表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第29章 魔導学園・入学編
529/3871

第507話 交流開始

 カイトが書類を受け取ってから、約一週間。様々な折衝も終わり、ついに交換留学が翌日にまで迫っていた。とは言え、当日にあたふたとしてもいられないし、最後の詰めの確認の作業も残っている。なので、今日からカイト達上層部の面々は久しぶりに天桜学園に戻る予定だった。


「全員で揃って制服を着るのは久しぶりですね」

「前は……海へ行った時だけか。授与式は術式礼装を使ったし」


 出発前。桜の言葉に、カイトが思い出して苦笑する。その時はカイト達以外の礼服が揃わず、しかも学校として招待されたのだ。なので、TPOを考えて学校の制服を着用した事もあるのだが、それ以降はほぼ、皇帝レオンハルトへの謁見もスーツ風の礼服だった。

 ちなみに、カイトの言う術式礼装とは、カイトが授与式の時に使ったマクダウェル公爵としての正式な衣服の事である。魔術の増幅器としての役割もある礼装は全て、術式礼装と呼ばれていたのであった。

 ネーミングは儀式にも使う礼装だから、という事である。公式な場で礼服と術式礼装のどちらを使っても問題はなく、そこらは魔術がありふれた存在であるエネフィアだから、という所だろう。


「椿、適時戻る。何かあったら即座に連絡をくれ」

「畏まりました。本日は皆様お戻りになられませんか?」

「ああ」


 冒険部ギルドホームを後にする直前、カイトは椿に幾つかの伝言を申し付ける。そして、カイトが頷いたのを見て、椿が更に口を開いた。


「では、ミスティア様、グイン様にもそのようにお伝えしておきます」

「そうしてくれ。では、行って来る」

「行ってらっしゃませ」


 椿に見送られ、カイト達はマクスウェルを後にするのだった。




 それから、30分後。カイト達は適度に喋りながらも移動を続けて、街から10キロ程離れた天桜学園の領地にたどり着いていた。


「到着……って、牛が居る!」


 天桜学園に着いた一同を出迎えたのは、なんと学生達ではなく牛だった。ちなみに、食肉用ではなく、乳牛だ。食肉用を全員分自給自足するにはどう足掻いても数が足りない。なので、乳牛を買ったのである。


「馬も探してるぞ。まあ、ずっと先に自分達で馬車を作るからな。その一歩だ」

「なんつーか……農村一直線だな……」

「一応、ゆくゆくは道具製作なんかで儲けるつもりだがな。それでも、まだ元手も無いし、そもそもで自給自足もままならん。食料自給率が0%は避けたいからな。早くても来年だ」


 ソラの苦笑を受けて、カイトが今後の展望を語る。天桜学園は所謂、新規の開拓地だ。まず食料を得る事から始めるのは当然だし、現にいままでそうして来ている。全ては、それが軌道に乗ってから、だろう。


「ふーん……」

「ソラー、もう皆行っちゃってるよー」

「あ、おう! 直ぐに行く!」


 どうやら二人は話していたことで、一同から遅れてしまった様だ。二人は由利の言葉を聞いて、急ぎ足で校舎まで向かっていく。向かう先は、今回の一件で会議が行われる会議室だ。


「じゃあ、天音、神宮寺は頼めるな?」

「はい。まあ、適時ご報告には来ますので、ご安心を」

「ああ、頼んだ」


 ここでの会議は、最後の打ち合わせに近い。何かを決定するわけではなく、あくまで決めた事の最後の確認だ。なので、会議は直ぐに終わる予定だった。

 今回の交換留学では、冒険部上層部からはカイト、瑞樹が出て、他の面子は居残りだ。とは言え、桜と瞬は天桜学園に詰めて向こう側からの生徒の応対があるし、ティナは残る冒険部の万が一に備える必要がある。おまけに彼女の場合、皇帝レオンハルトから頼まれた仕事もあった。なので、意外と残る面子は少なく、冒険部として満足に動けるのはソラと翔、凛だけだった。

 ちなみに、ティナはこの頃は特型ゴーレムの解析と三人娘達の調整に忙しく、その流れで今日もこの会議はすっぽかした。この調子だと、確実に何日か貫徹してそうだったのが、カイトの頭を痛めていた。


「全体で20人か。まあ、何事もない様に頼んだ。雨宮先生も、取り纏めをお願いします」

「はい」


 最後に雨宮に対して、教師達が告げる。それで、会議は終了だ。それを最後に、会議室からは三々五々に教師達が足早に散っていく。各々明日に備えての用意が忙しいのだ。そして、忙しいのはカイト達も一緒だ。


「桜、先輩は第2会議室で教師達と打ち合わせだな?」

「はい。明日に備えて手筈の打ち合わせと教材を作らないと行けないので……」


 カイトの問い掛けに、桜が頷く。当たり前だが、今のエネフィアの一般生の知識水準は科学分野に限れば、中学生にも達していない。例えば流石に方程式ぐらいは解けるが、連立方程式になると怪しくなる。素因数分解になると、最早研究者達でさえ不可能だ。


「ソラ、翔。わかっていると思うが、あまり長くギルドホームを空けるなよ」

「わかってるって」


 カイトの命令に、ソラが苦笑しながら頷いた。


「一応長期は受けない……と言うか、受けてらんない……」


 翔が疲れた顔で苦笑する。そう、彼らは実は実際に受けている余裕は無かった。というのも、旭姫の訓練が本格化していたからだ。

 熱を入れた彼女の訓練は当たり前だが朝から晩まで続き、依頼の無い日はそのまま泥のように眠るのが、何時もの流れになるぐらいだった。


「安心しろ、旭姫様は本来もっと厳しい修行だ。地球で言えばイグアスの滝クラスの滝を割れ、とかな。ああ、ちなみに、横にな。縦斬りは入りらしい」

「……4キロぶった切れかよ……」


 カイトの言葉を聞いて、翔は彼の力の一旦を垣間見る。イグアスの大滝は横幅4キロある。それをぶった切る訓練となると、どのような物なのか想像が出来なかった。


「ああ……あの時はルクスと二人でもう疲れ果てて夜にはもう何やってるのかわからない日々が続いたな……しかも終わるまで寝れないからな……」

「うわぁ……」


 遠くを見つめるカイトの言葉を聞いて、翔が引きつった顔で苦笑する。


「っと、まあ、そんな事はどうでもいい。じゃあ、何か質問は無いな? オレも会議に行って来る」

「まあ、どっちにしろ連絡は取り合えるけどな」

「ああ……とは言え、オレが直ぐに動けなくなるわけだし、ティナが何時も連絡を受け取ってくれるとは思えん。気をつけとけ」

「おーう。」


 ソラの返事は軽かったが、彼とてもう油断は無い。カイトという絶対の庇護者が居ない時に何かが起きれば、それは即命取りに繋がりかねないのだ。それは彼らが一番理解出来ていた。

 それをカイトも知るが故に立ち上がり、瑞樹と共にその場を後にする。向かう先は教室の一つだ。そこに、今回の留学に参加する生徒達が集まっていた。どうやら既に会議は始まっているらしく、雨宮と引率の教師が前に立って様々な通達を行っていた。


「ああ、天音に神宮寺か。二人が最後だ」

「すいません、最後の打ち合わせをしてました」

「いや、わかってる。プリントはこっちだ」


 雨宮達とて、カイト達が冒険部の牽引をしていることは把握している。なので、遅れた理由がわかっていた。それに二人はプリントを受け取って、空いた席に着席する。それと同時に、通達が再開された。


「というわけで、一人ずつ別のクラスに編入される。折角の留学なのに、固まっても仕方がないという判断だ」


 教師達が今回の行事で決まった事の正式決定を通知していく。まあ、魔導学園側で遺跡に閉じ込められるという事故が起こったおかげで少しだけ予定がずれ込み、数日前に全ての承認が下りたのだ。通知が今になるのは仕方がなかった。


「まあ、授業なんかの詳しい話は向こうで説明してもらえ」


 その言葉を最後に、会議は終了する。通達と言っても、殆ど通達は為されなかった。楽しみにしろ、という事なのだ。そうして、この日はこれで全ての通達が終わり、全員久しぶりに学園にて就寝するのだった。




 翌日。カイト達留学生は公爵立魔導学園『エクストラ・オーダーズ』に来ていた。とは言え、流石に即各々の教室に行くというわけではなく、先方の教師や生徒会長キリエから挨拶があった。

 ちなみに、カイトは2年生なので、魔導学園では所属は5年生だ。魔導学園は最小12歳からの6年制で、後半からは留年もありだ。なので5年生が年齢層が殆ど同じだからだった。


「皆様、初めまして。魔導学園『エクストラ・オーダーズ』学園長ユリシア・フェリシアです。皆様とお会いできた事、誠に嬉しく思います」


 今現在、カイトの前に立つのは、猫被りモードのユリィである。常日頃があれでも、一応は学園長だ。なので仕事の時にはきちんとしている。

 とは言え、実はそれ以外のかなりの数の教師達が仕事用の顔になっていない。というのも、カイトが居たからだ。出身が他大陸の異族だったりと様々な理由からカイトの帰還を知らされていない者も多く、まさかのカイトに唖然となっていたのであった。まあ、それはユリィとしてもカイトとしても織り込み済みなので、演説は至極普通に進んでいく。


「では、これから一ヶ月、みなさん、よろし」


 尚も続いていたユリィの言葉を遮って、爆音が轟いた。そうして、ユリィ達魔導学園の教師達がその爆音の発生源である校舎の一角を見て、溜め息を吐いてスルーする事にする。どうやら慣れっこだったらしい。なおも目を瞬かせる天桜学園の引率教師を見て、ユリィが頭を下げた。


「はぁ……申し訳ありません。当校では時折実験のミス等で爆発が起きますが、気にしないでください。死なない様にはなっていますので」

「は、はぁ……」


 天桜学園の教師達は唖然となったまま、これが魔法のある世界の学校の普通なのだと納得する事にする。だが、なおも見続けていた爆発の跡から、煙ではない奇妙な黒い霧のようなモヤが出てきたのを見て、流石に焦りを浮かべた。


「え、いや、あの……あれは大丈夫ですか?」

「はぁ……またですか……」


 その様子に気付いたらしいユリィが、ため息混じりに右手をその一角の方向へと突き出す。すると、彼女の腕の周りに魔術的な模様が浮かび上がる。


「はっ!」


 たったの一息。それとともに右腕から、白い光球が発射されて、黒いモヤが消失する。


「校長先生。申し訳ありませんが、ゼスト先生の部屋へ行って、注意をしてきてください。これで今月5回目です」

「はぁ……わかりました」


 ユリィの指示を受けて、ため息混じりに校長がその部屋へと歩いて行く。ちなみに、今月5回目とユリィは言ったが、まだ10日である。つまり、二日に一回は問題を起こしていた。誰もが慣れきるのも無理は無い。


「あのー……学園長? ゼスト先生も来られるはずだったのでは……」

「構いません。あの爆発ではまたぞろどこぞの魔物でも召喚しているでしょう。始末をさせておきなさい」


 魔導学園側の教師の言葉に、ユリィがため息混じりに告げる。そしてそれが真実であると言わんばかりに、爆発の起こった一角では爆音が連続して幾つも響いていた。


「まあ、皆さんはあの一角には近寄らないで下さい。あと、ゼスト先生の授業ではなるべく下手なことをしないこと」

「いえ、あの……先ほどの校長が触手に縛られてますが……」

「あら?」


 今回の留学生の一人が、更に続く騒動を指さす。それを受けてユリィが苦笑する。どうやら彼女の予想よりも、少しだけ強かったらしい。


「まあ、大丈夫です。この学園には彼が遺した守り神が何体も居ますので」

「え?」


 ユリィは安心させるように、笑顔で告げる。そのユリィの言葉に同意する様に、巨大な狼が風を切って現れた。そして、狼はまるで自分の縄張りだと示す様に、大きな咆哮を上げた。


「うぁ!」


 咆哮を受けて、天桜学園側の全員が耳を塞ぐ。耳をふさがなかったのは、魔導学園側の関係者とカイトだけだ。だが、咆哮で身を射竦めたのは、彼らだけではない。うごめいていた触手までが、動きを止める。


「もう一度来るので、耳をしっかり塞いでいてくださいね」


 その言葉の直ぐ後に、再度咆哮が響いた。それだけで、触手の群れは消滅する。そして狼はまるで何事も無かったかの様に、再び何処かに去っていった。


「というように、たいてい何があっても大丈夫なので、安心してください」

「……はい」


 ユリィの言葉に天桜学園側の全員が、頷くしか無かった。魔導学園の生徒や教師達は、そんな騒動があっても何も気にせず授業を行っている。

 これが普通である事はよく理解出来た。そして、そんな会話の後直ぐに、窓の外に出ていた為触手の消滅で地面に落下した校長がそのままの流れで此方に帰ってきた。


「学園長、申し訳ありません」

「いえ、どうやら何処か異界の魔物だったみたいですね」

「はい。ゼスト先生にも一応注意はしておきました」

「無駄でしょうけど」

「はい、無駄かと思います」


 ユリィの言葉に、校長も同意する。そして、その会話が終わる頃にはまるで騒動など無かったかのように、魔術によって建物の修繕が終わっていた。


「では、みなさん。今日から一ヶ月の間、勉学にその他の活動に、と頑張ってください」


 最後に、ユリィの激励で締めくくられて、ついにカイト達の留学生活が開始されたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告第508話『編入』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ