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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第28章 元魔王のお仕事編
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第505話 白き皇

 オーアの来襲から、更に数日。魔王城の滞在も最終日になった頃の話だ。夜になって、ティナはカイトと連絡を取り合っていた。後は帰るだけになったし、『螺旋魔術(スペル・ヘリクス)』などの事について確認に忙しくて報告出来なかった事も多い。なので一応は報告をしておくか、と考えたわけである。


「と、いうことで、じゃ……新技術と言うか新理論を発見した」

『なんというか……お前、流石すぎるな。理論としては、どんなもんだ?』

「まあ、流石に当分は実証試験を行う必要があるじゃろう。なにせ特定状況下とは言え、既存の理論が覆る。発表はきちんと確証を取ってから、なおかつ高名な学者との連名にしておいた方が良いじゃろう」


 カイトからの質問を受けて、ティナが今のところの予定を報告する。とりあえず、ティナは今年度中の報告は無理、と判断している。

 理論を実証するのにそれだけは必要だし、色々とまだ原因として考えられる物も多い。どうして起きるのか、どのようにして起きているのか、という所についても不確定な所が多い。それらを勘案すれば、1年近くは必要となりそうだった。


『そこらはお前に任せる……オレ、わかんねーし』

「じゃろう。まあ、こちらは余が適当に処理しておこう。後はお主かクズハのサインがあれば、理論にきちんとお墨付きが得られるだけ、にしてから報告をしよう。今はこういうのを見付けて、というわけじゃな……あ、そういえば、それでお主の魔導機の武装を一つ考えついた。改修するつもりじゃ」

『ふーん……大方リボルバー関連か?』

「うむ。今までは単なるお飾りじゃったが、シリンダー機構については使える。属性付きのバンカーは面白そうじゃからな」

『まあ、好きにしろ』


 カイトでも、今の報告をきちんと聞いていればどこら辺に応用したいのか、というのはわかる。というわけで、それは殆ど気にする事もなく、ティナの好きにさせる事にした。

 ちなみに、オーア達が来る事についてはまだ隠している。彼女らが集合してから、ということであった。まあ、簡単に言えば外堀を埋めて、ということである。やりたい放題やるのが目に見えているので、カイトにお小言を言われる前に、逃げ道を塞げば良い、と言う判断だった。


『で……魔王城に変わりはなかったか?』

「うむ。特段の変わりはなかった……四天王は相変わらず元気じゃよ」

『そうか……ナシムあたりはくたばっててくれて良かったんだがな』

「あはは。あれが一番くたばりそうにはないじゃろ……いや、案外クラウディアもいい勝負かもしれんのう……」

「あら、嫌ですよ、姫様。私は姫様のお子様が成人式を迎えられますまで、倒れるつもりはございません」


 少し真剣に考え始めたティナに対して、ミレーユが笑いながら告げる。少々変態的な他の二人に対して、ミレーユは少し親じみた溺愛さが含まれていた。


「むぅ……どいつもこいつも死にそうにないのう……」

『あはは。良い事じゃねえか。失わないで済む、ってのはな』

「……それもそうじゃな。っと、そういえばそろそろ、時間では無いか?」

「ふむ……そうでございますね。ハイゼンベルグ公からの連絡が確かであれば、そろそろお時間のはずでございます」


 ミレーユが時計を見ながら、ティナの質問に答える。何も二人で連絡を取り合うだけが目的では無い。と言うか報告だけなら明日帰るのだから、その時に行えば良かった。少々時間が空いたので、どうせなので報告もしておくか、という所なのであった。と、そうして話していると、時間通りに、ハイゼンベルグ公ジェイクからの通信が入ってきた。


『儂じゃ』

「うむ。爺さまも元気にしとるようじゃのう」

「ジェイク様、お久しゅうございます」

『おお、ミレーユ殿も一緒か……ミレーユ殿? ティナ、今、何処にいるのだ?』

「おお、少し所用でのう。まあ、この間の皇帝レオンハルトからの依頼の魔導機の件で、少々素材を必要としてな。魔族領にまで来ておった」


 ハイゼンベルグ公ジェイクは当然といえば当然であるが、ティナの教育者であったミレーユとは面識がある。ティナの秘密を知る者である事も知っていた。ちなみに、ハイゼンベルグ公ジェイクとミレーユであれば、ミレーユの方が僅かに年上だったりする。


『そうか……っと、では、報告を聞こう』

『ああ……まず、先の特型ゴーレムの一件だな』


 今回、何の意味もなくハイゼンベルグ公ジェイクが連絡をしてきたわけではない。この間までのテラール遺跡での一連の騒動について、皇帝レオンハルトに報告する為に改めて彼から意見と推測を貰おう、という考えだった。

 これについては皇帝レオンハルトからもきちんと協力が要請されていたので、改めてきちんと時間を、ということで今日の夜になった、というわけだった。

 そうして、しばらくの間両者の間で、実際に見た物や感じた事、大昔に感じた事、見た事について、意見が交わされる。


『いや、それについては済まなかったと思っている。まさかあの特型機があの研究所に搬入されていたとはな。儂らもそれについては知らなかった。てっきり試作の大砲だと思っていた』

「ってことは、出なかったわけか?」

『うむ。と言うか、出ておったらその前に大苦戦を強いられていたじゃろう』


 ハイゼンベルグ公ジェイクは笑いながら、カイトに対して断言する。今回、お互いに室内という限定空間での戦いだった。そうであるが故にカイトも苦戦したのだが、同時にこれが外であっても苦戦した事は想像に難くはない。当たり前だが敵の目的は研究所の防衛だ。であれば、当然敵は出力を絞らざるを得ない。

 というよりも、カイト達よりも敵側の方が出力はより絞っていた。実は地の利はカイト側に存在していたのであった。それでも苦戦した事を考えれば、敵の真の実力は想像に難くはなかった。


『それもそうか……まあ、オレで良かった、ということか』

『であろう……にしても、そうか……あのプロトタイプが……』

「プ、プロトタイプ? あれでか? あれは素晴らしい出来栄えじゃったぞ」

『うむ。あれは元は魔帝の護衛の為の機体らしくてな……それ故、あれだけの性能をもたせたわけよ』

『よほどの人嫌いだった様子だな』

『らしい。まあ、国も末期。信じられる者はほぼおらんだろう』


 カイトの推測を、ハイゼンベルグ公ジェイクも認める。当然だが彼らは叛乱の後、ライン帝についての調査を行っている。そこで見えたのが、かの終焉帝の尋常ならざる人間不信っぷりだった。

 それを考えれば、決して裏切らず、決して造反のありえないゴーレムは護衛として最適だったのだろう。使い魔は造反する可能性があるのに対して、ゴーレムは機械と同じだ。与えられた命令だけを行う。誰も信じられなかった彼にとっては、造反も謀反も無いゴーレム達が何よりも重宝出来たのだろう。

 一同には、自律行動が可能な超高性能のゴーレムというゴーレムの設計思想からは大きく逸脱した理由がそこらの彼の考えがあるように思えた。


「最終的には指揮官も全てゴーレムにするつもりじゃったのかも知れんなぁ……そこまで行き着いたのであれば、哀れよな」

『儂としては恨みしかないがな』

「まあ、余も流石にその次の世代じゃ。そこらは、生きた者と後の者の差、という事じゃろう」


 ティナとハイゼンベルグ公ジェイクは、二人で苦笑しあう。とは言え、そんな感慨を滲ませてもいられない。というわけで、カイトが本題に戻した。


『まあ、それは良いだろ。どうせやっこさんは死んでるんだ。今の奴は今の事を考えよう……で、だ。プロトタイプということは、他にもあるのか?』

『儂らも数機破壊しているが……詳しくは分からん。なにせ最重要機密。儂らが来る前に全ての情報が破棄されていた』

「仕方がない事、か……であれば、改めて調整や検査が終わってから、とした方が良いじゃろうな」

『だろう。あれらは基地と情報のリンクを行う事が出来るらしい。そこから詳しい話を聞くのが最適だ』


 ティナの考えをハイゼンベルグ公ジェイクが認める。彼らとしても前帝国の全ての情報を得られたわけではないし、もしまだ隠された研究所やあの特型ゴーレムの様な機体があるのなら、それにケジメを付けるのはマルス帝国を滅ぼした彼らの義務だ。自らでも軍を動かすつもりだったし、必要とあらばグライアに協力を申し出る事さえも考えていた。


「わかった。まあ、こちらも色々とある。あの特型から情報を得るのはしばらく先になるじゃろう。その時には、また話し合う、という事で構わんか?」

『そうしてくれ。また日程についてはそちらから連絡してくれ。儂の方で予定を合わせよう』

「うむ」

『ああ、頼んだ……じゃあ、今回はこれでお開き、ってことで』


 カイトの言葉を最後に、全ての通信が切断される。そうして、ティナが小さく呟いた。


「ふむ……前帝国の遺産、か……あれで試作品とは……なかなかに物凄い物を開発しておった物じゃな」

「そうでございますか」

「うむ。素直に余も素晴らしいと認められる……まあ、余も学ばせてもらうとしよう」


 ティナはそう言うと、自らの部屋に戻る為に立ち上がる。そうして、彼女は楓を連れて、この次の日に再びマクダウェル領マクスウェルに戻るのだった。




 一方、その夜。ハイゼンベルグ領の領主が暮らす邸宅の領主の部屋に、一人の客人が訪れていた。とは言え、客人が来ているというのに部屋には明かりは点けられておらず、暗闇の中に声だけが響いていた。


「と、言うわけだ。せめて俺にぐらいは情報は残していけ……」

「いっやー。悪い悪い。実はあんな強くなってるとは思わなくてさ。オレも悪いと思ってるよ」


 ハイゼンベルグ公ジェイクの言葉に対して、男が笑いながら謝罪する。そんな彼に、ハイゼンベルグ公ジェイクが呆れ返った。が、何かが可怪しい。彼の声が少し若々しいのだ。


「まったく……あれがカイトで無ければ、と俺でもぞっとするぞ」

「あっははは。まあ、大丈夫だろ。なにせカイトはオレが知る限り、最強の存在だったもん」

「はぁ……今度は何処で見ていた?」

「あ、今回は見てない」


 美丈夫が、首を傾げながらも首を振る。と、そんな部屋に、月光が差し込んだ。すると、ハイゼンベルグ公ジェイクの姿と共に、客人の姿が浮かび上がる。


「と言うか、だから結果を聞きに来たんだよ」

「それもそうか……それで、イクス。今度は何処に行っていたんだ?」


 イクス。ハイゼンベルグ公ジェイクが親しげに呼ぶその名前は、初代皇王イクスフォスにほかならない。実は彼は皇国にさえ秘密にしていたが、密かに、イクスフォスと会う事があったのである。そうして、そんなイクスフォスは少しだけ、はぐらかした。


「ん……まあ、色々と行ってた」

「そうか……人々に死んだと思わせておいて、自由気ままなものだ」


 月光が部屋の中に更に差し込んで、苦笑混じりのハイゼンベルグ公ジェイクの姿を浮かび上がらせる。それは、700年前の叛逆大戦期の姿、だった。龍族にとって、見た目は内部の精神に依存しているからこそ、出来た事だったのである。

 それ故、実は若々しくあろうとすれば、何時までも若々しくいられたのだ。ただ単にあの姿は威厳や風格として必要だから取っているに過ぎなかった。


「そろそろ、良いのではないか? あの子はもうきちんと自分の立場などを理解している」


 ハイゼンベルグ公ジェイクが暗に示した事は、そろそろ密かにでもティナに会いに行けば良いのではないか、ということだった。

 カイトは少し前にはティア達が告げる様に言っていたが、それはただ単にイクスフォスの生存を伝えられないが故の対処だったのである。最終的な意思決定は、彼らがすべき事だった。それに、イクスフォスは少しだけ、照れた様に頬を掻いた。


「ん……まあ、実は、さ。地球にも行ったんだよ、オレ」

「何……?」

「いやさ、実は妹が地球に居る、っていう話だったんで行ったんだよな。で、まあ、探してた」


 イクスフォスに妹が居る事自体は、皇国の上層部や研究者達の間では知られた話だ。彼がその妹を気に掛けていた事も、だ。それ故、可怪しい事ではなかった。


「地球、か……」

「親父達に聞いたら偶然、らしいんだけどさ……でもまあ、それで何度か手がかり無いかな、って行く事あったんだよ。あの研究所の映像は、その時に手に入れたんだよな……で、その何度目かの時に、さ。地球で遠目に見た……おっきくなってたなー……顔立ちとかユスティにそっくりでさ」


 暫くの間、懐かしげにイクスフォスが思い出話を行う。そうして、それが一段落ついた所で、彼は本題に入った。


「やっぱりさ。きちんとしてから、会いに行きたいんだ。それに、カイトのご両親にも挨拶しとかないとダメだろ? オレ達の無茶の所為で、ご家族には無茶苦茶世話になってるもん……だから、さ。まだ早いんだ」

「そうか……では、また行くのか?」

「うん。やることやらないと、さ……だから、もう少しの間はソフィとカイトの事、頼むよ」

「はぁ……仕方がない。じゃあ、行って来い。そして次には手土産の一つでも持って来い。ああ、地球のシャンパンはなかなかに美味しかった。シャンパーニュ地方という所の物が本物のシャンパンらしい。それでも持って来い」

「うん……じゃな」


 イクスフォスはそう言うと、再び消える。彼は彼の目的を果たす為、何処かの世界に移動したのだろう。そうして、それを受けて、ハイゼンベルグ公ジェイクは再び、ハイゼンベルグ公ジェイクとしての姿を取る。と、そこで部屋の扉がノックされた。


「父上。少々……こんな暗い部屋で何をなさっていたのですか?」

「ジェフか……いや、何。月夜が綺麗だったのでな。少々、明かりを消して眺めていた」

「誰か来ておられたのですか?」

「……古い友人がな。が、先ほど帰った」

「はぁ……」


 父の何処か懐かしげで、それでいて滅多にない笑顔に息子のジェフが首を傾げる。イクスフォスが生存している事を知っているのは、彼や隠居している初代皇王の臣下達を除けば、地球で彼の妹と友誼を結ぶカイトぐらいしか知らない。なので、話題を逸らす為に本題に入らせる事にした。


「それで、なんの用事だ?」

「あ、はい。アベルより、書簡が届いております。先の一件について、意見を伺いたい、と」

「そうか。わかった」


 イクスフォスが来ていたことなぞおくびもみせず、ハイゼンベルグ公ジェイクは再び、ハイゼンベルグ公ジェイクとしての仕事に取り掛かる。そうして、その夜の事は、誰に知られる事の無いままに、一日は終わるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。ついに彼が本編に帰還。ですが、明日からはそんな事を一切無視に新章突入です。

 次回予告:第506話『もう一つの学園』

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