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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第30章 魔導学園・活動編
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第532話 竜騎士レース ――その興り――

 ティナから大剣を受け取った翌日。別に取り立てて何かが起こるわけでは無い一日だったのだため、この日は飼育委員の仕事のあったカイトや前日にティナに呼び出された瑞樹を含めて、皐月も一緒に普通に部活が行われていた。


「はい、どうどう……」

「っと……というわけですわ」

「ふーん……で、それがそれ、というわけね」


 今日はもう2週間と少し先にある竜騎士レースに向けて学外で訓練を行う日だった。まあ、学外といっても練習は町中でやるわけは無いので普通に魔導学園の外にある草原地帯を使って、だが。

 流石にこちらも竜を駆っているため、草原地帯の魔物については殆ど気にする必要が無かったのだ。そうして、一時的に集団が停止したのに合わせて、カイト達天桜学園からの派遣組も乗っていた竜を止める。流石に一週間以上も竜に乗っていたので、基本的な動作ぐらいならばカイトでなくても普通に出来る様になっていた。

 その中でも特に瑞樹が飲み込みが早かった。一度乗れるようになれば竜と馬の扱い方は変わらない。そのため、元々馬の扱いを習得していた瑞樹は比較的すんなりと乗りこなせる様になったのだ。と言っても流石に扱いが異なる天竜は少し難しいので、今はまだそのままだったが。


「はい、休憩です。今の内に水とか飲ませてあげてくださいね」


 リクルの指示を受けて、部活生達は竜から下りて水や果物を与えていく。魔力の消耗が激しい天竜等だと、回復薬を飲ませている者なども居た。別に回復薬は薬草が入っているだけなので、よほどの劇薬でなければおやつ代わりに竜達に与えても問題がなかった。

 そうしてその指示に合わせて竜から降りた三人だったのだが、そこでふと、皐月が首を傾げる。それは自分達の姿に対してだ。


「ねえ、そういえば思ってたんだけど……この格好は何?」

「ん? どう見ても騎士の格好だろ? 性能無いけど」

「そりゃ、見たら分かるわよ。どうして部活なのにこんな格好なのか、っていう事よ」


 一同が着ていたのは、簡易的ではあるがブレストプレート等の軽装の鎧姿だった。頭には竜騎士をモチーフにしたらしいサークレットに近い兜を被っていた。今週に入ってこの鎧姿にするように、という風に通達が出たのだ。これは部から貸し出された鎧だった。

 ちなみに、そういうわけではあるのだが、各個人で鎧などを調達出来る者については自分で鎧を持って来ていたりする。というわけでシエラやキリエといった名家の子女については自分で持って来た鎧姿だったりする。どうやらシエラが以前の模擬戦の折に鎧を調達してきたのは、ここらの兼ね合いがあったらしい。そうして、そんな皐月の疑問にそれにカイトが答える前に、キリエが答えた。


「ああ、それなら簡単だ。それは竜騎士、だからな」

「どういうことですか?」


 キリエはどうやらまだ不慣れな皐月と瑞樹の様子を見に来た様だ。ざっと竜達の様子を確認して問題が無い事を確認すると、逆に問い返した。


「さて、何故本部活では全員が武器を持っていると思う?」

「……竜を相手にしているから?」

「まあ、それもあるが……竜騎士というからには、竜に乗って戦う事が、本来の仕事だった。つまり、今度の竜騎士レースでは近接武器を使っての妨害も認められていてな。そのためには武器が無いと如何ともし難いだろう? となれば、防具も必要……と言うか、竜騎士だからな。騎士の装いをするのは、当然の事だ」


 皐月の答えに少し苦笑しながら、キリエが語る。当たり前だが竜をペットとして飼う様になったのがカイトが一番始めだ、というだけであって、戦場での相棒という意味でならばもっと昔から存在していたのだ。それに竜騎士レースというからには、竜騎士の衣装を着るのも至極当然の事だった。


「まあ、そういうわけで、だな……と言うか、そこらはカイト。君の方が詳しいのではないか?」

「まあ、なにせ街作ったのオレだからな。というわけで、解説をかわ」

「私が変わります」

「きゃあ! が、学園長!?」


 カイトの声を遮って、ユリィがポケットから飛び出してきた。それにキリエが目を見開いて驚いて、跳び上がる。まあ、居る事を知らされていなかったのだ。当然ではある。


「い、いらっしゃったんですか……?」

「まあねー。というわけで、竜騎士レースについて解説いっちゃいましょー。まあ、この竜騎士レースなんだけど、元々って地元のお祭りだったんだよね。今のマクスウェルの大本になる街で行われていたお祭りというか単なるゲーム。まあ、ここは交通の要所だったし、そこらの兼ね合いから竜騎士達の土地だったんだよね。当然重要な場所だから、機動力が高くて戦闘力としても高い竜騎士達が守護していたわけ。そんな彼らが勝手にやってただけのレースゲームだったんだよね」


 キリエのびっくりした姿に機嫌を良くしたユリィは、改めてカイトの肩に座って解説を開始する。当たり前だが、カイトとて何もない街に赴任してきたりはしない。そもそもでカイトを皇都最後の守りとするために、皇都に通ずる街を本拠地とさせたのだ。発展にカイトの力を使わせては元も子もない。

 元々居た貴族が居なくなって、その後任としてカイトが着任しただけの話なのだ。その時にマクスウェルの大本となる街で最も盛んだったのが、竜産業とも言える事だった。鹵獲した竜を農業や街の防衛等で生活に活かしていたのである。まあ、その竜騎士達にしても戦争に出兵していたりで激減していたのだが。


「まあ、言うまでも無く当時は見るまでもなかったんだけど……それでもほそぼそと竜騎士達も生き延びていてね。街の復興に協力してくれてたね。当時飛空艇なんて無かったもん。で、カイトが着任して3年ぐらい経過した時だったかなー……元々この土地で竜騎士長を務めていた人が街が復興を始めた、って事を聞いて戻ってきたわけ。当時は険悪でも無かったから西のルクセリオン教国で数人の部下を率いて転戦していたらしいんだけど、一段落落ち着いたから、って。街の発展に協力を申し込んできたんだよね」


 何処か懐かしげに、ユリィがその当時を思い出す。当たり前だがその時も彼女は今と同じくカイトの肩の上に居たのだ。当然だが、彼が帰って来た時の事も覚えていた。


「で、それから暫く各地に散った竜騎士達を集めてくれたんだよね。ちょうど物資の輸送に人手は足りないし領土を守るのにカイト達だけではどうしようもないし、で当時はすごくありがたがってたかな」

「いや、有難がっていたどころかマジで有り難かった。コンラさん居なかったらガチで復興は10年近く遅れてたぞ。あの人らが領地を転戦してくれなかったら、確実にオーバーワークだった」


 ユリィの言葉に、カイトが本当に有難そうに彼の事を述べる。当たり前だが、当時はほとんど飛空艇が無いのだ。そしてその飛空艇にしてもカイト達にしても各地では雨のように降り注ぐ盗賊の襲来や土砂災害、外からの慰問の依頼等で大忙しだ。となると、元々が地元出身で機動力の高い彼らの協力は非常に有り難かったのである。


「まあ、それはいいよ。で、それも一段落落ち着いた頃かな。竜騎士達も多くが帰参して、コンラのおっちゃんがたまにはゲームでもやるか、となって竜騎士達も昔を懐かしんでレースやり始めてね。で、楽しそうだ、ってどっかのバカ達が適当にそこらで飛んでた竜をとっ捕まえてきて参戦し始めて、そうなるとこれに乗っかるバカが騒ぎ出して、いつの間にか馬鹿騒ぎになって何時もの如く宴会に。で、そんな騒ぎだから酔っぱらい達が金使うから商人達が出店出し始めて、いつの間にか、お祭りに」


 ユリィの説明に出て来たどっかのバカとは確実にカイト達の事だろう。皐月から視線を向けられたカイトは、それに気付くと同時に視線を青空に向けていた。

 当時は日向には乗れない。そこまで大きくはなかったのだ。というわけで、カイトが酔った勢いで他の酔っぱらい達と竜を捕まえてきたのである。酔った勢いで竜の捕縛なぞ出来る馬鹿は彼らだけだろう。


「まあ、そんな流れで始まったけど何時も何時でもやるわけにもいかないし、出店も準備が必要だからね。じゃあいっそ街でお祭りとして採用してしまおうか、となって、ルール作って大々的に売りだしたわけ。鎧姿になったのは、この時だね。まあ、折しも当時はカイトが竜をペットとして飼っている事が周知されて貴族達も我先に、とペットにしだした頃だからね。そんな大会が開催されるのなら、誰もが自分達の竜を自慢できる良い機会になるわけで、こぞって参加し始めた、というわけ」


 ユリィが笑いながら、一同にお祭りの起りを教える。つまりはカイトにそんなつもりは無かったのだし偶然の産物だったのが、自分でブームを作っておいてそれを商品として売りだしたのである。


「で、そんな流れがあるし竜騎士というのは当時は、一種の憧れに近かったからね。勇者が主催して、たくさんの竜騎士達が参加するお祭りが開催される、となると一気に大陸中で有名になって、いつしか遠方からも参加するような大規模なお祭りになったわけ。今じゃあ飛空艇も発達して遠くからも観戦に来れるようになったし、放送網も発達したから、物凄いお祭りになってるよ。マクスウェル夏の風物詩の一つかな。冬の雪合戦と合わせてマクスウェル武闘派二大祭りなんか言う人も居るね」


 雪合戦と言われて思いつくのは、やはりカイトだ。というわけで皐月と瑞樹が視線をカイトに送ると、今度はカイトはキリエと一緒に来た彼女の愛竜であるテトラを撫でていた。こちらの視線には気付いているはずなので、読み通り、彼らが何か原因なのだろう。

 ちなみに、武闘派二大祭りというように、春と秋には文化系二大祭りというのも開催されている。こちらも当然、カイトが原因だ。


「そういえば……今までは思っていませんでしたけど、実はマクスウェルってお祭り多いんですの?」

「え? ああ、うん。大抵何時もどこかでお祭り騒ぎやってるから気にならないけど、結構多いよ。カイトが主催しているのが春夏秋冬4大祭だけで、何処かの街や村が主催していたり、っていうのはほぼ毎週開かれているからね。マクダウェル領歩けばお祭り騒ぎ、なんて言われるぐらいだもん」


 瑞樹の言葉を受けて、ユリィがあっけらかんとそれを認める。一応、カイトが居なくなっても主催者はカイトという事になっている。代理でクズハ達が開いている事になっているだけだ。ここらも、やはり誰もがカイトが帰還するという事が前提として持ち合わせているが故の配慮だろう。


「それに、瑞樹達だってちょっと前に森の音楽会に参加したでしょ? ああいうのだってある種のお祭りだからね。冒険部だってやれ何処かでお祭りが開かれるからそこまでの護衛を、とか良く言われてるじゃん」

「そういえば……そうですわね」


 瑞樹も言われて、旅行前に行ったエルフの里での出来事を思い出す。更には少し前にティナ達が北回りの旅をしたのだって、そもそもの遠因は南の方でお祭りがあるから、だ。

 実はマクダウェル領では非常にお祭りが多かったのである。これは経済的にマクダウェル領に余裕が大きい事と、やはりカイトやトップ陣がお祭り騒ぎが大好きである事が大きいだろう。

 マクダウェルが様々な最先端都市である理由は、ここらも影響していた。お祭りがあれば当然、各地から人が集まる。となれば、様々な文化の交流が生まれ、発展する事になるのであった。飛空艇が最も盛んである事もまた、その一つの理由ではあった。


「まあ、お祭りが多いのはカイトやバランのおっちゃん達なんかがお祭り好きだった事と、やっぱりお祭り騒ぎ大好きな冒険者達がお金が回してくれるからね。それに、各種族でなんらかの伝統的なお祭りがあるから、領土内の種族が増えれば増える程、お祭りは多くなっていったわけ。そういうわけで、何処かでお祭りがやられるようになっているわけ。これで、理解してくれた?」

「私も知りませんでした……有難う御座いました」

「あ、うん。私もありがと」


 ユリィの言葉を受けて、キリエと皐月が礼を言う。そうして、それにユリィが笑って頷く。やはり彼女の本分は教育者なのだろう。理解した生徒達を見て、少し嬉しそうだった。そうして、そんな話をしている内に、どうやら休憩時間は終わりを迎えたらしい。


「はーい、じゃあ皆。もう一度一回りして、今度は騎竜戦を行ってみましょう」

「おっと……ではな。学園長、解説、有難う御座いました」

「はいはい。じゃあ、怪我しないようにね。皐月も瑞樹も気をつけてね」


 ユリィは三人に注意を促すと、再びカイトのポケットに消える。そうして、再び4人は各々の竜にまたがって、練習を始めるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第533話『竜騎士の戦い方』

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