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第79話 依頼達成

 活動報告にも書いてありますが、5月10日午前2時より2時間程、断章のソートと第5章を新設致します。読者の皆様に不具合が起きてはいけませんので、この時間帯でのアクセスは避けていただければと。

 ご迷惑をお掛け致しますが、見やすい目次の作成の為、ご協力いただければ。

 カラト率いるレーメス伯爵の軍人が依頼の小袋を回収してくれていた為、予定よりもかなり早く街へと戻ることが出来たカイト達。森での探索の必要も無く、帰りは体力を温存する必要が無かった為、かなり駆け足で戻ってきたのだ。お陰で、街に着いた時にはまだ日が沈む前である。

 なので本来ならば依頼人への受け渡しは明日にしようとしていたのだが、門限に間に合わなくなるまで少し時間があったので、小袋を渡しに行くことにした。

「ここだったな。」

 少しだけ赤らんだ空の下、南町の市場通りへと入っていったカイト達は目印となる黄色い羽根の看板を発見する。幸い場所は変わっていなかった。

「いらっしゃ……ああ、お前さんか。小袋は見つかったのか?」

 丁度店の準備で後を向いていた商人が、店先に立った来客に気付いて振り返り、つい先程依頼を受けた冒険者と気付いて笑みを浮かべる。

「ええ、此方に。」

 カイトは吊り下げていた小袋を取り外し、店主へと渡す。店主は受け取った小袋の中身を真剣な目で検めて、確認出来たらしく1つ頷いてから笑みを浮かべた。

「……確かに。いや、済まなかったね。受領証を。」

 にこやかに笑った店主は、カイトに受領証の提出を求める。これの終了確認欄に依頼人がサインすれば、正式に依頼は完了である。

「はい。」

 カイトは受領証を店主へと渡し、店主は受け取った受領証へとサインした。

「良し、じゃあこれで依頼は完了だ。今回は世話になった。次も頼むよ。」

 満面の笑みを浮かべて、受領証をカイトへと返す商人。カイトはサインを確認し、受け取った受領証を懐にしまう。後はこれをユニオン支部のへと提出し、報酬を受け取れば終わりである。

「はい、確かに。ありがとうございます。」

 そうして、カイトが懐へと受領証を仕舞ったのを見て、意外そうな表情を浮かべた商人が口を開いた。

「それにしても速い帰還だったじゃないか。」

「ああ、それですか。実は……」

 別段隠す必要の無い事だったので、カイトは商人にカラト達の事を説明する。

「なる程な。そりゃ、あんたらにも軍人さんにも失礼した。」

 ははは、と笑いながら、全てを聞き終えた商人がカイト達に謝罪する。

「確かに。ですが、料金は返しませんからね?」

 カイトもははは、と笑いながら、商人に冗談めかして告げる。それを受けた商人はちょっと残念そうな表情を見せ―勿論、演技である―、笑いながら言う。

「そりゃあ、残念だ……まあ、それはいいか。いや、実はこの小袋の中の香辛料は実は明後日に公爵家へと納品する予定の物が入っているんだよ。それを無くしたとなれば、せっかく掴んだ公爵家との商談がフイになっちまう。」

「そうなんですか?ですが、見たところ普通の香辛料しかないようですが……」

 そう言って嘯くカイトだが、実はカイトもティナも仕掛けには気付いていた。もし中身が違法な物であってはいけないので、仕掛けを発動させることなく、ティナの手で中身が単なる香辛料である事は確認済みである。

「まあ、あんたらにはいいかな。実はこれは……」

 そういって店主は小袋をゴソゴソと操作し始める。すると小袋がに仕掛けられていたであろう魔術が発動した事が、カイトとティナにははっきりと認識できた。

「こういう風に二重になっていてね。実はこの中の一部が小型異空間に繋がっているんだよ。」

「なるほど。普通の賊だと中身の香辛料のみに目が行って気付かない、ということですね。」

 たった今気付いた、という風にカイトが驚いた表情で頷く。店主の行動に興味を惹かれ、カイトの後から覗きこんでいたソラ達がかなり驚いた表情をしていたので、演技とはばれなかった。

「そういうことだ。もし何かで中身が盗まれてもこっちは無事な可能性があるからね。まあ、袋ごと落としてしまったらどうにもならないがね。折角エルフ製の特殊な小袋を買ったのに、買って直ぐに失くすところだったよ。」

 今度からは腰に括りつけることにするよ、と苦笑しながら店主は再び店番に戻ろうとして、ふと何かを思い出して戸棚から小さな小箱を取り出した。

「ちょうどいいか。そっちの綺麗なお嬢さん方にプレゼントだ。受け取ってくれ。」

 店主はティナ、魅衣、由利の三人に小箱を渡し、中身を開ける様に指で示した。三人は一度顔を見合わせるが、カイトが小さく頷いたのを見て、小箱を開ける。すると、中身は小さな魔石が付いたネックレスであった。

「いいんですか?」

 魅衣は小箱からネックレスを取り出し、少しうっとりした表情で商人に問う。

「ああ、この小袋を買った際に店の店主がなにか良いことがあったらしくてね。おまけに、って付けてくれたんだよ。だから元手はかかってないから、気にしなくていいよ。」

 嬉しそうな三人を見て、店主はにこやかに笑みを浮かべる。

「折角の好意じゃから、有り難く頂いておくと良いじゃろうな。」

 そう言ってティナがネックレスを自分の首に付けた。

「そうだねー。」

 ティナの言葉に由利が同意して、二人も同じくネックレスを首に身に付けた。魅衣が紫色―雷属性―、ティナが白色―光属性―、由利が黄色―土属性―のネックレスである。

「ははは、せっかくのエルフ製のネックレスなんだから、綺麗なお嬢さん方に着けてもらった方がネックレスも嬉しいだろうしな。それは各色に対応する属性を低減するらしいから、冒険者にもピッタリだよ。」

 少し大きめに頷いた商人は、1つ笑い、効果を説明する。どうやら、綺麗な上に、実用性もある物らしかった。

「ありがとうございます。では、我々はこれにて。」

 そうしてしばらくカイト達は商人と雑談し、だいぶ門限が近い事を魅衣からそっと知らされ、引き上げる事にする。

「ああ、当分は俺もここで商売をしているから、気が向いたら寄ってくれ。」

「その際は……ちなみに、何屋さんなんですか?」

 雑談の間で少し打ち解けた魅衣が、気になって聞いてみる。ネックレスを贈ってくれた事から、アクセサリー等の小物屋なのかと期待した事も大きい。

「ああ、薬草とかの薬屋だよ。今はまだ開店準備中だがね。」

 そうして商人が少しだけ戸棚を開くと、薬品臭い匂いが周囲に少しだけ漂う。

「それでエルフの里へと行かれたんですか。」

 合点がいった、そういう風にカイトが頷く。それを見た商人も頷いて言った。

「ああ、あそこは薬草の調合とかでも有名だからな。一ヶ月ほど前に訪れたんだけど、妙に族長家が賑やかだったなぁ。」

 そう言って珍しい物を見た、と少しだけ嬉しそうな商人だが、これには当然事情がある。カイトの帰還に合わせて各地の異族達の交流も活性化し、エルフの里もかなり騒がしいことになっていたのである。

「そうなんですか。それは珍しいですね。」

 とは言え、事情を察しても言うわけにはいかないカイトは、商人の言葉に少し驚いた風を演じるしか無い。

「ああ。あそこは普段は物静かな場所なんだけどな……エルフの里へ行った事があるのかね?」

「いえ、ですが、噂ぐらいは……」

 ふと、カイトがエルフの里に行った事があるような風だったので、少し意外そうに商人が尋ねる。それに対して、カイトは嘘で返し、それに商人は勝手に結論づけた。

「まあ、この街ならエルフとかも珍しく無いのか。」

「ええ、まあ。では、これにて。」

「ああ、ご利用の際はご贔屓に。」

 そう言う店主の言葉を聞き、カイト達のパーティは店を後にする。そして、ユニオン支部へと向かい、報告を済ませた。

「そろそろ帰らないとまずいな。」

 カイトは腕時計を見て時間を確認。すでに17時を回っていた。マクスウェルから天桜学園までは何時もなら約1時間で、急ぎ足で帰ったとしても、それほど時間に余裕があるとは言えなかった。

「じゃあ、急ぐか。」

 そうして、一同は必要な物を急いで買って、そのまま帰路に着いた。




 道中、一同はリザード6体と戦闘になっていた。

「あっちぃ!」

 ごうっ、と勢い良く放出された炎から慌てて逃れる翔。リザードの<<火の息(ファイア・ブレス)>>である。幸い、防御用の魔術のお陰で革製の防具に火が点くことはなかった。

「このアホ!何度も口の前に立つなって言っただろ!」

「わりぃ!」

 ぜぇはぁと荒い息を吐く翔を怒鳴りつけるカイト。とは言え、翔が囮となったお陰で、リザードを巨大なハンマーで叩き潰す事が出来た。

「大丈夫か!」

 ソラが由利に襲いかかろうとしていたリザードの攻撃に割り込んで防御しつつ翔へと声を掛ける。

「おー、なんとかな。」

「あんま油断すんなよ!」

 息を整えつつ答えた翔に注意を促し、ソラはリザードの攻撃を防いで、カウンターに片手剣で攻撃する。しかしこれは堅い鱗に弾かれて、イマイチ効果が無かった。

「オラァ!<<巨大盾(ラージ・シールド)>>!」

 更に追撃で盾による打撃を繰り出すソラ。そこへカイトが一気に間合いを詰めた。

「喰らえ!ステーク!」

 カイトは魔力で大型の杭打ち機を創り出して、ソラの攻撃でのけぞっているリザードへとトドメを刺す。カイトの攻撃の衝撃でリザードの上半身は15メートルほど吹っ飛んで、動かなくなった。

「さっすがカイト!……次だ!」

 圧倒的破壊力を見せたカイトを賞賛するソラは、残り数体となったリザードへと向き直る。

「お前もかなり連携が出来るようになってきたな。……ソラは翔の援護を頼む!由利、ソラの援護を!」

「了解!」

「りょーかい!」

 そしてソラと由利は翔の援護へ、カイトは魅衣が戦っているリザードへと戦闘を攻撃を仕掛ける。

「アル!そっちは任せた!ティナ、ユリィ援護を頼む!」

 アルは一人で数体のリザードと戦っており、当たり前だが苦戦はしていない。

「じゃ、カイト。風で速度上げるけど、気をつけてね!」

「今更聞くな。」

 そう言ってユリィがカイトの移動速度を加速させ、一気にリザードへと肉薄する。

「こっちはこれから氷属性で<<火の息(ファイア・ブレス)>>を全て無効化するから、全員気にせず戦って大丈夫じゃ!」

 先ほどまで詠唱の様な意味のない言葉をつぶやいていたティナは、頃合いかと待機させていた術式を展開させる。

(この様子だと、そろそろソラ辺りはランクアップ試験を受けさせてもいいかもな。ま、それにはどうにかして攻撃力を上げないとな。)

 ソラの様子を横目で見ると、危なげなく戦闘を行っている。ただし、攻撃力が足りていないのか、ダメージソースは一撃が大きい由利になっていた。翔も同じく攻撃力が足りず、囮に徹している。が、ときどき<<火の息(ファイア・ブレス)>>の効果範囲から微妙ににげきれていないため、まだ一人でリザードと戦わせるのは危ないだろう。

「ちょっとカイト!ボケっとしてないで戦いなさいよ!」

「悪い!」

 カイトはそんな事を考えながら戦っていたので、魅衣に怒られてしまった。なのでカイトは再びユリィの援護による加速を利用して、一気にリザードへと肉薄し刀による斬撃を繰り出す。

「ちっ、相変わらず堅い!魅衣、悪いが囮になる!一気に仕留めてくれ!」

「わかった!」

 そうしてカイトは武器を双剣に変更。リザードの周囲を駆け回りつつ、鱗に連続で攻撃を仕掛けていく。リザードは最初は何も感じていなかったらしいが、途中からカイトの攻撃がうざったくなったらしく、カイトを重点的に攻撃していく。

「遅いぞ、こっちだ。」

 カイトはリザードの攻撃を避けつつ双剣でリザードの鱗に傷を付けていく。周囲を駆けまわりつつ自身の鱗に傷をつけていくカイトに、リザードは尚の事激怒していき、カイトのみに集中して攻撃していく。

「ここ!<<一気貫通(いっきかんつう)>>!」

 そうして、完全にカイトに注意が向いた事を確認した魅衣は魔力をレイピアの先端の一点に集中させ、リザードを攻撃。魅衣の攻撃は容易にリザードの鱗を貫き、遂に魅衣による一撃で倒された。

「こっちは終わり!由利は!」

 魅衣が由利達三人が戦っていたリザードを見ると、丁度リザードが討伐されたところであった。アルの方はすでにケリがついていた。

「これで終わりか。全員でなら、リザード6体程度ならばなんとかなるようになってきたな。」

「まあ、これでも結構な数の戦いをこなしてきたからね。」

 魅衣はそう言って薄い胸を張る。まあ、鉄製の胸当てのお陰でそこまで目立たないが。

「始めの頃の震えた魅衣が懐かしいな。」

「うるさいわねー。」

 カイトの茶化しに少し赤くなって、魅衣が文句を言う。

「おーす、そっちも無事みたいだな。」

 と、そこに翔が付着した煤を落としながら近づいてきた。後には何かを考えているらしいソラと、雑談をしている由利、ティナ。アルは周囲を警戒している。

「ああ、翔も大丈夫そうだな……ソラ、どうした?」

「……いや、ちょっと考えたことがあんだけどよ。カイト、後で手伝ってくんね?」

「ああ、いいぞ。どんなことだ?」

「新技。」

 どうやら構想が纏まったらしいソラが、ニヤっと笑ってそう言う。

「それは楽しみだな。でも、アルじゃなくていいのか?」

「あー、いや、アルだとわかんねぇかもしれねぇからな。」

 当たり前だが、ソラの師匠はアルだ。なのでそれを踏まえた事をカイトに聞かれたソラだが、少しだけ肩を竦めて答えた。

「ん?僕じゃわからないって……。」

 そう言って首を傾げるアル。怪訝そうなアルに、ソラは試しに自分のモチーフにしようとしている物の名前を挙げた。

「なあ、アル。パイルバンカーってわかるか?」

「……ゴメン、皆目見当付かない。」

 ソラに問われたアルは少しだけ考えこみ、結局は皆目見当が付かなかった。まあ、地球の科学技術を用いて開発された道具を知っていても可怪しいだろう。

「ということ。悪いな。」

 とは言えソラも若干悪いとは思っているらしく、アルに謝罪する。それを受けたアルは、笑ってそれを許した。

「ううん。そういうことなら、僕もソラの新技を楽しみにさせてもらうよ。」

「おう!なんとか目処着けてみせるぜ!」

 パンッ、と手を鳴らすソラに、魅衣とティナがニタリと笑みを浮かべて茶化しに入った。

「あんたこの間もそんなこと言って失敗してなかったっけ?」

「結局うまく行ったのは<<鱗盾(スケイル・シールド)>>だけじゃったな。」

「あれはもともとあった技なんだろ?ソラが創ったわけじゃないよな。」

 そんな二人を見たカイトが、それに便乗して更にソラを茶化す。アルと由利はそんな4人を見て、苦笑していた。

「あれを除いたら十個ぐらい作っては失敗してるよねー。」

 にしし、とカイトのロングコートからユリィが顔を出してソラ弄りに参戦。更に一気に騒がしくなり始める。

「うるせ!だから今回はカイトに協力頼んでんだろーが!?」

 ユリィの茶化しを受け、ソラが実情を語る。どうやらソラも行き詰っていたらしい。カイトとしても戦力増強は有難い話なので、茶化しつつも改めて協力を約束する。そうして一同はその後何回か戦闘を繰り返して、天桜学園へと帰還したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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