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第32話 閑話 みんなの・・・

 累計1万PV+一日1000PV+一日100ユニークユーザ突破記念ネタ回・・・なのですが、古参のコアなゲーマーを兼任される読者によっては忌まわしき記憶が蘇る恐れがあります。ご注意ください。

 あれ?なんか記念が増えてね?と思いますが、報告した後に突破しました。ありがとうございます。


 では、感謝の気持ちを込めたネタ回。お楽しみください。

「はーっはははは!」

 総身が血塗られた男が凶悪な大笑いを上げながら、手にした2つの身の丈もある巨大な剣で敵を切り伏せていく。本来ならば有り得ない武装だが、彼は怒りで世界そのものを改変したのだ。どうやったのかは、本人にもわかっていない。男の周囲には無数の敵が既に切り伏せられており、純白だった衣は真紅に染まっていた。

「まだだ!まだ!」

 凶暴な笑みを浮かべ、男は天使の様な羽を持つ醜悪な化け物を切り伏せていく。その化け物は地から湧き出てくる様に生まれていた。その姿は、彼の愛する妹の姿に、良く似ていた。だが、その姿は半ば人のそれと異なり、異形の形を取っていた。男はそれを、ただただ切って捨てていく。自らの妹に似た敵を切り捨てる己の所業が、彼を狂気に駆り立てる。

 敵が湧き出してくるのは、何も地面からだけではない。天は砕け、真紅に染まっている。そこから今もなお、別の無数の敵が出現し続けていた。天から現れるのは、巨大な醜悪な赤子の化け物。周囲を見れば、その赤子が人間を貪り食っていた。その食べられている者は、彼の友人たちに、良く似ていた。それが尚更、彼を凶行に駆り立てた。

 狂った笑みを浮かべる男が居るのは、その戦いの最前線。何処かの高い建物の上だ。数多の敵を切り捨て、数千という敵を切り伏せたところで、ゴトン、と音がした。一瞬、彼はそちらに目を遣ると、落ちたのは首だ。いや、よく見れば、それだけでなく、周囲には食い散らかされたと思しき残骸が散乱していた。

「……おぉおおお!」

 男は吼える。もはや、泣いているのか、怒り狂っているのか、彼にもわからない。首は、綺麗な長い黒髪の、彼がよく知る美少女の首であった。その顔は見えないし、彼は見たくは無かった。彼の体内時間ではなく、実時間として先ほど話していた少女の首を、彼は深い嘆きと共に焼却する。

「……まだ……まだ終わらねぇ……何匹でも来いよ……」

 敵の攻撃が途絶え、彼は一度沈痛な面持ちで顔を伏せる。そうして、深く、地の底から響くような声が響いた。それは、喩え大声でなくても、戦場全てに居る敵に聞こえただろう。それほどまでの殺気が乗せられていた。

「何匹でも来い!全部ぶっ殺してやる!」

 悪鬼羅刹、見た者がそう評する様な激情を湛えた顔を上げて、敵を睨む。憎悪よりも苛烈な怒りを纏い、携えた両の大剣を振るう。その一撃で、数十の敵が薙ぎ払われ、彼の衣は再び敵の血で真紅に染まる。

 数千を超える敵を切り伏せ、万を超える敵に相対し一切の疲れも、一切の怯えも見えない彼に、普通ならば敵は怯え、逃げ出すだろう。しかし、敵は一切臆すること無く、天から、地から湧き出し続け、彼に殺到する。そうして、醜悪なる化け物の軍勢と、彼の絶望的な戦いが、再び始まった。

 そんな中、彼の心の一部、血塗られた戰場の中でも決して熱することのない部分が冷静に考える。



――――何故、こんなことになってしまったのだろうか、と。




 話は数時間前に遡る。カイトはクズハからの実戦的訓練の後、更に桜に秘密の訓練を課す前に、ティナと一緒に昼食を食べていた。

「ん?新しいVRゲーム?」

「うむ。この間はいまいち時間がとれなんだし、そもそも一番初めのお試し、程度じゃったからのう。そのデータを元に、更にアップデートを行ったのじゃ。」

 確かに、以前やった時には、種々の問題点が挙げられていた。カイトが提起しただけでも、彼の認識よりも実際の身体の動作が遅い、等様々な問題点があったのだ。戦闘訓練として考えるならば、実際の身体よりもVR空間での身体の動作が遅いのは問題だ。僅かな誤差が原因で訓練後に変な癖が残れば、それは現実の戦いでの死に繋がる。ティナは別に一般化や商業化などは考えていないだろうが、使う見込みのある以上、問題点を改良するのは、当たり前と言えた。

「ふーん……じゃあ、何か?この間言ってた槍の方か?」

「ああ、いや。あれは時間が掛かるし、そもそもRPGじゃ。多少行動に齟齬があろうと、ステータスや武器でどうとでもなるからのう。それに、RPGにVRでの身体の身体能力は影響あるまい。」

 コマンド入力式のRPGは基本的にアクションゲームとは異なり、プレイヤーに常時コマンド入力を求めない。一度プレイヤーが指示を下だせば、後は自動的にその行動が行われるのだ。更には相手へのダメージ計算も此方の武器や筋力等のステータス等、様々な変数を計算して行われる。基本的にはプレイヤーには戦略的視点は求められるが、アクションゲームの様に即時対応能力はあまり求められないのであった。

 今回、ティナが問題視しているのは実際の身体とVRでの身体の齟齬なので、アクションゲームをして欲しい、とのことであった。

「ふーん……で、何をやればいいんだ?」

「ふむ……そうじゃな。アクションゲームであれば……かくれんぼの続編か悪魔狩りでどうじゃ?」

「……あれか。」

 カイトはティナの言葉で、該当作品に見切りをつける。2つともカイトもそれなりにやり込んでいるゲームであった。かくれんぼに至ってはやりこみ方の種類ではティナ以上にやり込んでいるぐらいである。

「悪魔狩りは何作目だ?」

「そうじゃな……まあ、全部ぶち込んでおるが、取り敢えず第3作目で良いか?あれなら多少お主の戦い方の利点が生かせよう。まあ、4作目はまだ後半部分が出来ておらん。何分余一人じゃからのう。」

 如何にティナと言えど、不具合を修正しながら新たなゲームをVR化するなどという事が、一朝一夕で出来る筈は無い。それどころか、地球製のゲームから情報をぶっこぬいてVR化出来るほどに背景やNPC―ノンプレイヤーキャラクター―を作り上げている時点で、彼女の技術力の高さがわかるのだが、それでも、やはり一人でやっている―使い魔達に手伝わせているが―ので、どうしても進みは遅いのである。

 とは言え、一定以上を作り上げてしまえば後はテンプレートで行えるので、今はその為の情報を収集している、という所なのだろう。

「遠近2つずつか……確かにな。かくれんぼは?」

「あちらは物語終盤が始まった所。殴り込みを掛けた所で、あの覚醒をどうしたものか、と悩んでおるのう。とは言え、通常プレイには問題が無い。縛りプレイと思えば良い。」

「あれ無いのか……」

 そこでカイトは少しだけ考える。2つとも爽快感が売りのゲームなので、できれば件の覚醒が使いたい所であった。とは言え、出来ていない物は仕方が無い。

「なら、悪魔狩りで。」

「うむ。スマヌな。……計画通り。」

 密かに呟かれた言葉は、ごきげんなカイトには聞こえていなかった。

「いいっていいって。所謂テストプレイヤーが出来てお得、程度だからな。」

 カイトは笑い、詫びたティナに気にするな、と言う。カイトにしてみれば、ストーリーこそ既出だが新しいゲームが楽しめる、と言った所なのだ。ティナには劣るが彼も重度のゲーマーである以上、新しいゲームには興味津々なのである。

「うむ。では、今日の夕方、余の研究室に来てくれ。」

「ユリィは連れて行った方がいいか?」

 ユリィは桜と親交を深めるため、別の所で他の生徒達を交えて昼食を摂っていた。

「いや、此度のゲームは知っておろう。妖精なぞ出てこん。かくれんぼに至っては妖精なぞ、なにそれ、美味しいの?レベルじゃからな。」

「確かにな。」

 そう言って、カイトは昼食を合掌して食べ終えて立ち上がる。それに合わせて、ティナも手を合わせ、カイトの後ろに続く。カイトは新しいゲームがプレイ出来るとあってるんるん気分である。そうして、その後ろのティナが薄く笑みを浮かべていることには、ついぞ気付かなかった。




『楽しすぎて狂っちまいそうだぜ!』

 礼儀として、カイトが獰猛な笑みを浮かべ、双銃を構えて敵の大群を前にそう言う。某ゲームの謳い文句だ。二人は今、元の姿に戻り、ティナの研究室でVRシミュレーションの調整を行っていた。カイトが中に入り、ティナが外からモニターしているのである。

「ふむ、動作性はどうじゃ?」

 インカム越しにゲーム内に居るカイトに問いかける。此方からは見えているが、カイトからは見えていない。更に邪魔する者も誰も―使い魔は全員退去させた―居ないので、ティナが厭らしい笑みを隠すこと無く問いかける。尚、試験は事実である。ただ、そこに彼女の個人的な恨みを織り込んだだけである。

『悪くないな。この間に比べれば雲泥の差だ。』

 事実、カイトは現実で行動するかの感覚で行動出来ていた。まあ、彼本体の脳に掛ける認識を加速する術式は別としても、彼の肉体に掛ける行動を加速する術式は掛けれないのだが、その点はゲームとして我慢するしか無かった。

「ふむ……では、そのまま真っ直ぐじゃ。直ぐに塔に辿り着こう。」

『言われなくてもわかってるって……さて、ワンちゃん、おすわり。っと、アブね。』

 カイトがボス敵に対して挑発する。ちなみに、イベントシーンは彼も只見るだけにされているので、戦闘時の単なる趣味での言動である。

「さて……カイト。スマヌが少々計器の確認をする。暫し、連絡は取れぬぞ。」

『あいよ。』

 カイトの返事を聞いて、ティナは計器の確認をする……フリをする。実際には顔に深い笑みを浮かべ、別のゲームのデータをぶち込む準備をしているのであった。

「ふふふ……」

 どんよりと暗いオーラを纏いながら、彼女は会心の出来の作品の最後の調整の確認し始める。

「おーるおっけー……カイトよ。余を騙した罪は償って貰うぞ……」

 そうして、ティナが最後の確認をしている内に、カイトは登っていた塔の最上階付近に辿り着いた。

『おーい、ティナ。そろそろ最上階だぞ。』

「む?おお、スマヌな。動作に問題は無い。そのまま進み……」

 ティナはそこで、溜めを作る。カイトはその間に、最上階に続く扉を、開け放った。

「死ぬがよい。」

『は?』

 響いた魔王然とした厳かなティナの言葉に、カイトがきょとん、とした顔を作る。

『はれ?』

 カイトの間抜けな声が響く。本来ならば、扉を開けた先は屋上で、主人公のライバルが居て、そこで戦いになるはず、だったのだ。しかし、開けた先は石造りの部屋だった。後ろを振り向いても、そこには入ってきた筈の扉は存在していなかった。

 そこに居たのは、彼が最も見知った女の子の一人。ドレス姿の彼の妹、浬が居た。最近中学も2年に上がり、身体つきが女らしくなってきた彼女に、そのドレスが非常に似合っていた。他には悪趣味な人形が大量に重ねられたベッドと、おかっぱ頭の金髪童女が居る。カイトは、非常に嫌な汗が流れた。そうして、ぽかん、としたカイトを放って、イベントが流れる。

『見ないで……』

 カイトの妹、浬の声が部屋に響く。尚、その前にはイベントで彼の妹の声で非常に反応しづらいイベントが行われているので、彼は帰ってからどんな顔をして会えばいいんだろうな、と場違いな考えが頭をよぎる。

 しかし、原作よろしく彼を置いて話は進む。そんな何も動けない彼に、ティナの笑い声が聞こえてきた。

「ふあーはっははは!まさに、何なのだ、これは!どうすればいいのだ!という顔をしておるのう!」

 まさに、今のカイトの顔はそんな顔なのだろう。カイトは自分でも、そう思っていた。

「何が稀代の名作じゃ!最後には希望が待っておると思い、あの鬼畜ステージをクリアさせられた時の余の絶望、思い知るが良いわ!」

『いや、この一連のイベント、マジの妹にやられてオレ、どう反応しろってんだよ……』

「はん、お主のこと。実妹でも攻略対象となろう!安心せい、お主なら妹に手を出したところで、お主じゃし、で済むわ!」

『なんねーよ!多分!』

「じ、自信無しというのはなんとも……」

 カイトの趣味や性癖を知るさすがのティナも、そんなカイトに呆れる。ちなみに、浬はかなりの美少女である。しかもティナや桜と並んでも、少なくとも見劣りはしないレベルである。とは言え、彼女の怨み辛みは続く。

「そもそも、あのゲーム……お主が稀代の名作、是非やっておくべき感動作、等と誑かして薦めたんじゃろうが!その恨み、決して忘れんからな!あの後数日間絶望感に包まれたわ!」

『いや、まあ、うん。それはマジにすまんかった。』

 カイトはあれを最後までプレイした後、あまりに呆然となり、誰かにこの虚無感と絶望感を共有して欲しかったのである。

 ちなみに、彼は彼で母親から薦められ、前情報なしにプレイしている。ちなみに、彼の母親もまた、前情報無しにプレイして同じ絶望感に包まれていた事を後々教えられた。

「そもそも、お主があれをプレイした後に何故か虚無感を纏っておった時点で気付くべきじゃったのじゃ!そうすれば、先にネットで情報も得れたものを!しかし、余は迂闊にもソレを感動後の虚無感、と思ったのが間違いじゃった!」

 立て板に水、怒涛の如く流れる怨み辛みに、カイトは共感する。彼も、プレイ後に同じ嘘を吐いた母親に文句を言ったのである。その後に、ティナに勧めているので、彼女の文句は正当な物であった。

「はぁはぁ……では、死ぬがよい。抗え、最後までの。」

 ぶつっ、とカイトとの通信を遮断し、更にはシステムを弄くり、キャラとしてのカイトの死と外側からの操作以外で外に出られない様に設定を変更する。

『え、ちょ!』

 カイトが出ようとしてステータス画面を開こうとするが、拒絶される。そうして、カイトは目の前で起きる様々な絶望を目の当たりにする。彼の親しい友人たちが、触手に貫かれ、貪り食われ、様々な要因で死んでいく。そうして、彼は遂に、ゲームである事を忘れた。

『おぉおおお!』

 カイトが吼える。それを見たティナは、魔王らしい厭らしい笑みを浮かべ、満足気に頷いた。やってることは幼稚な復讐だが、彼にそれなりの絶望を与えられたので良し、としたらしい。

「うぐ!」

 と、そこでカイトから圧倒的な魔力が迸った。

「おぉおぉ、猛っておるのう。」

 ティナはそんなカイトを愛おしげに見つめる。普通ならば悶死しかねないレベルの圧倒的な魔力だが、彼女にとっては単なるそよ風に等しい。

「ぐっ!」

 そこで、更に濃密な魔力の嵐が吹き荒れる。さすがの彼女も、身構えなければならないレベルだ。そこには膨大な殺気が乗っており、その膨大な殺気は彼女にとっては極上の快楽となった。

「く……くくく……これは……余の雌が疼くのう……」

 圧倒的な雄の気配を感じ取り、ティナが身体を火照らせる。今のカイトからは、並の雌ならば即座に理性を失いかねない程の濃密な雄の気配があった。それほど、カイトは狂気に哮り、怒りに猛っている。そう言う彼女からも、強烈な雌の気配がしていた。今この場に、二人しか居ないから良いが、もしこれが多くの前であれば、恐らく口にするのも憚られる様な淫靡な騒乱が引き起こされていたことだろう。

 とは言え、二人が襲われるか、と言えばそうではない。今二人が身に纏う殺気と魔力の濃密さは、常人どころかこの世界でも最上位の存在達でさえ、中てられただけで悶死するレベルであった。

「ぺろ……んむ……」

 椅子に腰掛けるカイトに跨がり、正面からカイトに貪る様な口づけを行うティナ。その瞳は潤み、吐く息は熱を帯びていた。

「さて、どうしたものか……このままコヤツが中で果てる迄焦らされるのも良いし、このまま脱がせて勝手に襲いかかっても良い。いっそ、今外に出せば、熾烈な戦いが出来そうじゃなぁ……そのまま此奴の獣欲で獣の如く無茶苦茶にされるのも良いのう……」

 光悦の表情で、これからを考えるティナ。今、主導権は全て彼女にあるのだ。彼女の望むがまま、お気に召すままになんでも出来るのであった。

 尚、さすがにプレイヤーの本体に少しでも危害を加えようものなら安全装置が働いて外に出られる様になっている。遊びで人死が出るような設定にはしてはいない。

「あぁ……取り敢えず熱いのう……」

 陶酔しきった表情で、元々深く開いていたドレスの胸元を更に開き、豊満な胸を露出するティナ。そうして、更にカイトの上着の脱がし、そこにくちづけをしていく。

「ふふふ……これほど迄に余を興奮させられる者はお主しかおるまい……それ故、余はお主を夫に選んだのじゃ。はぅん!」

 更に濃密な殺気を感じ、彼女はゾクゾクッ、と身悶えする。そして、強くカイトを掻き抱いた。

「はぁ……これぞ余の夫じゃ。コヤツの子ならば何人でも産んで良いと思えるのう……早うお主の子が欲しいぞ、カイト。」

 独り、繰り広げられる愛の告白。元々、彼女は昔からカイトの子を望んでいたのだ。それが、様々な要因からおあずけを食らっているのが現状だ。もはや顔は真っ赤で、口からは陶酔の涎を垂れ流し、身体中汗塗れであった。

「ふふ……これはまずはお主の猛りを鎮めねばならんのう……」

 カイトから溢れる殺気と魔力は、もはや異界化した研究室でなければ恐らくエネフィア全土のどこでも、誰でも分かるレベルにまで高まっていた。そんな圧倒的な暴威と猛りを前に、ティナは更なる興奮を高める。

「……さて、そろそろ余も我慢の限界じゃな。今のまま目覚めさせれば、獣の如く襲ってくれるじゃろう……んむ……何方かは、知らぬがな。それもまた良い……はぁ、はむ……」 

 ティナは眠るカイトと貪るように舌を絡め、遠隔操作でカイトをログアウトさせようとした瞬間、アラートが鳴った。

「何じゃ、こんな時に……」

 最悪だ、そんな言葉が顔に書かれていた。とは言え、実験の最中に不具合があったのでは、仕方が無い。彼女は確認しようとして、警告内容に驚く。

「何!?インカムは……おい、カイト!何をやっておる!」

『はっ、あはははは!』

 完全にシャットアウトしていたカイトの凶暴な声が、ティナの耳に響く。

 アラートの内容は、通常切ってある痛覚遮断に関するシステムであった。痛覚を制限していることで、実際の戦場の様なリアルな風は感じられないが、その分、痛みなどが制限される。さすがに安全性を考え、外側と内側の両方から操作しなければ、解除出来ない様に設定してあった。しかし、今は如何なる原理か、カイトからの操作のみで、全ての制限が解除されていたのである。

 ティナは原因追求は後回しにして、取り敢えずカイトを止めることにした。

「カイト、もう終わりじゃ!」

『あはははは!逃げる?逃すわけねぇだろうが!』

 逃げる敵も関係なく、非常に良い笑顔で惨殺していくカイト。もはや醜悪な化け物以外でも、目に映る物全てを滅ぼす破壊神と化していた。

「まずい!わかっておったが完全にキレておる!」

『おい、どうした!オレはまだ満足しちゃいねえぞ!てめぇらが殺った奴らはオレのダチだ!この程度で済むわけがねぇだろうが!てめぇら全部殺し尽くしてやる!』

 両手に巨大な大剣を握りしめ、醜悪な魔物の軍勢を刃で両断し、腹で叩き潰し、高速の斬撃で粉微塵にしていくカイト。その顔は、嘗ての大戦を共にした者でなければ見たことのない、カイト本来の凶暴な笑み。戦士としての獰猛な笑みであった。

「ノーダメでカウンターストップ!チート無しでどれだけ殺っとんじゃ!それに、大剣で二刀流!どうなっとるんじゃ!……あぁ!あの主人公そういえばどんな大剣でも片手でぶん回しておった!それに前の悪魔狩りの双剣の情報が上書きされておる!バグか!」

 この事態はさすがのティナも予想外であった。彼女の予想では、特殊能力も使えず、大精霊達や自分たちの援護の無い状況では万を超えた所でさしものカイトも倒れる筈、であったのだ。しかし、彼は倒れず、5桁あった討伐数カウンターが止まるぐらいに敵を倒していた。まさに、勇者、という圧倒的な戦闘能力であった。

「カイトよ!もう良い!余がすまんかった!」

『おい!どうした!まだオレは傷一つ付いちゃいねぇぞ!』

 ティナの声さえ聞こえない程にブチ切れ状態のカイトに、ティナは最後の手段を使うことを決断する。

「仕方が無い!コード・Eエンド!発動!」

 そうしてティナは、音声でシステムを操作し、プログラムを始動させた。そうして、次の瞬間、モニター内の状況に更なる変化が起こるのであった。







『……あ?』

 何が起こったのか、そんな思いがカイトの顔にありありと表れていた。カイトの認識では、何故かいきなり周囲が砕け散り、水面の上なのか何処なのか分からない空間に、彼のよく知る者達に囲まれて立たされていたのだ。何時の間にか武装は解除され、服は天桜学園の学生服に、姿も何時もの10代後半の姿に変わっていた。

『おめでとう。』

 そうして響く、友たちの祝福する声。カイトはそれをポカン、とした顔で聞いている。そうして、最後に両親から祝福が述べられる。その瞬間、カイトの意識は外に出された。

「……本当に……本当にありがとうございました。」

 にこり、と目の前に居る美女にカイトは笑い、そう言う。

「って言うと思ったか、このダ王!」

 毒気を抜かれた事で、なんとか正気を取り戻したカイト。逃げないように、カイトはティナをしっかりホールドする。そのままサバ折りの要領でギリギリと締め付けていく。ティナはなんとか逃れようとするが、しっかりとホールドされて逃げられない。

「んぎゃ!すまん!まさかこのような事になるとは思わなんだ!」

「てめぇ……絶対に許さん。ぜったいにゆるさんぞ!」

「んぎゃあ!ネタを挟むな!さすがに今の余では対処でき……ひゃぁん!どこ触っておる!」

「黙れ、この痴女!んなもんあからさまに出してんだから、揉まれたいんだろ!望み通り無茶苦茶にしてやるよ!」

 そうして、二人はいつもの通り、組んず解れつのバカップルぶりを発揮するのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

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