第43話 伝説の帰還
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ようやく順番がまわってきて、ほっと一安心したカイトとユリィ。当然だが受付ではミリアが待っていた。
「あ、次はカイトさんとユリィさんですね。では、まずは登録に際して魔力波形を取らせていただきますね。」
そう言ってミリアはカイトの魔力を測定するために装置の準備を行う。
「では、そこの部分に手をおいてください。すぐに測定は終わります。」
カイトはどうなるかわかっているものの、言われた通り、手を装置の上に置く。すると即座にエラーが吐き出される。ミリアは結果を疑問に思いつつももう一度測定を行う。しかし、結果は当然エラーであった。
「カイトさん、どこかの窓口でもう登録終わりました?すでに登録済みって出てるんですけど……。一応規則として登録済みの方は二重登録出来ない仕組みになっているんですよ。」
カイトはこうなるよな、と思いつつもまずは周囲の防音結界―受付では冒険者の戦闘能力に関する話をすることもあるので、周囲には聞こえないような結界を張っている―をバレないように強化する。
「ああ、結構前に、な。それで、偽装証の発行を依頼したい。」
偽装証は―正式には偽装登録証と言うのだが―、冒険者が特殊な事情によって名前やランク等を偽装せざる負えない場合にのみ発行される公的な登録証である。が、当然偽物である上、悪用されても困る制度なので、本当にごく一部の職員と冒険者にしか、その存在と見分け方は明かされていなかった。
「……なんのことでしょうか。そんなの存在しませんよ?」
知るはずのない物を知っているカイトに一気に警戒心を露わにするミリア。カイトの予想通りに知っていたらしい。
「まあ、そうなるだろうな。」
そう言ってカイトは自分の登録証を取り出し光らせ、クズハからの手紙をミリアに差し出す。
「……本物ですか。これは……ヒヒイロカネ?ヒヒイロカネで出来た登録証なんて聞いたことが
ないですね……。名前はカイト・アマネ。ランクは……EX!」
ミリア自身が解説した通り、ランクEXとなったカイトなる人物は勇者その人しかいない。さらに発光させられたのなら本人のものであるのに間違いは無かった。
「ちなみに、私は『妖精女王』ユリシア・フェリシアだよ。ランクEX。私からの依頼で大丈夫だと思うよ。」
そう言ってユリィも自分の登録証を取り出す。此方も当然ヒヒイロカネ製のランクEX。ミリアは完全に茫然自失に陥った。
「悪いが、キトラ支部長を呼んでくれないか。……ミリア?」
「……本物の勇者様?それとやっぱり、ユリシア学長?」
狐につままれたようなミリアは、確認するようにカイトに尋ねる。
「あ、やっぱり私には気づいてたんだ。」
「ああ。そうだ。……気になってたんだが、妖精女王ってなんだ?」
「カイトとの旅の後、しばらくしてからもらった2つ名。あれ?その時居なかったけ?」
「悪戯女王の間違いじゃないのか?……もし信じられないなら、これも見てみるといい。持っているのはオレだけのはずだ。」
ひどっ、と言うユリィを無視し、カイトは指輪を2つを見せる。
「……全大精霊様から祝福を頂いた時に贈られた伝説の指輪と、全大精霊様の契約者の指輪ですか?」
頷くカイトに、真っ白になった頭でどうやら疑いようもなく本人であることを理解したミリア。
「えっと、サインください!あ、ハンカチと色紙を持ってきます!ミリアちゃんへって入れてくださいね!」
大興奮した様子でサインを貰おうと大急ぎで席から離れようとするがその前にカイトが引き止めた。
「その前に、これ持って支部長を呼んでくれ……。あ、なるべく支部長以外に登録証は見せないでくれよ。こんなのもってるのオレかこいつぐらいだから。」
「わぁ!すいません!今すぐお呼びします!絶対勝手にいなくならないでくださいね!」
そう言うや否やすぐさま支部長室へ向うミリアであった。
「支部長はいらっしゃいますか!」
「どうしたんですか?そんなに急いで……。支部長なら今は来客中です。後になさい。」
「そんな場合じゃないんです!今すぐに来ていただく必要が!」
そう言ってミリアは受け取った手紙を見せる。ドアの前にいた秘書は手紙が公爵家からのものであることを確認するとドアをノックして、中に連絡を入れる。
「支部長。公爵家より危急のご連絡だそうです。」
そう言って今度はミリアに告げる。
「ミリアさん。お疲れ様でした。ここからは私が引き継ぎます。」
「あ、いえ、実はもう一つ支部長にお見せしないといけないものがあるのですが、持ち込まれた方が支部長にのみお見せしろ、と。」
「は?ダメにきまってるでしょう。此方で預かります。」
そう言ってもう一つも受け取ろうとする秘書。当然ミリアは渡そうとはしない。実はカイトと彼女では、カイトの方が冒険者ユニオンでの地位は上なのだ。何方に従うのか、ということでは、カイトに従うのが正解なのであった。
「だから、見せられないんですって!」
「ですから……」
「お二人共、煩いですよ。会頭が来られているというのに、失礼ですよ。」
ドアの前で騒いでいた二人にキトラがドアから顔を出す。
「あ、支部長!色紙!でも無くて、ハンカチ!でもない。」
ちょうど良い時に出てきたキトラにミリアがここぞとばかりに伝えようとするが焦って違うことを言う。
「とりあえず、ミリアは落ち着きなさい。で、どうしたんです?」
「支部長。お手紙を。」
まずは秘書が公爵家からの手紙をキトラに受け渡す。
「公爵家からの手紙ですか。差出人は……!?」
中を開けて差出人を見て驚愕に包まれるキトラを不思議に思いながらも、秘書は続ける。
「後もう一つあるらしいのですが、ミリアが直接支部長にお見せするといって聞かないのです。」
「……この内容が本当なら、ミリアは正しい判断です。確かに、私に直接見せるべきです。」
「は?」
「ミリア、それでもう一つ見せるもの、とは?」
「これ、です。」
そう言ってミリアはカイトの登録証をキトラに渡す。
「……確かに本物ですね。確認は?」
キトラは全体を確認し、偽物でない事を確認する。冒険者の中でも一部にしか伝えられていない偽装防止のシステムがきちんと働いており、紛うこと無く本物であった。
「して頂きました。なお、ユリシア様もご一緒でした。」
「は!?ユリシア様!魔導学園にいらっしゃるはずのお方が、一体何故?何がどうなっているのです?」
「どうされましたか?何やら皆さん興奮されているご様子ですが……。おや、これはヒヒイロカネ製のプレートですか?珍しい。私にもお見せして頂いてもよろしいでしょうか?」
放置を食らっていた商工会の会頭が、戻ってこないキトラを不審に思って出てきた。偶然カイトの登録証を見られたが、珍しいヒヒイロカネ製のプレートと勘違いしたらしい。
「いえ、申し訳ない。これは公爵家の中でもかなりの地位のお方の持ち物らしく、我々の一存では……。ユニア、今手が開いている幹部は誰かいますか?」
即座に登録証を隠すキトラ。商工会の会頭も、公爵家の重臣のものならば無理に見せろとも言えずに引き下がった。
「は、確か何名かいたはずです。すぐに呼び出します。」
どうやらユニアと言うらしい秘書は上司の意図を理解し、即座に念話で手の空いている幹部を呼び出す。
「会頭、申し訳ないのですが、今すぐに私が対応しなければならない事案が出来たようです。申し訳ありませんが、これにて。すぐに代理の者が参りますので。」
そう言ってすぐさま秘書とミリアを伴い受付へ向かっていく。
「あ!ちょっと!」
完全に置いてけぼりを食らった商工会の会頭は代理の幹部がくるまでただ、呆然としていたらしい。
「ミリア。あなたは今すぐ向かいの雑貨屋へ行って色紙10枚セットを2つ買ってきてください。あ、これは代金です。あなたの分もどうぞ。あ、ユニアもいりますよね?」
「ありがとうございます!保存用、観賞用を三人分ですね!」
「は?色紙?なぜ私の分も?」
「はい。場合によってはユスティーナ様もいらっしゃるかもしれませんからね。まさかこんなことが起こるとは……昨日は冗談の筈だったんですけどね。」
「ええ。同じ名前だと思っていましたが、まさかご本人様とは……。じゃあ、行ってきます!」
ダッシュで雑貨屋へ向うミリアを呆然と見送りながらユニアは事情をキトラに尋ねる。
「えっと、支部長?一体何が起きているんですか?手紙には一体なにが書かれていたんですか?」
「300年前の勇者様のお話はあなたも聞いたことはあるでしょう?」
キトラは興奮しすぎたか、と少し落ち着く。ユニアは荒くれ者の多い冒険者でありながら、常に優雅さを失わないキトラもこんなに興奮することがあるのか、と驚いていた。
「この街で生まれ育った者なら誰でも知っていますよ。私も学生時代には演劇で演じましたし。それが?」
「帰ってこられたんですよ。その勇者様が。」
「はい?」
意味がわからない、そんな顔をするユニアを他所に、キトラは足早に受付へ向かっていった。
「お待たせいたしました。まずはコレをお返しします。……念の為に確認させて頂いても?」
「ああ。これでいいのか?」
そう言ってカイトは再び登録証に嵌められている魔石を発光させる。
「ええ。ありがとうございます。何分ありえぬことと思っていましたので、どうしても確認をさせていただきました。」
「申し訳ありません。一体この登録証は何なんですか?ヒヒイロカネ製の登録証なんて聞いたことがないのですが……。」
「あたりまえだよ。どっかの馬鹿二人があまりに壊すから、ティナがわざわざヒヒイロカネで作りなおしたんだから。」
そう言うのはユリィである。小型化した姿を初めて見たユニアは驚いたが、彼女はミリアと異なり小さくなっていてもユリィの正体に気づけた。
「学園長先生!お久しぶりです。ユニアです。覚えておいでですか?」
「あら、ユニアさん、お久しぶりです。卒業式の主席として挨拶に来た時が最後でしたか?」
「ええ。そのはずです。そのお姿をお見受けするのは初めてです。」
「まあ、この姿だと教鞭を取るにしても不便ですからね。ユニアも元気そうですね。」
ユリィは突然優雅な外向きの口調に変えて話す。カイトは何枚猫をかぶっているか数えたくなった。
「ええ。学園長先生もおかわりなく。それで、一体どういうことなんですか?」
「……ティナの馬鹿が思いっきり攻撃するからミスリルでもすぐに壊れるんだよ。それで再発行代がバカにならないからって、わざわざヒヒイロカネで作り替えたんだよ。一応作り替えたことはユニオンの資料にも残っているはずだが……。」
ユリィに代わってカイトが説明する。キトラは自分の不勉強を詫びながら
「申し訳ない。私も初耳です。ですが、伝説の魔王様ならば、ヒヒイロカネの加工程度、造作も無いことでしょう。」
「いや、もう300年も前のことだからな。仕方ないだろう。」
「そう言って頂ければ。」
「で、偽装証は可能か?」
知らなかったことをしかたがないこと、と片付けて、本題を尋ねるカイトであった。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年6月2日 追記
『商工会のの会頭』となっていた所を『商工会の会頭』と修正。