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第65話 決着

 

 カイトの手に砕けた刀が無いことを疑問に思っていたのは何も、観客や実況の真琴だけでは無かった。

(……一体、武器はどこへ……)

 対戦相手たる一条もその一人である。いや、それどころか、未だ降参していなかったカイトの動きをじっくり見ていたので、勝負が決まった、と湧いて一条に注目していた観客たちよりも、彼の方が混乱は大きかったと言える。

(それに、あいつ武器が壊れたというのに、何故あんなに笑ってられるんだ?)

 普通に考えれば、武器のロスト、イコール敗北に近い。確かに、敗北が決定したわけではないのだが、刀をメインとして使う剣士が刀を失えば、攻防ともに半分以下となったといってもいいだろう。それなのに楽しげに笑みを浮かべるカイトを見て、一条は警戒心を強めた。



『えーっと、どう見ても天音選手は武器を失って攻撃力も防御力も失い、殆ど敗北したようなものだと思うんですが……。まあ、確かに天城選手との試合では体術を併用されていましたが、それで一条選手に勝つことが出来るのでしょうか?』

 どう見ても一条有利の現状でカイトへの勝利を確信しているユリィに真琴が一部を除く観客の声を代弁する。

『だから、武器を失ったって?ほら、失ってないよ?』

 そう言って再び真琴と観客全員がカイトを見るとそこには先ほどと同じく、刀が握られていた。それも砕けた刀身は何事もなかったかのように、危うい輝きを放っている。

『は?……えーと、どういうことなの?……まあ、とりあえず。一体何が起こったのか!?砕け散り天音選手によって破棄されたと思われた天音選手の刀が、再び天音選手の手に握られているー!』

『だから、言ったでしょう?これからだって。』

『えーと、解説のユリィさん?一体何が起こったんですか?』

 再び観客の声を代弁する真琴。その疑問はカイトから目を逸らしていなかった一条も同じであった。

「いきなり刀が現れた……だと……一体どうやったんだ?……まさか!」

 一体どんな手段を使ったのかを考えていた一条は、少ししてカイトの装備に気づいた。

『普通にシュンと同じ方法だよ。よく見てみて。カイトの手に何を装備しているの?』

 そう、一条が気付いたのは、カイトが自身と同じ、投擲武器を使う冒険者用のグローブであった。

『……えーと……あぁ!何と!天音選手の手にも一条選手と同じグローブが嵌められている!まさか天音選手の武器も一条選手と同じ遠距離武器用のグローブを使用していたのかー!』

『つまりは、そういうこと。始めっから武器なんて持ってなかった、ってわけ。』

『なるほど、だから、目に見えているモノだけを信じるな、ということですね。納得しました。ですが、これでようやく両選手ともに切り札が解禁されました!これからは純粋に技量のみを競い合う試合となるでしょう!』



 そんな実況を聞きながら、すでにカイトの秘策を知っていた面子は逆に納得したかの様に、頷いていた。

「あーあ、やっぱりそう勘違いするわよね。」

 魅衣がそう言うのに合わせて由利が少し困ったように頷いた。

「でも、結局それもカイトの策じゃないのー?」

「そりゃ、そうだろうよ。オレだってカイトのあれに負けたんだからよ。」

「お主の場合は誇って良いのじゃ。カイトに秘策を使わせたのじゃから。」

「でも、一条会頭へは使わないんでしょうか?」

「む?いや、恐らく使うことになるじゃろうが……。」

 自分たち以外がカイトの策に嵌っていると評する5人に対し、唯一カイトの秘策を知らない翔が眉を顰めて、訝しんだ。

「……あれが秘策じゃないのか?」

 翔も観客一同と同じく驚愕に包まれていたのだが、ようやく明かされたと思っていたカイトの切り札が違うと断言する一同へと疑問を呈した。

「え?……もういいですよね?」

 問いかけられた桜が他の面子に確認を取る。

「まだいいんじゃね?」

 さっき自分を追い出そうとしたことへの報復にソラがそう言う。

「まあ、翔は自分でみたらいいんじゃない?」

「うん。多分使うことになると思うよー?」

「それでよいじゃろう。それに、他の者も聞いておるからな。ネタバレ厳禁じゃ。」

「あ、あははは……。と、いうことですので……。」

 桜は苦笑しながら断るしかなかった。

「お前ら全員酷いな!」

 そう言う翔を見ながら、周囲で耳をそばだてていた2-A面子も興味深げに聞いていたのだが、ティナにそう言われて素直に試合へと意識を戻した。



「じゃあ、こっちから行くとするかな。」

 そう言って若干性格の抑えがなくなっているカイトは顔に笑みを浮かべたまま一気に間合いを詰めた。

「先輩、あんまり驚いていると、一気に終わらせるぞ!」

 カイトの言葉に若干の違和感を感じつつも、一条はカイトの攻撃へと対処する。しかし、カイトの攻撃は先ほどまでより速度が上がっていた。

「ちっ!まだ速度をあげられるか!」

「何分刀の重さを自分に合う様にしてるんでね!」

 隠すことをやめたカイトの速さは段違いに速くなり、一条は防御に専念することになる。

(なんとか防御は可能だが……攻撃にまわる隙がないな!このままだと、押し負ける!)

 実際の所、一条は表情にこそ出さないが、内心では苦々しく思っていた。そこで、彼は秘中の秘とも言えない、賭けに出るかどうかを考えるのであった。



『ラッシュ!ラッシュ!ラァーッシュ!天音選手は遂に奥の手を解禁したかと思うと、一気に速度を上げて一条選手へと猛攻を仕掛けた!対する一条選手の顔には笑みが消えているー!』

『さすがに刀の重さを自分が振りやすい様に変更したら、速度も速くなるよね。今までは気付かれないように違和感のない重さで創り出していたみたいだし。』

『なるほど。今まではあえてバレないように重さを変えていたんですね。さて、一条選手にここからの逆転は可能なのかー!』



(……ちぃ、あれを使うしかないか。使ったことも無いんだが……。だが、魔力が意思の力ならば、出来る、と思えば出来るはずだ。イメージなら頭に焼き付いている。後は……やってみるだけ、だな。)

 そう考えた一条は思い切って秘策でさえ無い、賭けとも言えない賭けに出ることにした。しかし、その手段を使うためには、今のままでは使おうとした瞬間にカイトの攻撃を食らうことは確実であった。そこで、一条は今まででこの戦闘で最も大声で吼えた。

「うぉおお!」

 大声を上げて横薙ぎに槍を振るう一条。カイトはそれをバックステップで回避し、それに少し遅れて一条も下がれるだけ後ろへ下がった。下がると同時に一条は槍を再び投槍に変化させる。

(……何をする気だ?投槍はもう防御しない。もし、ただの投槍なら、その瞬間に近づいて一気に終わらせる。)

 カイトは大きく間合いを取った一条の行動を訝しみながらも近づくことはない。先ほどと同じ投擲なら、もはや見るに値しない。しかし、万が一、があるため、出方を見ているのだ。しかし、時間もいい具合なので、ここらで終わらせる事に決める。そうして、一条は大きく息を吸い込んで大声を上げた。

「行け、<<(つばめ)>>!」

 大声を上げるのと同時に一条は再び投槍を投擲。その速さは初速が遂に音速を突破し、ソニックウェーブを発生させる。地球で得た槍投げの技術に、エネフィアで得た戦闘技術、未だ忘れられぬ目標へと自らを少しでも届かせたいという渇望。今の一条が持ちえる全てをつぎ込んだ会心の一撃であった。

 さすがにカイトもこれには驚愕を隠せなかった。それほどまで、彼の力量は初心者のそれを上回っていた。

(速い!)

 カイトは避けようと思っていたが、即座に左手に盾を創り出す。避けようにも、自身で設けた規定を上回っていた。それに、音速を上回る速度の攻撃は、初心者冒険者が避けるにはいささか、困難でもあった。ただし、まともに受ける事も出来ない。まともに直撃すれば、此方も初心者が防御してもし切れる威力でも無かった。そこで、カイトが考えたのは受け流す事だ。力を受け止めず、力を逸らして受け流す。若干高等技術ではあるが、避けるも防ぐも不可能な以上、仕方がなかった。そして、カイトは左手の盾の曲面を利用して一条の槍を受け流した。

(ちぃ!だが、まだだ!)

 乾坤一擲。ありったけの力を振り絞り、もはや立っているのがやっとの一条。言葉を発する余裕も無かった。しかし、彼は若干朦朧とする意識で、自身が思い描く(スキル)に集中する。カイトはその様子を見て油断なく構えるが、次の瞬間悪寒と気配を感じ、左へ少しだけずれた。




『今までの中で最速の槍が放たれたー!初めて見ますがあれはソニックウェーブだったのでしょうか!』

『音速は超えてたみたいだね。』

『本当ですか!しかーし!天音選手は盾で受流し……って、え!盾?どこから!刀は!?』

『まあ、それは後で説明するとして。決着がつきそうだよ。』



「こいつだ!」

 そうして、カイトは自分の第六感に従い、右手を先ほどまで自分がいた位置へと伸ばして、後ろから迫った槍を掴み取る。それと同時に、一条が創った槍をそのまま自分の物として乗っ取る。その行動に、一条が目を見開いて驚いた。

「終わりだ!」

 即座に一条へ詰め寄り、槍を前へと突き出す。一条はそれに気付くも、もはや立っているのがやっとなのだ。避けることも、防ぐことも出来なかった。そうして、突き出された槍を見て、一条は何を言うべきなのか、理解する。

「……参った。俺の負けだ。」

 と言って、一条が負けを認めた事によって結着がついた。

『勝負あり!一条選手、敗北を認めました!優勝は2年A組 天音 カイト選手だー!それにしても素晴らしい決着でしたね。』

『シュンの投槍は音速を超えていたけど、なんとかカイトは盾で受け流した。その後も油断無く魔力で追跡していたカイトは帰ってきた槍を掴んでそのままシュンへと肉薄。投槍に全魔力を費やしたシュンは避けることも防ぐこともできなくなった上にあそこまで近づかれたら避けようもない。チェックメイトだった。』



「にしても……カイト……いったい……どこから盾を出したんだ?」

 大の字になり肩で息しながら盾の出処を聞く一条。自分の最後の切り札を回避したカイトの一手について気にしたのは当然であった。

「まあ、こういうわけだ。」

 一条の質問に答えるため、カイトは左手に装着していた盾を消失し、今度は槍を創り出す。

「な!?俺でさえ槍と投槍が精一杯だぞ!」

 一条が投槍用の槍と普通の槍を創り出せるのさえ、かなり才能に依存しているとリィルやアル、他の隊員に言われていた。しかし、その一条でさえ、使い慣れた投槍はともかくとして、普通の槍を創り出せるようになるのに、この二週間の多くの時間を費やしている。それ故の疑問であった。

「まあ、ユリィの話だと、オレにはこの適性が人並み以上にあったらしい。先輩の槍を乗っ取れたのも、その適正の問題だ。まあ、あれは乗っ取る、というより、自分の創った槍を上書きした様な感じなんだが。」

「俺でさえ、公爵軍でも稀有な才能、と言われたんだが……。」

 と言うより、この分野において、カイトクラスの才能を有していたのは歴史上両手の指で数えられる程度しか確認されていない。一条クラスでもかなり珍しかった。

 とはいえ、カイトが魔力以外に有していた数少ない才能である。そのかわり一条の様に槍と投槍にずば抜けた適正が無く、同じ魔力量や戦闘技量であったなら、一条に分がある。他にも、例えばソラと比べれば盾の扱いは負けるだろう。実はカイトはその不利を更に別の力で強引に補っているが、それを除けば、恐らく適正だけを見れば、学生たちの中でも下位グループに属していた。

「その代わり先輩に比べて槍術と投槍術の適正は無い。釣り合いはとれているといえば、とれているんだろう。」

「……そうか。」

 釈然としないものを感じながら、一条はとりあえず納得することにした。彼も純粋に競技としての槍投げであれば、今も誰にも負けるとは思っていない。そういった割り振りなのだろう、と納得したのである。




『まあ、そういうことだから。この大会で生徒達は全員あれが無理なのはわかってるでしょ?』

 同じようにカイトの秘策を説明していたユリィに聞かれて、選手たちは各所で納得している。誰もが、一度は試してみたのだ。そして、無理だ、と理解した。

『そうなんですか?天音選手はかなり簡単にやっていると思うんですが。』

 真琴は冒険者としての訓練を受けていないので、どれだけ難しいのか、わからなかった。選手以外の学生にしても同様である。

『うーん。適正があればシュンみたいに自分が使っているのと同じ系統の武器ぐらいなら出来るだろうね。でも、それ以外だと、どこかしらの不具合が出て、使い物にならないんだよ。例えば重かったり軽かったり、脆かったり曲がってたりして武器としては到底使い物にならないんだよ。』

『つまり、天音選手は……。』

『その適正がずば抜けてる、ってこと。言ったでしょ?目に見えるものだけを信じるなって。そもそもの刀使いってのが間違い。カイトは表すなら<<武器使い(ウェポン・マスター)>>。カイトの場合、超一流までは行けないだろうけど、一流までなら行けるんじゃないかな。その代わり、適正のないシュンやソラ、桜、瑞樹だと超一流にまで辿り着くだろうね。どっちがいいのかの判断はここでは避けるよ。』

 ちなみに、<<武器使い(ウェポン・マスター)>>は300年前に付けられたカイトの二つ名の一つである。

『とりあえず他人には真似が出来ない、ということは理解できました。』

『まあ、一回やってみるといいよ。誰もが通る道で、誰もが諦める道だもん。まかり間違ってカイトみたいに適正があるかもしれないしね。』

 ユリィはそう言うが、実は内心では誰も出来ない、と考えていた。事実、カイト達第一陣の後に続いた第二期募集の冒険者志望の生徒達も、試して誰もが諦める事になる。

『はぁ。まあ、とりあえず第一回天桜学園トーナメント、栄えある第一回の優勝者は!』

『2年A組天音 カイト選手でしたー!』

 そう言って二人が拍手するのに合わせてカイトと一条へ選手、観客一同から拍手と歓声が上った。そうして、第一回天桜学園トーナメントは終了したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・誤字修正

『カイトの策にに嵌っている』となっていた所から『に』を一つ削除しました。

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