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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第30章 魔導学園・活動編
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第535話 調教師

 私事で非常に申し訳ないのですが、昨夜急な不幸があって非常に立て込んでおり、本日一日は感想を頂いてもお返事出来るかわかりません。ソートと投稿だけで精一杯でした。

 ですので、ご返事が明日になるかもしれません。そこの所は、ご了承ください。

 マクスウェルの街にまで戻ってきたカイトと瑞樹は、取り敢えず所定の手続きに従って、まずは街の結界を通過する為の魔道具を受け取って、中に入る。


「今にして思うんですが……街の衛兵と門兵にも竜騎士が居るのですわね」

「まあ、竜車だなんだと入る関係上、大規模な街だと竜騎士は必要だからな」


 瑞樹の問いかけを受けて、カイトが彼女の視線の先にいた天竜とその騎手らしき男性に視線をやる。当たり前ではあるが、なんと言おうとも竜は魔物で、普通の人には――冒険者にとってもそうだが――危険な動物だ。暴れられると押さえる事は容易では無いし、空を飛ばれると厄介だ。そのためにも、竜騎士という即応性に優れた職業は、未だに無くなってはいなかった。

 まあ、それと同時に飛翔機付きの魔導鎧なぞマクダウェル家や技術的に数歩先を行く公爵家以上の家々だからこそ特殊部隊仕様として量産出来るのであって、普通の貴族の領地では未だに竜騎士が主力部隊だ。他国に至っては小型の飛翔機なぞ実用化の目処も立っていない。

 おかしな話ではあるのだが、エンテシア皇国では竜騎士の総本山に近いマクダウェル領こそが一番戦士としての竜騎士が盛んでは無いのであった。まあ、変わりにスポーツとしての竜騎士は盛んだが。


「この<<封印球>>は町中では外さないでください。外した場合は警報音が鳴ります」

「ああ、知ってる。既に注意事項は聞いている」

「そうですか。では、通って」


 暫く待って自分達の入場許可が下りると同時に、瑞樹が手綱を引いて再び天竜を飛び立たさせる。<<封印球>>とは天竜等の竜種を町中で暴れさせない様にするための物だ。<<竜の息吹(ドラゴン・ブレス)>>等の放出を防ぐのである。かつて御前試合でハインリッヒの天竜が施されていた措置と同じ物だと思えば良い。


「で、何処に向かえば良いんですの?」

「公爵邸」


 街の結界の中に入った二人は取り敢えず天竜を飛ばせていたのだが、瑞樹はその答えを聞いて街の中心部を目指す事にする。そうして天竜を走らせる事5分程。街の中心部にある公爵邸に辿り着いた。既に準備は整っていたらしく、公爵家の職員に促されて、瑞樹が草原に近いエリアに着陸する。

 すると、そこには一人の若干老齢に差し掛かった男性が待っていた。とは言え、耄碌していたり衰えていたりするのでは無く、まさに農家や酪農家と言える豪快さとそれに見合う筋肉の持ち主だった。


「おーう、爺。耄碌してねえな」

「ふん、小僧が……ほう、久しぶりにみんかったここらの天竜か」

「さっすが」


 カイトの言葉に何か文句を言ってやろうと思っていたらしい男だったが、二人が乗ってきた天竜を見て、思わず相好を崩す。そんな二人の会話に、瑞樹が目を瞬かせて驚きを露わにする。


「わかるんですの?」

「当たり前よ。ここらの天竜は野生つっても鱗のツヤが違う。一目見ただけでわかった。で、これをどうするんだ?」

「ちょいと今度のレースに参加させようと思ってな。所属はウチ。騎手はこっちの瑞樹で登録する。天竜だ。あの山越えで活躍してもらおう」

「ほう、考えてやがるな。三週間で仕上げるとなりゃ、俺以外に出来やしねえ」


 カイトの言葉に、男が歯を見せた豪快な笑みを見せる。実はある理由から、ここ当分は地元の竜というのが居なかった。それ故に久しくなかった地元産出の天竜の参加は盛り上がるだろう、と彼も見たのだ。

 が、そんなカイトの言葉に驚いたのは瑞樹だ。まさか自分が騎手として登録されるとは思ってもみなかったのである。


「私が乗るんですの?」

「言い出しっぺの法則で。まあ、それにオレが本気で出場したらチートだろ?」

「まあ、カイトが普通に出場した所で面白くもないだろうが」


 二人の言葉に、瑞樹も頷くしか無い。カイトが本気で出場すれば、確かにチート過ぎる。そもそも大会の創設者にして、いろいろとぶっ飛んだ性能の持ち主だ。彼がメインとなって活躍すれば、正体を知る者達にとっては当たり前過ぎて大会として面白くはない。


「お前さんが瑞樹で良いんだな?」

「あ、はい。そうですわ。瑞樹・神宮寺」

「俺は龍族のナダルだ。ここがまだハミル伯……って、もうわかんねえか。この小僧の前の前の更に前……そんぐらい昔から、ここで竜騎士達の竜の面倒を見てる」

「そ、そんな昔からですの?」

「ざっと……500年ってとこか。親父がイクスフォス陛下の御者を勤めてた事もある」


 ナダルの言葉に、瑞樹が大きく目を見開いた。彼はそれこそ連盟大戦が始まる前から彼はここで竜達の面倒を見ていたのだった。

 まあ、カイトの着任前からここは竜騎士達の総本山に近い事とナダルの種族の事を考えれば、普通の事ではあった。瑞樹は知る良しも無いが、実はナダルは竜騎士の為の騎竜調教の第一人者とさえ言われる者だったのである。


「で、どうだ? こいつの調教やってくれるか?」

「あったりまえよ。久しぶりに血が騒ぐ。あのエルロードの小僧が無闇矢鱈にここらの天竜狩りまくるわはなたれ小僧共が実力試し程度で突っ込んでくわで最近ここらの天竜が少なくてなんねえ。街が発展したおかげで地竜どもも冒険者達が狩りつくしやがる。張り合いがなくてなんねえ。竜といやマクダウェル産が最高だ、つーのをブランシェットの小倅共に思い出させてやらねえとな」


 豪快に笑いながら、ナダルが愚痴に近い言葉でカイトの申し出を受ける。マクスウェル近郊の竜が居なかったのは、ひとえに公爵軍が強すぎるからだ。調教の為に捕獲しようにも、その出現の報告が彼の所に届いた頃には討伐された後、だ。

 確かに民の生活を考えれば仕方がなくはあるが、地元の竜こそ一番だ、という多大な自負を抱くナダルにとって、いまいち面白い話では無かったのである。そこに、久しぶりにカイトが天竜を捕獲して帰って来たのだ。血が騒ぐのは無理が無かった。


「で、捕獲ってお前さんら何やってんだ、今?」

「ああ、そういや何も言ってなかったか……」


 どうやら彼の所には殆ど何も報告が行っていなかったらしい。そういうわけでカイトは久しく半隠居状態だったナダルに現状を説明する。


「ほっ。お前さんが竜騎士レースに出場、ねえ。久しぶりに面白い事に輪をかけて面白い事になってるじゃねえか」

「たまにゃあ、若いのに勇者の実力を、ってのもありだろうけどな。メインは瑞樹に譲ろうとな。勇者があんまりはっちゃけて前に出はっても面白くねえ」

「ああ、そうしろ。お前さんとここらの天竜の組み合わせはラコンの小僧とドラコーンの組み合わせと同じチートだ。脇役に徹しろ」


 一度腰を下ろして話し合っていた二人だが、大凡を語り終えた所でのカイトの言葉に、ナダルも笑いながら同意する。ちなみに、別にここらの天竜だから性能がチートじみている、というのではない。ただ単にナダルがそれだけ絶対の自信を持っている、というだけの話だ。


「日向とお前さんの組み合わせはそもそもハンデとして全部一人でやっても圧勝クラスだ。そもそもあの雌竜は転移術まで使える。勝ち目が無い」

「ははは。そりゃ、そうだろうぜ、全く。あの日向も伊勢も笑うしかない可笑しな性能だからな」

「魔物で転移術使えるのなぞ、厄災種でも無いのにどんなおふざけなのやら……ちっ、あの日向だけは、ウチ出身じゃないが素直に素晴らしいと認めるぜ」


 少し忌々しげにしながらも、ナダルが日向を賞賛する。日向は当たり前だが、カイトがまだマクスウェルに縁のない時代から一緒に居たカイトの愛竜だ。ここらの生まれではなかったのである。


「まあ、あのおふざけは最近もまたおふざけしやがったんだ。もう魔物だ竜種だと割り振るのが可怪しいのだろうよ」

「ん? まーた何かやんちゃしやがったのか、あの二匹」

「ついにヒト型になりやがった。おかげでここ最近は普通に子守の日々だ」

「……がーっははは! そりゃまた、お前さんのペットらしいぶっ飛びっぷりだ! こりゃ面白い!」


 カイトの言ったことが始め理解出来なかったらしいナダルであったのだが、それもしばらくすると理解が出来て大笑いする。

 彼としてもカイトと一緒に居て様々な不可思議は見てきているのだ。それが起こり得るかも、と思わず納得したのである。そうして、一頻り笑い終えた所で、前々からの疑問を口にする。


「まあ、そう言っても俺としちゃあ元々疑問ではあったがな。竜と龍の生き物としての差は何か。そこがいまいち俺には理解出来ん。高名な学者共はやれ身体の構成が、やれ魂の差が、だのと言い放つが、俺から見りゃ天竜地竜共の方がよっぽど純粋な魂を持ち合わせていそうだぜ。身体にしても普通に魔物的に発生する奴も居るが、番作って子供生む奴も居る。魔物ってよりも普通に動物って扱いの方がしっくりくらぁな」

「そこらは、マジで生物学的な差なんだろう。オレ達学者じゃ無い奴らにゃ、どうでも良い話だ。基本的に魔物と妖精族なんかの魔力で身体の大半が出来ている奴らの身体は殆ど変わらん。何が変わるか、なぞそれこそオレ達の身体についてシステマティックに見てる世界の意思でも無ければ、理解が出来ないだろうぜ」


 ずっと昔からナダルが言い続けていた疑問に対して、カイトが彼と同じく何処か遠くを見つめる様な視線で告げる。生まれがどうであれ、結局は今の行動で判断しているのが、彼ら二人だ。それ故、生物学的な見地から云々は気にしていなかった。


「まあ、そこらは魔帝様にでもお任せするか。俺らバカが考えても分かるはずがない」

「いや、まったく。ティナとかミース達にぶん投げときゃ良いんだよ、オレ達前線面子は」

「そうだそうだ。さって、で、瑞樹のお嬢ちゃんの騎手の練習も俺が見ときゃ良いか?」


 二人は下手の考え休むに似たり、と考える事をやめると立ち上がって天竜の上で悪戦苦闘する瑞樹に取り掛かる事にする。実は瑞樹は会話に参加していないのではなく、会話に参加出来なかったのだ。

 どうやら天竜が言うことを聞いていてくれていたのはカイトという絶対者がいたかららしく、彼女一人だとあまり言うことを聞いてくれなくなったのである。

 まあ、始めから誰の言うことでも聞けば調教師は必要が無い。それを教えこませるのが、調教師のやることだ。そうして問いかけられたカイトは、頭を掻きながらナダルに更に依頼する。


「ついでにウチのガキ共についても何人か送りつけるから、そいつらの教育も頼むぜ。暇なんだろ。ちょうど良い機会だし、飼料にしても大量購入の方が安上がりだ。ちょいと暇が出来たらそこらほっつき歩いてる地竜見つけたら捕獲しようと思うわ」

「おう、そっちワンサカ連れて来いや。地元の竜種産業が盛んになるのは、俺としちゃ嬉しい限りだ」


 カイトの言葉に、久しぶりに仕事にやる気を見せたナダルが笑いながら引き受けを明言する。彼や彼の弟子が行っている竜種の調教はマクダウェル家の腕を見込んで他の領主から持ち込まれた竜種が殆どで、地元産出の竜種の調教は滅多になかった。それ故に久しぶりに地元の竜種の調教が盛んになる切っ掛けになりそうだ、と乗り気だったのだ。


「まあ、取り敢えず先に調教師の訓練頼むわ。そうじゃないと、折角捕まえてきても、な」

「おうおう。たりめえよ。まあ、そっちはビシバシコースで問題無いな?」

「頼んだ。瑞樹はまだペーペーの素人で次の目玉の一つにするだけだが、そっちは本職として育て上げるつもりで構わん」


 少し歯を見せて笑ったナダルの問いかけに、カイトも口角を上げて答える。取り敢えず瑞樹については急場でも仕上げてくれれば問題がない。最悪はこの天竜一匹だけでも完璧にすれば、それで何ら問題は無いのだ。どちらにせよ今の冒険部では天竜を扱えるのは彼女だけだ。この天竜は最悪彼女の専用騎竜にしても良い。

 だが、その後の生徒達は違う。今後学園で使う天竜や地竜達の調教も行わねばならないのだ。練度は高くなければ、冒険部として困るのであった。


「おっしゃ。んじゃ、まあ、またいろいろと回せ。仕事はしっかりしておいてやる」

「おう。久しぶりに調教師ナダルの腕前を見せてくれ。こっちも騎手が揃えば本格的に動き出したい。普通に手が出せる範囲とするなら、即応部隊として相変わらず竜騎士部隊が最高性能だからな」

「ほう、竜騎士部隊まで発足させるか。こりゃ、俺も本気でやるか」


 カイトの言葉に、ナダルが嬉しそうに告げる。最近のマクスウェルでは飛翔機付き魔導鎧の特殊部隊が存在していた為、騎竜部隊は少し斜陽であった。それ故、竜騎士達が増えるのは純粋に嬉しかったのである。

 そうして、やる気になったナダルが瑞樹のコーチングに付く事にして、カイトは再び部活の方に戻る事にするのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第536話『語られる者』

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