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第46話 武器選び

 カイトらマクスウェルにて冒険者登録を行った面子が天桜学園へと帰還した翌日。学園の会議室の一つに、登録した生徒とルキウスを筆頭に公爵軍正規部隊の幹部の面々が集まっていた。


「では、武器の選定を開始してもらうのだが、この武器の選択は諸君らにとって最も大切なものだ。なぜだか、わかるか?」


 そう言ってルキウスは前列にいた生徒の一人に問いかける。


「……自分の身を守る為、ですか?」


 指名された生徒は少し悩むも、最も正しいと思った答えを述べた。


「そうでもある。しかし、同時にこの武器一つで同時に他人の命を奪いも守りもできる。」


 そう言ってルキウスは鞘から剣を抜き、その輝きを誇示する様に一同に見せる。誰もがその威容に息を呑んだ。その片手剣は綺麗な銀色の光を湛えており、明らかに業物と見て取れたのだ。そうして、ルキウスはヒュン、と一度剣を振るい、鞘へと納めた。


「もし、武器が手になじまんと思えば、即座に我々に相談してくれ。相談を受けられるのは今日と明日の締め切り迄だ。早い者では7日後からは、武器を使用した訓練を行うことになる。それ以後は実戦だけではない、訓練でも一つの間違いが命取りになる……私の父の友人が一人、つい昨年、訓練中の事故で亡くなっている。彼は素人ではない。戦士として、既に私の一生以上……20年以上もの月日を戦士として過ごしてきた方だ。そんな方でさえ、ふとしたミスで命を落としているのだ。十分に気をつけてもらいたい。」


 彼は真剣な眼で、一同に告げる。一応、訓練では刃引きした武器や鏃を潰した矢を使用するなどして、安全には十分に念を入れている。しかし、それでも、扱う武器は重い金属で出来た剣や勢いが乗った矢なのだ。当然、射た矢が目に中れば失明するし、剣で頭を打てば最悪、命を落とすだろう。治癒の魔術が使える術者は常時待機させているが、何事にも限度がある。間に合わなければそれでお終いなのだ。

「……怪我をするのは何も自分だけではない。隣にいる君たちの友人達にも、だ。それを、忘れないでくれ。」


 そう言って締めくくるルキウス。その言葉を学生たちと教師たちは真剣に心に刻んだ。

「では、皆さん。ここにある武器は刃引きされているので、手にとってみても比較的安全ですので、ご自由に。もし、素振りしたい、という人は隊員に声を掛けて、外でお願いします。防具は武器を決めてから、です。今日から一週間、ここに展示しておきますので、なるべく自分に合ったものを選んでください。」

 そう言ってリィルは練習用の武器にかけていた幕を取り払った。取り払った瞬間、学生の一部からおぉ、という歓声が上る……かと思われたのだが、先ほどのルキウスの真剣な演説はよほど堪えたのか、あまりどよめきは起きなかった。


「全員、決まったら用紙に記入してこの箱に入れろよー。」


 生徒たちが静まり返ったのを待って、教師の一人が持ってきた箱を示す。生徒会長選挙で使用された投票箱だった。


「何か質問はありませんか?」


 そう言ってアルが問いかけると一条が手を挙げる。尚、アルはさすがに公ということで、丁寧な口調を心がけている。当たり前だが、アルとて丁寧な言葉遣いは出来ないのではない。


「俺は投槍を主武器としたいんだが、投擲武器の使用者はどうすればいいんだ?」


 この質問には特に弓道部の面々が気にしていたことであった。彼ら弓矢を使う者にとって、矢尽きると言うことは戦う術を失う、ということだ。


「投擲武器を使用される方はあの一角を使ってください。」


 アルはそう言うと小さな魔石が嵌められたグローブや籠手のある一角を指さした。そちらには既にリィルが待機していた。


「これらの武器は投擲系をメインで使われる方用に開発された魔石を使用したものです。使用者の魔力を使用して投槍や矢を顕現する魔術式が刻まれています。ただ、使用に際しては顕現させたい武器を強固にイメージする必要がある上に、顕現している間は常に魔力を消費していきますので、魔力切れには注意してください。」


 そう言ってリィルが実際に籠手を身につけて投擲用の槍を顕現させた。それは陸上部の学生たちが良く見る競技用の槍とは異なり、全てが金属で出来ていた。重さもしなりも全てが競技用の物とは違う、実戦で敵を射抜くための、武器であった。


「まあ、私は日頃から投槍を目にすることがありますので、簡単に顕現しましたが、皆さんは簡単には顕現しないはずです。始めのうちは実物の矢や投槍を使い続けて顕現させたい武具のイメージを固めてください。尚、このグローブには意味が余りありません。どちらかと言えば、防具としての役割こそがメインです。ですので、選定ではグローブ等の着用感重視で決定してください。他に質問は?」


 そう言って今度はティナが質問しようと手を上げた。ティナの正体を知る幹部陣全員がティナが質問するとは思っていなかった。幹部陣は不思議に思ったのだが、無視するのも変なので、リィルが代表して質問を聞く。


「余は魔術師希望なのじゃが、杖は何を基準にすれば良いのじゃ?」

 それを聞いた幹部陣が納得する。誰もが質問しなかった為、彼女が助け舟を出したのだ、と考えたのだ。

「はい。それは此方に材質、重さを実物と同じにした杖を各種用意しましたので、そちらに魔力を通して使い勝手を確認してください。」


 ティナが聞いてみた質問は当たり前のことであったので、部隊の幹部陣は頭をかしげる。


「……出来ぬぞ。魔力を武具に通すことなぞ。」

「は?」

「だから、杖に魔力を通すことができんというのに、どうやって選べというのじゃ。」

「……あ。」


 どうやらエネフィア出身の全員が当たり前にできることであったので、気付かなかったらしい。ティナはそこに気づいていた為、質問の形を取った指摘したのであった。カイトとティナは今の時代の初心者用の武器の選定方法がわからなかったので、彼らに初心者用の武器の選定方法の相談を任せたのだが、それ故、気付くのが遅れたのである。


「ルキウス隊長代行、どうしましょうか。」

「む……これは盲点だった。」


 彼もまた、エネフィア出身として幼いころから出来ていたので、気付かなかったのだ。


「まあ、実際に使用するのはまだ先だから、魔力の使い方を学んでからでもいいんじゃないかな。」

「それもそうか。奥様へは後ほどお伝えするとして……。」


 ルキウスは幹部陣で決定した事を天桜学園側に提案する。


「とりあえず魔術師志願の方には魔力操作を学んでもらってから実際に杖に魔力を通して選定する、ということでどうでしょうか。」

「ええ、こちらはそれで構いません。まあ、実際に何人が魔術師志望かはわかりませんが……。」


 ティナの質問に何人かが頷いていたところから、少なくともティナ一人でないことは確かだろう。


「申し訳ありません。此方の見落としでした。魔術師志望の方は魔力操作を覚えてから選定、ということにさせていただきました。その時に杖をお見せするので、再度選定していただきます。」

「なるほど、わかったのじゃ。」


 そう言ってティナは納得し、用紙に名前と使用武具を一足先に記入した。


「では、選定を開始してください。」


 その一声で学園生は各々思うがままに武器を探しに行った。




 武器選びに学園生が精を出すのを横目に見つつ、カイトはユリィと話していた。


「ソラは昨日言っていた通りにアルと相談しているのか。」


 見ればソラとアルがかなり真剣な様子で話し合っていた。


「魅衣と由利、ティナは早々と武器は決めて防具選びだね。……ファッションショーになってるけど。」


 此方の三人は早々と武器を決めたので、防具のコーディネートを選んでいた。もしかしたら武器選びの時よりも真剣である。


「カイトは防具どうするの?」

「さすがに防具だけは昔のを使う。回復魔術も多用するつもりだ。さくせんは、いのちをだいじに。」

「は?どういうこと?でも、初心者と一緒の行動なら別にカイトなら手ぶらでいいんじゃないの?」

「いや、攻撃面はオレとティナなら最悪徒手空拳でも魔術で何とでもなるが、防御面はきちんとしないと命に関わる。」


 カイトとティナならば最悪武器を魔力で創り出せるので、問題にはならない。しかし、防具無しだと守りは魔術での障壁になるので、疎かには出来なかった。防具も魔力で創ることも出来たが、魔術・魔力をキャンセルされれば終わりなので、物理的に防げる防具は重要であった。


「カイトさん、もう武器は決まったんですか?」

「桜か。ああ、まあな。そう言う桜は薙刀か。」


 桜は外で素振りしたらしく、薙刀を持ち、少し汗をかいていた。


「ええ。やはり使い慣れた物は使いやすいですね。」

「あれ?桜は薙刀の経験があるの?」


 桜が名家の令嬢であることを知らないユリィが疑問に思ったらしい。


「はい。天道家の子女として、嗜み程度ですが……。カイトさんは何を選んだんですか?」


 ユリィは魔術戦以外で戦力となるとは考えていないため、桜はユリィには尋ねなかった。


「カイトは確か刀だっけ?」

「正しいし、間違いでもあるな。」


 そう言ってカイトは人の悪い笑顔を浮かべる。彼本来の、何か悪戯を考えている時の笑みだ。


「どういうことなんですか?」

「ちょっとお耳を拝借。」


 そう言ってカイトは桜の耳に口を近づけて何かをヒソヒソと話しを始める。ユリィの視線が痛かったが、カイトは気付かなかったフリをした。


「そんなこと、本当にできるんですか?」


 話を聞き終わった桜は訝しげな顔で問いかけた。一応、出来るかも、とは思いつつ、出来ない、と思う心が大半なのであった。


「理論上は、可能だろう。」

「ああ、あれやるんだ。」


 二人の様子を見たユリィはカイトの意図を理解した、という風に応えた。当然ながら、カイトの戦い方の全てをユリィは理解していた上、既に天桜の生徒としてどんな戦い方をするのかは説明されていたのである。


「出来るよ。理論上、というか、実際にそれを応用した魔術もあるしね。」

「へぇー。カイトさん、よく思いつきましたね。でも、カイトさんの戦い方を見たら皆さん真似をしません?」

「真似をするのは自由だけどな。だが、始めからこんな裏ワザみたいな技を頼るのもな。まあ、誰かに教えるつもりはない。それに、武術の稽古にもならんからな。」


 カイト自身はどうするんだろう、そう思わないでもない桜だがカイトも同じ事を考えたらしく

「一応クズハさんにも相談して密かに模擬刀はもらえるように手配した。武術の稽古には出るつもりだ。」

「そうですか。でも実際に戦う時にはどうするんですか?近接戦闘できませんよね。」

「ああ、それは……見せたほうが早いか。」


 そう言ってカイトは近くに居たルキウスのところへ行き外で使い勝手を確認する事を伝える。ルキウスはカイトを知っているので、即座に許可を出し、三人は校庭へ向うのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2016年6月2日 追記

・誤字修正

『使用た』となっていた所を『使用した』に修正しました。

『そ防具』となっていた所から『そ』を削除しました。

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