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第73話 酒場

 食事を摂るためにティーネの案内で西町へとやって来た一同。ユニオン支部のある中央部とは異なり、一般市民と思われる住人が多数見受けられた。

「はぁー。ここまで来ると、やっぱいろんな種族がいるなぁ。」

 ソラは周囲を見渡しながらそう言う。完全にお上りさん状態である。周囲には彼らでも分かる耳の長いエルフ、小柄だがごつい印象のあるドワーフ、此方も小柄だが何処かひょうきんなハーフリング等、様々な種族がいた。

「そろそろです。」

「今の時間なら、少しは空いてると思うんだけど……。」

 ティーネとアルも周囲を見渡しながら告げた。此方はソラと違い、目印となる場所を確認している。どうやら、件の酒場までは後少しで到着するようだ。ユニオン支部で換金や依頼の報告等を行ったため、現在14時過ぎになっていた。お昼のピークは過ぎている筈である。

「腹減った……」

 翔の言葉であるが、全員の言葉を代弁していた。朝から5時間近く運動していたので、全員空腹である。

「あ、ここだね……ミレイちゃーん!席開いてる?」

「見た感じ席は空いていそうです。……えーっと、15人です。」

 そう言って二人が入っていった店はほぼ全体的に石造りで、大きな木のドアが印象的な酒場であった。外から見た感じでは割と古そうな外見をしている。中からは二人と話す女の子の声が聞こえて来た。

「ここが、街ができた当初からあるっている酒場……か?」

「窓から覗くと、酒飲んでる奴もいるけどよ……もっと殴り合いの喧嘩とか起きてる場所かと思ってたな。」

 ソラの言葉に翔が店内の覗ける窓から内部を確認する。しかし、そこに映ったのは地球でもよくありそうな居酒屋の光景であった。二人はもっと荒々しい雰囲気の飲食店を想像してたらしい。

「入ろうとしたらいきなりドアが蹴破られたりな。」

「……それだと商売にならんだろう。普通に酒場でも暴力沙汰はご法度だろ。」

 ソラが少し嬉しそうに言った言葉に、カイトが溜め息を吐いた。

「私達にそんなところを紹介されても困りますわ。」

 瑞樹が最もな意見を言う。そんな話をしていると、中からアルが出てきた。

「皆、席空いてるって。入ろ。」

「おっしゃ!腹減ったー!」

 今か今かと待ちわびていたソラを先頭に店に入る一同。店の内装は外見とは異なり、古臭い印象は無く、奇麗に清掃されていた。そのため、酒場という印象はあまり感じられなかった。

「酒場っていうか……普通の御食事処?」

「なんか、ただの居酒屋ぽいねー。」

 酒場と言われてどんなものか、と緊張していた魅衣と由利が、ほっと一安心、と言った所で胸を撫で下ろしていた。

「店内の内装は何度か改装されてるからね。酒場っていうのは昔からの名残だよ。」

「酒は相変わらず提供されているみたいじゃがの。」

「あはは、それも昔からの名残だね。食事処でお酒を出さない店も少ないけどね。」

「でも、この人達、昼間っからお酒飲んで大丈夫なの?」

 魅衣が小声で昼間から飲んでいる荒くれ者らしき人たちに呆れている。

「彼らは何時お酒飲めるかわからないからね。飲める時に飲んでおかないと。最悪、この酒が最後の一杯になるかもしれないんだし。」

「で、アルさーん。この方達がお連れの方?……あれ?ユリィさん?どうしてそんな格好してるんですか?」

 そう言って店の店員らしき女の子がやって来た。若干尖った耳を持つ、茶髪の少女だった。

「あ、うん。ミレイちゃん。案内よろしく。」

「まあ、気にしない、気にしない。じゃ、案内よろしくー。」

「?じゃあ、皆さん、お席にご案内しますね!」

 そう言って案内されたのは、店内でも大きめの机を2つつなげた所だった。出際に聞いた話しだと、どうやらカイト達の為に繋げてくれたらしい。

「店長ー!15名様でーす!」

「おーう!何人かミレイの応援行ってくれー!」

 ミレイの声に反応して、店の奥の厨房からダンディな声で返事が聞こえた。恐らく店長の声なのだろう。

「で、ご注文は何にしましょう!」

「私はいつもの。あと、パンを幾つか見せてもらえますか?」

「僕は……今日のオススメパスタ。スープ付きで。後、僕も幾つかパンを。」

「はーい。パンの方はいつも通り、自分で見てきてね。パスタの茹で加減はいつも通り?」

 まずは馴染みであるアルとティーネがメニューをオーダーする。それを受けて、ミレイは厨房に近い棚を指さす。棚を見れば、幾つかのパンが並んでいた。そうして、アル達二人に習って、カイト達もメニューを見ながら料理を選び始めた。

「うん。あ、ここはテイクアウトもやっているから、もし帰り道とかで食べたいなら買って帰るのもいいよ。」

「ああ、そうさせてもらう……昔はこんなのなかったな。」

 懐かしの店であるのだが、内装とメニューがガラリと一変していたので、少し寂しいカイト。

「で、皆さんは何にしましょう!オススメは、勇者メニューです!300年前に勇者様と初代店長、コック長が協力して作り出した勇者様の故郷の味だそうです!当店のみ、他店では真似できないお味となっていますよ!」

「勇者メニュー以外の料理がわからないんですが……。」

「え?どれですか?うちのメニューって大抵ここらへんだと一般的なメニューだと思うんですけど……。まあ、時々勇者様が開発されたメニューなんかだと、分からない方も多いですけど。」

 桜が見ていたメニュー表をミレイが覗きこむ。桜は試しに『ヌーの蒸し焼き』という料理を指してみた。

「これとか……。」

「ヌー、知らないんですか?普通にマクスウェル周辺の草原に歩いてますけど。」

 ミレイが怪訝そうな顔をする。どうやらここらでは一般的な食材だったらしい。

「あ、ゴメンゴメン。彼らマクスウェルに来たばかりで、まだここらへんのこと知らないんだよ。」

 アルが桜達の説明をする。

「あー、冒険者さんだったの。じゃ、しょうが無いかなぁ……ヌーはここら一帯にいる草食動物で、少し癖のある味だから、匂いとかが苦手な人は注意してね。次のムンパは森にいる走りの早い動物で、こっちは少し堅い肉。キュイはここらへんで食肉用に育てられている動物。結構濃厚な脂身とか、歯ごたえのある部位も多いかな。あ、さすがに牛とか鶏とかはわかりますよね?」

「ええ。さすがに……。」

 ミレイの言葉に、桜が頷く。尚、エネフィアにもきちんと牛や馬、羊や鶏と言った地球でも馴染み深い動物や、調味料一式が揃っていた。それ以外にもエネフィア特有の食材が数多くあるので、味はともかく、料理の種類は豊富であった。

「この、オーブン焼きとかってオーブンあるんですの?」

 瑞樹がメニューを見ながら、少し驚いた様子でミレイに問いかけた。文明レベル的にオーブンや電子レンジ等存在しなさそうであるのだが、普通にオーブン焼きがメニューに表記されていた。一方、問い掛けられたミレイは、何を当たり前な、といった表情で答えた。

「え?今時マクダウェル公爵領なら、殆どの家に常備されてますよ。あ、あと、ウチは業務用レンジと業務用の冷凍庫もあります。まあ、マクスウェル広しといってもウチぐらい大きな冷凍庫を備えている飲食店はここだけです!……まあ、勇者様のおかげなんですけどね。」

 エヘン、と胸を張って自慢するミレイ。

「勇者様のおかげ?」

 ミレイの言葉に、桜が眉を顰めて事情を聞いた。

「あれ?知りませんか?勇者様が開発を主導された調理用魔導具は結構多いんですよ。レンジやオーブン、冷蔵庫などの今の飲食店に必要な魔導具は全部勇者様主導で開発されているんですよ。他にも、映像伝達の魔導具、由来は知りませんが、テレビと言う物をお作りになって公共放送をなさってますね。今では新聞社が放送もやっている時もありますし、ドラマや劇画をやっている時もありますね。まあ、ここまでチャンネルが豊富なのはマクダウェル公爵家ぐらいでしょうけどね。」

 そう言ってミレイが指差す方向を見ると、そこにはテレビらしき魔導具が備え付けられていた。大きさは地球基準でいうなら、36型というところであった。

「まあ、さすがに安くないんで、壊されないように周りに防御系統の結界張ってますけどね。」

 殆どの一同がそちらに目を遣ったので、ミレイが説明を加えた。

「あ、俺このカレーライス大盛りで!スパイスないって食堂では食えなかったんだよな!」

「……なら俺はステーキ定食、ご飯大盛り!ソースは醤油ベース!で、ソラ、俺にも一口くれ!」

「その代わり肉一切れよこせ。」

「商談成立!」

 と、一同がテレビやらの家電製品の話の最中にも必死にメニューを見ていたソラと翔は注文が決まったらしく、ミレイに注文する。

「あ、はい!カレー大盛り、ステーキ定食御飯大盛りで!」

 二人が料理を注文した事で、漸く一同が本題を思い出した。そうして大急ぎで料理を選んでいく。

「私はBLTサンドと紅茶のセット。デザートにバニラアイスお願いします。」

「私も同じのー。あ、デザートはプリンアラモードで。」

「はーい。」

 そう言って魅衣と由利の注文をメモに書き記していくミレイ。

「じゃ、私は裏・勇者メニューでマルゲリータ。あ、大きさはそのままでいいよー。ドリンクは……いつも通りのドリンクバーで。」

「え、何、その裏・勇者メニューって。」

 いきなりメニューにない料理を注文するユリィに翔が質問する。

「裏メニュー。常連の特権!」

「ずりぃ!」

「オレは……ん?あ、やっぱあるのか。じゃあ、裏・勇者メニューのおにぎり、梅、かつお、昆布。あと、牛肉串2本。飲み物は……精霊水で。」

「って、お前も裏メニューかよ!」

 ユリィの耳打ちで裏メニューのおにぎりを迷わず選択したカイトに突っ込む翔。実はカイトはおにぎり三種を探していたのだが、どうやら300年で裏メニュー化してたらしい。ちなみに、精霊水はお酒の銘柄の1つである。

「はーい。裏メニューのおにぎり三種と牛串2本。飲み物は精霊水ですね!精霊水はどうします?炭酸入れられますけど。」

「ライム絞って、炭酸入れてくれ。」

「まるでお酒みたいですね。」

 桜がカイトの注文を聞いて笑って言う。

「……ちなみに、酒じゃ。」

 そんな桜に、ボソリとティナが耳打ちした。

「却下です!昼からお酒飲んでるとダメな人になります!」

「ちっ。……麦茶で。」

 バレないように飲酒するつもりであったカイトだが、桜に却下されたので麦茶へ変更。それを見ていたミレイは苦笑し、桜の発言を聞いていた酔っ払い共は少し落ち込んでいた。

「分かりました。大変ですねー。奥さんですか?」

「そうだ。」

 ミレイの冗談に、即座に嘘で返すカイト。ノリが良いのではなく、桜に酒を却下されたことに対する仕返しであった。

「ええ……って、違います!」

 赤くなって即座に否定する桜。と、ここで終わればよかったのだが、何故かティナが乗ってきた。

「妻は余じゃ!」

「奥さんの目の前で他の女に手をだすなんて最低ですね。」

「あ、私も口説かれたわ。」

 ノリ良く乗ってきたミレイの言葉に、更に魅衣が冗談に加勢する。

「うわぁ、3股ですか。さいてー。」

「いや。此奴他にも余の姉にも手を出しておるのじゃ。」

「えー。四股ですかー?意外とむっつりなんですねー。」

 冗談とわかりつつも乗ってくれるミレイ。どうやら彼女は非常にノリが良い様だ。

「で、ホントは誰が奥さんなんですか?」

「残念ながら独身だ。」

 ため息をつき、肩を竦めて残念、というポーズをしてそう言うカイト。

「おい、ミレイ!出来た料理運んでくれ!」

 と、そんな冗談を言い合っていると、奥から店長らしき人物が現れ、料理を差し出す。他にも何人かの女の子が料理を運んでいた。

「あ、はーい!」

 そう言ってミレイは仕事へ戻っていった。注文が終わっていない面子は近くにいた店員を捕まえて注文をすることにしたのだが、どうやらカイトには料理の前に一仕事あったらしい。

「カイトさん?少しお話が……。」

 いい笑顔に青筋を浮かべて―ただし、頬が若干赤い―桜がカイトへ話しかける。

「……申し訳ありませんでした。」

「天音はわかってたんなら始めから注文しなければいい、と思うのだけど。」

 そんなカイトを見ていた楓も、溜め息を吐きつつ説教に参加する。一応、彼女らは生徒会の会長と副会長である。目の前で飲酒をしようとした生徒にお説教をしなければならない、という義務感があったらしい。




 その後、二人に加えて生真面目な瑞樹によるお説教は続いたのだが、長々とお説教をしていたため、全員分の料理が届いた。

「一応天音は学園トップの戦闘能力を持っているんだから、あまり羽目をはずさないように。」

 と、最後に楓からの一言を以って、終わりとなった。

「いただきます。」

 そうして、全員で手を合わせて食べ始めたのだが、一口食べて、ソラが目を見開き、次いで何かを考えこむようにもう一口口にする。

「おい、ソラ。食べないのか?」

 一口食べ、更にもう一口食べた所で一気にペースが落ちたソラに、翔が首を傾げて問い掛ける。全部食べられる前に一口貰う予定だったのだが、ソラの様子に躊躇ったのだ。

「……ん?ああ、食うって。」

 そう言ってソラはパクパクと普通に食べ始める。

「もしかして、お口に合いませんでした?結構独特なお味ですから、初めて食べたお客さんは結構戸惑われるんですよねー。辛いとかだったら、牛乳をサービスでお持ちします?」

 怪訝な様子のソラに、ミレイが尋ねる。

「ああ、いや。懐かしい味だったから、つい……」

「あ、カレー、どこかで食べたことあったんですか。もしかしたらウチで修行した人の店に行ったのかもしれませんね。」

「ああ、そうかもな。」

 その後もソラは何かを考えつつも、結局カレーをお代わりまでしていた。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年3月23日 追記

・表記修正

 権利の問題から『ホビット』を『ハーフリング』へと変更します。以降、同様の書き換えを行っておりますが、ここが最初の登場なのでここに纏めて表記させて頂きます。

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