第42話 冒険者登録
そして翌日。ついに冒険者として登録するためにユニオン支部へとやって来た一同。マクダウェルのユニオン支部はレンガで出来た趣ある建物であった。
「ここが、ユニオン支部か。……なんか想像してたのとは少し違うな。」
「こんだけコンクリやらレンガやらあるのに木造でボロボロでも変だろう。まあ、セラミックとかの近代素材でできていてもおかしいけどな。」
「ファンタジーの定番と言えば木造建築じゃからのう。まあ、ソラのことじゃ、大方荒くれ者が出入りしている所を想像したんじゃろう。」
「うっせ、でも、人すくねぇな。」
事実であったらしく、照れた様子で返した。
「聞いてなかったのか?オレたちが登録する間は殆ど人の出入りをなくすそうだ。一部例外を除いて、来るのはそれを知らない冒険者か、依頼から帰還した冒険者、依頼人だけだ。」
「あ、皆さん、おはようございます!」
「ミリアちゃーん!はい、タッチ!」
「タッチ!」
いい音をさせてハイタッチする魅衣とミリア。二人はこの一週間で仲良くなり、何時かは女子会を共同開催する予定らしい。
「あ、一応今はみなさん用に貸し切りに近い状態になっていますが、あまり締め切ることも出来ませんので、早めにお願いします。」
支部の建物の入り口で学園生を待っていたミリアは全員を中に招き入れる。中には支部長のキトラと受付に数人が待機しているだけであった。殆ど貸し切り状態というのは本当らしかった。
「皆さん、ようこそいらっしゃいました。皆さんはこれから冒険者として登録することになりますが、それ以降は私達冒険者の仲間です。わからないことや苦境に陥った時は遠慮なく依頼を出してください。」
「ええ。一応皆さんには異世界人であることは秘していただぎますが、同じ冒険者であることには変わりありませんので、どんどん他の冒険者さん達と協力し、依頼人の方々を助けてあげてください。」
「支部長、商工会の会頭様がいらっしゃいました。」
「分かりました。では皆さん、ご武運を。」
やって来た秘書らしき女性の報告を聞くと、一礼して去っていくキトラ。支部長は忙しいようで、足早に奥へ戻っていった。
「皆さん、各窓口に一列に並んでください。登録に際しては説明した通り、魔力測定を行っていただきますので、登録証発行まで少々お時間がかかります。その間はあちらのスペースでお待ちください。」
そう言ってミリアはイスが並んでいるスペースを指差す。
「のう、カイト。お主、登録証はどうするつもりじゃ?確か偽装防止と複数発行防止に除名でもされん限り、同一人物の二重登録は不可能じゃったろ?」
「あー、とりあえず考えはある。とりあえずティナ、お前はあっちのユハラの所で登録しろ。なんとか潜り込ませた。」
ティナはカイトの指さした受付を見ると、確かにユニオンの制服姿のユハラが受付を行っていた。
「む?なんじゃ、ユハラが来ておったのか。どうやったのじゃ?」
「いや、ユハラも一応冒険者登録しているからな。公爵家からの密かな監視ってことで潜り込ませることを了承させた。一応依頼も出しておいたしな。」
「お主のことも余のこともばれずにすむ、というわけじゃな。じゃがお主の登録はできんじゃろ。」
「ああ。だからオレはユハラの所じゃなくて、ミリアの所で登録しようと思っている。」
「お主、バレるぞ?」
「バラす気だ。ユニオンにも情報が隠蔽できる窓口は欲しいからな。」
「……なるほどの。確かにユニオンにも協力者がいれば便利じゃな。じゃが、そう言うことなら、支部長だけで……いや、そちらのほうがまずいか。」
「ああ。毎回毎回依頼の度に支部長が受付を担当するほうが怪しまれるからな。」
二人して受付と支部長に隠蔽を依頼することで一致。そして、ティナはユハラの待つ列へと並びに行った。
「ねぇ、カイト。もしかして、考えってあれ?」
「ん?ああ。多分それだ。」
「でも、発行してもらえるの?というか、ミリア知ってるかな?」
「知っているだろ。異世界の客人の存在を教えられる位だ。まあ最悪、自分名義で発行すればなんとかなるだろ。ランクEXだと並の支部長以上の権限はあるからな。」
「ふーん。まあ、いざとなったら私の権限でもいいしね。」
「ああ、その場合は頼んだ。」
そう言って二人は列へ並ぶため、受付の方を見てみる。
(この列の最後尾に並ぶのか……。)
カイトもユリィもミリアの受け持つ受付の列に並ぼうとして、その列の長さにうんざりするのであった。
「これが私の登録証ですか?」
桜が受け取ったのは発行された冒険者登録証である。桜と一条は学生たちの代表として申請方法を実演したため、一番初めに受け取ることになった。
「はい。お時間を取らせてしまい申し訳ありません。これで登録は完了です。今からでも依頼を受けることは出来ますが、みなさんは当分先になさるんですよね?」
「はい。申し訳ありません。わざわざお時間をいただいたのに……。」
「いえ、大丈夫ですよ。後が混んでおりますので、これで。」
「ありがとうございました。」
登録証を持ってきてくれた職員に礼を言って桜は再びイスに腰掛ける。すると見知らぬ女の子から声が掛けられた。冒険者というのに、どこか気品のある金色の髪の美少女であった。
「ねぇ、今日ってなんかあったの?依頼を終えて帰ってきたら、受付にこんなに人がいたんだけど……。」
「え?あ、はい。申し訳ありません。実は今日私達が冒険者登録を行うため、かなり受付が混んでしまっているんです。」
すると女の子はげっ、という顔をしたが、仕方が無い、と諦めた。
「そっかー。じゃあ時間かかりそうかな……。何人くらい?」
「えっと、50人です。」
一斉に登録する人数としてはかなり多い部類に入るため、女の子は驚いた様子であった。
「はぁ!?50人?何かあったの?最近公爵家も慌ただしいみたいだし……。」
「私達は同じ出身地で最近ここにやって来たばかりですので、公爵家の事までは……。それで新天地で新しく生活していくために冒険者をやろうと……。」
所々ぼかしているが、概ね本当である。
「……そっか。大変だね。あ、私はメル・エルンスト。普通にメルでいいわ。かたっ苦しいのは嫌いだし。歳は17。一応いろんな種族の混血かな。」
50人もの同年代が一斉に冒険者として登録しにくるとなると、疎開などの重い理由が考えられるのだが、メルの方に踏み込む気は無かった。冒険者をやるとなると、重い過去を抱えている者が少なくなく、人間関係を円満に進めるには相手が話さない限りは、踏み込まないのが懸命なのであった。
「私は天道桜です。歳は同じ17歳です。多分人間種の純血です。」
「じゃあ、桜って呼ぶね。もしかして、その名前からすると、中津国出身?」
「ええ、それで大丈夫です。出身ですけど、中津国じゃないですが、似たような文化を持っている所です。」
此方も嘘は言っていないので不信がられずにすんだ。メルの方は中津国以外にも同じような文化のある所を皇国周辺にしらないので、遠くから来たと判断した。
「そう。ねえ、桜に一つ聞きたいんだけど、こんなの見たこと無い?遠くの所から来たんでしょ?」
そう言ってメルが取り出したのは古びたネックレスであった。ただし、先についた飾りは欠けていた。
「……ごめんなさい。見たこと無いですね。」
「ああ、気にしないで。別に期待して聞いたわけじゃないし。」
本当にダメ元で聞いたらしく、全く気にせずにネックレスをしまったメル。
「でも、それがどうかしたんですか?」
「あ、ううん。気にしないで。ちょっと気になることがあって確かめたいだけだから。それも別に重要なことじゃないしね。」
あっけらかんと言って笑うメル。桜も、そうですか、と言って深くは追求しなかった。と言うより、それ以上に聞きたいことがあったのだが、言い出せず、そちらをチラチラと見るだけであった。
「そんなに気になる?」
そう言ってメルが示すのは背負った大剣。全長はメルの背丈程度、幅はメルの肩幅ほどもある、かなり重そうな大剣であった。
「あ、ごめんなさい。でも、それって使えるんですか?」
「初めて見る人は皆そういうのよね。うん、使えるわよ。一応これでランクBまで上り詰めてるからね。……少し離れてて。」
そう言ってメルは桜が離れたことを確認して大剣を取り出し、片手で繊細な剣術を披露した。
「ね?使えるでしょ。……どうしたの?」
桜は目を丸くして驚いている。
「……すごいです。疑ってすみませんでした。」
「わかってくれればいいの。お父さんはもっとすごいし。貴方達は……あれ?なんか二人おかしいのが混じってる?」
弱そうだけど、大丈夫?と聞こうとして、二人ほどおかしな気配を持つ存在を感じ取る。
「ねぇ、今登録しているのって全員知り合い?」
「え?ええ。そうです。と言ってもあまり話したことの無い方もいらっしゃいますが……。」
「じゃあ、あそこの受付に座っている金髪の女の子とあっちの気だるげな男の子は、知り合い?」
指差された二人はカイトとティナであった。
「え?カイトさんとティナちゃんですか?お友達ですけど……。」
「そう……。ねぇ、あの二人がここまで守ってくれていたの?」
「いえ、違いますが……。お二人がどうかしましたか?」
「……あの二人、多分物凄く強い。下手したらエンシェント並、ううん、それ以上かも……。それ以前に……」
エンシェントとは龍族の最上位の存在の一種であった。並みの国ならば一体でも滅ぼせるほどの力を有している存在であり、公爵家にある龍族の自治区でも数えられる程度しかいなかった。
「はい?そんなのわかるんですか?それに、多分私達と同じくらいの強さだと思うんですけど……。」
地球出身の友人二人に対してのあまりにありえない評価に耳を疑う桜。更には少し見ただけで強さまでわかる等、一週間の講習でも聞いてはいなかった。
「あ!いや、なんとなくだよ、なんとなく!」
桜の話を聞いてとっさにそう嘯くメル。何か秘密にしておきたかったことがあったらしい。不思議に思った桜は問い返そうとするがメルは立ち上がって去っていこうとする。
「あ!結構並んでる人がいなくなったから、もう行くね!じゃあ、またお話しようねー!」
シュタ、と手を上げて一目散に列へと並んでいったメル。桜はそのせいで話を聞けなかった。
(……怒涛の如くでしたね。確かにティナちゃんは体育とかで手を抜いている印象はあったんですが……。そういえばカイトくんは中学生時代にかなり喧嘩が強かったと聞いたことがありますね……。それでも地球基準で、ですけど。)
桜自身も護身用と嗜みとして武術をやっているので、ティナが手を抜いていることはなんとなく理解していた。が、それでも地球人としておかしいレベルではなかったので気にしてはいなかった。カイトについても同様である。
ふと桜は件のカイトを見ると、カイトはようやく登録を開始しようとしていた。さらに別の所ではティナは仕事が終わったらしい受付の女の人と話していた。そしてソラはなぜか受付のおじさんと長話しており、話は聞こえないものの、二人共すごく興奮した様子であった。
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