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第62話 準決勝―カイト対ソラ―

『さあ!皆さんお腹いっぱいになりましたか!午後に入って残るは準決勝と決勝のみ!これから先は何が起こるかわかりません!』

『誰が勝利してもおかしくない面子が揃ったね!』

『では、準決勝戦、第一試合は天音選手対天城選手!情報によれば二人は親友とのこと!とある筋からの情報では、腐女子なお姉様方のネタとして鉄板の二人らしいですね!』



 それを聞いた瞬間、カイトとソラはげんなりした。カイトはすぐさま桜を見ると、横の楓と共に何故か頷いていた。逆の由利と魅衣は気づいていないようである。

(あの二人は……。)

 知られざる生徒会会長と副会長の素顔を垣間見たカイト。試合に集中することによって忘れることにした。現実逃避とも言う。

「なあ、カイト。俺らってそんな風に見られてんのか……」

「知らん。」

 二人してため息を吐く。何故試合直前に疲れなければならないのかわからなかった。



『腐女子ってなにー?』

『おっと、申し訳ありません。ユリィさんにはまだ早いお話のようです。』

『早いって……私、真琴よりはるかに歳上なんだけど!』

『え!そうなの!』

『素が出てる。素が出てる。』

『おっと、ついあまりの出来事に……。では、驚きの事実も発覚した所で、選手紹介!本大会前まで全く注目されていなかった無名の選手!我が報道部でも一切注目していなかったのは誤算でした!だがしかし!蓋を開けてみれば本大会最強選手の一角!お陰で舞い散った食券の数は数知れず、ギャンブラーとファンクラブ会員泣かせなこの男!2年A組 天音 カイト選手!』

「悪かったな。」

 その言葉に合わせてカイトが倒した選手に賭けていた生徒とファンクラブ会員からブーイング巻き起こる。

『使用する武器は刀!今まで一回も鞘から抜いていないという手抜きっぷり!』

『ええ、全くです。対する選手はコレまた2年A組!何ら部活をやっていないにもかかわらず、その運動能力は部活生顔負け!今大会においてはその圧倒的な防御力を盾に、ありとあらゆる攻撃を防ぎ続けた最硬の鉄壁!今大会の注目選手として目されていた一人だが、ここまで残るとは誰も予想していなかった!野性的な顔と子供っぽい言動で多くの女性を虜にしたのはこの男!2年A組 天城 空選手!』

『使用する武器は片手剣と盾!今までの休日に一人で練習していたのは実は皆が知っている!』

『ええ!皆さん知っています!』

「なにぃ!隠れてやってたのに!」

 その言葉に多くの笑いが起こる。カイトも笑みを浮かべながらソラに告げる。

「気付かれていないとでも思っていたのか?」

「うるせ。」

「まあ、安心しろ。多くの奴が邪魔しないようにそのまま去って行ってくれたようだぞ。」

「……どう言えばいいのかわかんねぇ。」

 邪魔をしないように、と気を使ってくれたともとれるし、さっきの笑いと言い方から隠れて後で笑いものにしようとしたとも取れたのである。

『コレ以降の試合は試合数が少なくなりますので試合時間無制限になります!また、舞台の広さも今までの倍です!』

『スタミナ切れに気をつけて、おもいっきり戦ってね!』

『では、皆さんお待ちかねの準決勝第一試合!ファイ!』

 そう言って開始された第一試合だが、二人は一向に動く気配がない。

『えーと、お二人共、始まってますよー。』

 尚、試合開始後には選手の邪魔にならないように試合会場内への放送は中断される筈なので、このセリフは聞こえていない。

『知ってると思うよ。ただ二人共カウンタータイプだから、お互いに様子みてるんじゃないかな。』

『なるほど。でも、これじゃあ、絵的に面白く無いですね。』

『しょうがないでしょ。ソラは攻撃が大振りだから避けられてカウンターを食らうし、カイトが攻撃するの待つしかないもの。逆にカイトは攻撃すれば、防がれる可能性があるからね。』



(まあ、そうなるよな。)

 そう考えるカイト。ソラはカイトのカウンターを警戒して防御態勢を解こうとしない。

(しょうがない。行くか。)

 次の瞬間、カイトはトーナメントで初めて刀を抜く。そしてそのまま刀を横に構える。

「……参る。」

 深呼吸をして、そう呟いたカイトは一気にソラとの間合いを詰めて横薙ぎになぎ払う。試しに放った攻撃だが、速度は今までの試合の速度より、若干速かった。しかし、ソラに余裕で防がれる。

「この程度は余裕だな。」

 そう言うソラは、確かに余裕そうであった。カウンターに攻撃を繰り出すかとおもいきや、防御の姿勢は崩さない。

「だろうな。では、コレでどうだ?」

 カイトはそう言うと今度は連続で斬撃を繰り出していく。速度は―本人にとっては―かなり遅い。それを全て手に持った剣と盾を使って防ぎきるソラ。そうして、二人の間から剣戟の音が絶えることなく続いていく。




『おおっと!ここで遂に天音選手が刀を抜いて、自ら攻撃を仕掛けた!しかーし!初めて天音選手の攻撃を防ぐ者が現れた!その後も続く攻撃を余裕で防いでいく天城選手だ!お互い顔には余裕の笑みが浮かんでいるが、この程度、二人にとってはまだ序の口なのかー!にしても、魔力の訓練を積んでいない私には何が起こっているのか、イマイチわかりません!』

『ただカイトが連撃しているのをソラが防いでいるだけであってるよ。二人共今のところ、(スキル)の使用は無し。様子見だね。』



「そろそろ、こっちからも行くかな。」

 そう言うとソラはカイトの攻撃を防いで出来た一瞬の隙を突いてカウンターで攻撃していく。始めは少なかったソラの攻撃は段々と数を上げていき、遂にはカイトが回避に移る事になった。

(ソラの練度も想像以上か。まあ、休日に一人で練習していたからな。これでアルあたりに見てもらっていればもっと上達していただろうに。)

 カイトは少し残念に思う。ソラ本人は一人で練習して、驚かせてやろうと思っていただけなのだが、それ故に残念なのであった。

「おい、カイト!例の秘策ってやつは使わなくていいのか!」

 カウンターで攻撃を仕掛けながらそう言うソラ。顔には獰猛な笑みが浮かび、期待に満ちていた。

「はっ!まだ始まったばかりだろ?楽しめよ。」

 こちらも獰猛な笑みを浮かべるカイト。少し性格が元に戻っている。

「そんな余裕こいてると、出す前に終わっちまうぜ!」

「心配するな。この程度じゃあ、当たることはない。」

「ちっ、やっぱ遅いか。」

「当たり前だ。遅いの知ってるからカウンターやってんだろ?」

「テンション上がってんなぁ。まあ、その通りだ。」

「少しな。まあ、オレに当てたかったらもっと速く攻撃するんだな。」

「そうだな。じゃ、そうする。」

 そう言うやソラは今までの片手剣のみの攻撃から、盾での攻撃を併用していく。カイトはそれに合わせて脚技を多用した体術を使用する。

「あ!てめ!体術もできんのかよ!秘策ってそれか!」

「いや?コレは見せ札以下だな。今まで使わせる奴がいなかっただけだ。」

「そりゃ光栄だな!じゃあ、コレはどうだ!<<巨大盾(ラージ・シールド)>>!」

「ほう……それなりに大きいな。」

 ソラが作り出した巨大な盾での攻撃を回避するカイト。

「ちぃ!やっぱ大振りだと当たんねぇか!」

 ソラの魔力を纏わせた盾での攻撃にカイトの魔力を纏わせた脚技。お互いに更に手数が増している。



『お互いに一歩も引かない攻撃の応酬!もはや素人には何が起こっているのか殆どわかりません!というか、実況としてこれでいいのでしょうかー!』

『しょうがないよ。こっから先の試合が全部このレベルになるから。ちなみに、今手数と速度が上ったのはソラが盾を使用したのと、カイトが脚技を多用し始めたからだね。』

『そうなんですか!』

『うん。でも、お互いに決定打は与えられていないね。ショウの時と同じ。カイトは今のままじゃ硬すぎるソラの防御を崩せないし、ソラは速過ぎるカイトに攻撃を与えられない。まあ、カイトはショウより手数が多いから、このままやったら何時かはソラの防御を崩せるだろうけどね。その代わりにそれなりに魔力もスタミナも消耗するだろうね。』

『と、言うことは、この先の展開も?』

『うん。同じにならざるを得ないね。』



「翔の時と同じ、か。」

 カイトもユリィ同様の判断を下す。

「そうだな……と言うか、俺と戦った同レベルの強い奴は大抵そうなんだよな。」

「当たり前だ。気づいてないかもしれんが、お前、一応一文字先輩の実況での学校最硬の防御力というのは間違いじゃない。まあ、攻撃速度は遅いがな。その分威力はまあ、ある方だろう。」

 武具だけで言えば、彼より上は居る。しかし、それに魔術や魔力によるブーストを合算すれば、まず間違いなく彼がトップであった。

「カイトからのお墨付きか。なら確実だな。」

「喜べよ。」

「お前が崩せなかったらな!」

 そう言ってソラはカイトの攻撃を防いで出来たそれなりに大きな隙を突いて、<<巨大盾ラージ・シールド>>を繰り出す。カイトは最小限の回避ではなく、大きく飛び下がる。

「あまり時間を掛けても先輩に失礼だな。そろそろ終わらせるか。」

 そう言ってカイトは刀を納刀。腰だめになって居合の構えを作る。そのまま魔力を刀へと凝縮する。

「居合ってやつか。なら、俺も切り札を繰り出すしか無いな。俺式<<巨大盾ラージ・シールド>>!」

 そう言ってソラは<<巨大盾ラージ・シールド>>を自分で改良した技を発動する。<<巨大盾ラージ・シールド>>と異なり、何枚もの盾が出現して、一枚の分厚く、大きさが元の盾とあまり変わらない魔力で編まれた盾が構成された。

(あいつ……。自分で<<鱗盾スケイル・シールド>>を編み出したのか。)

 実はソラの編み出した技は<<鱗盾スケイル・シールド>>と呼ばれる<<巨大盾ラージ・シールド>>の派生技であった。大きさこそ<<巨大盾ラージ・シールド>>に劣るものの、強度は格段に増している。

(さすがに今の上限での居合だと破れそうにないな。しょうがない。ソラも望んでいるみたいだしな。使ってやるか。)

「……はっ!」

 深呼吸をして一足でソラとの間合いを詰めるカイト。カイトはそのまま刀を抜き放った。

「居合<<斬月ざんげつ>>。」

 魔力を載せた斬撃による居合を放ち、ソラはそれを<<鱗盾スケイル・シールド>>で迎え撃つ。二人の<<スキル>>の衝突によって轟音と土煙が上がる。



『遂に両者の切り札同士が激突したー!恐らく天音選手の攻撃は今大会最高の威力を誇っている!それに対して天城選手の防御も今大会最硬だと思われます!まさに最強の鉾対最強の盾!この土煙が晴れた後に立っているのはどちらかー!』



「見たか!防いでやったぜ!こいつで終わりだ!<<斬波ざんぱ>>!」

 恐らくカイトは今の攻撃の衝撃で動けない、土煙で相手が見えない中そう判断するソラ。しかし、予想に反してソラの攻撃は外れてしまう。

「ち、まだ動けんのか!」

「ああ、当たり前だ。」

「カイトか!どこにいやがる!」

「土煙でも見えるように練習しておけ。あと、お前が見たがっていた秘策だ。有り難く受け取れ!

<<斬波十文字ざんぱ・じゅうもんじ>>!」

 前から聞こえたカイトの声にすぐににソラは前へと盾を突き出し、防御姿勢を取る。十字となるように二連撃が放たれたが、その際、カイトを見たソラは唖然となり、次いで目を見開いた。

「はぁ!?なんだそりゃ!」

 がんっ、という甲高い音と共に、ソラの盾が砕け散り、土煙の外まで吹き飛ばされる。幸い魔力による身体強化があったので、吹き飛ばされても傷一つ負うことは無かったが、魔力障壁のほとんどを砕かれてしまった。


『勝者、天音選手!土煙の中で一体何が起こったのか!吹き飛ばされてきた天城選手は盾が砕け散っているー!』

『ソラの声だと、カイトの攻撃を防ぐことは出来たみたいだね。その代わり、土煙の中で何らかの攻撃を受けた、としか見えなかった私達にはわからないかな。』

『これは決勝戦ではっきり見れることに期待したいですね!』



「おい、カイト!なんだよ今の!って、お前……」

 そこまでソラが話した瞬間カイトが止める。

「そこまでだ。さすがに切り札は次の試合でも隠して置きたいんでな。」

「いや、そっちもそうなんだが、お前、その目……。あん時のやっぱ気のせいじゃなかったのか。」

 そう言われたカイトは少しの間目を瞑って、黒い目を開く。

「……まあ、今度詳しく教えてやるよ。」

「……ホントだな?」

「ああ。」

 いつになく真剣なカイトの顔に、同じく真剣な顔をしてソラが答える。そう、カイトは途中から驚きや興奮でつい、元の姿に戻りかけてしまっていたのだ。

「だが、今は待ってくれ。さすがにオレも色々準備がいるんでな。」

「……わかった。信用してるぜ、親友。」

「ああ、ありがとう。親友。」

「がんばれよ。」

「おう。」

 そう言って二人はニヤリと笑い、試合場を後にした。そして、そのまま二人は次の試合を観戦するため、選手用の席へと向かっていった。


 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・ご表記修正

<<巨大盾(ラージ・シールド)>>の前に一本|が入っていたのを修正しました。

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[気になる点] > 我が報道部でも一切注目していなかったのは誤算でした! 54話では「実況はこの私、新聞部兼放送部部長にして真実を追い求める者、一文字真琴」となっているんですが?
2022/02/25 13:53 退会済み
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