第70話 リベンジ
すいません。ちょっとしたトラブル(予約投稿で割り込みが出来ないことを知らなかった。orz)のため、終わるまでは断章と本編が交互に続く様な形にさせてください。
一同がマクスウェルを出発してからおよそ10分後。街が見えなくなって来た頃、初陣の相手であるゴブリンが十数体現れた。
「こいつらか……。」
翔がそう呟く。少しだけ身体が強張ったが、初陣の時よりも震えが少ない。
「全員、戦闘態勢を取れ。アルは全体の援護を。」
カイトがすかさず全員に戦闘態勢を取るように促す。すでに訓練では無いので、アルも戦列に加わる。
「行くぞ!」
カイトの合図と共に、再びゴブリン相手に戦闘が開始された。
「ちっ!だけど、こんなもんじゃ効かないぜ!」
そう言って最前線のソラがゴブリンの攻撃を防御する。そのまま攻撃をせず、ゴブリンの気を引き続ける。
「くけぇ!」
鳴き声のような声を上げて、別のゴブリンがソラを後ろから攻撃しようとするが、その攻撃が届くことは無い。
「そこ!」
由利が放った矢によって絶命させられたからだ。
「サンキュー!」
「どーいたしまして!」
「まだいるんだから、油断するなよ!」
カイトが二人への警戒を促す。とは言え、先ほど倒したので約半分までゴブリンの数が減っていた。
「次だ!」
カイトが3体目のゴブリンを討伐する。
「ハットトリックかよ!俺も負けるか!ティナちゃん、援護よろしく!」
「うむ!」
応えたティナが<<風撃>>で牽制し、翔が一気に間合いを詰めた。
「これで2体目だ!」
そうして翔がトドメをさす。遠距離からの援護が加わったことで、連携が大分取れるようになってきていた。
「魅衣ちゃん、行けるかい?」
アルが魅衣を後ろから狙っていたゴブリンの攻撃を防ぐ。
「なんとか、ね!」
その魅衣はなんとかカイトの作り出した隙とアルの援護で攻撃を繰り出し、ゴブリンを討伐した。
「ふぅ。」
「そこで一息ついちゃだめだよ!」
そう言ってユリィが魅衣を狙うゴブリンへと弱い雷撃を繰り出す。
「ゴメン!この!」
そう言って魅衣が先ほどのゴブリンへ攻撃をしようとしてその前にゴブリンが倒れる。
「くぎゃぁ……」
カイトの投剣によって倒されてしまったのである。そして即座に双剣へと持ち替えるカイト。戦闘はあと少し。この分だと、不安は無い、カイトもアルも、等しく安堵するのであった。
「……この分なら勝てそうかな。」
「ああ。あと少し余裕があってもいいんだが、今は高望みだな。」
戦闘の最中、カイトとアルは小声で現状を確認しあう。言葉通り、初陣よりもソラ達の動きが良く、なんとか勝てそうな勢いであった。
「まあ、まだ2戦目だからね。後は技を使う余裕があればいいんだけどね。」
「ゴブリン相手なら必要ないんだが……な!」
カイトは攻撃していたゴブリンの攻撃を双剣で受け流し、そのままカウンターで仕留める。
「さすがにそんなのゴブリンだけだ……ねっと!」
アルも同じく攻撃を仕掛けてきたゴブリンの攻撃を盾で防いで、ゴブリンを盾で攻撃。のけぞったゴブリンに片手剣でトドメをさした。
「今ので最後か。」
周りを見ると、アルがトドメをさしたゴブリンで最後だったらしく、他の面子が一安心、といった様子で息を吐いていた。ティナも一息ついているので、周囲には魔物は居ないのだろう。
「今度は割と余裕だったな。」
戦闘が終わり、ソラがそう言う。
「今回は遠距離にティナと由利がいたしな。オレたちは牽制さえできれば後は二人が仕留めてくれる。」
「うむ!余裕なのじゃ!」
「まあ、少しは出来るようになったかなー。」
練習では100メートル内なら百発百中の腕となっていた由利も実戦では、矢を作ることも困難となっていた。しかし、二戦目で、しかも親しい仲の面子との連携なので、わりと練習に近い腕前で矢を創れていた。命中率はまだ練習通りとは行かないが。
「そう言いつつお前、一人で5体ぐらい倒してね?」
「……間違い無くMVPだったな。……ん?何だこりゃ?」
そう言ってソラは足元に落ちていたこぶし大の緑色の結晶らしき球状の石を拾った。
「へぇ、ゴブリン・コアか。珍しい……わけでもないね。」
そう言うが、アルは若干興味深げにしている。珍しくは無いが、現物は滅多にお目にかかれる物では無かったのである。
「ゴブリン・コア?」
「うん。魔物が魔素で出来てるのは知ってるよね。」
頷く一同。それを見てアルが説明を続ける。
「実は正確に言うと魔素じゃなくて、負の魔素とも言える魔素で魔物は出来てるんだよ。あ、負の魔素は恨みとか悲しみとか暗い感情に由来する魔素だね。でも、魔物や魔獣はそれだけでは生まれないんだ。」
「そうなの?」
魅衣が初めて聞いた、という様子で聞き返す。隣の由利も頷いていた。
「うん。この負の魔素と一緒にコア、と呼ばれる結晶が必要なんだ。」
ちなみに、コアは負の魔素の塊みたいなものだよ、とユリィが補足する。
「まあ、魔物のどの場所にこのコアがあるのかはわからないけど、通常はこのコアを壊すか、肉体に回復不可能な損害を与えて魔物を討伐するんだ。で、時々だけど、肉体を破壊した時にこのコアが全く損傷していないと、今みたいに魔物が死んで魔素へ還った後にコアが残ることがあるんだ。」
「なんで損傷してると、残らないんだ?」
手に持ったコアを眺め透かしながらソラが尋ねる。
「それはわからないけど、多分形が保てなくなって魔素に戻るからじゃないかな。」
「一応学説だと、魔素は最適な形でのみ固体として自然界に存在できる、っていうのが主流かな。コアを人工的に創り出すこともできてるけど、かなり高濃度の魔力が必要になってくるよ。安定しさえすれば、魔力は必要なくなるんだけどね。」
そう言ってユリィが再度補足説明を行う。
「なあ、もし正の魔素のコアに魔力を貯め続けると、天使とかが生まれんのか?」
ソラがふと思いついた疑問をアルとユリィに尋ねてみる。
「人為的な場合は使い魔だね。姿形は創った人のイメージによって異なってくるよ。」
「自然界だとそういった正の魔素の存在が、私達妖精族や水溶族―スライム系種族の別称―と言われているね。」
スライム族にはコアが透けて見て取れる個体がいたので、恐らく正解なのだろう。
「説明はこんな所かな。で、ソラ。コアを放っておくと魔物に戻るから、壊すか処置してね。」
「うぉわ!さっさと言ってくれよ!」
そう言って慌ててコアを手放す。ソラはそのまま破壊しようとして、ある疑問に気付く。
「ん?処置?」
「ミリアの説明聞いただろ?素材にしたいなら特殊な処置を施す必要がある、って。」
ソラの疑問へはカイトが応えた。
「そういやそんなの言ってたな。」
「処置するなら余に任せるのじゃ!」
そう言ってティナが懐から魔石が嵌められた小さな魔導具を取り出す。カイトの言っていた特殊な処置を施す為の道具であった。
「こいつをこうして……」
「何やってんだ?」
ソラが小声でカイトへと問いかける。ティナは魔導具を使用して何やら魔術を行使していた。
「処置だな。具体的にはコアから負の魔素を取り除いてゴブリンの要素のみを残し、素材として利用可能な状態にしている。革とか骨でも処置は同じ感じだな。魔素を固定化する処置が加わるから、若干時間が掛かる。」
「なんでさっきのゴブリン達にはやらなかったんだ?」
ソラのもっともな疑問である。
「……いると思うか?ゴブリン素材なんて。」
カイトは何を当たり前な、という感じで答える。
「……いらないな。」
ソラもそれもそうか、と納得した。ゴブリンは最下級の魔物だ。それの因子が宿った素材の強さなぞ、説明されるまでもなく、弱そうであった。
「死体に処置するなら最低でも甲殻系の魔物の下級レベル以上らしいな。小鬼族ならオーガ以上でないと使い物にならんらしい。しかも使えるのは牙と生殖器だけだな。コアは、まあ、武器の補強用素材としてなら少しは使い物になる……らしい。」
魔物の中でも最弱の魔物と言われるゴブリンの素材など、コアを除けば蒐集家でもなければ欲しがる者などいないほど使えない素材である。処置するだけ時間の無駄であった。
「……生殖器ってあれだろ?……何に使うんだ?」
大方の想像のついている翔であるが、一応聞いてみる。
「何にって……ナニに決まってるだろ。何時かはそれを手に入れる依頼もあるだろうが……魅衣と由利には内緒な。かなり精神的にキツイ依頼になるだろうからな。」
カイトははぁ、と溜息をつきつつそう答えた。要は男性用精力増強剤の素材であった。ティナはすでに知っていたので、除外された。
「……ああ。」
げんなりした様子のソラと翔の二人も同意して、話はそれで終了となった。
「魅衣、大丈夫か?」
ティナが処置を施している最中、カイトはふと魅衣の様子が気になり様子を窺った。
「……うん。なんとか。」
魅衣はそういうも、まだ身体は少し震えていた。それに気づいたカイトは仕方なく全員に号令を掛けた。
「少し休憩だ。全員まだ2戦目だ。見えない所で疲労が溜まっている可能性もあるからな。アルもそれでいいか?」
「うん。それでいいよ。」
そう確認すると、カイトは簡易用の結界を創り出す魔導具を展開した。展開を確認した所で、全員が座り、休憩を取った。
「ユリィ、そういえば300年前から地理に変化は無いのか?」
マクスウェルから北西の森はカイトも時々訪れていたので、変化がないか疑問になったのである。
「あー、あんまりないね。各地に迷宮が出来ては消えるのも相変わらず。あ、でもマクスウェルから馬車で東に3日ほど行った所にちょっと小さな湖が出来たかな。」
「湖?急にどうしたんだ?隕石でも降ったか?」
「うん。カイトが帰還した後にそこでちょっと強い堕族数体との戦闘があってね。私達と各種族から戦士たちが出陣したんだけど……」
そこまで言ってユリィは苦笑いして若干言いづらそうにする。カイトはそれで理解した。
「おっさんかルクスがやり過ぎた訳か。」
「そういうこと。正確には開発段階だった補助魔術をアウラが使ったんだけど、それが想像以上の効き目で……まあ、ルクスの聖剣での<<武器技>>がとんでも威力になっちゃった。あの時は使ったルクスもバランのおっちゃんもポカーンって顔になってたね。各種族の戦士たちはえ?って感じで、普段はいがみ合ってた種族達がありえない、って笑い合うぐらい。ちなみに、この時の堕族討伐を切っ掛けにして各種族の融和が一層進んだよ。」
「それは、まあ、仕方がないといえば仕方がないか。結果も良しだしな。他に変わったことは?」
「ウチだと、私達が出るような一件はさっきの一回が最後かな。まあ、公爵領外で私達が出陣するような堕族の出現が何回かあったぐらいだね。ここ300年ではクズハと私、アウラで手が足りない時はティア様とかグライア様とかが手伝ってくれてたよ。」
この三人は戦闘系―唯一クズハが攻撃魔術の適正がある程度―ではなく、いまいち攻撃力に欠けていた。そこで密かにティアやグライアが援護に駆けつけていたのである。
「本当に極稀に燈火様が来ることもあったかな。仁龍様は無かった。他の古龍のお方も同様。」
「あの面子に手助けを期待するほうがどうかしてるだろ。」
「だよねー。普通に考えればたかが堕族討伐に古龍が来る方がおかしいんだし。」
「おい、カイト。そろそろ行こうぜ。」
二人がおしゃべりに似た現状報告を行っていると、ソラが話しかけてきた。アルと話していたのだが、暇になってきたらしい。カイトとユリィは話を切り上げ、魅衣の状況を確認する事にした。
「そうするか。魅衣、大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫。」
「もし無理なときは余が援護するから、無理せず言うんじゃぞ?」
「ティナちゃんもありがと。もしもの時はそうさせてもらうね。」
そう言って立ち上がる魅衣。震えは止まっていた。そうして一同は再び森へ向かって出発していった。
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