第40話 想い
私事で申し訳ありませんが、本日から7日迄引っ越し作業の為、感想等を頂いても、返信が遅れると思います。ご了承ください。
そしてユリィによるミスの訂正が行われつつ講義が進んだのだが、ミスに一つの共通点があることがわかった。
「んー、なんかユリィの訂正って歴史系とか、人間以外の種族に関する記述が多くね?」
黒板を眺めていたソラがそうつぶやく。カイトや一部頭の良い者はすでに気づいていた。
「そうみたいだな。こっちの教科書もそこにミスが集中している。」
「じゃあ、一概にミリアちゃんが悪いってわけじゃないのか。」
「ああ、さすがに大本が間違っていたら、どうにもならん。」
「ユリィが教えてくれなかったら、俺達も間違ったままだった、ってことか。」
そんなこんなで授業が終わったわけだが、終わった所でユリィが戻ってきてカイトの肩に座る。
「ユリィさんありがとうございました。危うく皆さんに間違いを教える所でした。皆さんも申し訳ありませんでした。」
そう言って頭を下げるミリア。
「ううん。全部がミリアが悪いわけじゃないです。でも、今度からは複数の資料を参考にするようにしてくださいね。」
「はい。ありがとうございます。では、皆さん、昼食にしましょう!」
そう言って昼食に向うミリア。当然学園一同によってカイトらに詰問が飛ぶ。
「いや、さっきの妖精さんはなんだよ!」
「おい、天音!お前なんで妖精と一緒にいるんだよ!」
「やっぱりこうなるよな……。」
即時撤退を決め込んでいたカイトは席を立つ前に即座に捕獲される。
「カイト、後よろし……もがぁ!」
「させるか!」
危険を察知して飛び立とうとしたユリィだが、カイトに捕まえられる。この状況で元凶を逃がす程、カイトも甘くはない。
「朝一でバレるなと言っただろ、逃すと思うか?」
「いや、つい……」
てへ、と可愛らしく笑うユリィ。当たり前だが、カイトは許す気はない。
「あとでお仕置きな。」
ニッコリといい笑顔で笑うカイト、青筋が浮かんでいる。
「おい!お前一体この娘とどういう関係だ!羨ましすぎんぞ!」
「カワイ~……天音くん?だっけ!この娘頂戴!」
「いや、どういう関係って……後、先輩、オレの持ち物というわけでは……。」
「そうだ、天城!お前も知ってるっぽかったよな!なんで一緒にいるんだ?」
そう言って今度は矛先がソラへと向う。ソラはボケっとしていたが話しかけられて我を取り戻した。
「んぁ?詳しくは知らないけどよ、昨日から一緒にいるみたいだな。理由はなんとなくらしい」
「昨日からって……にしては馴染み過ぎてない?」
「いや、妖精ならこんなもんじゃね?」
「そうかも?」
地球人の勝手な想像による妖精種の印象が語られていく。気まぐれで悪戯好き、そんな印象が、一同の共通認識であった。
「そういえば結局どうしてユリィちゃんとカイトさんは知り合ったんですか?」
昨日気づいた時にはいっしょにいた二人。桜もソラも何故一緒にいるかは聞いてもどうやって知り合ったのかまでは知らなかった。
「昨日の宴会で、まあ少しな。異世界人だって言ったら話をせがまれて懐かれただけだ。」
詳しく話せないのでこの程度にしておく。これは300年前の一番初めの出会いの一件であるので、すべてが間違いではなかった。
「あ、桜も日本について何時か聞かせてね。」
「じゃあ、私には此方の世界について聞かせてくださいね。」
別に日本に興味が有るわけではなかったが、カイトの故郷に興味があったユリィと、エネフィアに興味のある桜はお互いの話をすることで合意する。
「うん、いいよ。」
じゃあ私も、俺も、という声が多数上がり、結果としてほぼ全員が参加する事になる。ここにいる面子は全員異世界に興味津々なのだ。それ故、初めて見る妖精に興味津々なのであった。
「もうこの後の昼食でミリアも巻き込んで話せばいいだろ……。」
カイトによる鶴の一声で出席者全員での昼食がなされる事となった。
「で、結局あなた誰なんですの?」
ユリィへ向けたある女生徒の質問だが、全員が耳をそばだたせている。
「え?私?」
「お前以外に誰がいるんだ……。」
カイトの横で昼食を食べていたユリィがいきなりの質問にポカンとしている。
「そうですわ。あなた一体誰なんですの?急に現れたように見えましたが……。」
「私はユリィ。妖精族の一人だよ。そういうあなたは?人に名前を聞いておいて名乗らないのは礼儀知らずじゃない?」
「あら、私としたことが……。失礼致しました。私、天桜学園高等部2-D所属の神宮寺瑞樹と言います。以後、お見知り置きを。」
「うん、よろしく~。」
そう言ってひらひらと手を振るユリィ。カイトとティナを除く全員が癒やされている。カイトは猫が落ちていないか探していた。
「でも、ユリィさんは賢いんですのね。一体どこで学ばれたんです?」
「えーと、一応独学かなぁ……。これでもそれなりに長生きしてるからね、まあまだ子供だけど。」
妖精族は人間と同じ大きさとなれて初めて成人と認められるのだが、目安は500歳である。ユリィはすでに大きくなれるものの、年齢的にまだ300ちょいなので、認められていない。
『頼むから300歳超えてますなんてバラすなよ……。』
『さすがにそれはしないって~。』
300歳と少しの妖精族でここまでの知識がある妖精なぞ限られているどころか、ユリィただ一人である。おまけに大きくなれる妖精もユリィただ一人だ。そこからカイトの正体へ辿り着かれる可能性があることぐらいはユリィにもわかっている。
「あら、そうなんですの?にしては、魔導学園で学ばれたミリアさんよりも歴史と地理に強い印象を受けたのですが……。」
「地理は昔ある人と一緒に世界中を旅したことがあるからね。ちなみにカイトと一緒にいる理由もその人に似た印象があるからかもしれない、かなぁ。」
と言うか、本人である。
「そうか。」
「あ!ちょっとは気にしてよ!」
そんな言葉は一切無視して食事を続けるカイト。聞いたら自分のあること無いことが語られるに決まっている。
「どんな方だったんですか?」
そんなカイトを見て桜がユリィに聞く。待ってましたとばかりにカイトの悪評を並べ立てる。
「えっと、まずは……その人結構高い地位に着いた人だったんだけど、自分が見つけてきたメイドには必ず手を出してたかなぁ。あ、さすがに既婚者と恋人持ちには手を出してなかったかな。でもなぜか刃物持ち出す様な修羅場には発展しなかったんだよねぇ。うん、口喧嘩や引っ掻き合いはあったけど。」
これについてはカイトは何も言えない。若干の盛りはあるが、事実なのである。
「はぁ!なんですの!まるで下衆な貴族の極みみたいな方は!」
「で、次に、よく仲間を集めては宴会をやって飲んだくれてそこら辺で居眠りとか。それでよく怒られてたなぁ……」
ちなみに、これはバランタインである。
「うわぁ、昭和の酔っぱらいかよ……。」
「その他にも女が一緒なのにパーティで仲良くなった身知らずの女にほいほいついて行っては、朝帰り。」
ちなみに、これはルクスである。
「最低ですね……」
聞くもの全てが最低と評価するダメ男と語られているカイト。本人はこうなるだろうなぁ、と予想しているので、どうでも良かった。伊達に20年近くも一緒にいない。後でやるお仕置きのランクが1つ上がるのは決定していたが。
「でもなんでそんなクズと一緒にいたんです?」
「うぅ、そこには聞くも涙語るも涙の物語が……。」
よよよ、と崩れ落ちるユリィ。演技が真に迫っていた。カイトはこの時点でお仕置きランクをもう一段階上げることを確定させる。
「ああ、辛いなら言わなくていいですよ!」
聞いていたミリアが慌ててフォローする。
「いや、それは冗談だけどね。」
さすがにやり過ぎたか、そう思ったユリィは即座に否定する。カイトもお仕置きランクを一つ下げる……つもりはない。
「まあ、でもすごい奴だったよ。旅の間、多くの別れがあった。多くの人があいつを信頼していろいろなものを託して逝った。多くの人があいつを助けた。敵に救われることもあった。いつしか、多くの人があいつに憧れるようになった。そして、あいつは多くの人に支えられながら多くの人を救った。あいつは天涯孤独だったけど、そんな旅があったからか、貴族になってからは領民全員が家族みたいなものになったんだと思う。だから自分の領民が傷つけられれば烈火の如く怒り、敵を討った。領民は安心して生活し、子を産み、死んでいった。確かに全員を笑顔にすることは出来なかった。でも多くの笑顔があったことは確か。」
いつのまにか真剣な表情をしてかつての旅を思い出すユリィ。それを全員が沈黙を持って聞いていた。
「そして、あいつの仲間も最後まであいつを信じて逝った。最後は皆が笑って逝けた。あいつはそれを見ること無く去っていったけど、全員が、全員の子供たちが笑って死ねるなんて仲間の誰も思ってなかった。これは幸いなことなんだと思う。だから、私達はあいつを信じて、頼る。信じて、従う。あいつが世界を敵に回すなら、私達は喜んでその先鋒を務める。それは多分、あいつの進む先に幸福がある、そう思うから。」
まあ、普段の行いを考えると、そんな風には見えないんだけどね、最後にそう言って締めくくり、いつしか流れていた涙を拭う。思い出したのは、同じ想いを抱きながら、それを伝える事が出来ずに死んだ仲間達。彼らの分も、彼に感謝を、とずっと思い続けたが故に、涙が知らず、流れたのだ。
「……すごい方だったんですのね。始め聞いた時はどんな奴だったのか、と思ったのですが……。」
全員して最低評価をしていたのだが、ユリィのあまりに真剣な話に一気に最高評価へと切り替える一同。中には感極まって涙ぐむ者までいる。
「もしかして、その御方って……じゃあ、貴方様は……。」
ぼそりとミリアがつぶやく。が、ミリアが何かを言う前にユリィが微笑みかけた。
「さぁ?私はしがないはぐれ妖精だしね。平民から貴族へ取り立てられた奴なんて、300年前から結構いるでしょ?」
事実、300年前の大戦で貴族たちの数も減少し、武勲の有った者達に貴族としての地位が与えられる事は少なくなかった。
「そう……ですね。」
たとえ気づいても黙っておけ、言外にそう語るユリィ。それにミリアは尚更ユリィの正体に確信を強めた。
「すげぇな……どっかのお偉いさんにも聞かせてやりたいもんだぜ……って、カイト。お前が涙ぐむのも珍しいな。」
その言葉に、ユリィもふと横にいるカイトを見ると目に涙を湛えていた。
(そうか、笑って逝けたのか……)
思い出すのはかつての仲間達。誰もが安穏とした日々などとは無縁な生活ばかりを送っていた。それが笑って死ねたのだ。多くの死を見てきたカイトにとって、これほど救いとなることは無かった。
「……うるさい。」
「あ~、カイトってば、泣きそうになってる。」
彼女はカイトが実は涙脆い事を知っている。それが時を経て、日常が変わろうとも変わってない事に、安堵した。
「……気にするな。」
「えぇ~。……皆、ありがとうって。また会おうっていって死んでいったよ。ウィルなんかは、終始心配してたけどね。あいつ、俺がいなくなったらどうするんだ、って。」
最後は肩に乗っかって茶化すフリをして、小声で伝える。それにカイトは、念話で返した。
『ありがとう、ユリィ。』
『ううん。こちらこそ、ありがとう。』
『だが……。』
『え?』
『嘘はいけないよな。……後で、お仕置きな。』
「ちっ!ごまかせなかったか!」
「当たり前だ!」
何故かは分からないが、いきなりいつもの馬鹿騒ぎを始めるカイトとユリィ。それを見た一同は先程までのしんみりした雰囲気はどこへやら、吹き出して笑い、また昼食が再開されたのであった。
(……こちらこそ、ありがとう、ダチ公共。お前らの残したものはオレが守ってみせるさ。)
あえていつも通りにふざけあってみせた二人であったが、心中では等しく、かつての仲間達への感謝を抱いていたのである。
ちなみに、ユリィがお仕置きされたのかどうかと、どんなお仕置きであったのかは、彼女が口を閉ざした為、定かではない。
お読み頂き有難う御座いました。
2016年6月2日 追記
・誤字修正
『言った所だろ』というのを『言っただろ』に変更しました