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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第30章 魔導学園・活動編
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第530話 新装備

 カイトとリーシャの再会からも、普通に学業の日々は続いていく。そしてそれは冒険部でも大した差は無かった。

 まあ、こちらは現状で何か特別な事が起きる事は無い。なにせ、冒険部でも有数の実力者達が多忙な為、人員が増えた事も相まって特異な事を起こしている余裕が無かったのだ。それこそ、ランク昇格の試験はここ当分上層部は誰も受けていない状況だった。

 そんな中、ティナは研究所から引き上げた魔銃と武器を組み合わせた複合兵装の解析を行っていた。彼女の存在が一部とは言え公になったおかげで皇国側の人員の協力も得られる様になった上、彼女本来の研究所である公爵邸地下の研究所も全て使えるようになったのだ。幾ら未知の兵器と言っても解析については順調に進んでいた。


「ふむ……取り敢えず、簡易撮影用魔道具については、この設計プランを皇都の研究所に送れ。そこで試作させ、様々な状況を試験させ、データをこちらに送ってもらう様に依頼してくれ」

「わかりました」


 ティナの指示を受けて、皇都から派遣されてきた研究者の一人が設計図を専用の機械に読み込ませて皇都の中央研究所に送付する。

 当たり前ではあるのだが、得られた情報は兵器に関する物が多いだけで、決してそれだけでは無かった。ユスティーツィアの残した撮影用の魔道具も回収していたし、それ以外にも修理用のゴーレム等、民生品としても使える様々な物がサルベージ出来ていたのだ。


「ふむ……次は瑞樹がゲットしたという大剣型の複合武器について見てみる事にするかのう……」


 取り敢えず母が残した魔術を応用した民生用のデジカメとも言える魔道具の設計を終えたティナは、少し空いた時間を利用して瑞樹が鹵獲した武器の調子を確認する事にする。

 あの調査の後更に色々と皇城と遣り取りを行って、情報は皇城に提出するものの、当時鹵獲した幾つかの兵器については冒険部が所有する事で合意していた。まあ、一応は激戦を越えて皇女であるアンリを救出した功績があるのだ。それだけの報酬は得られて当然だった。

 そうしてそれから暫く、専用の魔道具に大剣型の複合武器をセットして、様々な角度から解析を行う。一応彼女の目視の方が優れているが、万人に共有出来る情報にしないと解析の意味が無いし、量産は出来ない。そのために魔道具にセットして解析を行っているのであった。


「なるほど。良い発想じゃな」

「そうなのですか?」

「うむ……例えば、この背面に取り付けられた飛翔機に見える物を見てみよ」

「飛翔機では無いのですか?」


 ティナの言葉に、補佐についていた研究者の一人が興味深げに問い掛ける。見た目としては、ティナが作った飛翔機にも似ていたのだが、どうやら解析してみると違う物だったらしい。


「元々違和感は感じておったんじゃが……うむ。これではっきりとしおったな。ほれ、この部分の記載を見てみよ」


 ティナは魔道具を操作して、飛翔機に見えるブースター部分の魔術的記述を一同に提示する。それは魔力を噴出して、勢いに変化する部分だった。

 そうして暫くの間一同はそれを観察して考察していたが、やはり皇城から直々に派遣されてきた研究者達だけはあった。すぐにその違和感に気付けた。


「……あ、これは……簡素過ぎますね」

「そういうことじゃ。これはまあマルス帝国独自の記載ではあるのじゃが……出力に調整は付けれる様にはしておらんな。単純にオンオフそれだけじゃ。この程度ならば、量産するにも支障が無い。なにせただ単に勢い良く出しておるだけじゃからな」


 研究者の言葉にティナが機嫌よく頷いて、解析用の魔道具を操作して、大剣型の複合武器に魔力を通し、更には柄の部分に取り付けられたスイッチを押しこむ。すると、魔術が記載されている部分に魔力が通り、背面のブースターが作動した。


「魔力の注入量によって出力の調整を行う事は出来るじゃろうが……まあ、そんな細かい事は考えておらん」

「ということは、調節が出来れば、飛翔機に出来た、という事ですか?」

「いや、それは無理じゃな」


 研究者の問いかけを受けて、ティナがそれを否定する。一見すれば出来るような気がしないでもない様子だったのだが、どうやら何かの問題があるらしい。


「まあ、簡単に言えば、魔術の構成が粗い。確かに簡素化されており、量産には向いておる。が、それと同時に少々粗い。おそらくこれが開発されたのは、ユスティエル殿の出奔の後じゃろう」


 ティナが粗い魔道具の術式構成を見ながら、考察を述べる。姉であるユスティーツィアが元はマルス帝国の研究者であった様に、妹のユスティエルもまた、帝国の研究者だったのだ。それもその二人が出奔した事こそが帝国の終焉を迎えるきっかけだった、と言われるほどの高名な研究者であった。

 実はそれ故、マルス帝国最終期の技術は3タイプに分けることが出来る。ティナの母であるユスティーツィアがまだ帝国に与していた時代と、ユスティエルがまだ帝国に与していた時代。そして、最後がその後だ。


「というわけで、じゃ。これに出力を調整させる記述を編みこんだ所で、満足には空を飛ぶ事は出来んじゃろう。ユスティエル殿がおられれば出来たやも知れんが……おそらくその場合は、量産は出来んかったじゃろうな」


 魔術の構成を見ながら、ティナが更に考察を述べる。とはいえ、それは全員の常識とも言える知識に基づいた考察であった為、研究者達からも異論は出なかった。

 ティナが少し前に言った様にユスティーツィアは量産性と起動の高速性に長けた術式を創り出す事に長けていたのに対して、実はユスティエルはティナと同じく汎用性と複雑性に富んだ術式を作る事に長けていたのであった。

 まあ、ティナが叔母と同じ様な技術系統なのは当然といえば当然で、彼女の弟子だからだ。ユスティエルに教えられたからこそ、彼女もまた汎用性に長けた技術を得意としていたのである。

 それはさておき。その二人が居て始めて、帝国の技術は完璧だったのだ。その二人が居なくなったのなら、ティナが粗いという魔術になったのもうなずける。

 実は帝国が出奔したユスティーツィアにあれだけ大規模な捜索隊を送るのは、至極当然の事だったのである。おそらくイクスフォスだけであれば、普通に捜索隊は送られる事が無かっただろう。


「まあ、それに術式の構成にしても甘々じゃ。噴出するにしても無駄な部分がかなり多い。これを使って飛ぼうとしても、火力が分散され、満足行く出力は得られんじゃろうて。持続性もない。緊急加速。それが限度じゃな」

「出力そのものは?」

「そこを特化させておるようじゃな。この規模の大きさでは十二分に破格の出力は得られておる。が、それに特化しておるが故に、調整は流しこむ魔力で行わねばならん。おそらく量産性と性能を天秤にかけて、量産性を取ったんじゃろう。おそらくこれを使うのがアンドロイド……と言うてもお主らではわからぬか。まあ、高性能なゴーレムに調整させる事にしたんじゃろうな」


 調査隊の遺跡侵入前に得ていた特型ゴーレム――これはフルフェイス型ではなく、通常機――の幾つもの解析結果を合わせて考察しながら、ティナは複合武器の考察を行う。これはそこからの考察だった。


「ふむ……とは言え、やはりこれは量産には向かぬ兵装よ。量産させるには少々複雑過ぎる。おそらく特型ゴーレムという特殊なゴーレムの兵装じゃからこそ、の物じゃろう」

「皇国軍への制式採用は出来る?」


 当たり前だが、現在冷戦中である皇国だ。まかり間違っても軍備を怠る事は出来ない。となれば、皇国軍の兵装として使えるかどうかも、彼ら軍の関係者が考えるべきことであった。そんなメルの問いかけを受けて、ティナは暫くコストパフォーマンス等を考察することにする。


「うーむ……まあ、各種状況に対応出来るという複合武器については悪くは無いんじゃが……ラウンズの武器はそもそもあの騎士達が使う事を前提にした武器じゃったからなぁ……ワンオフの武器であればこそ、か……」


 ティナが思い起こすのは、地球でも同じ発想で武器を作っていたある組織の事だった。とは言え、そこもそこで、ワンオフに近い扱いで魔銃と近接武器を合わせた武器を作っていた。ティナもワンオフとして似たような武器は趣味で作ってはいたが、やはりワンオフだ。量産させるつもりは無かった。

 というのも、カイトの様に常にティナや部隊として戦士としての力を兼ね備えた技術班を抱えているのなら良いのだろうが、普通はそうではない。多くの兵士達は各個人で武器の手入れは行わないといけないのだ。

 というわけで、戦場で使う武器は単純で扱い易い事が何よりも尊ばれる。武器を詳しく知らない末端の兵士達でも手入れが簡単だし、制作費も安く付く。更には敵に鹵獲された所で、技術の流出も大きくは無い。

 逆に複合になるとその分手入れは面倒になるし、制作費も高くなり、技術も複雑になる。ロスした時の痛みは大きい。それを考えれば、一般の兵士達まで行き渡らせる個人携帯用の武器としては、やはり不適合だろう。なので、ティナは首をふる事にした。


「いや、採算性が取れぬな。それなら魔銃は魔銃として開発し、剣は剣として開発させるのが良いじゃろう。やって銃剣程度。それ以上は作らぬ方が良い。もしこの兵装で作るのなら、特殊部隊仕様の様々な状況での活動が考えられる部隊のみにした方が良いじゃろう」

「ということは、魔銃の量産は夢のまた夢、と……わかった。お父様にはそう報告しておくわ」


 ティナのアドバイスを受けて、メルが報告書に書き起こす際に参考にするメモにそれを記載する。彼女のここでの役割は、研究結果が軍事的に見て活かせるかどうかを判断する事だ。ちなみに、それ以外の物についてはシアの範疇だった。


「ふーむ……とは言え、剣にブースターを仕込むのは悪くはない発想じゃな……メル。使ってみたいか?」

「うーん……大剣使いとして言わせてもらえれば、ちょっとだけ、考えるに値するわね。まあ、使ってみないとわからないけど……これって、多分、ブースターで高速移動とか出来そうだし……大剣ってどうしても立ち止まって、ってなるから緊急離脱として考えられるのなら、十分に実用化に値すると思うわ。加速で威力の増大も有り難いわね」


 ティナの問いかけを受けて、メルが少し考えこむ。大剣にブースターを仕込めば、ただでさえ破壊力の高い大剣の破壊力が更に増すのだ。その分使い勝手も悪化するだろうが、切り札として見れるのならば、十分に考慮するに値する事だった。


「なるほどのう。確かに、緊急離脱装置として見るのならば、考慮に値するのう。その点は余も抜けておったな……次期小型魔導鎧の開発計画にも、そこは組み込む方が良いじゃろう。アドバイス、感謝する」

「魔帝様に感謝されるなんて、こっちが光栄よ」


 ティナの言葉に、メルが何処か照れた様に嬉しそうにする。そうして彼女は少し照れ隠しに大剣に視線を送り、ふと、問いかけた。


「それで、これどうするの?」

「うむ。流石にこのまま使う事はせぬよ。あまりに大味過ぎる。色々と改良せねば、冒険部の生徒が使うにはあまりに使い勝手が悪すぎる……まあ、これは改修のワンオフにしておいて、後は幾つかに分解して、開発するしか無いじゃろう」


 メルの問いかけを受けて、ティナは急速に頭の中で開発計画を立てていく。幸いにして幾つかのパーツの換装を行い、それにあった様にベースの大剣型複合武器を改良するだけだ。改修作業はそこまで時間が掛かるとは思わなかった。そうして、この後も幾つかの魔道具や武器類の解析を行いつつ、彼らの時間は過ぎゆくのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第531話『セカンダリ・ウェポン』

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