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第44話 受領

 今回で第3章は終わりです。次回から、第4章が始まります。

「で、偽装登録証は可能か?」

「ええ。事情が事情ですし、カイト殿のお立場を考えれば、致し方のないことかと。」


 更には公爵家より依頼も出ている為、断る必要がなかった。


「ただいま戻りました!カイトさ……ま、ユリシア様、サインください!あと、できればユスティーナ様のサインもください!」


 雑貨屋から戻ってきたミリアは早速色紙を取り出し、カイトとユリィに渡す。それぞれ6枚渡された。途中普通にさん、といいそうになり言い直した。


「ティナはあっちだから、後で聞いてくれ。……サインってこんなもんでいいのか?オレの花押を崩したものを書いてみたんだが……。」


 カイトは受け取った色紙にサインしながらそう言って、ユハラと話しているティナを指さす。


「ティナちゃんが魔王様だったんですか!あれ?でも確か、妖艶な美女ってお話が……。あ、それでいいです。一人2枚お願いします。私達の名前も……あ、彼女はユニアさんです。」

「ああ。それはティナがクラウディアのスタイルを妬んでそう書き記させたの。」


 ニヤニヤしながらユリィが嘘をつく。ミリアは、魔王様でも大変なんですね、と若干の同情を覚えたがカイトは呆れながら訂正する。


「いや、嘘だぞ?オレもティナも魔術で姿を変えているだけだからな?」


 そう言って一旦元の大人の姿へ戻るカイト。そして、すぐに元に戻った。


「いまのがカイト殿の本来のお姿ですか?」

「本来、という意味ならどうかはわからん。一応地球での年齢ならこの姿が本当なんだろう。だが、こっちで過ごした時間を考えるなら、やはりさっきのが本来の姿だな。」


 なるほど、と納得するミリアとキトラ。対して、約一名。何も理解できていなかった人物が居た。


「……今のは?」

「ん?ただの容姿変更魔術だが?別に一般的では無いだろうが、珍しくも無いだろう。」

「いえ、ですから、なぜ異世界の学生さんがつかえるんですか?」

「まだ、理解していなかったのですか……。ミリア、ユニアに説明して上げなさい。」

「ユニアさん。ちょっとこっちへ。」


 そう言ってミリアはユニアを結界の範囲外から出ない程度に離れた場所に連れて行き、事情を説明する。


「ありがとうございます。では此方も偽装登録証を発行してきます。」


 サインされた色紙を受け取ってキトラは奥へと戻っていった。




「まあ、偽装証なら発行は時間かかるよねー。最後なのに時間かかるから、皆待たせることになるけど。」

「……申し訳ありませんでした。カイト様がかの伝説の勇者だったのですか。」


 そう言ってユニアが戻ってきた。そして、二人は書き終わった色紙を渡した。


「ありがとうございます。ミリアはユスティーナ様にサインを頂きに行きました。それで、勇者様はなぜそのお姿で学生を?」

「それは若い人がうらやまし……もが!」


 カイトは相変わらず嘘を教えようとするユリィを即座に黙らせる。


「オレが300年前に転移した時は13歳だったことは知っているか?」

「いえ、物語では、そこまでは……。」

「ああ。それでそれから十数年こっちで生活したんだが、当然歳は取る。そうなれば体も成長する。まあ、そのままこっちに居続ける気だったからそれで良かったんだが……。」

「かつての一件でニホンに戻ることになったわけですね。」

「あの当時の裏事情をしっているのか?」


 当時カイトがニホンへ戻ったことは、対外的に見れば皇国の恥とも言える一件であった。そのため、カイトは一般にまで知らされているとは考えていなかった。


「ぷはっ、あ、それはカイトが帰った後にキレたウィルが密かに流布させた。腐敗した貴族共はコレを契機に心を入れ替えろ、ってね。今じゃ公然の秘密になってるよ。」


 なんとかカイトの束縛から抜けだしたユリィはカイトの肩に座り説明する。


「まあ、貴族共も領民から失望されるのは御免か。」


 民衆から熱烈に支持される勇者を貴族同士の揉め事で帰らせたことが解ると、どんな批判を浴びるかわかったものではない。この噂はかなり効いたらしく、即座に効果が現れたらしい。


「まぁねぇ。あの後当分は貴族共も大人しかったよ。ウィルはお陰で改革をやりやすかった、って喜んでたよ。あいつはいなくなってからも役に立つな、とかなんとか。」

「ウィルは相変わらずだったか。で、話を戻すが、地球に戻ることになったオレだが、地球ではどれぐらいの時間が経過しているかわからなかった上、目印が自分の家しかなかったからな。13歳当時の姿を取って帰還するしかなかった。」


 そう言って今度は13歳当時の姿を取るカイト。すぐにまた元に戻った。


「懐かしいねー。素直でいい子だったのにねー。どうしてこんな生意気になったんだろうねー。」

「うるさい。誰のせいだと思っている。まあ、地球では一時間程度しか経ってなくてな。次の日からは中学に通った。……まあ、さすがに普通とは行かなかったが。」


 カイトは性格が一変するなどかなり変化があったのだが、カイトの家族は急な中二病か?程度にしか考えていなかったため、問題にしなかった。中学校では問題があったが。


「まあ、その後ティナの生活費などに目処を着けたんでな。そこからはティナも容姿を変えさせて学校に通わせた。」


 ティナについては姿を偽装し、魔術で国籍などの公式な書類を新たに入手し、魔術や使い魔を用いて株式投資などで稼いだ。元手は魔術による高確率な占いで当てた宝くじを使った。


「そうだったのですか。」

「うむ、そうじゃな。あの当時はなぜ余も学生としてガキに混じって授業を受けねばならんのか、と思っておったが、なかなかに良いものじゃったな。」

「なんだ、来たのか。」

「うむ、サインを渡しにな。」


 そう言ってティナはユニアにサインした色紙を渡す。


「あ、ありがとうございます。大切にします。」

「カイト様もユリシア様もありがとうございました。」


 そう言ってミリアも受付の職員側の席へと戻ってきた。


「二人共、オレ達は元の通り、様じゃなくていい。疑われないようにするのに窓口頼んでるのに、様付だと逆に疑われる。」

「……そう、ですか。わかりました。では、カイトさん、ありがとうございました。」

「ああ、それで頼む。」


 そうしている内にキトラが登録証を持って戻ってきた。


「む?キトラか。ほれ、余の分のサインじゃ。」


 そういってティナはサインを書いた色紙をキトラに渡す。


「ありがとうございます。まさか伝説のお三方からサインを頂けるとは……。」

「うむ、家宝にするとよいのじゃ!」

「そんなに大層なもんじゃないだろ……。」

「いえ、そうさせて頂きます。では、此方が偽装証になります。お分かりとは思いますが、変更点への説明の必要がお有りですか?」

「ああ、頼む。この300年で変更点があるのか?」

「ええ、そうですね。では、説明を。まず、この偽装証ですが、知っている職員が限られていることは同じです。材質がミスリルから、量産型ミスリルに変更されている点も通常の登録証と同じです。ただし、通常の登録証では魔石の発光と魔石の色が一致し各員で固定ですが、偽装証では発光直前の一瞬だけ違う色に魔石が変化します。また、登録証自体にも偽装証である目印が刻まれています。色は毎年変更されますので、一年ごとに各地の支部で変更してください。偽造証を知る職員の見分け方は嘗てから変わっていません……まあ、ミリアを見て判断されていらっしゃいましたので、わかると思いますが。」


 そう言われてカイトも偽装証を発光させてみると、カイト由来の蒼色の魔石が蒼色の光を放つ直前、カイトでさえ注意しなけば気づかないぐらい一瞬だけ魔石が白色に変化した。


「今年は淡い白色です。」

「今年は白色なのか。発光パターンのリズム化はなくなったのか?」

「ええ、120年ほど前に。当時のユニオンの機密資料が流出し、偽装証の見分け法と存在が露見しかけましたので、それまでの方法をほとんど破棄しました。変わっていないのは情報が流出しなかったカバーだけですね。偽装証用のカバーはお持ちですか?」

「まあ、当時のは偽装が簡単そうだったからな。カバーは昔と同じか?」


 個人由来の魔石の色を発光直前の極一瞬だけ変化させる方法は、かなり高度なものであった。カバーとは登録証を入れるカードケースの様な物である。荒事の多い冒険者の特性上、そのまま所持していると破損や傷の恐れがあり、冒険者必須アイテムであった。カイトの登録証はそれでも破損したので、カバーもヒヒイロカネ製である。


「ええ、300年前と変わりないようです。魔石の発光だと偽装は難しいですし、あれだけ短い時間だと、知っている者しか気にしようとしませんからね。」

「なら昔のを流用できるな。まあ、渡されただけで一度も使ってないが。」

「確か、支部長は流出阻止の功績を讃えられて50歳の若さでユニオン幹部へ迎え入れられたのでしたよね?その後、いろいろあってマクスウェルの支部長、でしたっけ?」


 そう言ったのはミリア。どうやらキトラが流出事件に一枚噛んでいるらしい。


「ええ、まあ。まだ170の若造ですが、その御蔭で支部長をさせて頂いています。本当はまだ旅にでたいのですけどね。今でも弓とレイピアの鍛錬は欠かせていません。」

「そうか……。170歳か、かなり若いな。一つ気になっていたんだが、マーベル姓なら族長の家系か?」

「ええ。父はキラト・マーベル。カイト殿に救われたと聞いております。カイト殿がいなければ私も生まれていなかった、と。」

「ああ、あいつか。なら支部長は現族長の従兄弟か。それなら、もしかして……。」

「あはは、お恥ずかしい。ええ、昔は父や伯父と同じくかなりやんちゃ坊主でした。」


 少し照れた様子で、カイトの言葉の後ろに続く言葉を認める。キトラの父キラトと現族長の兄弟は少し閉鎖的なエルフにあって、かなりの好奇心旺盛な青年であった。そのせいで一度命を落としかけたのであるが、その際に偶然やって来たカイトらに救われた。


「まあ、父からカイト殿の話を聞いた私はマクスウェルへ来て冒険者として登録したのですよ。」

「そうか。二人は元気か?この間引退した前族長達にはあったが……。」

「ええ、元気ですよ。たまに今でも二人でどこかに出かけていらっしゃるらしいです。」

「そうか。じゃあ、また里へ行くときには挨拶に伺うとしよう。偽装証、確かに受領した。」

「はい、カイト殿。ご武運を。」


 キトラは、そう言って受付を離れたカイトを見送り、自分も秘書を伴い奥へと戻っていった。ミリアは再び何事もなかったかの様に、席に戻ろうとして、何があったのか聞きに来た同僚たちをはぐらかすのに、苦労したのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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