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第60話 決勝戦―遠距離部門―

『さーて!やってまいりました!遠距離型部門の決勝戦!では、選手紹介から参りましょう!まずはこの人!今までの戦いにおいて一枚の障壁も破られることなく勝ち進んだ天才美少女魔術師!ユスティーナ・ミストルティン選手!』

 ティナの紹介と共に拍手と声援が贈られる。ティナは貧相な胸を貼り、エヘンと鼻高々であった。

『対戦相手は、この人!誰がこの展開を予想した!まさかの大番狂わせ!数々の大会においても入賞や優勝を重ねてきた弓道部部長を下克上するという大金星!並み居るライバルを押しのけて遂に決勝まで勝ち上がった!おっとり系美少女弓兵!小鳥遊 由利選手!』

 由利の紹介とともに、此方にも声援と拍手が贈られる。由利はかなり緊張した様子で一礼する。

『今まで近接部門の試合をご覧になられていた方のために、ここで遠距離部門独自のルールのおさらいをさせていただきます!まず、試合フィールド!お互いに15メートル以内への進入禁止!』

『遠距離部門で近接戦されても本末転倒だしねー。』

『次に、攻撃ルール!今回は(スキル)を使用した戦いをメインとして欲しいとのことから、物理系遠距離攻撃の方は、一発5秒の間隔を空けないと攻撃不能な特殊ルールとさせて頂いております!ただし、(スキル)の場合はこのルールは適用されません!使えるなら何発でも連射して頂いて結構です!』

『そもそも、物理系の子もそれぐらいじゃないと武器を作り出せないからそんなに意味ないけどね。まあ、早くても今度は(スキル)の練習にならないし。』

『できればガトリング並の連射がみたいですね!』

『慣れればできるけど、無理してやろうとして発動に失敗しないでね。と言うか、スタミナ切れでぶっ倒れるよ。』

『さて、それでは両選手共に準備が整ったようです!では、第一回天桜学園トーナメント遠距離部門決勝戦!ファイ!』




「さて、始まったわけじゃが……まさか由利と戦うことになるとはのう。」

「私もここまで来るとは思ってなかったよー……部長にも勝ちゃったし……」

「何故落ち込んでおるんじゃ……。」

「うぅ、だってぇー。」

 基本的に魅衣の影に隠れているため、あまり注目されることに慣れていない由利は若干怯えている。

「じゃが、ここまで来たんじゃろ?余が相手でもやることは同じじゃ。」

「うぅ、でもー。」

「はぁ、いい加減せめて弓でも構えんか。こっちはそろそろ詠唱を開始するぞ?」

「うぅー……」

 うめきつつもゆっくりと弓を構え、魔力で矢を構成する。

(む?矢をつがえた瞬間から気配が落ち着きおった……。)

「すぅー、はぁー。」

 息をゆっくりと吸って、吐く由利。それを繰り返す内に由利が冷静さを取り戻していく。

「はっ!」

「<<火球(ファイア・ボール)>>!」

 由利の放った矢へ向けて<<火球(ファイア・ボール)>>を放つティナ。2つは衝突し、小さな爆発と共に消滅する。

「はっ!」

「<<火球(ファイア・ボール)>>!」

 先程より更に強い魔力の込められた矢へ向けて<<火球(ファイア・ボール)>>を放ち迎撃するティナ。今度は少しティナ側で激突。これも先ほどと同じく、小さな爆発と共に消滅する。

「はっ!」

「<<火球(ファイア・ボール)>>!」

 2射目より更に強い矢が放たれて同様に迎撃するティナ。間隔、魔力ともに短く、そして強くなってきている。爆発はさっきよりティナに近づいた場所で起こった。

(やはり、由利はスロースタータータイプの弓兵じゃな。)

 ティナは由利をそう評価する。現に、由利は矢を放つ度に間隔は短くなり、攻撃の精度と威力は上がっている。更に由利の表情を見れば、開始前までの怯えた表情はどこえやら、今はただ、ティナだけを見据えていた。

(にしても、どこまで早くなるんじゃ。)

 そう考えて再び放たれた矢を迎撃するティナ。間隔は最初の20秒から、今では10秒を切っている。

(まだ早くなるか。……そろそろ(スキル)を使い始めてくれればよいんじゃが……。)

 再度放たれた矢を迎撃する。間隔は遂に5秒に近づこうとしている。



『おおっと!遂に小鳥遊選手の攻撃間隔が大会規定の5秒を突破!大会ルールによって武具に制限が掛けられました!ここへ来て今大会初の快挙です!』

『何回矢を放てばあそこまで完全にイメージすることが出来るようになったんだろうね。多分、凄い修練の果てだよ。』




「ちっ、<<三連斉射(さんれんせいしゃ)>>!」

 自分のペースで矢を放てなくなった由利は舌打ちを一つ、直ぐさま手段を変更する。同じ軌道を描く3本の矢を一度の射出で生み出す。

「なっ!いきなり!」

ティナは滅多に見ない友人の態度に驚くが、すぐさま自分も三個の<<火球ファイア・ボール>>を放ち迎撃する。

「<<三連斉射(さんれんせいしゃ)>>!<<三連斉射(さんれんせいしゃ)>>!」

 由利は(スキル)を乱射することによって大会規定をクリアし、自分の想像通りのペースへと矢を放つ速度を加速する。とはいえ、未だ彼女のイメージ通りには動けていないらしく、若干の苛立ちが感じられた。

(これは……想像以上じゃな!)

 嬉しそうに笑いながらティナも<<火球ファイア・ボール>>を連射して迎撃していくが、自分で定めた連射速度上限を上回りそうになり、手を変える事になる。

「<<風撃ウィンド・ブロウ>>!」

 遂に2つ目の魔術を起動するティナ。今大会においては念のため3個まで使用するつもりであったが、まさか本当に使うとは思っていなかった。

「ちぃ!<<五連流星(ごれんりゅうせい)>>!」

 由利は更に加速するため、今まで使っていた三連射の<<三連斉射(さんれんせいしゃ)>>から、威力は弱まるが発動速度と連射力が高い<<五連流星(ごれんりゅうせい)>>という技へと手札を切り替える。

(……これは、3つ目も待機させておくべきじゃのう。)

 更に速まっていく連射速度に、3つ目の魔術の使用を視野に入れるティナ。彼女らの戦闘を見ていた観客たちは騒然となっていた。




『二人共すごい勢いの攻撃の応酬となっております!そして、遂にミストルティン選手が二種類の魔術を併用し始めました!これはいよいよ、本気になったということでしょうか!にしても、小鳥遊選手の連射は凄いですね!』

『うん!まさか由利がここまで速い連射を出来るなんて思っても見なかった!でも、(スキル)を連射しまくっているのが心配だね。』

『確かに。情報によれば、小鳥遊選手の魔力量ではそれほど保たないと思われますが、何か考えがあるのでしょうか。』



 ユリィと真琴の解説を聞いていたカイトと桜。カイトは由利の弓の腕前に純粋に感心していた。

「由利が弓道部に所属していたのは知っていたんだが……あれほどの腕前だったとはな。」

「カイトさんはご存じなかったんですか?小鳥遊さんは弓道の全国大会入賞経験もお有りなんですよ?」

「それは知ってるんだが……だが、あれで優勝出来ないのは納得出来ないぞ?」

 魔力等による補助を考慮しても部長よりも精度の高い弓術である。弓道部の部長が全国大会入賞や優勝経験があることは有名であったので、部長よりも下の腕前だとばかり思っていたのだ。しかし、今見ている腕前は何処からどう見ても、弓道部部長よりも上の腕前に思えた。

「ええ、確かに公式試合などでは弓道部の中では平均より少し上の成績でした。しかし、練習等では武田部長より上の精度を誇っていらっしゃいました。」

 桜は生徒会長として、各部の有力選手の実情をかなり把握している。それ故、由利についても知っていたのである。

「なるほど、異世界に来たことで、精神的な成長をした、ってところか。」

「でも、ティナちゃんは大丈夫なんですか?」

「何がだ?」

「いえ、もうかなりの速度で対処されてますよね?」

「ああ、そのことか。なら、大丈夫だ。見てろ。」

「……はい。」

 カイトは―当然だが―信頼しきった表情でティナを見ているが、桜は少し不安げな表情で試合に意識を戻した。



(むぅ、コレは攻めきれんのう……スタミナ切れを待つのもよいのじゃがな……)

 そう考えるティナだが、由利の連射速度は5秒を切ったあたりで固定化されていた。そのため、ティナが自分で設定した<<火球ファイア・ボール>>の連射速度を超えてしまい、発動速度が上の<<風撃ウィンド・ブロウ>>へ切り替えたのだが少しだけ苦い顔になった。

(まさかこれでも攻めきれんとは……決勝戦で相手がスタミナ切れして勝利というのもいまいち盛り上がらんのう。)

 そう考えたティナは声を張り上げる。

「由利よ!これから余は余の最大級の威力の技を放つ!その程度の矢では防ぎきれんぞ!」

 そう宣言するや<<風撃ウィンド・ブロウ>>を放ちながら同時に<<雷撃サンダー・ボルト>>の詠唱を開始し、魔力をチャージしていく。それを見た由利も連射をやめ、矢に込められるだけの魔力を込めていく。

(……勝てないかなぁー。ティナちゃんまだまだ余裕だもんねぇ。)

 由利はかなりキツキツの状態で連射していたのだが、ティナの表情はまだまだ余裕である。自分のほうが連射速度で上回っているだけで、きちんとティナがチャージしてしまえば負ける、と言うのが、由利の判断であった。それでも勝負に出たのは、自分の魔力が底を尽きそうであることを理解しているからである。

(でも、勝てるとすればこのチャンスしかないよねー。)

『かちたいー?』

(え?)

『ちからがほしい?て、きいてるのー。』

(……うん。)

『じゃあ、こんかいだけ、すこしちからをかしてあげるねー。でも、たぶんかてないよ?』

(それでも、ティナちゃんに少しでも近づきたいからねー。)

 さすがに、友人に完璧に負けるのはあまり気持ちよくない。せめて、一矢報いたい、そんな気持ちで、声ならぬ声に答えた。

『あはははー、いいこころがけだとおもうよー。じゃあ、はーい。』

 そう言って声は由利に力を与える。そうして、由利が矢に貯めていた魔力に急激に土属性の力が宿る。それを見たティナは目を見開いて驚いている。

(ノーム様がお力を与えたか!コレはまずいのう!少し力を上げるしか無い……が、最下級魔術でこれだけの力を使うのはカイト以外には久々じゃから、手加減出来ておればよいが……)

 即座に判断したティナは少しだけ元の力を開放し、急激に魔力を収縮させる。

「<<雷撃サンダー・ボルト>>!」

『じゃあ、そのままうってねー。』

「<<彗星すいせい>>!」

 両者同時に放たれた攻撃はやや由利側で衝突する。由利の攻撃が大きな土の矢であったのに対し、ティナの攻撃は杖から雷が放たれ続けていた。桜と瑞樹の時と異なり、勝敗はすぐに決する。




『勝者!ミストルティン選手!ミストルティン選手の唱えた雷撃は小鳥遊選手の放った矢を貫いて小鳥遊選手に直撃!障壁を10枚貫通するとんでもない威力だったー!ですが、小鳥遊選手の土の矢も素晴らしいものでしたね!』

『……土の大精霊様の力を借り受けてたんだから、当たり前の威力だよ。』

『はい?土の大精霊様?』

『うん。由利ー!なんか声聞かなかった?あと、身体のどっかに変な印ない?』

 声を聞いたか、という問いかけに首を縦に振る由利。更に自分の身体を見渡して、印が無い事を確認する。

『ふーん。じゃあ、たまたま見られていたんだ。もしかしたら加護をいただけるかも知れないね。』

『あのー、ユリィさん?一体なんのお話ですか?』

『あ、うん。大精霊様の話は知ってる?』

『さわりだけですが……。』

『その大精霊様のお一人の土の大精霊様が力をお貸し下さったんだよ。まあ、偶然らしいけどね。』

『……マジ?おっと、失礼しました。』

 あまりに仰天の情報に、真琴が唖然となって素に戻ったのである。しかし、直ぐに気を取り直して謝罪した。

『それじゃ、皆!大きな拍手を!』

 一方、そう言ってユリィが拍手すると、合わせて観客たち全員が大きな拍手を二人に送ったのである。

『では、天桜学園トーナメント遠距離部門第一回優勝者はユスティーナ・ミストルティン選手でした!次回開催をお楽しみに!』




「うぅー、やっぱり勝てなかった。」

 落ち込んでいる由利。横にはいつの間にか魅衣が来ており、慰めていた。それを見たティナは自分は必要ないと考え、一旦その場を離れる。周囲の観客は土の大精霊についてを話し合っていたり、今の試合の感想を言い合っていたりでかなりざわついていた。

(にしても、この様子じゃとかなり才能のある生徒が多そうじゃな。由利もノーム様に気に入られたみたいじゃ……遠距離は由利がおそらく最強。威力、速度ともに今からでも冒険者として活動できるじゃろう。近距離はまさかの桜が敗れる結果になっておるしの。これは期待できるやもしれん。)

 試合中、興奮で少しの間だけ金色に戻った目をすぐさま元の碧眼に戻し歩いて行くティナ。休憩を兼ねてカイトのところへ向うつもりだったのだが、道中、観客に見つかり到着するまでにかなりの時間を要したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・表記修正

魔術<<火球>>の前後から<<>>が抜けていた部分を修正しました。

・誤字修正

『首を縦に振る』とすべき所が『立て』になっていたのを修正しました。

『唖然となって』となっていた所が『鳴って』となっていたのを修正しました。

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