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第52話 模擬戦

 昨日付で第4章を作りました。あれ?章が増えてる、と思って見返した方は、遅れて申し訳ありませんでした。ただ単に第45話からをきちんと割り振っただけです。

 一礼をしたカイトとティナは、大凡15メートルほどの間合いで戦闘態勢をとっている。転移術は使えないので、まず初手はティナが取ることとなった。

「では、行くぞ!」

 そう言ってティナは<<火球(ファイア・ボール)>>を毎秒50発に匹敵する速度で生み出してカイトに放つ。最下級魔術であるため、難しくはないのだが、ティナの発動速度は初心者のそれを大きく上回っていた。もはや<<ガトリング火球(ファイア・ボール)>>とでも言うべきであった。

「ちっ!」

 本来ならば即座に近づいて一撃を放ちたい所であったのだが、ティナが最下級魔術のみに限ったため、動くことが出来なかった。さすがに一発あたっただけでは障壁が破られることはないが、連続で5発も当たれば第1層が破られるだろう。そこでカイトは即座に双剣を創造し、ティナから放たれる<<火球(ファイア・ボール)>>を全て打ち落としていく。

「どうしたのじゃ、カイトよ。それでは一向に余に近づけんぞ?」

「なら少しは攻撃速度を落としてくれればいいんだがな!」

「抜かせ。この程度では苦にもならんじゃろうに。」

 そう言ってティナは更に<<火球(ファイア・ボール)>>を生み出す速度を上げる。しまいには地球最速の連射速度を誇るガトリング、ファランクス―毎秒100発―をも大幅に上回る速度で発射されている。カイトもそれに釣られて双剣を振るう速度を更に加速する。

(ちっ、面倒だ。何とかして此方も遠距離から攻撃するか。)

 先ほどの攻撃速度のままであれば、隙を見つつティナへ肉薄することも可能であり、それを狙っていたのだが、攻撃速度を上げられてしまってなかなかに難しくなってしまった。そこでカイトは作戦を変更することにした。

(手数が足りないなら創り出すまで!)

 そう考えて次の瞬間に巨大な盾を目の前に作り出す。

「む?それで防げると思っておるのか?」

 ティナはさらに<<火球(ファイア・ボール)>>を生み出すが、今度は一部を直線に放ってくるのでは無く、火球の動きを操作して盾を迂回する様に放ってきた。次の瞬間、ボンッ、という爆音とともに爆発が起こり火の粉が盾の裏側に舞う。それに加えて<<雷撃(サンダー・ボルト)>>を放ち、盾を破壊する。

「この程度は避けられるか。」

「当たり前だ。」

 そう言ってカイトは自分の周囲へと滞空させた数十の剣や斧、槍を一気にティナの<<ガトリング火球(ファイア・ボール)>>の中へと突っ込ませる。数では劣っているが、火力で優っていたので武器一つで次々に<<火球(ファイア・ボール)>>が撃ち落とされていく。更に自分もその後ろから刀を腰に携えて腰だめになり、一気にティナへと肉薄する。居合い斬りで一気に勝負を決めるつもりだ。

「何じゃと!」

 さすがに一直線に<<火球(ファイア・ボール)>>の群れの中を突っ込んでくるとは思っていなかったティナは一瞬驚いたものの、即座に落ち着きを取り戻し、今度は<<雷撃(サンダー・ボルト)>>を使用する。此方は手数重視では無く、一撃を重視した魔術となっていた。さすがにカイトでも直撃すれば負けになるため、突進を中止して即座に横へ避ける。

「まだだ!」

 横へ避けてすぐに片手剣と盾を装備し、盾を構えて一気に突進しティナとの間合いを一気に詰める。そして近づいた所で片手剣を振るった。

「ちっ!」

 ティナはそれを後ろへ飛んで回避。その際に<<火球(ファイア・ボール)>>を数十個生み出してカイトに放つ。カイトはそれを屈んで避け、そのまま全身のバネを利用してをサーマソルトキックをティナへ放つ。

「その程度は予想済みじゃ!」

 ティナはそう言うと、今度は<<雷撃(サンダー・ボルト)>>を生み出して逆さ向きに空中にいるカイトの背中へ放つ。カイトはサマーソルトの最中だったが、そのまま地面にうつ伏せになり、地に伏せて回避。そのまま攻撃に移ろうとして、さらに腕の力のみで自身の身体を一気に後ろへと跳ね上げた。次の瞬間カイトの伏せていた場所の地中から数十の<<火球(ファイア・ボール)>>が現れる。ティナが回避の際に放った<<火球(ファイア・ボール)>>をそのままコントロールし、地中へ潜ませておいたのだった。

「ふーむ、これで決まればよかったのじゃが。さすがに某漫画の様に上手くは行かぬか。」

「あまり舐めるなよ?」

 そう言ってお互いに獰猛な笑みを浮かべる。カイトとティナが共に相手から距離を取ったため、間合いは組手開始時と同じ15メートルほどになっていた。

「あまり時間も掛けられんしのう。ここらで決めさせてもらうとしようかの。」

「同感だ。さっさと終わらせよう。」

「あ!ちょっと、お二人共!」

 二人が何をしようとしているかを理解したクズハが止めに入るが、二人共熱くなって全く聞いていない。見る間にティナの頭上には全長10メートルを超える巨大な<<火球(ファイア・ボール)>>が現れる。一方のカイトは今まで持っていた片手剣と盾を消失させ、身の丈ほどもある巨大な大剣を創りだして両手で切っ先を下にして、ざんっ、と地面に突き刺す。

「頼んだ。」

 武器に対してそう話しかけ、深呼吸をすると一気にカイトは魔力を武器に注ぎ込む。

「こっちは準備出来たのじゃ。」

「ああ、こっちもだ。」

「では、行くぞ!」

 ティナはそう言うと頭上に顕現させた巨大な<<火球(ファイア・ボール)>>をカイトへ向けて射出した。カイトはそれに対して大剣を大上段に構え、大剣にみなぎらせた魔力を解き放ち一気に振り下ろした。大剣からは魔力で生み出された斬撃―<<斬波(ざんぱ)>>―が放出され、ティナの<<火球(ファイア・ボール)>>と激突する。2つはそのまま拮抗状態を保ち、衝突地点から少しも動かない。確かに二人共制限からは逸脱していないが、お互いに初心者の力量を遥かに上回っていた。

「やはりこうなりましたか……。」

 クズハはため息混じりに独り、そう呟く。なおも二人の拮抗状態は続く。

「おぉおおおお!」

 カイトは裂帛の気合とともに更に魔力をこめ、ティナは無言で<<火球(ファイア・ボール)>>に魔力を与える。しかし二人共顔には獰猛な笑みが浮かんだままであった。が、次の瞬間<<火球(ファイア・ボール)>>が大爆発を起こし、カイトの<<斬波(ざんぱ)>>もかき消される。その衝撃で大地が揺れ、かなりの震動が周囲へと伝わった。カイトもティナも爆発の衝撃で開始時点よりも離れた上、カイトは後ろ向きに倒れている。

「さて、仕切り直しじゃな。」

「はっ!このまま終わらせてやる!」

 カイトはかなり興奮しているらしく、抑えていた性格と、髪と眼の色が蒼色に戻っている。カイトもカイトで戦闘狂であった。カイトは起き上がる反動をそのままに前傾姿勢を取ると、大剣を持ったまま一気にティナへと突っ込む。一旦仕切り直しと思っていたティナは呆気に取られるが、即座に<<火球(ファイア・ボール)>>を速射して応戦。しかし、カイトは大剣を盾にして一気に近づいていく。が、次の瞬間に戦闘は中断となった。

「ちょっと!さっきの震動なに!?」

「皆さん、大丈夫ですか!?」

 桜とユリィが現れてカイトは即座に停止し、魔力を抑える。合わせてカイトは慌てて髪と眼の色を黒に戻した。

「あれ?」

 桜は一瞬カイトの髪が違うと思ったが、瞬きする間に黒に変わったので、見間違いと思った。

「で、何やってたの?」

「あ、いや、まあ(スキル)の訓練を……。」

「う、うむ。さっきの震動は余が全力まで魔力を貯めた<<火球(ファイア・ボール)>>を放てばどうなるかやってみたのじゃが……少し強すぎたようじゃ。すまぬ。」

 二人はようやくやり過ぎた事に気づいてしどろもどろになりながらも答える。ユリィはそれで大凡を理解した。

「でも、先ほどはカイトさんがティナさんに突進していった様に見えたのですが……」

「あ、いや、合わせて模擬戦形式で……な?」

「うむ、カイトに余の全力<<火球(ファイア・ボール)>>を全力で防いでもらったのじゃ。」

「ええ。自分の力がどの程度か知ってもらうには他人と比較するのも有効かと思いまして。一応危ないと判断した場合は此方で止めさせて頂きました。」

 クズハがそうフォローする。それを聞いた桜は少し考えて

「なら、私も一回(スキル)を試してみてもいいでしょうか?」

「ん?それならオレで良ければ防御役になるが?」

「ええ、お願いします。じゃあ、先ほど教えていただいた風撃(ウインドウ)を使ってみます。」

「ああ、分かった。……こっちの準備は大丈夫だ」

 そう言ってカイトは魔術障壁を展開し、桜の攻撃に備える。

風撃(ウインドウ)!」

 桜は30秒ほどの時間を掛けて丁寧に詠唱し、空中に魔術式を投影する。ぼん、という音ともにカイトにかなりの勢いのある風がぶつかった。が、何枚もあるカイトの障壁の第一層も破壊できなかった。

「……やっぱり威力はないですね。」

「まあ、さっき教えて貰ったばかりだろ。仕方ないさ。」

「余のように何回も練習して使える様になってからじゃな。」

 カイトとティナは二人して桜を慰める。

「はい。……多分、模擬戦もまだ早そうですね。」

 桜はカイトとティナに比べて劣っているので、少し落ち込んでいる。カイトはそんな桜を見て少し考える。

(学生たちの中には他人と比べてどの程度の実力が付いているのか知りたい奴は多いはず……なら、いっそ……)

『クズハ、少し質問なんだが……。』

『何でしょう。』

『学生たちの中で、勝手に模擬戦をやった奴はいるか?』

『いえ、今のところは居ませんね。ですが、学生たちの中には模擬戦を行おうとする学生も、少なからずいるようです。傾向としては、率先して冒険者となろうとした者の間で多いようです。』

 密偵が密かに調べた学生の現状を報告するクズハ。カイトはそれを聞いて更に考える。

『やはり、か。クズハ、学園に戦闘訓練用の武具を持ち込むことは可能か?』

『ええ。出来ますが……。』

 戦闘訓練用の武具とは、とある特殊な魔石を組み込むことで、この魔石を着けた装備の者同士の攻撃が直撃しないようにしてしまう効果をもたせた武具であった。怪我の危険性が少ないので、特に模擬戦形式での訓練で使用されている。

『模擬戦、させてみるか。今ならばまだ学生たちの間での能力差も少ないしな。』

『でしたら、最近開発された魔導具を試してください。』

『ほう、新型とな?』

 クズハの言葉に、ティナが興味を覚えたらしい。興味深げに問いかけた。

『はい。一応武具もそれ用の物を持ってこさせますが、今回開発された新型はアクセサリー形式の物で、それを付けるだけで専用の武具と同じ効能を発揮する、との物です。皇国麾下の研究所が近年開発した物なのですが、最近になり、広く試験をして欲しいとウチにも回ってきたのです。』

『ほう、便利だな。』

 カイト達を含めた一定以上の実力を有する者では、そういった訓練用の武具は使えない。武具の方が耐え切れないからだ。それが解消されるなら、確かに試してみる価値はあった。

『なら、ちょうどいいか。それの試験を含めて模擬戦をやるか。』

『今なら何かあってもすぐさま止めることも出来ますしね。組み分けはどうなさいますか?』

『一応遠距離と近距離に分ける必要はあるだろう。相手は……まあ、くじ引きでいいだろ。詳細はまた考えるか。日程は今週末でいいんじゃないか?』

『まあ、後は他の隊員達が何と言うか、ですね。』

『一応訓練の一環としておくか。そのほうが名目上いいだろう。』

 その後、教官を務める隊員たちに相談した所、多くの者が同じ様に考えていたらしく、週末に模擬戦が行われる事になった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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