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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第29章 魔導学園・入学編
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第523話 閑話 調査隊 ――前文明の遺跡――

 学園の竜舎に着いた所で、クオンは非常に嬉しそうな様子で伊勢の頭を撫ぜていた。そうして呟いた彼女の言葉に、カイトは思わず目を見開く事になる。


「ありがとう、伊勢ちゃん」

「……え、こいつ、メスなの?」

「……あ、知らないんですよね。はい。この子はメスです」


 カイトが馴染みまくっていたのでクオンもすっかり忘れてしまっていたのだが、カイトはそもそもで昨日学園に入ったばかりの新入りだ。それを思い出して、クオンは苦笑しながらカイトの問い掛けに頷く。

 実はカイトは伊勢の性別を知らなかった。というより、そもそも狼型の魔物に性別があることさえ知らなかった。これは実はこの300年で新たに発覚した情報だった。


「おー、そういえば100年ぐらい前に女の子ってわかった」

「あー、そういえばそうだっけ。すっかり忘れてた」


 伊勢が獣舎に着いた事でカイトと同じく伊勢の上から降りていたアウラとユリィが思い出したとばかりに頷いていた。それにカイトは引きつった頬であったが、まあどうでもよいか、と思い直す事にした。


「……あ、そう。まあ、どっちでも良いか」

「あ、先輩。重要ですよ。伊勢ちゃんだって女の子なんですから、綺麗にしてあげないとダメですよ。だからブラッシングだって欠かせません」

「……そうだな。じゃあ、オレもやってやるか」

「はい」


 そうして、二人は共に伊勢のブラッシングを始めるのだった。




 一方、その頃。残ったティナが精力的に活動していた。と、言っても彼女の場合は当然だが、冒険部の為に動いているのではない。半分以上が自らの趣味の為だった。

 とは言え、今回すでに知っている通りに皇国からの依頼で動いている為、純粋に自らの趣味、というのも違うだろう。そんな彼女がこの時期どこに居たのか、というと、完全に警備システムが停止したテラール遺跡だった。


「ふむ……」

「魔帝殿。何か判明致しましたか?」

「いや、スマヌ。もう少し調べさせてくれ」


 研究者の一人の問い掛けに、ティナが頭を振る。今回、彼女は密かに結成された研究者の一団を率いて、遺跡の調査に来ていたのだ。

 その理由は簡単で、再度の目覚めがあった事と、カイトでさえ若干手に余る特型ゴーレムが居た事、初代皇王イクスフォスの資料が新規発見された事で、高度な調査が必要だと判断されたのである。

 もし万が一まだ特型ゴーレムが潜んでいた場合、ティナでもなければ万が一があり得る、ということで皇帝レオンハルトが直々に依頼したのであった。


「……護衛は問題なさそうね」

「油断してはダメよ、メル」


 メルの安心した様子に、シアが注意する。皇女二人もまた、片方は調査団のトップとして、片方は護衛隊のトップとして、急遽この調査団に参加していた。

 メルの実力は高位の軍人に比べても遜色は無いし、軍と言う意味でなら指揮力も高い。シアは皇帝レオンハルトが信頼するほどの指揮力と政治力を持つので、研究者と軍人という立場が違う2つの取りまとめとして、この調査団のトップとして着任したのである。


「ふむ……これはイクスフォス殿の術式かのう……初代皇王が使ったのなら、余にも理解が出来ぬ事も納得出来るし、発見がされぬのも納得の出来る話じゃな……それで、この魔道具はユスティーツァ殿の作じゃな」


 研究所に残された様々な情報を精査しながら、ティナが呟く。今更言うまでもない事であるが、ユスティーツィアは科学者として有名で、そうである以上、ティナが知らないはずはなかった。

 因果な事ではあるがティナもまた彼女を母とは知らずに尊敬していたので、良く知っていたのである。もう少し魔族の統一が早ければ出会えていたかもしれない、と娘では無く――そもそも娘である事を忘れているが――科学者として、密かに彼女は嘆いていた。


「この術式はあいも変わらず必要最低限……なんともまあ、惚れ惚れするのう……」


 初代皇王イクスフォスが使ったとおぼしき映像記録用の魔道具を見て、ティナは思わず感嘆の声を漏らした。どうやら彼がそのまま連行されていった事で、魔道具がそのままにされていたのである。その後に誰かが訪れたらしく、あの映像が出るまで見つからない様に隠されていた。おそらく最後に声だけ入り込んでいた男性だろう。

 確かに、ティナの術式も洗練され、無駄は無い。だがそれでも、ユスティーツァの術式程の徹底した無駄の排除、とはなっていなかった。

 ユスティーツァの術式はただそれだけに特化した起動速度重視の魔術なのに対して、ティナの術式はそこから少し発展して想定外にも対応出来るオプションが取り付けられており、起動速度に劣ってしまうのである。

 汎用性という意味でならばティナの方に優れるが、それだけしか必要が無いという限られた状況下で言えば、母ユスティーツァの方に分があったのである。


「ふーむ……この術式は姉上達の使うのとも違うのう……うむ。魔女の基礎をなるたけ極めた良い設計思想じゃ」


 ティナは自分より前の世代の天才と謳われた魔女が創り出した魔術に対して、心からの賛辞を送る。只の一度も言葉を交わす事が出来なかった母娘は、この場でだけは、会話を交わす事が許されていた。それは言葉を使った会話ではなく、母娘が如何な因果か共に得意とした魔術、という文字を以ってしてであった。


「なるほど。ここを簡素化しても発動出来たわけじゃな。ふむ。これは勉強になった」

「ユスティーナ殿。何か判明した事はありましたか?」


 何かを掴んだらしいティナに対して、近くで同じく研究所の解析を行っていた研究者が問いかける。それに、ティナが隠すことでも無いので、今得た情報を開示した。


「うむ。おそらく今の映像保存用の魔道具を更に改良した物が出来るじゃろう」

「それは良いですね」


 ティナの言葉に研究者の一人が笑う。調査開始そうそうの情報の入手に、幸先良いと感じたのだ。


「この魔道具の術式を解析し更に改良すれば、今はまだ高価な録画用魔道具も多く市民達の手に届く物になるじゃろう……さすが、ユスティーツァ殿と言うところじゃな」

「ほぉ……」


 研究者達が初代皇王の残した魔道具を感心した様子で眺める。そこに使われている術式は既存の物とは違い簡素化が極限まで進められており、ティナ以上に量産に向く物だったのだ。

 術式の問題上動作範囲が低い事は低いが、よほどの魔力濃度が高くなければ使用には問題が無い。冒険者達等が使う用に専用の術式を後付で開発するのも手だろう。とりあえず、安価で出せる事が重要だった。


「それと、研究所内部を精査してわかった事じゃが、どうやらこの階層と上の階層の間に一つ部屋がある様子じゃな。とは言え、人手が入らんはずがない。どこかにメンテナンス用の通路があるはずじゃ。流石に秘匿されておるからか研究所内の地図には記載されておらんから、手分けして何かおかしな場所を探す事にするとしよう」

「はい」

「じゃあ、軍の方はそれに手分けして数人で護衛にあたりなさい」

「わかったわ。じゃあ、第1班から順に……」


 ティナの提案を受けてシアがメルに通達を出し、メルがそれを受けて部隊を分けて研究者達の護衛に割り当てていく。

 地図が無いのは、当たり前だった。特型ゴーレムの存在は厳重に秘されていたのだ。その露呈に繋がる可能性があるエリアを記載するはずがない。

 幾ら自分達しか見ないからといっても、内通者の可能性や敵に襲撃されることを考えると記載しない方が良いからだ。知らなければ、隠す必要が無いのである。


「レイシア様! メルクリア様! 魔帝殿! 此方に来ていただけますか!」

「む?」


 一同で揃って一時間程最下層の司令室一帯を調査していたのだが、そこで研究者の一人が声を張り上げる。どうやら何かあったらしい。それに別々の所に居た三人は声のした場所へと移動していく。


「これは……何かの扉なのでは無いですか? 音響ソナーに感があったのですが……」

「む……」


 イクスフォス達が破壊したコンソールのある部屋の壁を調べていたらしい研究者が、ティナが来たのを見て場所をずらす。そうして、そこにティナが立ち、壁を精査する。


「ふむ……」


 その場に立って10秒程で、ティナはその場の違和感に当たりをつける。それは研究者が言う通り、扉の痕跡だった。

 そうして違和感を感じて、ティナは試しに地球で手に入れた軍用の音響ソナーを使用してみる。意外な事なのだが、エネフィアは魔術が発展した文明である所為で純粋な科学技術への対処が薄い。元々魔術や魔道具を一切考えない、という事を逆にエネフィア側の誰も考えていないのだから致し方がない事だろう。

 なので実は科学技術の産物ならば、発見出来る事があったのである。調査対象が地球という異世界の存在が知られる叛逆大戦前の文明である事を考えて、念のために科学技術の産物を持ってこさせたのが正解だったようだ。


「ふーむ……なるほどのう。これは見事じゃな。ここまで見事に跡形もなくなれば、魔術では発見出来まい。魔術によるソナーは完璧に遮断しておる。ユスティーツァ殿が発見できなんだも当然じゃろう」


 ティナはその魔術的に見ればほぼ完璧とも言える隠蔽に対して、称賛を送る。ティナであれば魔術であっても違和感を感じられただろうが、それでも極わずかだった。

 それでも発見されたのは、カイトという存在だろう。彼が科学技術の最先端を持ち込んだ所為で、純粋に魔術に対して対策するだけでは発見出来ない所も発見出来る様になってしまったのだ。

 ティナの様に科学技術に対しても完璧な隠蔽が出来るのは、ひとえにカイトが知識をもたらした事と彼女が地球に渡ったが故だ。純粋な科学技術が発展していない世界では、純粋な科学技術で構成された調査道具に対処出来る方が可怪しいのである。


「入れそうかしら?」

「むぅ……とりあえず、メインコンソールへと移動した方が良さそうじゃな。あそこがメインであれば、コントロール出来る可能性も無きにしもかな、という所じゃろう」


 シアの問い掛けを受けて、ティナが移動を始める。この部屋のコンソールは既に破壊されていてあてにならないのだ。そうして移動して、今度はその策略に舌を巻く事になった。


「見事じゃ。これは見事と言うしかあるまい」


 幾つもの隠された防壁を解除して手に入れた情報を見て、ティナがおもわず感嘆の声を零す。それに、今の今までずっと側でその補佐をしていたシアが問いかける。


「何がわかったのかしら?」

「この既知の火器管制システムは先の部屋のコンソールが予備となっておる事は、既に承知しておるな?」

「ええ……っ、なるほどね。それは見事ね」


 同じく護衛していたメルだが、ティナの言いたい事を理解して、一人頷く。それにティナは若干喜色を浮かべるが、理解したのは彼女だけだったようだ。なので更にティナは解説を続ける。


「あの部屋のコンソールを潰さねば、そもそもで研究所を無力化出来ん。が、あれを破壊すれば、あの部屋へ続く扉は外側からではどうやっても開かんのよ。それに伴ってシステムも自壊する様になっておるから、復旧してもその部分は復旧出来ん」

「なるほど……お見事、ね」


 ここまでティナの説明を聞けば、シアも理解した。つまり火器管制システムを完璧に叩き潰した時点で予備の警備システムが自動的に始動するのだが、そこへ至る扉はコンソールが破壊された所為で外側からは開けなくなってしまうのだ。

 そうなってしまっては、もうどう足掻いてもそこに攻め込む事は出来ない。スイッチで開く扉のスイッチを壊してしまえば開かないのは当然だった。となれば、中に居る特型ゴーレム達は安全かつ完璧に準備を整えた状態で、敵の対処に出れるのである。

 だが、そうなれば一つ問題がある。今度はその後に奪還しても自分達も入れないのだ。これでは貴重な兵器の数々は破棄したも同然だった。なので、それをメルが問いかける。


「奪還出来ても捨てるつもり、だったのかしら?」

「いや、そうではなかろう。カイトを主としたあの特型を調べたが……あれは見事じゃ。余でもゴーレムとしてあのレベルの自律行動が可能な物を創り出す事は不可能。あんな物を幾つも作り出せるのであれば、皇国側が勝てる道理はあるまい。それを捨てる可能性はありえんな」


 あれはまさにこの秘匿研究所の切り札、お宝中のお宝と言える物だった。それ故、ティナには量産は不可能と推測する。この研究施設を敵側が奪還するとするのなら、あれ目当てと言える程の出来栄えだった。それを捨てる可能性は無いだろう、と読んだのだ。


「まあ、もうしばらく待っておれ。流石に余でも前史文明の遺跡の術式の調査は時間が掛かる。その間、しばし休憩しておると良い」

「わかったわ……では、全員休憩を取りなさい。扉が開くと同時に戦闘もあり得るわ。注意は怠らない事」

「ええ」


 ティナの提案を受けて、シアとメルが休憩を通達する。そうして、ティナは一人で研究所のシステムの解析に取り掛かるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。今日明日と特型ゴーレムの資料回収です。

 次回予告:第524話『閑話』


 2016年8月2日 追記

・誤字修正

『研究者の一人のといかけに、ユリィが頭を振る』という一文がありました。『ティナ』の間違いです。修正させていただきました。まあ、彼女らの場合本体とは別の所にいてもおかしくはないんですけどね。

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