表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第31章 竜騎士レース編
570/3874

第548話 軍神・襲来

 試合が終わり、移動が行われる前。選手達とその関係者達は一度、全員皇城にある大広間に集められていた。国を上げてのお祭り――主催はマクダウェル家だが――だ、ということで、皇帝レオンハルトが直々にお言葉を、という事である。

 ちなみに、当然だがこれが初日に行われる理由はきちんとある。それはこれがマクダウェル家主催のお祭りなので、試合終了後には主催者であるマクダウェル家に招かれるからだ。

 とは言え、皇帝が観戦しているのに、何の言葉も無し、では色々な外聞に関わる。というわけで、無理は承知でも一日目終了と同時に、となってしまったのであった。

 なお、すでに各々の騎竜についてはすでに次の開始地点に送られており、選手達も明日の朝一番――二日目は午後から開始――で全員移動する事になっている。


「まずは、諸君。見事な戦いだった」


 皇帝レオンハルトは全員が集まったのを見て、まずは労いの言葉を送る。それから様々な言葉を送るが、それは大半が労いの言葉だ。

 というわけで、カイトは大半を聞き流す事にしようとしたのだが、そこでふと、目を見開くことになった。そこには見知った人物が居て、皇帝の言葉を気にせず一人ガブガブと酒を飲んでいたからだ。

 その男は、2メートルは優に超えるだろうかなり大柄で、まさに筋肉の鎧と呼ぶに相応しい体躯だった。体格だけなら、バランタインよりも良いだろう。短めの髪はまるで燃えるような赤色で、肌は日に焼けた様な茶色だ。服は何処か着物のような服装だが、上半身の部分はぬいでおり、もろ肌を晒していた。

 とは言え、駆け寄る事は出来ない。流石に皇帝のお言葉の真っ最中にそんな無礼は働けない。そうして終わりと同時に、向こうがずかずかとやってきた。


「おう、小僧!」

「おーう!」


 二人は再会を――顔面狙いのかなり本気の――拳で喜び合う。出会ったのは、神様の中でも最強と言われる神様。エネフィアにおける軍神にして、ルークの父オーリンだった。ちなみに、結構本気で殴りあうのが通例の為、わざわざ周囲を僅かに異空間化させていた。


「元気そうじゃねえか! 里帰りどだったよ!」

「あっははは! てめえこそ知らねえ間にガキこさえた様子じゃねえか!」


 ボコスカと殴り合いながら、二人は言葉を交わす。ちなみに、オーリンはカイトの帰還は神王・シャムロックを通して伝えられており、大して驚いては居なかった。


「おう! てめえん所で世話になってるな!」

「てめえが親父か! にしちゃあ出来たガキだな、おい!」


 一撃一撃が馬鹿げた威力の殴り合いを行いながら、二人はまるでおふざけの様に会話を行う。そうしてそれがきっちり100発を数えた所で、ガッシリと手を握って二人は握手する。


「おー……効いた」

「あー……良い酔い覚ましになった……」

「腕は衰えてないようだな」

「そりゃ、俺のセリフだ!」


 二人は今度は握力を競い合う。ちなみに、基本的に二人揃うと酔っ払ったらこういう無茶をやりあう為、シャムロック以外の神族からは絶対に飲み会以外では会わせるな、と言われていたりする。まあ、それも気が向けば終わりだ。というわけで、今回は10秒ぐらいで終わった。

 そうして、オーリンがカイトを見ながら笑いかける。彼は神様だ。並大抵の者達よりも、よくカイトの変化が理解できていた。


「で、お前さんは、随分とまぁ、えげつねえもん持ち帰ったな!」

「わかんのか?」

「どこぞ獣かそれに類する奴となんかやったか!? なんぞ幾つか変な気配しやがんな!」

「あはは……ほっといてやってくれ。男苦手とか単なる訳ありの付喪神だ……まあ、オレが勝てない奴ら結構いたわ、地球。それで結構オレそのものを強化したからな。それもあんだろ」

「がはは! そりゃ良い! こっちで貴様に条件付きでも勝てる奴ぁ滅多に居ないからな!」


 苦笑するようなカイトの言葉に、オーリンが笑う。カイトは殺し合いなら負けなしだが、試合ならば負かせる。最強と無敵は違うのである。そしてカイトは最強なのであって、無敵では無かった。条件さえ付けてしまえば、負ける事もあったのである。


「信綱公にスカサハの姉貴にギルガメッシュ殿……戦ってないがアルト、アルジュナ、カルナとかも強い。他にもヘラクレス、ジークフリートとブリュンヒルドの夫婦、フェルディア、フェルグスの大兄貴……上げるだけで枚挙にいとまがない。ぶっちゃけ、世界に名立たる英雄達がここまで高い壁とは、思わなかったな」


 カイトは地球で自らが強い、と認めた英雄達についてを言及する。これらはブリュンヒルドを除けば全て、神様ではない。その血を受け継いでいても、人間だった。それをして、自らと対等に戦えるのだ。侮れなかった。


「前の方の奴らなんぞギルガメッシュ殿を除けば、オレをして、殺されかけた。姉貴なんぞ小石でオレの土手っ腹に風穴空ける様なバケモンだ……こりゃ、自惚れなんぞしていらんねぇよ」

「でかくなりやがったな!」

「英雄を見れば見るほど、オレはまだまだだ、って理解出来んぜ。まだまだ、先がある」

「未完の英雄の本領発揮か!」


 カイトの言葉にオーリンが豪快に笑う。カイトは未だ完成しない英雄。神々からの評価はそれだった。未だに誰かの下で修行を積む。おかしな話であったが、最強でありながら、まだまだ修練中の身、だったのである。


「で、なんで来たんだよ」

「ああ、ほれ!」


 オーリンは酒を呷りながら、親指で後方を指差す。そこには剃髪で半裸の刺青姿のへべれけが一匹出来上がっていた。それは考えるまでもなく、彼の仲間の一人にして、大英雄の一人だった。


「……見なかった事にしたいだろうなぁ……」

「見なかった事にしてるな!」


 がはは、と笑いながら、オーリンは意識的にそちらを見ない事にしている皇帝レオンハルトについてを言及する。まあ、自らの祖先が飲んだくれているのだ。そうしたくもなる。


「それで、お前が参加たあ、えらくチートじゃねえか!」

「脇役脇役。大した事はしねえよ」


 カイトは笑いながらオーリンの言葉に首を振る。活躍はほどほどにするつもりだった。ちなみに、挨拶を終えてからも大声なのは、彼の癖だ。オーリンの声は体躯に似合ったものすごく大きな声だった。


「にしても……相変わらず鯨飲だな」

「がはは! このぐらいどうってこたあないな!」


 腰に付けたどぶろくを傾けつつ、オーリンはカイトの言葉に大笑いする。というのも、彼が先ほどまで居たバランタインの横には幾つもの酒瓶が転がっており、そこ一角だけ、別の空間になっていた。

 ちなみに、そこではウィルが酔っ払ったバランタインに説教していたが、何時もの事なのでカイトはスルーする事にした。


「はぁ……まあ、どうでも良いか」

「そうそう、どうでもいいどうでもいい」

「で、お前が来た、ってこたぁ何か用事があったか?」

「おう! シャムロックの旦那から、お前にちょいと伝言頼まれてな!」


 普通は隠れ住んでいる神様がわざわざこちらにまで来たのだ。なんの意味も無く、とは思っていない。表向きはルークに会いに来た、程度でも良いのだろうが、そんなぐらいでこの豪胆落語を絵に書いた様な彼が動くとは思えなかったのだ。そうして出された名前に、カイトが首を傾げる。


「シャムロック殿が? てか、旦那じゃなくて兄貴だろ」

「こまけぇことは気にすんな! まあ、月の女神に関する事だ!」


 出された単語に、カイトがぴくり、と動きを見せる。月の女神。それはカイトとユリィにだけは、特別な意味を持っていた。だからこそ、密かに会話を盗み聞きしていたユリィが一瞬でカイトの肩の上に現れた。


「何?」

「最近、お前さんらの持つ神器に変化は無いか、だと!?」

「あった」


 オーリンの問いかけに、カイトが神器を取り出して即答する。神器とは、神様の使う道具だ。その力を十全に使う為の道具、と言い換えても良い。カイトはその一つ、自らの恋人であるシャルロットの神器を持っていた。それがついこの間光ったのを、カイトは知らないでは無かった。


「近いのか?」

「わからん!」


 カイトの問いかけに対して、オーリンは胸を張って答える。まあ、目覚めが近いのかどうかが理解できていれば、何よりシャムロックが来るだろう。ということで、カイトは大した落胆は浮かべなかった。


「はぁ……何処の世界も軍神とは使えないんかねぇ」

「ねぇ……」

「耳が痛いな!」


 カイトとユリィのため息混じりの言葉に、オーリンが相変わらず笑いながら同意する。まあ、軍神の役目といえば、戦う事だ。人探しも伝言も役割の範疇では無いだろう。が、そうして愚痴ってから、一つの疑問が浮かぶ。


「……って、ちょっと待った。なら、何故、シャムロック殿はお前をよこした? そんな事を言わせる為じゃ無いだろう?」

「おう!」


 疑問は当然だった。当たり前だが分からない事を分からないと言わせる為にここに来るはずが無い。何かの理由が無いと、可怪しかった。


「変な気配が蔓延している、だと!」

「変な気配?」

「おう、変な気配だ!」


 カイトの問いかけを、オーリンが認める。変な気配、と言われても、カイトはそんな事を感じない。だが、神様だからこそ、分かる事もあるのだろう。

 どれだけぶっ飛んでいようとも、カイトの感覚はあくまでも人の物だ。それ故、世界の末端に近い神様とは僅かに違うのだ。それ故、仕方がなくは有る。ということで、カイトは更に先を促す事にした。


「どういうことだ?」

「妙な気配……感じねえか!?」

「感じねえから、言ってんだろ?」

「それもそうか! ちょいと待て!」


 カイトの言葉にがはは、と大笑いして道理であると認めると、オーリンが深呼吸をして、気配を探る。


「……お、あったあった! これだこれ!」


 何かを探る様な気配があり、しばらくするとオーリンが納得した様に頷く。


「妙な暗雲が立ち込めてる! このエンテシア皇国に、な! 俺達の力が僅かに阻害されてやがる! これは月の力に違いねえ!」

「シャルの力? どういうこと?」

「わからん! だから、シャムロック殿からの依頼だ! 原因を調査してくれ、だそうだ! 俺はその名代、ってとこだな!」


 どうやら、これが本題だったのだろう。神様の力が阻害される、という事はつまり、それ相応の力が使われている、という事だった。

 その神様の力を阻害する要因として最も考えられるのが、この月の力、即ち月の女神シャルロットの力だった。この力の特性として、周囲一切を隠す能力が存在していた。おそらくそれが小規模では無く、かなり大規模だった為、調査に乗り出したという所だろう。

 ちなみに、暗雲、というのは単なる比喩的な表現で、別に皇国に暗雲が立ち込めているわけでも無ければ、彼の視界に暗雲が見えているわけでもない。モヤのような感じだから、そういっただけだ。そうして、オーリンの言葉を受けて、カイトはこの案件を自分に持ってきた理由を理解した。


「確かに、月の力なら、神様の感覚を阻害も可能、か……なるほど。理解した」

「お前さんが何かやってるわけじゃあなさそうだからな!」

「当たり前だろ。オレが神器持ち、ってのはお上にさえ隠しているんだからな。そんな大それた事はしねえよ。曲がりなりにも位階第二位の神様。それを嫁さんに、なんぞ大笑いじゃすまんからな」


 オーリンの言葉を、カイトが認める。彼が神器を持っているということは、おそらく知っているのはティナを含めて極僅かな存在だけだろう。


「分かった。依頼を受けよう。それはオレにとっても他人事じゃあない」

「私も、ね」


 オーリンの言葉に納得した二人は、考えるまでもなく依頼を受諾する事を決める。使われている力は、彼らの大切な人の物だ。聞いた以上、放っておく事は出来なかった。

 と言っても、これは冒険部は別にした個人的な依頼、として処理するつもりだ。敵は神の力を使っている可能性が高いし、そうなってくると、今の冒険部では手に負えない。

 神の力は当たり前だが、厄介だ。遊んでいる程度のシャムロックに対して冒険部の上層部が束になってさえ、まともに戦えるとは思わなかったのだ。少し借り受けただけでも、かなり厄介な敵になり得るのは、当然だった。

 敵は強い可能性が高いし、隠蔽の必要性もあるかもしれない。色々な見地から見て、カイトとユリィだけで動くのが、最適だった。


「おう! そりゃ、助かる!」

「いいさ。オレの……いや、オレ達の家族の為だ」

「そういうこと。シャルは私達の家族、だよ。早く皆にも紹介したい、ね」


 オーリンの言葉を、カイトとユリィは苦笑しつつも受け入れる。その言葉に迷いは無い。カイトにとってはかつて悲劇の中で別れた恋人で、ユリィにとってはあの自暴自棄の極地に居たカイトを共に支えてくれた親友だ。

 そして等しく、誰よりもかけがえのない仲間、なのだ。そのために動くのは、当然だった。そうして、そんな二人は、少し苦笑気味に、お互いにやらないといけないことを言い合う。


「まあ、その前に……カイトはひっぱたかれないとね」

「あはは……まあ、しゃーない。お前こそ、シャルが勝手に出てく前にぶどうつまみ食いしたの怒られんじゃね? ああ見えてあいつ意外と食い意地張ってるからな」

「……だ、大丈夫だって。そんな大昔の事……覚えてないよ。うん、覚えてないって」

「オレ達にとっては大昔の事でも……シャルにとっちゃ、つい数日前の出来事、だぞ?」

「うきゃ! そうだった! こ、高級いちごこれから常備させて!」


 カイトの指摘に、ユリィがあたふたと慌てふためく。二人にとっては大昔となった出来事でも、あの日から一日も経過していないシャルにとっては、数日前の出来事なのだ。つまり、怒られる可能性は十二分にあり得たのである。と、そんなユリィに対して、オーリンが笑いながら告げる。


「いちごよかメロンの方が良くないか!?」

「メロンよりもいちご! いちごよりぶどうだよ! ぶどうよりワイン! あ、赤ワインも添えないと!」

「あ……赤ワインで思い出した。お前、赤ワインとトマトジュースを入れ替えたのも怒られんじゃね? あの瓶、結局シャル持って行ってたし、回収したシャルの荷物確認したらきちんと飲み干してたし、服にちょっと芳しいトマトの匂いしてたし……あれ、言わなかったけど、ムードガチ壊れだったぞ」

「うきゃー!」


 カイトの更なる指摘に、ユリィが可愛らしい悲鳴を上げる。こればかりは、いたずらをしまくった彼女が悪い。しなければ、怒られる事は無いのだ。いたずらしたから、怒られる。道理である。


「そ、そもそもさ! あんな時に何も言わずに一人出てくのが悪いと思うよ!?」

「どっちにしろ、いたずらしてるお前が悪いな」

「うきゅう……フルーツ盛り沢山で謝ろう……」


 ぐすぐすと嘆きながら、ユリィはまだ帰還も見えぬ親友に対する謝罪方法を考え始める。当たり前だが、彼女のいたずらはこれで終わりでは無い。カイトの知らぬだけで、まだ幾つもあるのだ。それに対して、一発ひっぱたかれるだけ、とわかっているカイトは気が楽だった。

 こうして、カイトとユリィは、まだ一向に見えない最愛の友人の事で盛り上がりつつ、皇帝主催の夕食会を楽しむ事にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第549話『幕間』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ