑いするソラ。

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はライル・バーンシュタット。元ランクBの冒険者だ。今はこのマクスウェルのユニオン支部に拾われて事務職員をやっとる。っと、お前さんも敬語はいらんぞ。趣味は300年前の勇者の伝承を追うことだな!特に勇者の物語の始まりともいえる堕龍討伐がメインだ。」

「そ、そうか。オレはカイト・アマネ。ランクDの冒険者だ。一応ソラのパーティのリーダーを務めている。」

 自分の伝承を探されていると言われて少したじろぐカイト。と、そこで耳慣れた姓を思い出す。

「バーンシュタットということは?」

「ああ、俺んちは傍系で生まれはこの辺じゃないんだが、一応バランタイン様の子孫ってやつだ。一応、ここらに来た時とかで本家には顔を出す様にしてるから、リィル様とも何回かあってるな。」

 リィルは本家筋の人間でも中枢に位置する存在なので、様付けであった。

「そうか。ではこれからもよろしく。」

「ああ。でもお前さんはいつもミリアの嬢ちゃんを利用しとるよな?……気があるのか?」

 最後を小声で問いかけるライル。

「そういうことじゃない。」

「いやいや、わかってるって。ミリアの嬢ちゃんはあれでなかなか人気があってな。わけぇ連中が何人も狙ってるって話だぞ?お前さんもがんばれよ。」

 勝手に決めつけて話を終わらせたライル。カイトはそんな彼の態度に少し納得して、笑うだけであった。

「じゃ、少し待っていてくれ。引き継ぎやってくる。」

 更に続けてライルは席を立ち、近くに居た職員へと引き継ぎを行う。合わせて支部長へも許可を取りに行く。それにソラが苦笑し、呟いた。

「……いいのか?職員ってこんな時間に抜けて。」

「職務規定時間なんて無いからな。その代わり、場合によっちゃ戦闘から夜間営業、事務作業までこなすことを求められる。」

 カイトが苦笑したソラに、地球とは異なるユニオンの実情を話す。

「そんなもんか。お、戻ってきたな。」

「おーう、待たせた。今日の仕事はこれで終わりだ。さっさと行くぞ!」

 そうしてライルと一緒にアル達の所へと戻ったカイトとソラ。

「あ、戻ってきたみたいだね。ランクDへの昇格は出来た?」

「おう!」

 そう言ってソラは登録証を取り出す。

「……光らせてくれないとわからないんだけど。」

「え?」

 魅衣に言われたソラは、ポカーンとした顔で登録証を見つめている。

「おお!すまん、忘れとった。登録証はランクD以降は光らせるとランクが表示されるぞ!」

「ライルさん、教えて上げてくださいよ……」

 何時もの事と思いつつもため息混じり苦笑混じりにミリアが告げる。そんなミリアにがはは、と豪快に笑い、ライルが言った。

「ランクが上がったら登録証に模様が浮かび上がるぞ。」

 どうやらミリアの苦言は些細なこととスルーするらしい。ライルにそう言われたソラは、試しに登録証をいつも通りに光らせてみると、登録証に取り付けられた魔石から何らかの文字が浮かび上がった。

「早く言ってくれよ!……お!本当だ!」

「あんたカイトの登録証見てなかったの……」

 魅衣が呆れているが、カイトがランクDへの昇格後に何度か登録証を提示していることを言っているんだろう。

「いやぁ、あれ、パーティリーダーの証かなんかだと思ってたぜ。」

 たはは、と頭を掻きながらソラは照れる。それにカイトが呆れて溜め息を吐いて言った。

「そんなもん無いぞ。と言うか、それより前には無かっただろ。」

「あ、やっぱ?なーんか前は無かったなー、とは思ってたんだけどな。」

「ははは!まあ、今後はランク上昇事に模様が変わるからな。じゃあ、行くか。」

「あ、ライルさんも来るんですね?」

 事情を知らないミリアが、ライルの言葉に反応する。

「おお、折角の小僧の祝だからな。参加させてもらうことにした……おっと、忘れる所だった。俺はライル・バーンシュタットだ。敬語はいらん。元冒険者だから、聞きたい事があったら聞くといい。」

 そうしてティナ達も自己紹介して、揃って西町の酒場へと向うことにしたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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