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第53話 トーナメント

 これで一応今回の1日2話更新は終わりです。明日からは1日1話更新に戻ります。

カイトとティナによる模擬戦の2日後の昼食時。たまたま鉢合わせたカイトとソラが話し合っていた。

「で、聞いたかよ。」

「何をだ?」

「今週末……トーナメント形式で模擬戦だってよ。」

「らしいな。」

 お互いに食事しながらであるので、短文のみの会話である。戦闘訓練が開始された当初は夕食も取れなくなる生徒が結構いたのだが、ソラは無事だった。さすがに食べる量こそ減っていたが、今では普段通りに戻っている。これは他の生徒達も一緒だ。

「ごちそうさまでした……一応武具とかは実戦さながらの装備になるが、お前、大丈夫なのか?」

 食べ終わったので手を合わせた後、カイトはソラ―此方も食べ終わりかけている―に問いかける。

「大丈夫ってなんだよ?」

「ああ、お前、フル装備だろ?動けるのか?」

 ソラのフル装備となると、全金属製の鎧に、金属製の片手剣と金属製の盾である。ソラは学園でも有数の重装備なのであった。尚、学園で最も重装備なのは、ソラと同じく全金属製の鎧に、更には金属製のフルフェイスタイプの兜という生徒である。ソラは視界を塞がれるのを厭い、兜は無くても良い、というアルのアドバイスに従い、兜は申請しなかった。申請したのは、サークレット状の中心に魔石が取り付けられた軽防具である。

 ちなみに、何故兜が無くても良いのか、と言うと、サークレットに施された術式で、頭部全体にも一定の保護が働いているからである。当然だが、兜を身につけるに越した事は無いが、フルフェイスタイプでなくとも、兜では首の動きや視界が阻害される為、戦闘を阻害する要因となりかねない。動きが制限されるのも、視界が制限される事も、戦場では命に関わる。確かに守りを十分にすれば、死傷率は減るが、視野と動きを制限してしまっては、今度は被弾率が上がるのである。

「なんとかな……ごちそうさまでした。」

 ソラも食べ終わり二人で席を立ち、食器を返して話を続行する。

「普通に運動するぐらいには身体強化も出来るようになったからな。鎧も一人で着れるようになった。」

「そうか、また手伝わされたらどうしようかと思っていたところだ。」

「何時までも成長しないと思うなよ?」

 ニヤリと笑うソラ。カイトは興味深げに笑みを浮かべた。

「その顔だと、訓練の成果は出ているようだな。」

 こちらもニヤリと笑うカイトだが、実際に彼の楽しみの一人はソラであった。

「まあ、見とけって。今度の模擬戦が楽しみだ。」

 ソラはどうやらかなり自信があるらしい。確かに、今も総身を鎧に身を包み、昼食を食べていたが、何か不具合があるようには見えなかった。この3週間かなり鍛錬を積んだらしく、普段の所作に淀みがなかった。

「楽しみにさせてもらう。まあ、学生達の大本命は一条先輩だがな。」

「ああ、もう賭けが始まってるっけ。」

 今回の模擬戦では、体育館で行うことから全校生徒に見学が許可されている。そのため、学生たちの間では、密かに食券を賭けた賭けが行われていた。ちなみに、金銭でないのは、日本円がエネフィアでは一切の意味を持たないからだ。食券のほうが今の学園生達にとって、価値が高いのである。

「くじ運、いいといいな。」

「さっきまでの自信はどこ行った……。」

「まあ、自信はあるけどよ……。今のところ一条先輩が一番仕上がりいいんだろ?その次が桜ちゃん。」

 (スキル)習得までは桜が一歩リードしていたのだが、桜がカイトに倣って魔術にも手を出したため、若干仕上がりが遅れている。その代わり、実際の模擬戦となれば桜のほうが大番狂わせの可能性を有していた。

「賭けでもその二人が最有力だな。」

 ちなみに、桜と共に訓練しているティナの評価も高く、特に魔力測定で高い数値を出したティナは遠距離部門で一番人気を誇っていた。

「三番人気は神宮寺だっけ?」

「ああ、魔力測定は学生最高値だったし、運動神経も悪くないからな。」

 ちなみに、ティナとカイトの二人を除く測定結果では、桜が次点で5500、それに対して瑞樹は9000と、一人だけ群を抜いていた。この値は、此方の一般市民の平均値を遥かに上回っている所か、冒険者としても初心者を遥かに上回り、ランクD上位、もしくはランクCクラスでも下位の冒険者が有する魔力量に匹敵していた。さすがにユニオンから派遣されていた職員達もこれには大いに疑いを持っていたのだが、瑞樹は紛うこと無く一般市民であったので、首を傾げるに留めるしかなかった。これには少し理由があるのだが、カイトもティナも、そしておおよそを知らされているクズハも口を噤んだ。

「他は運動部の部長達が人気か。」

「まあ、オレたち凡人は密かに頑張るとするか。」

「そうだな……」

 そう言って二人は再び訓練に戻るのであった。ちなみに、実はソラは有力株の一人として目されているのだが、今の彼にはあずかり知らぬ事であった。



 カイトとソラが模擬戦の話をしてから数日後。この日は訓練を開始してから珍しく冒険者登録した学生たちが一同に会していた。今週末の模擬戦の対戦相手を決めるくじ引きを行うためであった。

「今まで二週間君たちには訓練を積んでもらった。今どの程度の実力が備わっているのか、君たちも興味があるだろう。」

 ルキウスが壇上に立って50人にそう問いかける。多くの学生達が頷いていた。

「今まで、君たちは手加減出来ないことから、此方から模擬戦などの行為を禁止させてもらっていた。だが、幸いにも公爵代行様のご好意により、我々も使用する模擬戦用の装備をお貸しいただくことが出来た。そこで、週末のトーナメントだけは、この規則を解除しよう。今まで学んだことを活かして欲しい。この訓練では諸君らの仲間である、学園の生徒達も見学に来る。情けない姿を見せ無いように、奮起して欲しい。」

 そう言うと、今まで他人と比べてどの程度の実力がわからなかった生徒たちは、ようやく自分の力が試せるとあって、歓声を上げた。それをルキウスが手で示して静かにさせる。

「なお、今回のトーナメントでは公爵代行様もお見えになる。わかっていると思うが、ご無礼の無いようにお願いしたい。」

 クズハは今回公爵家から学生たちの成長を確かめる仕事として訪れる予定である。この通達に色めきだつ男子学生一同。ソラや生徒会役員からクズハが美少女と聞き及んでいるので、いいところを見せようと必死であった。尚、当人は当然ながらカイト以外は眼中に無い。再び生徒達が静まり返るのを待ってルキウスが再び話し始めた。

「では、くじを引いてもらう。順番は学年順に、三年生から引いてくれ。」

 そう言って三年生から順にくじを引いていく。総勢で近接35名遠距離15名なので、遠距離の3年生はすぐに終わった。

「で、カイト。お主くじはどうする?余は遠距離じゃからシード枠を入手したが……。」

 カイトとティナが参戦している時点で、優勝は火を見るより明らかなのだが、なるべく実力を隠し、運要素が主な勝因である事を印象づけたい二人。なので、ティナは密かにくじに細工してシード枠を入手していた。

「オレは出たとこ勝負しかないな……。お前はまあ、最悪圧勝しても下馬評通りだから問題ないだろうが……オレはどうやって手加減したものか……。」

「体育の授業をサボリ気味じゃったのが響いたのぅ……。」

 二人共、本気で体育の授業を行うと、全ての競技で地球トップのアスリートを遥かに超える運動能力を発揮するので、かなりサボっている上、出ても手加減しまくりである。

「おかげで運動音痴じゃないか、という噂が立ったからな……お前らの影に隠れてオレもクズハの指導を受けているということも知られてないからな。下馬評だとオッズは最下位に近い。」

 辛うじて最下位でないのは、中学時代からの付き合いがある面子はカイトが運動音痴でないことを知っているからである。とは言え、中学時代からの面子の中には、カイトが喧嘩がかなり強い、ということを知っている者が多く、大穴と見せかけた大本命として隠したくて、噂を否定しなかった者もいて、カイトについては情報が錯綜していたのである。

「ま、余はお主に賭けるつもりじゃがな……ふふふ、大穴確定、大儲けじゃ。」

「まあ、負けるつもりはないが……複雑な気分だ。」

 今の二人の心境としては、幼稚園児が走る徒競走に出場させられるオリンピック選手の気分であった。どれだけ手加減しても勝利が確定しているので、本気になるな、と言われても勝てるのである。

「そうは言うてもな、余もお主も手加減しても負けられぬような素人相手の試合じゃ。負けろ、という方が無理じゃろ。」

 今回のルールでは各個人が展開している魔術障壁を先に累計5枚破ったほうが勝利である。破った障壁の数は武具につけた魔石が数えてくれる。

「まあ、オレたちの障壁だと、今の50人が総出で攻撃仕掛けても1枚割れるかどうかだからなぁ。」

 そういうカイトだが、実際には50人全員が死ぬ気になっても破ることは不可能である。それだけの実力差が存在している。

「手加減して勝たねばならぬ上、なるべく当たらん様にせねばならんのも、考えものじゃな。」

 素人程度に手加減しなければならない、しかし、一切攻撃を受けてもならない。ある意味模擬戦よりもこちらの方が訓練になっていた。

「まあ、いっそ負けるのもありなんだが……。」

「まったく実力も示さず負ければ非難確定じゃな。」

「そうだろうな。こっから先、不和の原因が増えるのは困る。」

 これから先、冒険者として活動していけば、確実に緊急事態が起こりえる。その際に、周囲との連携が取れなくなるような原因はなるべく取り除いておきたかった。それならいっそ負けてやる気がない、と批判されるより、実力を示して優勝して、信頼度を高めておいた方が良い、二人はそう考えていたのであった。

「戦うとなると力加減が難しいな……。」

「贅沢な悩みじゃな……。」

 ほかの学生たちはいかに強く戦おうかと悩んでいるのに、二人はいかに弱く戦うか苦心するのであった。




 そしてトーナメント当日。クズハの挨拶によってトーナメントが開始されることとなり、ほぼ全校生徒が出席していた。

「天桜学園高等部の皆さん、初めまして。私は現マクダウェル公爵家公爵代行を努めさせて頂いておりますクズハ・マクダウェルです。本日は皆さんの成長を確かめたく思い、訪ねさせていただきました。」

 クズハの挨拶は続いていくが、学園生のほぼ全員、男女問わずがクズハに見とれていた。学園に第四の―第一が桜、第二はティナ、第三は瑞樹―ファンクラブが結成された瞬間である。

「……今まで校長とかの話ってなんであんなに長いんだ、って腹たってたんだけど……」

「わかる。できればもっと長引いてくれ……。」

「とりあえず、写メ撮っとくか?」

「やめとけ、さっき護衛に睨まれてる奴いたぞ……。」

「くそ!どうやってかお近づきになれないもんか……。」

 男子生徒一同の心の叫びであった。それは2-Aクラスでも同様であった。

「おい、天城!お前会った事あるんだよな?」

「ああ。偶然アルと初めて会ったのがカイトだろ?それで興味持ったとかで公爵邸に呼ばれたんだよ。そこで会って夕食と話をした。」

「ちっ!おい誰か、こいつの靴に画鋲でも入れてやれ!」

「わぁ!おい、待てって!そんなこと言ったらカイトとかどうなんだよ!」

「……天音、次は何やらかした?」

 ソラは小声で話していた所を更に声を下げる。周囲は更に輪を小さくした。ちなみに、次、と言っているのは、カイトが隠れたラッキースケベ体質である、と周囲は認識しているからだ。

「まあ、こっからあんまり話すなって言われてんだけどよ。」

「何だ?」

「知ってると思うけど、オレと桜ちゃん率いる生徒会役員数人、ティナちゃん、カイトに校長と雨宮センセでクズハさんと会食する事になったんだよな。公爵家で。」

「ああ、そこは知ってる。確か、支援してくれているお礼を言いに行ったんだよな?」

「ああ。それでクズハさんの仕事が長引いたせいで、結構夜が遅くなったんだよ。それで結局公爵邸で泊まる事になってな。」

「ちっ!やっぱりこいつに誰か罠仕掛けろよ……」

「だから聞けって。それでその夜、たまたまバルコニーで涼しんでたら60ちょいぐらいの爺さんが外に出てきて、宴会やってるからこんか、って聞いてきたんだよ。そして横にはなぜか桜ちゃんが。で、断れなかったから一緒に宴会に出たんだよ。」

「宴会って、お前もしかして……。」

「ああ、飲んだ。初めてだったけど、美味かった……と、まあ、それはいいんだ。で結局カイトの奴も何故かそこにいたんだけどな、周りにいたのがすごかった。」

「……何がすごかったんだ?」

 すでに眼がかなり怖い周囲の男子生徒達であるが、ソラに話の続きを促した。



「ん?カイト、いきなり震えてどうしたの?」

「いや、なんか急に悪寒が……。」

「風邪なんて引かないでしょ?」

「オレもそう思ってたが、向こうで何度か風邪ひいた。」

 ちなみに、この所為でティナがオタク文化に染まるのだが、それは置いておく。

「あ、そうなんだ。じゃあ、暖かくして寝てね。何なら添い寝、いる?」

「いい。」

 カイトはそう言って体調を魔術で確認するが、何ら問題もなく、気のせいか、と思う事にした。



「ものすげぇ美女ばかりでよ。しかも親しげに話してやんの。かなり気に入られてたのか、普通にお酌してもらってたな。しかも、その時にユリィと会ってるみたいだな。」

「……おい、暗殺ギルドはないのか。依頼人は天桜学園男子一同。標的は天音。」

 とある男子生徒の発言だが、眼が真剣そのものである。

「で、おまけに……」

「まだ続くのか……。」

「や、オレも何だけどよ。桜ちゃんも酒飲んで酔っぱらってたんだよな。」

「……色っぽかったか?」

「……ああ。さらに若干幼児退行してたな。」

「見たかった!」

「そんな滂沱の涙を流さんでも……。」

 見たかった、と言った男子生徒だけでなく、数人の男子生徒達が滝のごとく涙を流していた。

「見たお前が言うな!」

 真剣な顔で、小声で怒鳴るという器用なことをするクラスメートにソラは若干たじろいだ。

「わ、悪かった。……それで酔っ払っていたからか、桜ちゃんも結構奔放になってたんだよな。俺も意外に感じる程に。まあ、酔ってたからなのか、俺も結構変な行動してたんだけど、そこら辺あんまり記憶にないんだよなぁ。」

「お前の話はどうでもいい!天道会長の話をしろ!」

「あ、ああ。で、少し覚えてたのが、桜ちゃんとカイトの写真撮ったって事だな。ツーショット写真。」

「それは、羨ましいが、さっきの超美女よりマシだろ?」

「……いや、それが違った。何故かお姫様抱っこして写真撮った。おまけに俺の見立てだと、あれ、確実に桜ちゃん、胸当ててた。あと、カイトの教官役もクズハさんだ。」

「……おい、今日中にティナちゃんのファンクラブの奴らと会長の親衛隊を集めろ。緊急集会を開く。」

 おう、と同意する一部男子生徒。この日、カイトは栄えある校内男子の4大ファンクラブの内、2つからブラックリスト入りが確定した。全てから登録される日も近そうである。

 ちなみに、男子ファンクラブは一条とソラの2大派閥であったが、最近はこれにアルの派閥が加わった。加えて新入生の一人のファンクラブが急進している。此方はとある理由から、男女問わずに人気を博していた。

「ちなみに、証拠写真は桜ちゃんが持ってるはずだ。」

 確かに桜が持つデジカメにカイトと桜のツーショット写真もあるが、ソラは写真を見ない方がいい。

「ちっ、そっちは押収は無理か。」

 さすがに桜から桜ファンがデジカメを奪うことは出来なかった。

「おい、天城、山岸!もし天音と対戦する事になったら、絶対に叩きのめせ!」

「おう!負ける気はねぇ!」

「ああ!俺だって負ける気はないな!」

 そうしてカイトという共通の敵を得た2-A男子生徒一同は、一層団結を深めたのであった。



「では、トーナメントを開始いたします!」

 そう言ってクズハは魔術で花火を創りだして打ち上げる。それを合図にトーナメントが開幕した。

 お読み頂き有難う御座いました。

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