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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第29章 魔導学園・入学編
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第508話 編入

 ユリィによる演説の後。各々は別々に分かれて、自分が配属される教室へと向かう事になる。その中でカイトは5年1組に編入される事になる。ここは所謂普通科だ。カイトの能力から言えば、それぞれの才能に特化した特別クラスにでも編入は可能だが、大して意味は無いので普通科に編入されたのである。


「今日から一ヶ月お世話になります」

「いえ、私の方こそ、よろしくお願いします」


 ユリィの挨拶のあった場所からの道中、カイトは自分の配属される先の担任に挨拶する。担任の教師は物腰柔らかな夜の一族の教諭だった。腰まである長い黒髪に赤い目が特徴的な男だった。

 ちなみに、夜の一族とは吸血鬼達の事だが、日光に焼かれて死ぬ、なぞという馬鹿みたいな事にはならない。あれは単なる説話だった。


「ああ、私はハルベルト・フェムトです。ハルで構いません」

「あ、カイト・アマネです。よろしくお願いします」


 自己紹介を忘れていた事に気付いた二人は、おそばせながら一度立ち止まり自己紹介をしあう。そして、再び歩き始める。


「ウチは普通科なので、歴史の授業や公民、その他色々な授業も取り扱うのですが……良かったのですか?」

「教導科の事ですか?」

「ええ、カイトさんの実力と本業なら、そちらの方が適切では?」

「戦いだけでは、見えぬ物も多いですから」

「そうですか」


 カイトの言葉を聞いて、ハルが納得して頷く。カイトの言った教導科とは、特別クラスの一つだ。主に軍事系統の講義が多く、未来の軍人を育てる為のある種軍事学校の様な所だった。ちなみに、当たり前だが、アルやリィル、ルキウス達は全員ここの卒業生だ。


「ええ。前史文明の神話学などはやってくれませんからね、あっちは。考古学等にも特化していれば別だったのですが……」

「前史文明に興味がおありですか?」

「ええ、目的柄。」

「ああ、それは確かに。」


 ハルはカイトの言葉を聞いて、カイト達の目的を思い出す。冒険部の目的は、地球への帰還だ。その為には、前史文明の遺跡にも行かなければならないのだ。その為にも、その文明の内容については知っておかなければならなかった。何も遺跡から見境無く秘蹟を持ち帰れば良い、というわけではないのだ。


「それなら、良かった。私の授業では今、前史文明……ルーミア文明の神話学について取り扱っている所です」

「それは良かった。一層、身を入れさせて頂きます」


 ハルの言葉からすると、どうやら彼は歴史の担当教員らしい。カイトはにこやかにそう告げる。


「ここが、カイトさんが配属されるクラスです。私のクラスですね」


 しばらく二人は雑談を重ねながら歩いていたが、5分もすれば目的地に到着した。教室の外見は大学の講義棟等にある教室と殆ど変わらない。ちなみに床はフローリングで、ガラス窓もしっかり存在している。


「では、少々お待ち下さい」

「はい」


 ハルはカイトを扉の前に待たせると、先に自分が入って中で事情を説明していく。とは言え、既に殆どの事情は説明しているので、これから来るという事の説明に近かった。その説明も、ものの3分程で終了した。


「カイトさん、入ってください」


 ハルの言葉に従って、カイトは教室の中に入る。入ってそうそうに気付いたのは、注目の視線だった。まあ、異世界からの学生となれば、興味を抱かない方が珍しいだろう。そうして、ざわめきの中、カイトは教卓の前まで歩いて行く。


「カイト・アマネだ。一ヶ月程度の体験入学に近いが、よろしく頼む」

「<<勇者の再来リターン・オブ・ザ・ブレイブ>>……」


 カイトの自己紹介は奇を衒った物では無かった。だが、それでも出された名前から、全員が静かに、騒然となる。どうやらカイトの名前はそこまで有名らしかった。とはいえ、本人にしてみれば、御大層な名前だと思うのだが。


「そこまで御大層な物じゃない。普通にカイトで良い。勝手にそう呼ばれているだけだからな」


 カイトは苦笑しつつも、<<勇者の再来リターン・オブ・ザ・ブレイブ>>と呼んだ一角に視線をやって告げる。その時にチラリと空席が見えたのだが、おそらくそこがカイトの席なのだろう。


「あはは……まあ、少々有名な方でしたが、みなさんのクラスメイトです。仲良くしてあげてください。では、カイトさん。貴方の席はあそこの、ほぼ真ん中の席ですね」

「わかりました」


 ざわめく生徒達を一度鎮めてから、ハルはカイトの席を指さす。それは先ほど予想した通りに、空席であった場所だった。そうして、カイトはそこまで歩いて行く。三人がけの長机なので、一度右隣の生徒に断って少しだけ席を空けてもらう。


「ちょっと失礼」

「あ、うん」


 右隣の生徒は、小柄な男子生徒だった。彼は薄い茶色で、犬の様な獣耳が頭にあった。後ろを通る際にしっぽが見えたので、おそらく獣人だろう。そうして、カイトが着席すると同時に、右隣の生徒が自己紹介をしてくれた。


「あ、マーク・ソレイユです」

「ん? ああ、カイト・アマネだ……ってさっきも言ったけどな」

「あはは、うん」


 マークが笑ってカイトの言葉に同意する。それが終わると、今度は左隣の女子生徒が声を掛けてくれた。


「私も良いかしら?」

「ん、ああ。流石にもう自己紹介は良いか?」

「ええ、流石に三度も求めませんわ。シエラ・オルテシア。以後、お見知り置きを」

「ああ。此方こそ、よろしく頼む」


 シエラから差し出された右手をカイトが握る。彼女は普通の人間の女子生徒に見えるが、見えるだけかもしれない。そこの所は紹介が無かったので、わからなかった。そうしてこの三者がとりあえず挨拶をし終えたのを見て、ハルが口を開いた。


「では、1限目のロングホームルームに入る前に、カイトさんには委員会に入ってもらいたいのですが……何かありますか?」

「あの……すいません。ちょっと良いですか?」


 ハルの言葉が始まって直ぐ。カイトでは無い別の生徒がおずおずと挙手する。ちなみに、女子生徒だった。


「はい? どうしましたか?」

「あの……是非飼育委員でお願いしたいんです……」


 かなりおずおずとした感じで、女子生徒が告げる。その言葉に、カイトを除いた全員が納得して頷いた。


「あの……この間クイーンを抑えたのってカイトさん……だよね?」

「ああ、エサやりの時な。そうだ」


 カイトとしては隠す必要も無い情報なので、カイトは笑ってそれを認める。そして、カイトが認めたのを見て、女子生徒が頭を下げた。


「お願いします! あれ以降も何度やっても聞いてくれないし、あれ以外にも厄介なのがいっぱい居るんです! ちょっとでいいんで、やり方教えて下さい!」

「……あ、ああ。その程度でいいなら……」


 カイトは乾いた笑いしか出せなかった。なにせ、その問題を起こしている『厄介なの』とはどう考えても自身のペットとしか思えなかったからだ。その面倒ぐらいは自分でやらないといけないとは思ったらしい。


「あ、あはは……では、これで決定で……」


 ハルとしても、これには苦笑しか出なかったらしい。なので、書こうとしたカイトへ推薦する委員会の内容についてを全部消去する。そうして、その後は普通にロングホームルームが開始されたのだが、その内容は地球と殆ど変わらない内容だった。

 まあ、ロングホームルームで変わった内容を採用していても可怪しいだろう。とは言え、2時限目も座学で、それも地球の授業と変わらない内容だった。


「では、引き続き2限目を開始します」


 2時限目はハルによる歴史の授業だった。彼が先ほど言った様に、内容は前史文明の神話についてだった。こういう大筋とは関係ない話題を出来るのは、ひとえに1年が48ヶ月もあるが故だった。どれだけゆっくりやっても、授業日数は山程あるのだ。脇道にそれて教養レベルの話をやった所で、何ら問題は無いのだった。

 ちなみに、同じ理由で1コマ60分だったりする。一日6コマで、休憩は15分。昼休みは1時間。授業は8時~16時である。これは座学では学べない放課後の活動の方が重要なので、致し方がなかった。


「では、今日はちょうど新しい仲間も居ますし、初めからおさらいしておきましょうか。ではまず、ルーミア文明について、誰か説明してもらえますか?」

「では、私が」

「はい、シエラさん。お願いします」


 ハルの言葉を受けて、シエラが立ち上がる。


「ルーミア文明は皇国南方、ルーミア地方にて見つかった事から、その名が付けられました。その興りは約3000年前と推測されます。特徴的なのは、その魔術文化。今の『古代魔術(エンシェント・スペル)』の<<メギド>>に代表される高威力な攻撃魔術、<<虚無の門(ゲート・ゼロ)>>に代表される高性能な対抗魔術、今の飛空術の原型を創り上げた事等が挙げられます。魔道具文明に富んでいた双子大陸のメガス文明や魔導文明をなるべく廃したメイデア文明との差はここにあります」

「3大古代文明に言及しての説明、有難う御座いました。着席してください」


 ハルの言葉を受けて、シエラは優雅にお辞儀をして着席する。そして、シエラの言葉を引き継いで、ハルが解説を開始した。


「今言及されたルーミア文明、メガス文明、メイデア文明の三種が、エネフィア3大古代文明になります。ここは次のテストでも出しますので、覚えておいてください」


 授業風景は地球と変わる事は無い。まあ、創始者であるカイトが地球人なので、それを基にしているのだから当たり前だ。


「では、本題の神話に入りますが……では、カイトさん。予習を出来ているのか、見せてもらいますね。ルーミア文明には2柱の最高神が居ます。その二柱のどちらでも良いのでお答え出来ますか?」


 カイトが指名されたので、クラス中の視線がカイトに集まる。これは、カイトの試金石に近い。授業に対して真面目なのか不真面目なのか、それが分かるのだ。そして、指名されたカイトは立ち上がり、答えを告げる。


「はい……生誕と破壊を司る太陽神『偉大なる太陽神(ラムル・シャロル)』。死と再誕を司る月の神『荘厳なる月の女神(ニムル・シャルル)』の二柱の双子神です。太陽神は金色の鎧を纏った若い男神として描かれ、月の神は黒いフードを纏った若い女神として描かれるのが一般的です。共に争う描写は無く、敵対者として書かれる『不滅なる悪意』……『不滅なる悪意(シャギア・クルル)』と戦うのが知られています。」

「はい、有難う御座いました。『不滅なる悪意』は授業では触れていなかったのですが……ついでですし、触れておきましょう。かの神は名前は名前の半分が削られており、クルルと言う名前以外伝えられておらず、異名だけが今にも伝わる神で……おや?」


 そこまで自分で言って、カイトの言葉の違和感に気付く。異名だけが伝わる、と言っておきながら、カイトが名前を言ったのだ。


「『不滅なる悪意』の名前……どちらで?」

「あれ? 伝わって無い……んですか? 公爵家から見せていただいた勇者カイトが残した文書には乗っていたんですが……旅の最中の手記で、そちらに書かれていたのですが……」

「それはまた……随分と熱心に調べられていますね……」

「いえ、旅の手記は旅の知識が詰まってますから」


 カイトは少しだけ焦りつつ、名前が乗っている文献がある事を示唆する。自分が書いたのだから、存在しているのは当たり前だ。と言うか化身に近い身とは戦ってもいる。忘れるはずがなかった。とは言え、ハルもカイトの言葉には納得がいったらしい。授業は中断して、少し思慮に入った。


「確かに勇者の手記になら乗っていても不思議では無いですね……勇者様もユスティーナ様も『古代魔術(エンシェント・スペル)』は使いこなされておられました。遺跡にも調査にも赴かれていた様子ですし……後ほどその手記を教えていただいて良いですか?」

「わかりました。ですが、ユリシア学園長に聞いてみれば良いのでは?」

「ああ、それは盲点でした」


 カイトの言葉に、ハルが照れた笑いを浮かべる。ユリィはほぼ常にカイトと共に居たのだ。知らないとは思えなかった。それからでも良いと思ったのである。


「あはは、すいません。私達も学者達も不勉強だった様子ですね。どうやら名前が伝わっていないのではなく、発見した者を知らなかった様子です」


 ハルが苦笑して、生徒達に謝罪する。ちなみに、カイトは嘘を言う必要も無いし、そもそもで真実であるか否かは直ぐに調べられる。なので、今回は真実と捉えられた様だ。まあ、カイト当人の言葉なので、真実事実なのだが。

 ちなみに、カイトの発言がきっかけとなり、数週間後からは魔導学園所属の歴史教師達が中心となって勇者の手記の見直しが為され、様々な新発見があった事は横に置いておく。


「まあ、とりあえずは続けますね。かの神は悪意の具現化として捉えられており、双子の神との戦いの叙情詩が僅かに伝わっています」


 魔導学園ではプロジェクターに似た設備があり、授業の内容や教師によってはそれを使う者も少なくない。そしてどうやらハルはその一人だったらしく、エネフィアでは有名な絵画を何枚かスライドしていく。


「さて、この双子の神。特に有名なのは女神『荘厳なる月の女神(ニムル・シャルル)』ですね。男神の名前は聞いたことが無くても、女神の名は誰もが一度は耳にした事があるでしょう。美しい見た目に、黒い艶のある長い髪。憂いの帯びた顔に月を描ける事から、昔から幻想的な風景を好む多くの絵画のモチーフになった女神様です。そこから転じて、今では美の女神とも言われていますね。この『荘厳なる月の女神(ニムル・シャルル)』ですが、本来は死神として黒いフードに大きな鎌を持った人物として描かれており、今のエネフィアにおける全ての死神のイメージの大本となった神様です。美しさに永遠は無い、という古来の画家達の暗喩なのかもしれませんね」


 その後も、ハルの言葉は続いていく。そうして、ようやく始まったカイトの留学生活は、様々な波乱含みで始まったのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第509話『授業』

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