第64話 決勝戦
そして一時間後。グラウンドには多くの観客が集まっていた。遂に決勝戦が行われるからだ。
『さて、皆さんお待ちかねの決勝戦!遂にこの時がやって参りました!もはや長ったらしいお話は不要!変更点のみお伝えします!違うのはただ一つ!試合はこのグラウンドの全試合場の仕切りを撤去し、舞台の広さを広げました!つまり!今までの試合会場全てを合わせた広さで戦闘可能となった!ただそれだけです!では、一気に選手紹介へと参りましょう!まずはこの人!天音 カイト選手!今大会最大の台風の目!誰もがここまで勝ち残るとは思っていなかった。しかーし、蓋を開ければ初戦で優勝候補のボクシング部部長、準決勝で今大会最硬の天城選手を打ち破るなど、攻撃力、回避力ともに今大会トップクラスの実力を兼ね備えている!しかも!先ほどの天城選手との戦いでは謎の手段を用いてその防御を打ち破るなど、まだまだ隠し手を持っている模様!』
そこまで実況が言った所でカイトへと声援が贈られる。主にイケメン一条憎しな男子生徒が多かった。
『隠し手が見れる事を皆が期待しているから、早く見せてくれる事を楽しみにしているよ!』
『はい!一体どんな驚きを見せてくれるのか、非常に楽しみです!では、お次はこの人!一条 瞬選手!今大会優勝候補筆頭!この人が来ることだけは全員が予想しておりました!準決勝まではとんでもない速さで全戦ワンパン!相手には一切の攻撃をさせないという完封勝利!途中神宮寺選手で苦戦するも技を使うや一撃K.O.!試合後に余裕の表情を浮かべていたことから、あれでも手加減していたことは明白です!』
今度は一条ファンと見られる女子生徒から声援が贈られる。二人共声援が贈られても一切スルーし、相手しか見ていなかった。
『技を使い始めたシュンがこれからどんな試合運びを見せてくれるのかに期待だね!』
「天音がここまで残るとはな。俺はてっきりソラが来ると思っていたぞ。」
ソラの師と一条の師が親しいので、弟子同士での交流も盛んにあった。それ故、一条は訓練の途中からソラやアルら歳のあまり変わらない者を名前で呼んでいたのである。
「まあ、色々と組み合わせの問題もあるでしょう。」
「嘘を吐くな。俺からみてもお前の動作はどれも無駄が無かった。立ち聞きして悪いが、アルもリィルも同じ考えだったな。神宮寺との試合で思ったのだが、お前も相手の攻撃を見切っているんだろう?」
「……まあ、少しは。」
嫌な会話を聞かれていたものだ、カイトはそう思い、肯定する。できれば魔力の流れが読めることは隠しておきたかった。
「まあいい。どこまでやれるかと天音の秘策は試合で見せてもらうとしよう。」
そう言って一条は試合開始に備えて構えを作る。今までの試合と同じく一気に間合いを詰めるつもりであった。
「ああ、先輩。オレもカイトでいいですよ。折角決勝で戦うんですから、遠慮は無用です。」
そう言ってカイトも笑みを浮かべて、試合開始に備えて刀を抜く。
「なら、カイトもその丁寧な口調をやめろ。」
「……ああ、そうさせてもらう。」
カイトは若干悩むが、一条が名前で呼んだので、交換条件として受け入れることにした。
「開幕で負けてくれるなよ?」
「先輩こそ、一撃で負ける、などと無いようにお願いしますよ。」
お互いに準決勝を除いて一撃で相手を倒していたので、笑みを浮かべながら挑発しあう。
『両選手用意が整ったようです!では、名残惜しいですが……第一回天桜学園トーナメント決勝戦!ファイ!』
そうして試合が開始され、先手を取ったのは一条であった。
「はっ!」
今までと同じく一気に一条は間合いを詰めて突きを繰り出す。彼は様子見など一切不要、と言わんばかりに全ての試合で速攻を仕掛けていた。それ故、カイトにもこの攻撃は予想できており、対処も簡単であった。カイトはそれを避けず、刀を用いて槍を弾き飛ばし、返す刀で迎撃する。
「遅い!」
そのままカイトは返す刀で反撃を繰り出す。一条はそれを後ろへ下がって回避。一旦刀の間合いから出れたので、そのまま<<睦月>>を繰り出す。
「甘い。」
しかしカイトは一条の<<睦月>>が発動されるときにはすでにおらず、一条の後ろに回りこんでいた。そして繰り出されるカイトの攻撃を一条は突きの勢いそのままに前に出て回避。即座に反転し、再度間合いを詰めて攻撃する。
「この程度避けてもらわんと困る!」
「そうですか……ならオレももっと速度を上げさせてもらいます!」
そう言うやカイトは更に速度を上げて回避し、反撃する。二人共、回避しながら攻撃を繰り返すので、開始地点からかなりの距離を移動していた。
『今までの試合に無い展開!両者共に試合場を所狭しと駆け抜けていく!まさに決勝に相応しい!』
『二人共まだ顔に笑みが浮かんでいるから、様子見しているね。』
『今大会最速と目される一条選手に負けず劣らず、天音選手もかなり速いですね。』
『まあ、シュンは直線速度、カイトは全体的な速度に優れる、という差はあるけどね。』
『あれ?……おおっと!どうやら先ほどから動きを止めて一箇所で攻撃の応酬を行っている様子です!』
「この程度か!?」
槍での連撃を繰り返しながら、カイトへ問いかける一条。しかし、内心では若干の焦りがあった。
(ちっ!速さだけなら俺より上か!)
現に一条の突きの連撃はカイトの刀に全て防がれていた。とは言え、カイトも同じような状況であった。
「そう言う先輩も攻撃にキレが無いようだが?」
カイトの攻撃も全て槍の防御で防がれていたのだ。さて、どうするか、と考えたカイトはとりあえず間合いを離すために大振りに横薙ぎ。予想通り、一条はそれをバックステップで大きく下がり回避する。
(双剣に切り替えれば簡単に手数で上回れるが……切り札にはまだ早いか。もう少し先輩の技量は確認しておきたいな。)
そもそも使用する魔力をもう少しでも上げれば一条を上回る戦闘能力を得れるが、カイトにそこまでして勝つ気は無かった。それに、桜を上回る才能を見せた瑞樹を打ち破った一条の戦闘能力にも興味を引かれていたので、なるべく長く戦うつもりであった。
「<<瞬突>>!」
考え込んでいたカイトへ<<瞬突>>を使用した一条が一気に間合いを詰めて襲いかかる。カイトは一旦思考を中断し、回避する。
「ちっ!この速さでも避けるか!」
自分の持つ技の中で最速の技を使用した一条だが、カイトに避けられてしまい、舌打ちする。音速を超えない速度ではあったが、それでも魔力の手助け無しで人間が出せる速度ではなかった。そうして、間合いが近づいたことで再び攻撃の応酬が再開される。
「さすがにカイトは余裕で避けていくね。」
「まあ、カイトさんと同じ戦闘能力を期待するほうがどうかしてますからね。」
自分たちが総掛かりになった所で敗北してしまうのであるのだから、当然だ。
「だが、一条はなかなかにやるようだ。もし、学生でなく、公爵家の人間ならば我々と肩を並べることがあったかもしれんな。」
「それは準決勝に残った全員に言えることですね。ほかにも桜や由利……でしたっけ、などがかなり優秀ですね。」
「言っても始まらないことだね。」
「ええ。」
三人は再び一条がどこまでカイトに食い下がれるのか、興味深げに観察するのであった。
「……千日手か?」
今のカイトの攻撃速度では一条の防御速度に追いつけても追い越すことは出来ない。一方の一条もそれに気付いて焦れていた。
「ちぃ!速い上に防御も的確か!埒が明かん!」
一条は魔力、スタミナ残量共にまだ余裕があるが、一向に進展しない戦闘に少し苛立っている。カイトはこの程度では動じない。二人を分けているのは、実戦経験値の差であった。
(仕方がない。双剣か短剣あたりをそろそろ使うか?鉄甲でもいいんだが……単なる殴る蹴るは苦手だな。)
カイトはそう考えて準備を始めようとするが、そこで一旦一条が一気にバックステップで後ろへ飛び下がった。カイトはそれを追わずに様子を見ることにする。一条が何を始めるかに興味があったのだ。
「こいつまで使うことになるとは思ってなかった。あとでリィルから説教を食らうな……。」
カイトの実力を知るリィルは、良くここまで食い下がったと褒めそうなものだが―実際には何も言わなかったが―、一条は少し不満げだ。自分まで切り札を使用させられるとは思ってなかったのである。一条は魔力で作った槍を変化させて競技用の投槍に酷似させた槍を作り出した。そして慣れ親しんだ投槍の構えを作り、息を整える。
「行けぇ!」
一条は吼えるや否や、大きく振りかぶって槍を投擲。放たれた槍はカイトへと一直線に向かっていく。興味深げに見ていたカイトはそれを即座に避けようとして、少し考えてあえて防御を選択する。
(これは!……なかなかに良い威力だな。しかし……。)
一条の切り札の威力を見極めようとあえて防御したカイト。防御には成功したのだが、代償もあった。
「俺の勝ちだな、カイト。」
カイトの様子を見て一条は勝利を確信し、笑みを浮かべる。そして一条は王手を掛けるべく、今度は投槍ではない普通の槍を再び創りだした。
『さすがは日本高校陸上界にこの男ありとまで言われた一条選手!投槍ではなく槍を主装備としてきた今大会では何を考えているのか疑問でしたが、遂に投槍を解禁!よく見ればその手には投擲武器者用のグローブが嵌められている!槍を常に持っていたことから普通の槍だと思っていたのですが、どうやら全員揃って騙されていたようだー!』
『どうにも投槍を切り札として活用するつもりだったみたいだね。あそこまで持たせられる様になるのに、どれだけ鍛錬を積んだんだろう。』
『それは一体どういうことですか?』
『まあ、私達には常識なんだけど、普通投擲用の武器で近距離用の武器を創って戦うのってかなり難しいんだよね。まず第一に魔力が保たない、ってのが最大の理由なんだけど……。シュンは適正があったんだろうね。槍と投槍を変化させて使い分けたんだろうね。』
『それは……凄い才能ですね。我々が騙されるのも無理は無い、ということですか。だが、どうやら騙されてたのは天音選手も同じらしく、刀で防御!更に!天音選手の刀は砕けてしまった!これは、遂に勝負あったかー!』
『勝負あり?何いってんの?これからだよ?』
『はい?』
ユリィの言葉に思わずきょとんとなる観客一同と実況の真琴。よく見ればカイトの顔には笑みが浮かび、いつの間にか手に持っていた砕けた刀はどこかへいっていたのである。
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