第63話 準決勝―瞬対瑞樹―
活動報告に上げましたが、念のため此方でも簡単に。
ゴールデンウィークの開始に合わせ(4/29~)、カイトとソラの出会いのお話を上げていきます。
ブックマーク登録数が50、総ポイント数が100を超えた事に対する感謝の為、少し長いお話です。連日上げていきます。
詳細が決まり次第、再度ご連絡します。
『さて続いて第二試合!では、早速選手紹介に参りましょう!まずはこの人!今まで開幕速攻の一撃必殺!回避不能の槍で相手選手を全て貫いてきた!誰かこいつを止めてくれ!優勝候補筆頭 3年B組 一条 瞬選手!』
選手紹介に合わせて女子生徒から大きな歓声が上がる。それを気にせず一条は瞑想に耽っている。
『師匠譲りの槍の速さと貫通力は侮れない!気をつけないと一切見せ場がなくなるよ!』
『はい!私達も一条選手の試合では実況をさせて頂けなくて困っています!ではお次はこの人!優雅に、そして可憐に相手の攻撃を全て避けていく!彼女に攻撃を当てられる存在は現れるのか!同じく優勝候補 2年C組 神宮寺 瑞樹選手!』
こちらはファンクラブ会員の男子生徒が歓声を上げる。瑞樹は歓声に一礼で応える。
『トゥーハンドソードの破壊力は侮れない!必中必壊の一撃が相手を襲う!』
『では、あまり話していても始まらないので、準決勝第二試合!ファイ!』
「俺らの解説よりまともなんだが……。あと、観客も。」
「……諦めろ。」
カイトとソラの二人は自分たちの時とは違いそれなりに真面目な実況解説に肩を落とす。諦めが肝心であった。
開幕早々に攻撃を仕掛けたのは、これまでの試合と同じく一条。一気に間合いを詰めて、即座に突きを繰り出す。しかし、ここで初めて回避される。回避した瑞樹は即座に反撃した。
『遂に一条選手の開幕速攻勝利の伝説が崩れたー!私も実況出来て非常に満足です!』
『ここまで来ると、相手選手の実力もかなり高くなってくるからね。これから楽しくなってくるよ!』
一条は即座に一歩分だけバックステップで後ろに下がり、トゥーハンドソードの間合いから離れ、その位置から突き攻撃を連続する。だが、魔力の流れを読んでいる瑞樹は当然の様に避けていく。
それを観客席の比較的良い場所から見ているのはリィルとアルの二人。ルキウスも横にいるが、二人の会話に興味を示していなかった。
「さすがの瞬も、攻撃が読まれていては回避されますか。」
「瞬に魔力の流れを教えておけば良かったと思ってる?」
「いいえ。今覚えることも出来たでしょうが、基本をマスターするほうが先でしょう。」
「できてる彼女達二人がおかしいからね。」
二人は桜と瑞樹の担当では無かった為、彼女らが基本となる武芸をマスターしている事を知らなかった。それ故、基本が出来ている二人を訝しんだのである。
「カイトさんは何を考えて教えたんでしょうね。」
「さあ。」
実際にはカイトがあまりに簡単に攻撃を避けるので、桜が戦闘のコツを尋ねた際にさわりを教えただけである。その後は桜が持ち前の才能と努力で獲得しただけであった。瑞樹は才覚が高かったが故と、偶然だ。それを更に努力によって補ったのは彼女の鍛錬の賜物である。
「でも、神宮寺って女の子は独力で習得したらしいね。」
「そうらしいですね。将来性なら、瞬よりも上なのかもしれません。」
「でも、今の実力なら、一条さんのほうが上だよね。」
「どうでしょう。攻撃面なら上かもしれませんが、当てられないことには。」
「そこの所、師としてはどう対処すると思う?」
アルが興味深げにリィルに聞いてくる。
「さて、それはこれから見せていただくことにしましょう。」
そうして二人は再び試合に集中することにした。
「避けたのは私が初めてらしいですわね!次はこのまま攻撃を当てさせていただきますわ!」
一条の攻撃に身体が慣れてきたのか、一条の連撃を避けて隙を見ては反撃を開始する瑞樹。
「さすがに一条先輩相手に手加減なぞできませんわ!いきなり使わせて頂きます!」
そうして瑞樹が繰り出したのは<<斬波>>。ただし、一撃で無く、何発も連発していく。
「さすがにこれだけ連発できるのは私以外にいませんからね!存分に味わってくださいませ!」
そうして繰り出されていく<<斬波>>を身体能力のみで躱していく一条。ここへ来て、初めて防戦に回ることになった。
「魔力の流れ、とやらを読んでいるわけではないようですが……これも避けられますか。さすがですわ。」
現に、一条は全て見てから回避していた。全てを避けられているのは、一条の類まれなる身体能力故である。
「ですが、私の<<技>>がこれだけだと思って頂いては困りますわ!」
そう言って瑞樹は魔力を剣に貯めて自分の周囲へと斬撃を繰り出す。
「<<残響>>!」
そう言って瑞樹が発動させた<<技>>は瑞樹の斬撃に沿うように太めの魔力の光を残していく。最終的には瑞樹の周囲を何条もの魔力で出来た輪が滞空する。
「何だ……いや、この隙を逃すか!」
それを一瞬気にした一条だが、攻撃を再開するべく、技の発動を警戒して少しだけ離した間合いを、少しだけ縮めた。そうして、取った間合いは自分だけが攻撃出来る間合い。近づくのは危険、と本能で察したのだ。しかし、突き出した槍が魔力の光に当たった瞬間、攻撃が弾かれる。
「近づきませんでしたか。残念ですわ。当たればダメージを与えられましたのに。」
瑞樹の使用した<<残響>>は、本来このまま魔力で出来た刃として操作可能な技なのだ。しかし、今の瑞樹ではそこまで繊細な技術は不可能であったので、防御技として使用して応用したのだ。動かさず、自分の周囲を滞空させるだけならば、そこまで難易度は高く無い。自分の動きに合わせて隙間を作らなければならないが、それでも、自由に動かすよりは楽である。
そうして、一条は魔力で出来た輪の隙間を通す様に攻撃を繰りだそうとするが、瑞樹も回避するのでなかなか当たらない。おまけに、魔力の光にあたり弾かれた隙を突かれ、反撃を食らいそうになる。
『一条選手が苦戦しているー!今まで一度も相手に攻撃させなかった一条選手が遂に相手に攻撃されたどころか、防戦に追い込まれている!』
『シュンは初手で決められなかった上に攻撃が見切られているね。対して瑞樹も攻撃をシュンに全て身体能力のみで避けられてる。シュンはさすがだね。』
その解説に女子生徒から黄色い歓声が上がる。
『でも、このままだと、瑞樹の勝ちになるかな。』
『そうですか?私としてはこのままでは神宮寺選手が魔力切れになる方が早そうなのですが。』
『瑞樹はいままで桜戦以外で魔力を殆ど消費していないからね。多分、あの技だけなら、後一時間は持つよ。』
『ですが、一条選手も魔力を消費していないのでは?』
『そうだね。でも、最低限の動きで回避している瑞樹に対して、シュンはどうしても動きに若干の無駄が出ている。おまけにあの光でシュンの攻撃を弾けるから、瑞樹は殆ど動く必要もない。攻撃に集中できる。対してシュンは僅かな隙間に槍を通す必要があるから、かなり集中力を要することになる。このままなら先にシュンの体力が持たなくなる可能性は高いね。』
『なるほど。これは一条選手がどのような攻略を見せてくれるのか、期待ですね。』
『うん。そうだね。それに、シュンはまだ技をひとつも見せていないからそれも見どころだね。』
(やはり、まだ届かんか……。)
そう考えて思い出すのはかつて見た謎の人物とアルの戦い。
(恐らくアルならば防御ごと打ち砕けるだろう。あの黒い奴にしてもアルの話が確かなら、悠々とこれぐらいの隙間はくぐり抜けて見せるのだろうな。)
まだまだ修行が足りん、心中でそう考えながらも試合に集中する。
「……このぐらいの戦いで苦戦しているようでは、先が思いやられるな。」
一旦間合いを離して呟く一条の顔には少し笑みが浮かんでいる。
(まずは、技なしでどこまでやれるか試してみよう、そう考えてここまでやって来たが……ここまでか。)
これまでの戦闘では、技無しでどこまでやれるかの一種、地球人としての意地のような戦闘を行っていた。それでも一撃で仕留めているので問題なかったのだが、学園トップクラスの実力者を相手にして、その拘りを捨てることにした。一条は拘りは拘りであって、勝つ事が重要だとわかっていた。まずはとりあえず間合いを詰めて、先ほどと同じく単なる突きを繰り返す。
「また突きを繰り返すだけですの?しつこい男性は嫌われますわよ?」
「あいにく今はそんなことに興味無くてな。」
「あら、先輩、初めて答えてくださいましたわね。」
「悪いがこの後に決勝が控えているんでな。それに……」
そう言って言葉を区切る一条。瑞樹は次の言葉を待つ。
「このままではいつまで経ってもあいつらに追いつけん。拘りはなくさせてもらう。」
あいつら、という言葉を疑問に思う瑞樹だが、頭を振って一旦はその疑問を振り払う。
「まあ。この防御と私の回避をくぐり抜けて当てられますの?それに、私も反撃させていただきますわよ?」
そう言って瑞樹は再び油断なく攻撃の姿勢を取る。
「それは見てからのお楽しみだ。<<睦月>>!」
そう言って一条は穂先に魔力を貯めて、槍で突きを繰り出す。瑞樹はそれを魔力の流れを見て避けようとして、不可能を知る。
(6箇所同時攻撃!コレは避けられませんわね!)
そう判断するやいなや、即座に魔力の光の位置を調整し半分を弾ける様にする。さらに身体をずらして2本を回避し、最後の一本は剣で弾く。
「やりましたわ!」
そう言った次の瞬間、瑞樹は衝撃を受ける。実は<<睦月>>は最後の一本だけ遅延攻撃となるので、弾いた、と思って安心していた所に直撃を受けたのであった。
「攻撃が読めていることはなんとなく理解していた。だが、順番までは読みきれなかったようだな。」
実際には魔力の強弱などで判断可能であるのだが、今の瑞樹や桜にそこまでの実力が無かった。
「いっつぅー……参りましたわ。先輩の勝ちですわ。」
その言葉に合わせて司会の二人の声が響いた。
『勝者、一条選手!準決勝第二試合の勝者は一条選手だー!途中防戦一方に追い込まれた時はどうなるか、と思いましたが、結果は順当に一条選手の勝利に終わりました!』
『魔力の流れを読んで、見切ったと思って最後の一突を油断してしまった瑞樹のミスだね。』
『これで決勝の二人が出揃いました!決勝戦は一時間後の15時ごろから開始されます!決勝の場所はグラウンドです!では、天音選手対一条選手の試合をお楽しみに!』
「次は決勝か。」
ただ前だけを見据えてそう言う一条。瑞樹はなんとか立ち上がり激励の言葉を贈った。
「では、頑張ってくださいませ。」
一礼して会場を後にして、準備していたスタッフに連れられて行った。そうして、一条も深呼吸をして呼吸を整え、会場を後にしたのであった。
「意外じゃないけど、それなりに苦戦したみたいだね。」
「みたいですね。」
さっきの試合を思い出しつつ、これからの訓練計画を練り直すリィル。かなり見直すべき点を発見し、眉をしかめていた。
「あれほど出し惜しみするな、といったのですが……。」
「まあ、地球には魔術も技も無かったから、無しでやってみたかったんだろうね。」
「だから、それを何度もやめろ、といったんですが……。」
「あはは……」
始めから一条が技を使わなかった理由を把握していたリィルは呆れ顔でそう言う。
「だが、カイト殿との戦いではそんな拘りを見せれば即座に負けるだろうな。」
ここでようやく、ルキウスが会話に参加する。どうやら今の戦闘と会話で、思う所があったのだろう。
「とはいえ、使い所を考えなければ技を出した隙を突かれて敗れるわけですが……。」
「実戦経験値が違いすぎるからね……。」
「我々を全部足しても足りないでしょうね。」
「まあ、そこら辺も含めて見ものだな。」
そうして三人は一旦陣営へと戻っていった。後残るは一戦。どんな戦いとなるのか、彼らもまた、楽しみなのであった。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年6月2日 追記
・誤表記修正
ユリィの台詞の中で『一条』となっていた部分について、『シュン』に修正しました。
ユリィの台詞の中で瑞樹と一条の攻撃の読み合いの中で『避けている』となっていた部分を『避けられてる』と修正。
2016年10月5日 追記
・表記修正
『先に基本をマスターする方が先でしょう』となっていた所のはじめの方の『先に』を削除しました。