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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第31章 竜騎士レース編
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第544話 竜騎士レース ――第二走者――

 カイトと選手達の乱戦は、結局は第二走者の待つ『カーム』の街まで、続いていた。が、そう言ってもやはり何度も竜騎士レースを経験した者達も居るのだ。なので始めは15騎程居た竜騎士達だが、気付けば、かなりその数を減らしていた。


「残るは5人、と」


 双剣で迫り来る刃に対処しながら、カイトはちらりと周囲を流し見る。減った内、カイトには勝てない、と判断して距離を離して次に備える事にしたのが、半分だ。もう残りの半分は、戦っている内にシエラと同じことに気付いたものの、その他の同じ様な事に気付いた事で戦いになっているのが半分、という所だろう。


『現在のカイトくんの順位はおおよそ5位かな。順調順調』

「それはどうも」


 レースの管理を行う飛空艇から各チームの監督者に向けて流されている情報を見たらしいリクルが、カイトに現在の順位を告げる。どうやらシエラとマキ以外にも、少なからず乱戦を抜け出してカイトより前に出られた選手が居たらしい。

 まあ、カイト以外に乱戦になっている所もかなりの激戦なので、おそらく対カイト戦を早々に見切りを付けた選手なのだろう。


『……にしても、余裕ね』


 平然と他の選手と戦いながら自らとの応対を行うカイトに対して、リクルが思わず、と言った感じで呆れ返る。が、これにカイトが少々苦笑して、小声で告げた。


「何分、場数が違うので。それに、ランクAの冒険者がこの程度の不利で負けるわけにもいきませんよ。なにせあっちは水中だろうと空中だろうと何処だろうと、問答無用のお構い無し。おまけに往々にして相手の土俵の上だ。しっかり上半身が動かせる上にあぶみがあるだけ、まだマシです」

『よねー。その子達は、そこらを見誤った、という所ね。来年があるのなら、来年はそこに注意すべきね』


 カイトの小声での指摘に、リクルが同意する様に頷く。カイトと戦った選手達は全員、そこを勘違いしていた。騎竜を使った戦いならば自分達の土俵で、相手は満足に戦えない、と思っていたのである。

 だが、そんなはずは無い。冒険者であれば、どのような場所でも戦えないと生き残れないのだ。それに、竜に乗って戦う事は冒険者もやらないことではない。自分達だけの土俵だ、と思うのは間違いだった。

 そうして、しばらくの間、残った選手達とほこを交えつつ、カイトはアランを適度なスピードで走らせ続ける。すると、カームの街に設置された第一走者用のゴール地点が見えてきた。


「見えた!」

『こっちは今連絡が入って、1位のシエラちゃんと2位の生徒がゲートをくぐった、って。だいたい20秒程の遅れね。初心者にしては、良いペース。学園長。そろそろ、カイトくんが入ります。ご準備を』

『わかりました。カイト、頑張ってくださいね』


 カイトの声に続いて、ヘッドセットからリクルとユリィの声が響いてくる。ゴール地点は、街の北門だ。そこに入ると設置されたゲートの魔道具が反応して、次の走者が出発出来る様になっていたのである。


「ちっ! せめて一矢報いる!」


 見えてきたゴール地点を見て、少年の一人が焦った様に剣を振りかぶる。だが、これは迂闊だった。焦りによる一撃だったので、余裕でカウンターを決められるタイミングだったのだ。

 そしてそのタイミングを狙わない程、カイトは甘くはない。なので左手の剣で攻撃を防ぐと、そのまま右手の剣で頭を打つ。


「ぐっ……」

「甘い。もう少し経験を積め」


 くぐもった声と共に、騎竜に取り付けられた魔道具のアラームが鳴る。キルアラート、即ち一度やられた、という証だった。そうして、それとほぼ同時に、カイトは速度を上げて、ゲートへと飛び込んだのだった。




 所変わって、街の西門。そこでは、ユリィが待機していた。彼女も今回限りで出場選手なのだ。というわけで、周囲の少し細身の地竜達に比べて一回り程大きめの地竜に跨って、カイトの到着を待っていた。


『学園長。カイトくんは5着で到着する事になると思います』

「そうですか、分かりました」


 響いてきた声に、ユリィが柔和で荘厳な笑みを浮かべながら頷く。今はカイトの相棒ユリィでは無く、魔導学園の学園長ユリシア・フェリシアとして、この場に居るのだ。荘厳な姿は欠かせない。と、そんなユリィに対して、リクルが問いかけた。


『あの……本当になさるおつもりですか?』

「あら、それが一番、良い事だ、と思うのですが……」


 リクルの問いかけに対して、ユリィは微笑みながら小首を傾げる。彼女が何をするつもりなのか、という事は、リクルもその他の面子も聞かされている。そして、リクル以外の面子は全員、それが出来る、と疑っていない。

 変な話ではあるが、ユリィのぶっ飛んだ性能は部下であるリクルよりも、皐月や瑞樹の方が良く知っているからだ。


『いえ、確かに、それが可能ならば、それが一番だとは思うのですが……』

「なら、信じてください」

『はぁ……』


 にわかに信じられない様な声が、ヘッドセット型の魔道具から響く。だが、それでもユリィは笑みを絶やさない。


『とうちゃーく! ダークホース選手天桜学園のカイトは5着で到着! なかなかに良いペースだ! そして、彼が到着した、ということは……ついに! 彼女が発進する! 誰もが予想しなかったまさかの5位での出陣! さあ、誰が彼女を止められるのか!』


 どうやら、カイト達がカーム北門に到着したらしい。アナウンサーの声が街のあちこちに設置されたスピーカーから響いてきた。

 そうして、ユリィを含めた選手達の地竜の動きを止めていたゲートが開いた。が、それでも、ユリィは走りだそうとしなかった。と、そうなると、当然だが全員が首を傾げる。


『……おう? おーい、ユリシア学園長? 始まってますよー』


 一向に走りださないユリィを見て、アナウンサーが怪訝な顔でユリィに問いかける。が、それでもユリィは微笑んだまま、騎竜を走らせようとしない。そうして、更に2分程の時が流れて、ついにユリィ以外の第二走者達が全員スタート地点を後にした。


『……えーっと……せんせーい?……おーい、地元のアナウンサー。誰か先生にちょっとお話伺ってください』


 尚も走りださないユリィを見て、アナウンサーが怪訝な顔でカームの街でインタヴューをしていた地元のアナウンサーに申し出る。先生、と言っている所を見ると、このアナウンサーはユリィの教え子だったのだろう。

 それを受けて、すぐにユリィの所に140センチ程の小柄なアナウンサーの女の子――小柄なのはハーフリング族なので、実はこれでも成人済み――がやってきた。


「あのー……先生? もう皆さん出て行っちゃってるんですが……」

「あら、貴方は確か、ミーヨでしたね? お仕事、お疲れ様です」

「あ! 覚えていてくださったんですか! ありがとうございます!」

「ふふ、生徒の事を覚えていないはずは無いじゃないですか」


 荘厳で清らかな微笑みを浮かべながら、ミーヨというらしいアナウンサーの女性に対してユリィが告げる。それに、ミーヨは更に感動を深める。が、こんな事をさせる為に、ミーヨを送り込んだわけではない。


『おーい、良いから意図聞いてくれー』

「あ、はい! えっと、先生? もう皆さん走って行っちゃいましたけど……」

「ああ、大丈夫ですよ。とは言え……もう少し、必要かもしれませんね」

「必要?」


 言われた事が理解出来ず、ミーヨが小首を傾げる。このレースは何かが必要となる類の物では無いのだ。なのに、ユリィは必要、と言ったのだった。


「えーっと……何が必要、なんですか?」

「時間、ですよ。もう少しは時間が経たないと、簡単に追い抜いてしまうでしょう?」

「……は?」

『……は?』


 ミーヨとアナウンサーの声だけでなく、ユリィの言葉を聞いていた全国の観客達が一斉に首を傾げる。たった今、ユリィは追い抜いてしまう、と言った様に聞こえたのだ。まあ、それが事実だが。

 だが、誰も信じられなかった。なにせユリィの地竜は他の地竜に比べれば圧倒的に遅い種類なのだ。勝てるはずが無いのが、道理だった。


「え、えーっと……先生? そもそもそれ、ノーマルタイプの地竜、でしたよね?」

「そうですね」

「それで、スピードタイプの地竜に……勝つおつもりですか?」

「ええ、そのつもりです。皆さんに、私がかつて何と呼ばれていたのか、というのをご覧頂きたい、と思いましたから」


 ユリィの自信満々な言葉を聞いた瞬間、観客の誰もが唖然となる。そして、同時に一気にかぶりつく様に、画面に注目し始めた。なにせユリィは紛うこと無く、英雄なのだ。彼女が嘘を言っているはずがない、という絶対の信頼があったのである。


「それで、先生。どれだけ、時間が必要なんですか?」

「そうですね……トップのシエラちゃんがゴールしたのがおよそ、10分前……後20分もあれば、十分でしょうか」


 ユリィは時計を見てシエラの到着した時間を思い出し、それから自分の実力――と言っても手加減有り――を勘案して、必要な時間を割り出した。

 だが、それを言われて、ミーヨが頬を引き攣らせた。これは引き算すると、どれだけの速度が必要なのか、簡単に理解出来たからだ。


「20分……まさか、そのノーマルタイプの地竜で、飛竜並の速度を出す、と?」

「はい。ということで、もうしばらく、お話し合いに付き合っていただけますか?」

「あ、はぁ……」


 ちらり、とスタッフを見れば大急ぎでユリィの撮影専用の飛空艇をチャーターしているから、その間間を保たせろ、と指示が飛んだので、ミーヨもそれを受ける事にする。そうして、更に20分。ついに、その瞬間が訪れた。


『さーあ! ついにユリシア学園長が指定した30分が経過したぞ! じゃあ、カウントダウンだ!』


 急場ではあったが画面には大急ぎで作られたカウントダウンが表示され、その減っていく数字を観客たちが斉唱する。そうして、ついに。画面に表示される数字が、『0』になった。


『ゼロ!』

「ゼロ!」

「さあ、アルファード。行きましょう。<<竜迅速(りゅうじんそく)>>」


 カウントダウンの終了と同時に、ユリィは竜を操る者が使う騎竜の為の魔術を使用する。ユリィが使ったのは、その魔術の中でも最上位の<<竜迅速(りゅうじんそく)>>と言われる魔術で、もはや彼女らの身内以外では殆ど使える者の居ない魔術だった。

 そうして、その超強力な魔術を受けて、アルファードというカイトの地竜の兄弟竜が、まるで射出されたかの様に、急加速した。


『速い!? すごい速いぞ! 飛空艇もほぼ全速力で追いかけなければならない程の速度だ! これが、これこそが、かつて勇者カイトを支えた<<支えし者(サポーター)>>ユリシア・フェリシアの真の実力! 彼女はなんと、まるで地竜を飛竜の様に走らせたー! これはまさに、地面を飛んでいる! 地竜が緑色の空を飛んでいるぞー!』


 飛ぶように進むユリィとその騎竜を見て、アナウンサーの興奮した声が国中に響き渡る。それは誰もが格上だ、という事が分かる程の圧倒的な速さで、こんな物を始めから使われては誰も勝てないだろう事が一目瞭然だっただろうほどだった。そうして、それと同時に、ユリィがリクルに告げる。


「リクル。私の合図と共に、設定を全体に出来る様にしてください」

『……え、あ、はい! 少しお待ち下さい!』


 見た物が信じられなくて呆然となっていたリクルだが、ユリィの言葉に我を取り戻す。そうして、リクルはユリィの指示通り、合図に合わせて彼女のヘッドセット型魔道具が全員へと繋がる様に設定した。


『出来ました』

「はい、ありがとうございます」


 リクルの手によってヘッドセット型魔道具の設定が変わってから20分程で、ついにユリィは最後尾を走る地竜の姿を捉える。そうしてそれを見て、ユリィが合図を送った。


「お願いします……さあ、皆さん。油断しないでくださいね? 私も、きちんと攻撃しますよ?」

『なっ!?』


 彼女の教え子である無しにかかわらず、一気に迫ってくるユリィの言葉を聞いて、全員が絶句する。あり得ない。全員がそう思っていた。

 だが、事実は事実だ。元々カイトの所為で殆ど順位に差がつかず乱戦状態に陥っていた第二走者だが、思わず後ろを振り返って荒野を駆け抜ける一回り大きな地竜を見て、目を見開いた。


「来るぞ! 全員、身構えろ!」


 流石にこの期に及んで乱戦は無しだろう。そう思った誰かが、一同に注意を促す。今の彼らは大時化の中に浮かんだ枯れ葉の船だ。そして、その次の瞬間。ついにユリィが第二走者達に、追いつくのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第545話『竜騎士レース』

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