第531話 セカンダリ・ウェポン
ティナが遺跡から持ち帰った複合武器類の解析を始めてから約一週間後。魔族領へ向かうよりも少し前の事だ。学校が終わった時間を見計らって、ティナの研究室に瑞樹が呼び出されていた。
「えっと、それで何の用事ですの?」
「うむ。お主がこの間持ち帰った大剣型複合武器について、じゃ」
呼び出されたものの要件については教えられていなかった瑞樹が問いかけると、ティナがモニターに瑞樹が持ち帰った大剣型複合武器の映像を映し出して告げる。
「これなんじゃが、幾つかの考察を行った結果、流石にこのままでは使えない、と判断した」
「それは……残念ですわね」
ティナの言葉を受けて、瑞樹が少し残念そうに告げる。彼女とて自分が手に入れた武器が使えない子扱いされれば少しショックだった。が、そんな瑞樹に対して、ティナが苦笑する。
「最後まで聞け……まあ、それは主に技術面で見て幾つも未熟な技術が採用されておったから、じゃ。それもまあ、理由は理解出来ておる。元々マルス帝国におったババ様が出奔したから、技術的に甘々になってしまったんじゃな。魔導技術とはどう足掻いても属人的。研究所の最高クラスの研究者がいなくなればそうなるのも無理は無い。というわけで、改めてババ様に一度設計図を見てもらう様に頼んでのう。そうしたら、なんと珍しい事に修正案を送ってくれてのう」
当たり前だが、昔はマルス帝国に所属していたユスティエルだ。その技術の根幹には彼女ら姉妹の設計思想が見え隠れしている。一度ユスティエルに見てもらおうと考えるのは至極当然の事だった。
流石に自分の黒歴史に近い時代の物なので少し渋ってはいたものの、ティナの頼みと彼女の友人の為とあってユスティエルも送られてきた情報を一読して、修正プランを送ってきてくれたのだった。
「そうして余が更に幾つかの修正案を噛ませ、改めて兵器として修正したわけじゃ。というわけで、そこにあるのが、その完成形じゃな」
ティナは今の今まで樹脂のケースに覆われて最終確認を行っていた大剣型の複合武器を瑞樹に見える様に示す。とは言え、それは既に様々なアレンジが加えられた結果、少し見ない間に全く変わった姿になっていた。瑞樹がわからないのも道理だった。
「ああ、これがそうだったんですのね」
「うむ」
瑞樹の言葉を受けて、ティナが魔道具に設置して最終チェックを行っていた大剣を取り出す。ほぼすべてのパーツがティナ製の物に変わった大剣だが、もはや同じなのはパーツ構成と背面にブースターが取り付けられている事ぐらいだろう。
「詳しい解説はせん。それで、色々と試してみたんじゃが……大砲はかなりの高威力じゃな。お主らとて直撃すれば即死は免れん威力じゃったじゃろう」
「は……?」
言われた意味が一瞬理解出来ず、瑞樹は少し首を傾げる。直撃すれば生命は無い、と言われた様な気がしたのだ。まあ、それが事実だが。そうしてそれを理解して、瑞樹が首を傾げる。
「そ、そんな物なぜ使わなかったんですの……?」
「大方高威力過ぎて室内では使えんかったんじゃろうな。こんな物を地下で使えば下手をすれば地下が崩壊する。そうでなくとも、おそらく余波でゴーレムぐらいならば簡単にくたばるじゃろう。まあ、自爆覚悟ならばわからんでもないが、敵襲におうておるからと言うても、重要な極秘研究所を破壊するバカもおるまい。使わぬ様にしておったのじゃろう」
ティナが何処か呆れながら、瑞樹の疑問に答える。呆れは開発者に向けた物だ。確かに腕前は確かな物だったのだが、まだ少し技量が足りていなかった様だ。制御系にしてもゴーレムに一任していたり、と兵器としての粗さは目立っていた。
確かに、大砲というだけあって威力は感心するに足る物だったのだが、それは地下に侵入された時を考えれば使い物になりそうにない兵装だった。まあ、それでも屋外で戦う事を考えれば十分に驚異的なので、今回は状況に救われた、という所だろう。
「とは言え、流石にこれはそのままでは使えん。人が使うには色々と制約がありすぎる。防備を全てゴーレムという消耗品にしたが故に搭載出来た物じゃ。まあ、この威力をこのサイズで実装出来たのは素直に賞賛に値する。というわけでじゃな、威力を調整出来る様にした。幾つかの段階に分けて、最後のバーストモードで再現する事にした」
「は、はぁ……それで、それがどうなさったんですの?」
ティナがやりたい放題やるのは何時もの事だ。それ故、瑞樹はそれをそれとしてスルーする事にして、今までずっと放っておかれていた自分の用事についてを問い掛ける。それを聞いて、ティナがぽむ、と手を叩いた。説明に忙しく、すっかりそのことを伝え忘れていたのだ。
「ああ、そういえば言っておらんかったか。うむ。というわけで、これはお主が使え」
「は?」
「まあ、なんというかのう……確かに調整を加え、幾分使い勝手の良い物に変えたは良いんじゃが……やはりバズーカもついておるし、背面のブースターに加えて、大剣という一撃重視の一品という事も大きい。お主に預けるのが適任じゃ、と判断した。コヤツは大飯食らいでのう。他の者では回復薬がぶ飲みで魔力を補給しつつになりそうな事が目に見えておるので、お主、というわけじゃ」
ティナは少し呆れつつも、鹵獲した武器についてを語る。当たり前だが元は特型ゴーレムという特殊なゴーレムが使う為の物だ。それ故に魔力をどれだけ使っても疲労するという事は無く問題は少なかったのだが、人は違う。魔力を使えば疲労感を感じるし、最悪は死に至る。
となれば、なるべく魔力量が多くなければ、こんな大飯食らいを使う事が出来ないのだ。ならば相も変わらず魔力保有量ならぶっちぎりでトップをひた走る瑞樹に預けようというのは当然の判断だった。
「それに、お主相変わらず繊細な調整は苦手じゃろう? そういう者向きの武器じゃ」
「あ、あはは……」
ティナの指摘を受けて、瑞樹は思わず苦笑するしかなかった。というのも、彼女が繊細な調整が苦手なのは相変わらずだったのだ。まだまだ彼女らはひよこだ。そんな繊細な事まで簡単に出来ても困るだろう。
まあ、そう言っても元々鍛える前から莫大な魔力量を抱える者程、繊細な操作が苦手になるのはエネフィアでも一般的な事だ。敢えて得意でない事を選ぶよりも、得手を伸ばす方を選ぶ者が多い事が、更にこれを促進させている。瑞樹も、その一人だった。
莫大な力を得られるのならいっそ繊細さを捨てて大雑把にやってしまおう、と考えているのである。まあ、それは悪いことでは無いし、得手を伸ばす事は良い事なので、誰も何も言わないが。
「これはそう言う意味では、良い武装じゃ。魔力保有量が扱うに足る存在でなければ使えぬという事はあるが、その分、適合さえしてしまえばこれほど頼り甲斐のある武器は無いぞ? 今のお主であれば、十分に使い物になる品じゃ。というわけで、ほれ」
「はぁ……」
ティナに促された瑞樹は、何処か釈然としない物を感じつつも、大剣型の複合武器を手に持ってみる。すると、ずっしりとした重さが手に掛かり、片手では扱えないと判断して、両手で持つ事にした。
釈然としないのは繊細な調整が苦手だ、ということは何かがさつだ、と言われている様な気がしないでもないからだ。別にそういうわけではないのであるが、そこは女の子として色々と、と言うところだろう。そうして、二人は取り敢えず武器の練習場を兼ね備えた広いエリアへと移動する。
「スイッチについてはきちんと握っても問題の無い様に、オミットした。意思一つでブースターに点火出来る様に調整しておる。ブースターはオンオフしか出来ん。なので出力の上げ下げをしたければ、自分で調整するしか無いが……まあ、ブースターを使う時点でそんな事を考える所ではあるまい。スッポ抜ける事には気をつけろ」
「はぁ……きゃあ!」
物は試し、とブースターをオンにしてみた瑞樹であるが、案の定、大剣が手からスッポ抜けて飛んでいった。彼女の予想以上の出力だったのだ。
「いつつ……これ、少々出力が高過ぎません?」
「うーむ……やはり少々出力が高すぎるようじゃな」
どうやら出力が高いかな、とはティナも思っていたらしい。なのでティナはそれをメモにまとめると、大剣を魔術で手繰り寄せて何らかの措置を施していく。
「……良し。これで良かろう。おそらくこれでスッポ抜けるということは無いはずじゃ。リミッターを掛けた。外す際は再びそれ様に調整せねばならんが……まあ、そこは仕方があるまい。お主の技量が備わるまで、それで我慢せよ」
「仕方がありませんわね」
自らの力量が備わっていないのは、今のでも十分に理解出来た。そもそも彼女は大剣士ではないのだ。仕方がないどころか、それが当然だ。それを知っては流石に彼女も無理は通せない。というわけで、瑞樹は全力は諦める事にすると、再び大剣を受け取って、ブースターを試してみる。
すると今度はなんとか身体が引っ張られながらも、振りかぶる事に成功する。まだ大剣は殆ど使ったことが無い瑞樹なので、これを使い熟す様になるのはずっと先だろうが、取り敢えずは練習出来る事が重要だった。
「ああ、これならなんとか、使い物になりそうですわね」
「うむ。まあ、後は自分で練習すると良い。カイトもこういった武器は興味があるじゃろうからな。引っ張りだすのも良いじゃろう」
「あら、ではそうさせてもらいましょう」
ティナの言葉を受けて、瑞樹は遠慮なくそうする事にする。そうして、一通り大剣の扱いのレクチャーを受けた瑞樹は、次は大砲を試す事にする。
どうやらティナが改良した事で変形する様になったらしく、柄が分離して、即席の持ち手と引金に早変わりした。変形速度はかなりの早さだったので、戦闘中でも十分に変形可能だろう。
「まあ、バーストモードは今のお主では実戦使用はやめておいた方が良かろう。流石に至近距離でも爆風は受けるじゃろうな。衝撃波で気絶したくなければ、広い場所でやるか、実力を付けよ。もしくは、余かカイトに援護を頼め。そうでなければ、命取りになりかねんぞ」
「わかりましたわ」
ティナの説明を受けて頷いた瑞樹は、取り敢えずティナの顎での促しもあって引金を引いてみる事にする。すると、大剣の腹に取り付けられた砲身から、魔力の砲弾が射出された。
「あら、意外と魔力を食わないのですわね」
「そりゃ、それが最低限の力しか食わぬ魔弾じゃからな。連射力は最も長けておるが、その代わり、一撃は殆ど見るに値せん。その状態ではおそらくランクDの魔物を消し飛ばす程度しか無いじゃろう」
余裕そうな瑞樹の言葉を受けて、ティナは少し苦笑交じりに告げる。そうなる様に調整したのだから、当たり前だった。
「それが基本の形態じゃ。出力はその上にもう一段あり、最後がリミッター解除じゃ。で、射出形式としては、その魔弾状態と魔力を光条として射出するレーザー砲形態がある。そちらも出力は低出力、高出力、リミッター解除の三段階じゃ。取り敢えず、レーザー砲形態を試してみよ。押しっぱなしで放出し続けるから、適度に指を離せ。一応は放出時間に制限は設けておるが、過信はするな」
「わかりましたわ」
ティナの言葉に従って、瑞樹は取り敢えず武器の持ち手の部分に取り付けられていたスイッチを操作してレーザー砲形態に変更する。そうして引金を引くと、ティナの言うとおりに、レーザー状の魔力が放出される。そうしてその結果に満足して、ティナが更に口を開いた。
「試しに少し砲身を動かしてみろ」
ティナの言葉を受けて、瑞樹は砲身の方向を少しだけ変えてみる。すると、それに応じてレーザーも移動する。
「もう良いじゃろう。これを使えば、薙ぎ払う様にして目の前に屯しておる魔物の一掃等にも使えるじゃろう。が、当然出力はそれ相応に低下しておるから、気を付けるが良い。魔力の消費にも気をつけよ」
「こちらは少し疲れますわね……」
「で、あろうな。常に使い続けるのじゃから、当然じゃ。疲れたのなら、そこのカップの中身を飲んでおけ。回復薬じゃ」
ティナの言葉を受けて、瑞樹はありがたく回復薬の入った容器を手にとって、中身を飲み干す。別に問題無い程度ではあったが、この後も暫く試験が続きそうなので、念のために飲んでおいたのだ。そうして、瑞樹の魔力の回復を待ち、ティナは更に試験を進める事にした。
「まあ、高出力は試さんでも良かろう。これに出力が増えたからというても、リミッターが有りおるから問題は少ない。というわけで、リミッター解除状態を試してみよ。それでどの程度のものか体感しておかねば、いざという時に困るからのう」
当たり前だが、ぶっつけ本番が出来るのはカイトぐらいだ。彼は大抵の状況に対応出来るからこそぶっつけ本番でもなんとかなるのであって、そうでない瑞樹達がそんな事を出来るはずがない。というわけで、瑞樹は指示に従って、リミッター解除を解除する。
すると、大砲の部分が半ばから分離延長して、大剣の全長よりも遥かに長い砲身を晒す。排熱等の問題を考えてまともに扱えるようにした結果、砲身を更に伸ばす事にしたのである。ここらは、排熱等をきちんと地球で学んだティナ独自の技術だった。
「レーザーはやめておけ。先程で分かるじゃろうが、一瞬でガス欠じゃろう。ということで、魔砲形態でぶっ放してみよ。足はしっかりと踏ん張れよ」
「ええ」
ティナの指示を受けて、瑞樹は地面をしっかりと踏みしめる。反動がすごい、という事だったので、衝撃に備えたのだ。
「では……ってぇ!」
ティナの号令に合わせて、瑞樹は引金を引く。すると、瑞樹の魔力の約3割強が一瞬で魔銃に持って行かれて、砲身の開口部に光が収束する。そうして、その一瞬の後、圧縮した魔弾が射出される。
「こ、これは何度も、は無理ですわね……って、えぇ!?」
疲労感で膝を屈した瑞樹であったが、そうして目の前で起きた爆発に思わず驚愕する。幸いにして広い上に様々な対策が施された実験エリアだ。爆発そのものは起きたのだが、爆風も衝撃波も遮断されたのだ。
が、その爆発の結果は、上空50メートル程にまで上がるきのこ雲ではっきりと見て取れた。確かにこれでは地下では使えないだろう破壊力だった。
「うむ。まあ、この程度じゃな」
「こ、これは確かに地下では使えませんわね……」
「まあ、これで良いじゃろう。取り敢えず、使うなら一発程度にとどめておけ。後、周囲の確認は忘れるでないぞ」
「あ、あはは……そうしますわ」
ティナの忠告を瑞樹は今の光景を含めてしっかりと胸に刻みこむ。そうして、彼女は更に暫くの講習を受けて、新しく彼女の相棒となった大剣を背負って、ティナの研究所を後にするのだった。
お読み頂き有難う御座いました。実は学園編でも全体的な強化を実行していたり。というわけで、瑞樹を集中強化です。
次回予告:第532話『竜騎士レース』
2016年8月17日 追記
・校正
ティナのセリフに『とは言え~。とは言え~』と続いていた部分がありました。少々違和感がありましたので、話題転換の『とは言え』から肯定的に変えるために『まあ』と変えさせていただきました。