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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第29章 魔導学園・入学編
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第514話 ドラゴン・ライダー

 最早言うまでもない事だが、カイトはペットとしての天竜と言うか竜の扱いに掛けては先駆者の一人だ。ともすれば野生児一歩手前の生活をしていたカイト――とユリィ――にとって、天竜であろうと地竜であろうと、野生であろうと誰かが飼育していようと関係無く乗り回せる。それ故、300年経過していようともなんら問題なく、部活に対処出来た。


「きゃあ!」

「おっと」


 練習用ということで大人しめの地竜で練習していた瑞樹だが、やはり相手は竜だ。そう簡単に靡いてくれる事は無い。

 というわけで、案の定何らかの理由で機嫌を損ねて振り落とされたのだが、それをカイトが見事にキャッチする。流石に練習に誰も付かないという事は無いのでリクルが居るが、偶然カイトの方角に飛んできたのである。


「あ、ありがとうございます」

「ああ」

「はい、カイトくん。お見事でしたー」


 ぱちぱちと拍手を送り、リクルが見事キャッチを成功させたカイトに賞賛を送る。ちなみに言うが、一応彼女も振り落とされそうになった瞬間には動こうとしていた。ただ単にその前にカイトが動いた、というだけだ。


「瑞樹ちゃんはもう少し緊張をなくした方がいいですね。もっと落ち着いて、平然とした様子で、馬と一緒です」

「はい」


 リクルのアドバイスを受けて、瑞樹は再び鞍に跨る。が、結果は同じだった。再び地竜が暴れ、地面に落下した。今度はかなり仰け反っていたので、カイトやリクルでも間に合わなかったのだ。


「あいたたた……難しいですわね」

「まあ、誰もが一度は通る道、だ。そう簡単に行っても困る」


 地面に尻餅をついてお尻を擦っていた瑞樹に対して、自らは愛竜の上からキリエが笑いながら告げる。馬もそうだが、天竜・地竜とて生き物だ。当たり前だが意思を持ち、此方の思う通りには動いてくれない。乗り慣れるまでには、時間が必要なのである。


「馬と同じ感じでやっていたのですが……ダメみたいですわね」

「あはは。竜は大人しいのでも、馬の気性の荒い奴よりも気性が荒い……全部がおんなじ感覚で乗ったら、逆に見下されるぞ」

「そうです」


 リクルに代わって解説したキリエの解説に、リクルも同意する。それを聞いてキリエは少し溜め息を吐いたが、更に続けた。


「先生……先生が解説してくださいよ……まあ、とりあえず、だ。馬は安心させるように、だが、竜は自分の方が上だ、という事を教えてやれ。竜は基本的に強者に服従する。だから、弱いと思った相手は背中に乗せてくれない……瑞樹。一度戦闘時ぐらいの力で乗ってみろ」

「え……それ、いいんですの?」


 キリエのアドバイスに、瑞樹がかなりの戸惑いを見せる。当たり前だが、カイトで無くても普通は生活する上で魔力を抑えて生活している。そうしなければ無闇矢鱈に威圧しまくりで、普通に生活なんて送れないからだ。

 だが、逆に言えば抑えを解くということは、それだけ竜を威圧する、という事になる。確かに、自らの強さを見せるには妥当だろう。


「それで良い。と言うより、上だ、と分からせてやる事で、初めて主従の関係をはっきりとさせることが出来る」

「はあ……では」


 瑞樹はキリエの言葉を受けて、魔力に掛けていた意識的な抑えを解き放つ。それを見て、キリエは頷いて、更に瑞樹に指示を飛ばす。


「ふむ。なかなかに良いレベルだな。そのまま乗ってみろ」

「いえ、あの! かなり嫌がっていますわよ!?」


 キリエの指示を受けた瑞樹だったが、それを果たせる事はなかった。というのも、瑞樹の言葉通りに彼女が乗ろうとしていた地竜が暴れたからだ。


「そのまま強引に乗るんだ! カイト、君が押さえてやってくれ!」

「もうやってる!」


 キリエの言葉を受けるまでもなく、カイトは行動に移っていた。地竜が暴れているのは、近くで強者(瑞樹)が威嚇しているからだ。

 当たり前ではあるが、地竜は種族的には魔物といえど、生き物だ。それ故に普通に防衛本能や生存本能は存在している。であれば、自分よりも強い存在が威嚇すれば、当然、警戒し、身を守ろうと暴れるだろう。


「瑞樹、強引に乗れ!」

「わかりましたわ!」


 カイトの言葉を受けて、瑞樹は意を決して強引に地竜の鞍に跨る。すると当然だが、地竜は更に暴れて瑞樹を振り落とそうとする。


「きゃあ!」

「瑞樹! ゆっくりで良い! 魔力を抑えていけ!」

「こ、この状態で、ですの!?」


 今の瑞樹が振り落とされないのは、彼女が身体能力を強化して強引に鞍にしがみついているからだ。それをゆっくりと解除していけば、どうなるのかは目に見えているだろう。だが、キリエはそれを承知の上で、告げているのだ。


「危険な相手と思われ続けるのは最も危険だ! 振り落とされない様に宥めながら、ゆっくりと魔力の放出を抑えていくんだ!」

「む、難しい事を言いますわね!」


 キリエの言葉に、瑞樹は悪態をつく。今現在、瑞樹がなんとか地竜の上から振り落とされていないのは身体強化を使って強引にしがみついているからにほかならない。それを解くと当然だが、吹き飛ばされてしまうだろう。そのバランスの見極めが大変なのだった。

 それから10分程瑞樹は苦戦しながらも地竜を宥めながら魔力を抑えていき、それに伴って地竜はゆっくりとだが、だんだんと落ち着いていく。


「……ふぅ……こ、こんな所でしょうか……」


 そうして更に5分が経過した所で、遂に地竜は瑞樹の言うことを聞くようになる。が、その頃には瑞樹は汗だくで、かなり疲れた顔をしていた。

 まあ、暴れまわる地竜の上にしがみつくというのは、最高難易度のロデオマシーンに揺られ続ける様な感じなのだ。如何に鍛えていようとも疲れるのは仕方がない。


「はーい。お見事でしたー」


 それを見届けて、リクルが笑いながらぱちぱちと拍手を送る。とは言え、これでようやく乗れるようになった、と言う程度だ。


「じゃあ、今の感覚を覚えさせる為に、瑞樹さんはもう少しそこで待機しておいてください」

「わかりましたわ」


 汗だくになりながら、瑞樹はリクルの言葉に従う。騎竜というぐらいなので馬と似たような物なのか、と思っていた彼女だが、全く違う感覚に思わず溜め息が出た。

 馬は心を通わせる様な感覚だけで良かったのだが、竜はともすれば反抗しそうになるのを抑えなければならないのだ。竜車専用の御者が必要なのも頷ける状況だった。だが、そうして休息に入ろうと思ってふと、嫌な予感がして、リクルに問いかける。


「あのー……先生? もしかして、これって全部の竜で同じことをしなければならないんですの?」


 瑞樹がふと思い直せば、この一体をならした所でそれはこの竜が相手で無ければ何ら意味の無い事なのだ。ということはつまり、別の竜に乗ろうとするのなら、また同じことをしなければならないのか、と思うのは当然だった。

 そんな瑞樹の危惧に対して、今の一連の行動についての解説をカイトと皐月向けに行っていたリクルが振り向いて、何を当たり前な、という顔で答えた。


「え? 当たり前ですよ?」

「な……」


 リクルの口から出た言葉に、瑞樹だけでなく皐月まで絶句する。今のロデオを何時も、なのだ。だが、そんな二人に対して、キリエは苦笑しながら告げる。


「慣れれば一分も掛からずに慣らせる様になる。乗る一瞬だけ威圧して、上下関係を把握させてやるだけだ。今回の様に元々自分達よりも下と思われていたなら時間が掛かるが、普通にはそこまでかからないさ」

「もしくは自分の愛竜を手に入れれば、そんな事を考える必要も無くなりますよ」


 キリエの言葉を引き継いで、リクルが笑いながら告げる。まあ、そうは言ってもそもそも竜の購入なぞバカ高いわけだし、維持費もばかにならないのだが。とは言え、心惹かれたのもまた、事実だ。


「愛竜、ですか……まあ、それはそれで考えてみたい物ですわね」

「お世話大変そうだけどね」

「まあ、それはそうですわね」


 皐月の言葉に瑞樹も同意する。ペット小屋という名の竜達の飼育スペースでは、常に威圧的な魔力が渦巻いている。その中をペットの様々な世話をしなければならいのだ。実は飼育そのものについても一筋縄では無い苦労が必要なのであった。


「もし欲しいのなら、冒険者なら自分達で捕獲してくるのも手だな。ここでやり方さえ覚えれば、後は野生の竜種でもおんなじ感覚で乗りこなせる様になる」

「ああ、それはいいかもね」


 キリエの言葉を聞いて、それは有りだと皐月が頷いた。よくよく考えれば彼女らは冒険者で、依頼の中には竜種の捕獲もあるのだ。なら別に依頼とは別に自分達で捕縛して、移動用の足として考えるのは有りと言えば有りだろう。

 というより、実は幾つもの街に支部を構える様な大規模なギルドで予算などから飛空艇を所持出来ない所だと、自分達で移動や荷物運び専用の竜種を飼育している所もあったりする。餌にしても自分達で簡単に手に入れられるので、やり方さえ学んでいれば実質的に経費は殆どかからないのである。


「はい。じゃあ瑞樹さんには一度降りてもらって、次は皐月さんにお願いします」

「わかりましたわ」

「はーい」


 そんな話をしている内にどうやらこの地竜は瑞樹がなでてやらないでも大人しくなっていて、安心した様子になっていた。それを見たリクルは次に移る為、一度瑞樹を地竜から降ろす。

 そうして瑞樹が地竜から降りた後、今度は別の大人しめの地竜へと皐月が同じ様にまたがった。まあ、結果は同じく、ロデオマシーンの様に皐月が振り落とされそうになる、という物だった。

 ちなみに、別の地竜なのは何人も見知らぬ者が乗ると如何に竜種と言えども多大なストレスを感じる事になる。流石にそれはどうか、という事なので、別の竜を選んだのだ。なお、二人が練習として乗っている竜に関しては彼女らがここに来るまでに乗っていた竜である。


「きゃあ!」

「はーい。じゃあ、さっきと同じように強引に抑えてあげてくださいね」

「呑気に言ってないで、宥めるのに手を貸してください!」

「あ、ごめんね」


 呑気そうに告げたリクルだったが、キリエの言葉に少し慌て気味に皐月の乗る地竜の抑えに掛かる。まあ、忘れ物をしたりとどうやら少しうっかりした先生である様子だ。

 そうして再びロデオマシーンと化した地竜を宥める事15分と少し。殆ど瑞樹と変わらぬ時間で皐月も地竜を宥める事に成功する。なお、皐月についても同じく疲れ果てていた。


「はぁ……はぁ……これは疲れるわ……」

「お前がそこまで汗だくになってるのは久しぶりだな」

「いいぐらいに汗を掻いたわね……」


 皐月は右手でパタパタと胸元を煽って汗でへばり付いた服の中に真夏の夕暮の空気を送り込む。汗と良いかなり色っぽかったので、他の男子部員達の視線が注がれていた。


「さて、じゃあ最後はカイトくんですねー。と言っても君の場合乗ってきたのがキリエさんの愛竜なので、どうしましょうかねー」

「まあ、ウチのテトラもカイトとの相性が良いらしいですから、それを練習で使うと良いと思います」

「あ、そうなんですか。じゃあ、お願いします」


騎竜をどうしようかな、と悩んでいた所にキリエから提案があったので、リクルは殆ど悩まずに了承をしめす。キリエの愛竜であるテトラは、大貴族の令嬢の愛竜としてかなり高度な専門家によるちゃんとした調教がされている。多少の無茶は出来た事も大きかった。

 が、こんなキリエの気遣いに対しても、カイトの方は悩むしか無い。なにせカイトの実力で必死を演出しようと高くすればテトラだけでなく周囲を圧倒しかねない程だし、逆に低ければ意味が無い。とは言え、ここで悩み続けるわけにも行かない。というわけで、カイトは覚悟を決めて、逆に器用さとして何時も通りを行う事にした。


「よっと」

「……ありゃ、お見事」


 確かに専門に調教されている事もあるが、それでもカイトは暴れだそうとするテトラを一瞬で宥めてみせた。それを見て、リクルは少しだけ目を見開いて驚きを露わにして、ぱちぱちと拍手する。

 こればかりは慣れの問題だ。カイトは旅時代に何度も強引な手段で野生の竜を乗り回しているのだ。今更これの練度を落とせ、と言われた所で身体が勝手に動いてしまうのである。というわけで後は何時も通りに一瞬でどちらが上かを本能で分からせて、大人しくしたのであった。そうして、カイトはリクルの賞賛を受けて、少し照れた様子を作って見せた。


「良し……まあ、私はこういった出力の調整は得手ですから」

「それでも、お見事ですね。ここまで上手く乗りこなせたのはキリエさん以来でしょうか」

「あはは。まあ、私の場合は何度か父の伝手で練習していましたから」


 リクルの言葉に、キリエが少しだけ照れた様子で答えた。まあ、彼女の家は軍の名家だ。それ故に、元々練習していたのだろう。


「じゃあ、とりあえず今日はここまでにしておいて、今乗った竜と感覚を覚えて……って、カイトくんは無理ですね。なので明日からまたゼロからやり直しですけど、その感覚を忘れないでください」

「はい」


 まあ、幾ら一瞬で慣らしたからといっても、結局はカイトも初心者ということで15分程の慣らしを行う。それを繰り返せば、当然だが直ぐに日は暮れる。そうして最後にリクルが部員全員を集めて終わりの言葉を告げて、一同は魔導学園へと帰っていったのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第515話『寮生活』


 2016年7月25日 追記

・誤字修正

『リクルに変わって解説~』ではじまる一文で、『変わって』を『代わって』に修正し、更に同意したのを『キリエ』から『リクル』に修正しました。一文に2個ミス・・・すいませんでした。

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