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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第29章 魔導学園・入学編
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第512話 放課後 ――協力者――

 その後、4限目~6限目は座学の授業だった為、大して何も無く終了した為、とりあえずはその日の授業は終了となる。というわけで、カイトは当初の予定通り生徒会室に顔を出していた。ちなみに、場所は最上階の学園長室の2つ隣である。そこには、他の天桜学園の生徒達と、雨宮ら教師達も集められていた。


「とりあえず、君たちに集まってもらったのは、他でもない。部活動について、だ。っと、その前に放課後の寮の門限を通達しておく必要があるな。門限は19時。一応提出さえすれば、21時まで外出可能だ。ただし、先出しだから注意しろ。罰則規定などは無いが、時間を過ぎれば門は閉じられる。最悪の場合は勝手口はあるが……分からないだろうから、出ないでくれよ」


 キリエは苦笑しながら、一同に告げる。ちなみに、門限は19時と言うが、寮は学園の敷地内部に存在している為、部活動をしている生徒が門限を超えて閉めだされてしまうという事は無い。


「さて……で、部活動の説明だな。天桜の先生方は参加するわけではないが、観覧、という形でどのような部活か見て回ってくれると助かります。では、クルツ、書類を配ってくれ」

「はい」


 キリエは用意したらしい部活の一覧表を配り、部活の説明を行っていく。ちなみに、クルツとは先の遺跡での戦闘にも加わっていた魔族の少年だ。彼は生徒会書記らしい。

 ちなみに、部活といっても流石にそれは異世界だ。サッカー部や野球部等という定番の部活があるわけではない。存在しているのは此方で主流の競技に関する部活や、魔術等を研究する部活、武芸を学ぶ為の部活等が大半だ。

 かろうじて地球にも存在している部活といえば、弓道部や乗馬部ぐらいだろう。水泳部も存在しているには存在しているが、それはどちらかと言うと、水中戦闘の為の水泳部だ。


「というわけで、この中から選んでもらいたいわけだが……わかると思うが、流石に空中遊泳部なんて所属しても何ら意味が無いだろう。私達に……いや、カイトは除くが……飛べないからな」


 リストを見せながら、一通りの部活の説明を終えたキリエが、最後に苦笑しながら告げる。ちなみに、先述の水泳部も、主に人魚族等水中で自由に呼吸が出来る者達の為の部活だ。

 そう言う意味では、所属しても大して意味は無い。かろうじて桜ら等水の加護を得た者が所属出来るぐらいだろう。


「ああ、それと、掛け持ちは可能だ。かくいう私も騎竜部と遺跡研究会を掛け持ちしているからな。ああ、それに生徒会も、か。では、クルツ、クシュリナ。二人共、天桜学園の方々を案内してくれ」

「はい。じゃあ、ついてきてください」


 先のクルツと蝙蝠羽の女子生徒がキリエの言葉に立ち上がり、一同の案内を開始する。そうして、カイトもそれに続こうとして、その前にキリエから声が掛けられた。


「ああ、カイト。すまないが、君は少し残ってくれ」

「ん? ああ、分かった」


 一同が出て行った後、戸締まりを確認して、キリエがどこか申し訳無さそうに口を開いた。


「すまないな、君には幾つか用事があってね。とりあえず、まずは部活だ。すまないが、君には生徒会と騎竜部に所属してもらえないだろうか?」

「? 別に構わないが……」


 カイトは今回の体験留学生の生徒側の取り纏めを行っているので、生徒会への所属は納得出来る。だが、騎竜部については意味が理解出来なかった。そんな訝しげなカイトの顔を見て、キリエが苦笑しながら解説を開始した。


「一ヶ月先にちょっとしたレースがあってね。それは学校を上げた物で、近隣の貴族達の学校も含めた物になるんだが……折角来てくれたからな。是非一人は出て欲しいと言うのが、私としての思いだ。」

「なるほど、そういうことか。確かにそんなイベントがあるのに、一人も参加しないでは勿体無いな」


 キリエの言葉に、ふとカイトもそんな書類が上がってきていた事を思い出す。それは夏の大きなお祭りのメインイベントだった。一応思い出した体にしたのは、詳しくても可怪しいだろう、という判断だ。


「わかった。そういうことなら、その話を受けよう」

「すまないな」

「これが要件か?」

「いや、すまない。もう一つある。と言っても、これは私では無いんだが……場所を移動しよう」


 カイトの問い掛けに、キリエは立ち上がって移動する。移動と言ってもこの生徒会室に隣接している生徒会の会長室だが。どうやら隠したい類の話らしい。そうして、カイトは彼女に従って隣の部屋へと移動する。


「すまないな。何故か兄が君と話がしたい、と言っていてね。軍務の最中で無ければ良いのだが……」

「次期ブランシェット公が?」

「ああ。以前皇城で面識がある、とは聞いているよ……少し待ってくれ。今呼び出している」


 生徒会室に備え付けの魔道具を使い、キリエはアベルへと連絡を取る。そうして、10分程色々とたらい回しにされて、ようやくアベルへとつながったらしい。会長室に備え付けのモニターにアベルが映った。


「兄上、相変わらず軍部の連中は少し防衛体制が厳しすぎないか?」

『言うな。曲がりなりにも俺は准将だ。これぐらいは必要でな』


 10分程たらい回しにされていた事を知っているらしく、アベルが異母妹に対して苦笑して告げる。


「っと、それで、兄上。カイトだが、連れて来たぞ。何の用だ?」

『ああ、来たか……キリエ、お前は確か口が固かったな』

「身内からそう言われても、なんとも言えないな」

『それもそうか……とは言え、まあ、話しておかない事には始まらない』


 アベルはそこで一つ、カイトに視線を送る。念のために真剣な顔で問いかけていた。それに、カイトも一つ首を縦に振る。


『助かる。色々と調査結果が出ている』

「聞こう」

『ああ……まず、教国に入る物流について、軍部が調査した。その結果だが、詳細は資料としてクズハ代行に送った。公も確認してくれ』

「なっ! ちょっと待て! 兄上! そこらの資料は軍事機密だろう! ここで明かして良い話か!?」


 いきなり始まった軍事情報のやり取りに、思わずキリエが止めに入る。当たり前だが、ここでのキリエのカイトの認識は、とんでもなく強いだけのギルドマスターだ。軍事機密が明かされる相手であるはずが無かった。


『キリエ、俺は公、と言ったぞ』

「公?」


 そんなキリエに対して、アベルは仕事向きの顔で黙る様に暗に告げる。とは言え、これで全てを察しろ、とは少し酷だろう。なので、アベルも苦笑して、キリエに語る。


『マクダウェル公カイト。まかり間違っても喧嘩は売るなよ』

「は?」


 ぎょっ、となったキリエは大慌てでカイトの方を窺い見る。そこに居たカイトは、それを肯定するように、不敵な笑みを浮かべるだけだった。


「とりあえず、続けてくれ。フォローは此方でやっておこう」

『助かる。でだ、流石にこんな場所へ連絡を入れたのは、単なる酔狂ではない。少し気になる点があってな。悟られない様に、キリエを通す事にした。流石に異母妹の側に公が居るとは他国の密偵たちも思わないだろうからな』

「記録には、異母妹に連絡を取る、だけか」

『そういうことだ。いくら准将といっても家族との会話内容を記録に残す必要も無いからな。間に入って聞いている奴にしても、既に公の正体を知り、隠蔽を担っている奴だ。何ら問題は無い』


 二人は同時に政治家としての少し悪どい笑みを浮かべる。とは言え、本題はそこではない。なので、一度笑みを引っ込めて、本題に戻る。


『でだ……公に渡す為に資料を見なおしていると、一つ、興味深い報告が出た。そこが少し憶測を呼んでいてな。資料は映っているか?』

「ああ……何処かわかった。玉鋼、か……奇妙だな」

『ああ。教国も皇国も基本、玉鋼は使わない。使う必要が無いからだ。そこらは良いか?』


 教国はもともと、肥沃な大地を有している。その中には良質な鉄が取れる鉱山も存在しており、たたら製法を使ってわざわざ砂鉄から玉鋼を作り出す必要が無かったのだ。

 そして、彼らの兵団にしても重装備の防備を持つ事から盾を使った戦い方が主流で、玉鋼を使って作る刀は使わない。なので玉鋼を購入する必要も無い。なのに、何故か最近は玉鋼の流入があった、というのだ。軍部が訝しむのは無理がない事だった。


「ああ、問題ない。それに、元はウチの初代軍団長はあそこの聖騎士団団長筆頭候補だ。結構内情を持ってきてくれたからな」

『確かに。それで、公よ。何か分かるか? 先の議題でもそれが上がったが、誰も判断出来なくてな。公に連絡を取った、ということだ』

「ふむ……ステラ、すまないが、ユリィを呼んでくれるか?」

「ああ、承った」


 とりあえずカイトは意見役としてユリィを呼び出す事にして、自分でも少し黙考を開始する。そうして、数分するとユリィが転移で会長室に現れた。


「きたよ~」

「ああ、ユリィ。一つ聞きたいんだが……その前に、あの資料を見てくれ」

「……どういうこと?」


 かなり真剣な目で、ユリィはカイトに問いかける。それに、カイトは画面に映るアベルを指さし、更にその横の資料を見せる。


『久しぶりです、ユリシア学園長。この資料ですが、何か把握出来ますか?』

「アベル、久しぶり……少し待って」


 どうやら、ユリィも何かを考えついたらしい。だが、その考察が真実かどうか判断が出来ずに悩む。


「……カイト、多分、同じ事考えてる?」

「だから、お前を呼んだ」

『何か分かったのか?』


 二人のかなり真剣な様子に、アベルが同じく真剣な顔で問いかける。それに、ユリィが答えた。


「答えは一つ、です。中津国系の鍛冶師が居る。理解出来ませんか?」

『あそこに、ですか? あり得ないでしょう。あそこの異族排斥の風潮は既に数百年単位、それも、上層部ほど狂信者です。今更これだけの取引が出来る地位に、異族の血を置きますか?』


 どうやら、アベル達軍部もこれは考えついていたらしい。だが、風潮からあり得ないと切って捨てた様だ。まあ、それ故に、行き詰ったのだが。だが、それをカイトが否定する。


「逆だ。それしかあり得ない。教国の更に西なら、玉鋼ではなく普通の鉄器になる。玉鋼はこの大陸では中津国のみが使う金属だ。それを流入し、武器に転用するなら、中津国の流れを汲む鍛冶師が居るしかあり得ない。玉鋼にそれ以外の使い途はない」

『ふむ……公よ。教義に反してでも、それをやると考えるか?』

「然り。次代のブランシェット公よ、一つ問う。君は国防に役に立つと思うなら、詭弁は弄するか?」

『……嘘を吐いて、騙している可能性もある、か……』


 カイトの言葉に、アベルが少し考えこむ。教国の上層部の教義の狂信っぷりは彼ら軍の上層部にも知る所だった。そうであるが故に、手元に異族の血を引いた存在は置かない、と考えていたらしい。狂信者程、徹底しているのだ。異族を近づけるとは露とも思わなかったのだろう。


「もしくは強引に技術を引き出して、既に処分した可能性もある」

『確かに……マクダウェル公よ。すまないが、中津国の燈火殿に確認は取ってもらえるか? この資料についても、公に取り扱いを任せる。此方は少し戦略について見直しを提言しよう。もしやすると、狂信者ではない幹部が居るかもしれん。プロファイルを見直す必要がある』

「承ろう。報告書は公に上げればいいか?」

『かたじけない』


 カイトの言葉に、アベルが頭を下げる。二人共、そもそもの理論として中津国が教国と手を組んだ、とは考えていない。教国がもし皇国を滅ぼせば、次は彼らの番だ。それが理解出来ない燈火では無い。いや、たとえ彼女が理解してなくても、仁龍は確実に理解している。それはあり得なかった。


『でだ、礼と言っては何だが、学園での情報工作にキリエを自由に使ってくれ』

「は……?」


 いきなり異母兄から告げられた言葉に、キリエがきょとん、となる。が、カイトの方もそんなキリエは無視して、会話を進める。


「それは有り難い。知らなかったがオーリンの子供が学園に居たりしてな。手加減も結構厄介そうだ、と思っていた所だ。学生側にも隠蔽要員が手に入るのは有り難い」

『キリエ。わかると思うが、マクダウェル公の帰還は軍事上、政治上第一種機密だ。しゃべるなよ』

「ちょ、ちょっと兄上!? それにカイト……殿? も!」

『マクダウェル公。意見、助かる。では俺は軍議に戻る』


 キリエの抗議を無視して、アベルは勝手に通信を切る。


「では、キリエ。隠蔽の協力、よろしくな。」

「え……いや、あの……ああ……はい?」


 カイトに対してどう接して良いのかわからず、キリエが滅多にない困惑の表情を浮かべる。まあ、困惑の表情は今日2回目だが。

 ちなみに、実はアベルはキリエを強引にこの役目に任命する為に、彼女の前でカイトの正体を明かしたのだ。強引ではあったが、この強引さがなければ、公爵はやってられない。


「別に口調は丁寧にならなくてもいいさ。同じ学生に丁寧な言葉を使うのも変だろ?」

「いや、そう……ですが……本当に勇者カイト殿なのですか?」

「他ならぬ私が、それを認めています。彼はカイトに違いありません」

「お前がユリィかどうかは、オレは疑うがな」


 ユリィの猫を被った口調に、カイトが小さく告げる。ちなみに、この所為で後で寮でグチグチとねちっこく何度も文句を言われる事になるのだが、それは横に置いておく。そうして、カイトとユリィはとりあえずざっとのあらましをキリエに語る。


「ま、そういうわけだ」

「わかり……いや、わかった」


 何度も告げられ、ようやくキリエも元の口調で話す事を了承する。まあ、そう言っても若干まだ硬さはあったが。そうして、二人は会長室を後にするのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第513話『協力者』

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