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第51話 スキル

 学生たちへの戦闘訓練が開始されて2週間。訓練予定も半分ほど経過したある日。この日から本格的に(スキル)の訓練が開始された。


「では、今日からは魔術を用いた技の練習に入ります。ユリィさん、(スキル)の説明をお願いします。」

「りょーかいでっす!さて、まず(スキル)について、だね。これは簡単に言って、特定の手順で発動させる魔術的な現象の1つ、かな。近接で有名なのだと、剣技の基本の<<残波(ざんぱ)>>……斬撃を飛ばす技とか、槍に雷なんかの属性を乗せる<<紫電突(しでんとつ)>>が基本として有名かな。まあ、基本であるが故に、応用範囲は広いから、いろんな派生技も存在しているよ。例えば、<<残波(ざんぱ)>>の派生には斬撃を細かくして、無数に生み出した<<時雨(しぐれ)>>、更に力を増し、斬撃を十字形にした<<十字斬波(クロス)>>、なんかが有名かな。」


 この2つは大本が<<残波(ざんぱ)>>という1つの技だが、共に開発した者が異なる。それ故、ネーミングの系統が異なっていた。とはいえ、この程度の似た技ならば、流派問わずに存在しているのだが。


「魔術は言うまでも無いよね。その全てが(スキル)に属するよ。さて、魔術師以外だとこの(スキル)は発動手順は人によって、(スキル)によってまちまち。まあ、人から教えてもらったりした場合は同じ手順になるけど、自分の開発した(スキル)だと同じものはなくなるよ。でも、共通して武器に魔術式を付与して魔力による攻撃力や範囲、攻撃の数なんかをブーストすることになるかな。まあ、この(スキル)は派生系、もしくは上位に武器技(アーツ)って言うのが別にあるんだけど、皆は当分、というかまあ、理由があって使えないから省くね。」

「魔術師以外、と言うたが魔術師では違うのじゃな?」

「うん。自分で開発した魔術式こそ人によって異なるけどね。でも、一般に普及している戦闘用魔術式なんかだと、全部同じ。その代わり、魔術師の使用する魔術式はどれもが複雑かつ長大だったりするから、多くは魔術師以外で使い物にはならないよ。」

「使い物にならない、ということは一応魔術師でなくてもつかえるんですか?」


 微妙な言い回しの差に気づいた桜が質問を行う。ユリィは桜が気づいて満足だったらしく上機嫌で説明を続ける。


「うん。だからたまーに、近接戦闘しながら魔術を行使するような魔術戦士なんかいるね。まあ、多くの近接戦闘を主に行う人が遠距離で戦う場合は、斬撃や衝撃を飛ばす(スキル)等での遠距離攻撃や、自分の速度を上げることで間合いを詰めたりするから、あまりお目にかかれないけどね。でも、下級魔術程度なら目眩ましに使う人は多いかな。」


 これは、一道は万芸に通ず、ということだ。近接を極めた戦士ならば、(スキル)を使わなくても普通に斬撃に魔力を載せて飛ばすことなぞ容易なのだ。(スキル)を使えば、それこそ斬撃の発生ポイントを遠距離に指定して発生させることも出来るのである。そうなれば、魔術師が遠く離れた所に居ようと問題ない。

 魔術を極めた魔術師ならば、即座に発動できる簡単な魔術であっても、必殺の一撃に成り代わる。戦士が攻撃を繰り出す速度で魔術を行使できるなら、懐に入られた所で何ら問題は無いし、最高位の魔術の1種である転移術を行使すれば、そもそも距離を取るなぞ簡単なのだ。

 それ故、カイトもティナも遠近両方できるが、やはり二人共何方か一方に重きを置いているのである。とは言え、この二人は訓練や模擬戦と称して二人で戦いを続けていった結果、カイトは既に老練の超高位の魔術師であっても不可能な古代魔術(エンシェント・スペル)クラスの行使が、ティナは武器技(アーツ)の行使も容易なので、もはや何方でもその道でやっていける程度の実力は持ち合わせているのだが。


「下級魔術じゃと<<雷撃(サンダーボルト)>>や<<火球(ファイア・ボール)>>じゃな。これらは子供でも比較的簡単に使える者が多いらしいのじゃが、余らにはまだ無理じゃな。」


 そう言ってティナは<<火球(ファイア・ボール)>>を詠唱して20秒程度時間を掛けて発動させる。


「桜は中距離じゃから、懐に入られた場合用に近接仕様の魔術式を覚えておいて損はないじゃろう。」

「桜さんの場合は薙刀による中距離からの戦闘になりますから、遠距離魔術を覚えておいて援護を行うことも出来ると、戦略に幅が広がるでしょう。」

「逆にオレの場合は牽制で隙を埋める方向で覚えるつもりだ。手数重視だな。桜がもし薙刀中心で戦うなら、それでもいいだろうな。」

「うーん。カイトの場合は遠距離も<<魔力爆発マナ・エクスプロージョン>>の応用の攻撃で済ませるなら、そっちのほうがいいかもね。」


 桜以外の全員がすでに自らの戦闘スタイルを物にしているので、全員が桜へのアドバイスに徹することが出来るのである。それ故に、桜は自分の事にのみ、集中できた。


「まあ、やるにしても、薙刀の(スキル)と魔術の最下級のどれか一つを学ぶことに徹したほうがいい。あまり多くに手を出し過ぎても、結局は出来なかった、というオチになりかねないからな。」

「……そうですね、わかりました。で、カイトさんとティナちゃんはどんな(スキル)を学ばれるおつもりなんですか?」

「オレは剣技の基本の<<残波(ざんぱ)>>と、切り札に<<魔力爆発マナ・エクスプロージョン>>の応用技だな。こっちはさすがにオレにしか出来ない持ち味だから、存分に活かすつもりだ。」


 <<残波(ざんぱ)>>とは剣技の基本技の一つで斬撃を飛ばす技であった。この技は近接戦闘志願の多くの学生達も基本技として練習している。


「余はさっきの2つに加えて各種属性の基本技のみはおさえておくつもりじゃ。」

「うん。下級魔法の中でも最下級なら今から2週間もあれば習得出来るよ。」


 これら最下級の魔術については、本当に子供たちが手習い程度で覚える事なので、そんなに時間が掛かる事は無いのだ。子供でさえ、一ヶ月あれば習得可能な技であった。魔術であれば学園一適正がある、とされているティナであれば、一ヶ月の訓練期間で出来ていても疑いは持たれないのであった。


「桜はどうするつもりだ?」

「私は薙刀の基本技と発動速度の早い魔術式を覚えておこうかと。」

「なら、とりあえず<<風撃(ウインドウ)>>だね。基本的に光属性と雷属性、風属性は発動と攻撃速度が早いよ。ただ、光属性の最下級は補助技だし、雷属性は複合だから若干難しいかな。風属性だと基本属性の一つだから比較的簡単だし、それなりに範囲もあるから、牽制と間合いを取るのにどちらでも使えるよ。」

「わかりました。では、ご教授お願いします。」

「うん、了解。クズハさんはカイトとティナをお願いね。じゃ、桜、向こうで練習しよっか。」

「はい。」




 二人が声が届かないところまで離れた事を確認した後、クズハが問いかける。


「で、お兄様。桜さんの見立てはどうですか?」

「まあ、飲み込みは早いな。あと、薙刀については筋がいい、と思う。」


 なぜ断定しないのか、というと、カイトは薙刀を主武器としていないからであった。さすがに主武器としていない武器についてまで、カイトは判断を下せなかった。


「うむ。魔術についてはまだこれからじゃな。じゃが、魔力操作をうまく出来ておるところを見ると、こちらも難なくこなせるようになるじゃろう。」

「まあ、そうだろうな。コレばかりは天性の性質に影響するからな。」

「お主が膨大な魔力を持っていながら近接を選ぶのと同じじゃな。」

「まぁな。こればかりはないものはどうもしようもない。まあ、一応全部の最上級魔術行使が出来る程度の才能があったことを喜ぶべきだな。」

「そう言いつつ古代魔法(エンシェント・スペル)まで使えるお主はどうなんじゃろうな。」

「お前はそれを戦闘中でも使える才能があるだろう。オレより才能が桁違いだろう。」

「近接で負けておるのにこっちで負けてはかなわん。」

 どちらにせよお二人共おかしいのですが、そう思うクズハであったのだが、口には出さず、代わりにこう言った。

「では、桜さんはそのように評価しておきます。また他の隊員から上がってきた学生たちの現状を書類に纏め、お兄様のお部屋においておきます。後ほどご確認ください。」

「ああ、助かる。」

「ならば余もカイトの部屋で見るとするかの。」

「ええ。そのようにしてくだされば複製する必要がなく、こちらも助かります。」


 そう言って一息つく三人。そうして、三人は一息ついて同じことを考えていた。


(やることがない……)


 本来は教官役たるクズハがティナとカイトを教えるべきなのだが、300年経った今でも、二人の方が教える立場となってしまう。クズハが教えられる桜にしてもユリィが教えているので、三人にはやることがなかったのだ。そして数分経過した所でティナが何かを思いついた。


「のう、カイト。」

「ん?なんだ?」

「久々に組手せぬか?」

「組手?朝もやっただろ?」


 確かにカイトとティナは日課として毎朝戦闘訓練を行っている。

 カイトは忘れかけているが、ティナはかつては戦闘狂とも仇名されるほどの戦い好きな武闘派の魔王であった。最近はゲーム・アニメ・ラノベ三昧のオタクな駄王と化しているが。


「うむ。と言っても本気の組手ではなく、使える手を限った限定訓練じゃがな。」


 それを聞いたカイトとクズハが納得する。


「なるほど、最下級の(スキル)と魔術のみに限定しての組手ですね。」

「うむ。さすがにこんな所で上級魔術なぞ使えんからの。」


 桜の方を見れば、どうやら此方からは見えない位置にいるらしく、少しの間なら問題なさそうだった。


「……まあ、いいか。使用可能な(スキル)は?」


 カイトとしても、そういった趣向を凝らした模擬戦には少しだけ興味が湧いた。その為、カイトはこれを受ける事にしたのである。


「余は<<雷撃(サンダーボルト)>>と<<火球(ファイア・ボール)>>の2つのみにしよう。」


 発動速度に優れる雷属性と火力に優れる火属性の選択だった。なにげに本気で勝ちに来ている。


「じゃあ、オレは<<残波(ざんぱ)>>だけだな。代わりに魔力で作り上げた武器を使う。」


 こちらは高威力の(スキル)と手数を繰り出せる武器のみだ。

「わかっていると思うが、武器技(アーツ)使うなよ?お主の武器技(アーツ)はかなりチートじゃからな。」

「わかっている。勝敗条件は?」

「お互いに張っている魔術障壁の表層第一層を破られれば負け、でどうじゃ?」

「とことん初心者設定だな。いいだろう。」


 条件を決めつつ準備を始めるカイトとティナ。

「クズハ、悪いが周囲へ誰かが入ってこないか監視と内部の隠蔽する結界を頼む。」

「わかりました。周囲への監視と隠蔽は此方で。ただ、あまり強い攻撃を与えると結界が解ける可能性がありますので、お気をつけを。」


 そう言ってクズハが結界を張ったのを確認し二人は戦闘態勢を取ったのである。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・誤字修正

『技属する』となっていた所を『技に属する』と修正しました。

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