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第38話 教育者―飛び入り―

 何か実情に合ってないと思い、小説情報を多少変更しました。

え?カイトとティナの情報が変?

気のせいです。

「もうダメ!我慢できない!こんなじゃウチの教育レベルが疑われる!」


 ユリィは立ち上がると、そう言って大声を上げる。不甲斐ない教え子に教育者としての血が騒いだらしい。カイトが止める暇もなく、即座に転移してミリアの上に出現すると思いっきり頭へとドロップキックをお見舞いする。


「ぜんっぜん違う!」


 ドゴン、と快音を響いた。いきなり頭を叩かれたミリアは、いたた、と蹲り頭をさすっている。


「ユリィちゃん!」


 ユリィがいきなり現れ黒板へ板書し始めた為、桜が大声を上げてユリィを止めようとする。ユリィの存在を知らない他の一同はいきなり現れた妖精に呆然となって、成り行きを見守っている。


「まず、仁龍様。ここの孤児達を引き取る、って部分は間違い。仁龍様が引き取ったのは現四獣族の長、燈火様だけ!当時の一件の孤児達は全員前四獣族の長様や他の各一族の長様が引き取られました。」

「は?ですが、そんなこと、ギルド所有の資料のどこにも書かれていませんでしたよ?」


 そう言って資料をまとめたメモを見直すミリア。一応間違いだらけではあったものの、勉強は怠っていなかったらしい。


「大方、ギルドの職員が間違えたんでしょう。ここらへんは実際に燈火様にでも伺えば詳細が伺えますし、公都の大使館にある資料にも書かれてあることです。他にもエンテシアとの国交樹立などは燈火様の功績です。ここらへんは当時の皇国の資料よりも中津国側の資料のほうが詳しく書かれていますが、交渉にあたったリライン伯爵の手記からもうかがい知れます。」


 そう言って仁龍の功績を書き換える。その時には既にユリィは荘厳な、落ち着いた表情となっていた。どうやら前に出て、生徒達を前にすると落ち着くようにインプットされているらしい。教育者の面目躍如であった。


「逆に公には燈火様が実施されたとされる300年前のマクダウェル公爵家への支援は、多くが仁龍様の主導です。これは非公式ですが、公爵家と仁龍様の会談に出席した貴族の出席者の手記に書かれてあります。これら資料は皇都にある皇立博物館に原本が、皇立図書館には写しがあり、写しは閲覧可能なので、当時の様子を知りたければ閲覧するのも一興かも知れません。」


 ちなみに、公に仁龍が支援しなかった理由は、カイトのコネが仁龍に繋がっている事を公にしたくなかったからである。当人らは気にしていなかったが周囲からの薦めで、当時から親交のあった燈火が支援した事にしたのである。


「次に、グライア様。彼女は皇国建国に携わった後、初代皇帝陛下より無期限無制限での皇国内の自由通行許可を頂いていらっしゃいます。それが故かは知りませんが、時々人間のお姿で旅をなさっておいでだ、ということが分かっています。これは各地に残る赤髪の旅人による盗賊退治や貴重な薬草の譲渡などの目撃情報を統合した結果、この旅人がグライア様である、との推測が得られています。これは100年ほど前から学会の定説です。」


 教師ユリィによる説明はまだ続きそうだが、全員ユリィの勢いに押されている上、説明が詳しく、わかりやすく板書されているので止められなかった。


(はぁ、知らん顔しておくか……。だが、あのユリィにこんな真面目な授業を出来るのか……。)


 頭が痛い反面、自分の知らないユリィの一面が見れて嬉しく思うカイトであった。


「他にもグイン様。この御方はどちらかと言うと夜空での目撃情報が多いですけどこれは間違いです。逆にいきなり空から落ちてくるという目撃情報がありますが、これは正しいと思われます。では、何故か。まず、夜間の飛行で目撃された龍族の目撃情報は範囲が限定されています。この範囲にグイン様がいらっしゃらない事が確定している時にも多数の目撃情報があること、更にこの龍種がグイン様に比べて小柄であることが確認されていますので、これはこの地方にいる龍族の見間違えである、と研究者達による結論が出ています。」


 そう言って目撃情報にある夜空を飛ぶというところにバツ印をつけ、代わりに落下という文字を書く。


「では、この落下ですが、グイン様は雲を固体化し、その上でお眠りになられることがある、とご本人が言われています。また、その際に時折寝ぼけて固体化を解いてしまい、落ちることが何度かあった、と更に続けていらっしゃいます。そこから恐らく本当なのでしょう。これはマクダウェル公爵家が所有する勇者とグイン様がお会いされた時に公爵代行閣下が撮影された映像資料に残されています。」


 ヒートアップしているユリィは気づいていないが、この映像資料は未公開である。




「他にも幾つか間違いがありますが、その中でも最も重要な間違いが……。」


 幾つかの訂正を行った後、そう言ってユリィは幽玄龍の所へ丸印をつける。


「この幽玄龍様について、です。先ほどミリアは否定しましたが、存在する可能性は非常に高いです。では、何故目撃情報が無いのか。それは古龍(エルダードラゴン)様方の説明によると、幽玄龍様は通常、生と死の間にある概念に似た空間に存在しておいでで、滅多に出てくることがないから、とのことです。また、古龍(エルダードラゴン)様の発言と一致し、幽玄龍様しか該当し得ない条件に当てはまる記述がわずかですが存在します。と言っても、この記述自体が皇国建国動乱前の先史文明期の遺跡の記述や民間の手記が多く、先史文明時代以前からいらっしゃった古龍(エルダードラゴン)様方が嘘を付かれている可能性は確かにあります。また、実際に幽玄龍様と会ったとされる多くが、冒険者や兵士と言った死地に立つことが多い方々で、なおかつ激戦において魔力がかなり濃密になった際に特に多くの者に目撃されている、といわれています。まあ、作り話では死にかけた人が実際に、意識を失っている間に幽玄龍様と思しき存在にあい、現世へと呼び戻された、という事例はよく聞かれる話です。」


 この事から、幽玄龍の存在を信じる者の間では、日本における三途の川や、欧州における冥界の河にいる渡し守に似た存在か、死神の一種と考えられている。

 なお否定派がこれら目撃情報を信じない理由は、戦場における目撃情報が極限状態における集団催眠の類ではないか、もしくは幽玄龍を信じる者の思念や、死者へ祈りを捧げる者が幽玄龍に死者の安らかなる眠りを祈った結果、戦場に満ちる魔力が龍の幻覚を見せたのではないか、と考えられているためである。どうやらミリアはこの否定派であったらしい。こればかりは当人の考えだし、皇国でも議論され続けていることなので、ユリィは否定しない。


「ですが、確かそれはお伽話に近いお話に影響されて、魔力が見せた幻覚であったのでは?」


 ミリアがそう反論するがユリィもそれを認める。


「ええ、一般的にはそう言われていますし、そちらはそうでしょう。」


 そう言って戦場での目撃情報を否定するユリィ。


「では、何故存在している、といえるのか。これは幽玄龍様が魔力の薄い空間において目撃されたことがあるから、です。300年前の大戦期の魔族側の資料に、幽玄龍様の保護下にある龍を発見した、という記述があります。その後、この龍の捕縛作戦が取られた結果、幽玄龍様と思われる存在によって魔族への襲撃が行われたらしいです。結果、魔族側の3個大隊が壊滅していることが確認されています。何があったのか、については生存者が理解出来なかった為、不明です。」


 そう言って具体的な場所を記述するユリィだが、場所を見たミリアが半ば納得、半ば疑惑の目を向ける。


「冥界の森……ですか。そこは確かに幽玄龍様と唯一お会いできるとされる場所ですが……。そもそも森へ軍勢が無事に行き着くことさえ不可能だったのでは?森自体にもかなり強力な魔物が多数いるため、奥へ行き着くことは無理でしょう。それ故に、全滅理由を幽玄龍様による襲撃と判断したのでは?」


 冥界の森は一般的に死者の国へ最も近い場所と言われているが、たどり着く為には強大な力を持つ魔物ばかりが住む地域を何個も踏破する必要がある。更にはこの道中は特殊な力場によって転移術による転移が不可能であるため、軍勢を送り込むには、あまりにリスクが高い場所であった。


「いえ、なんとか生還した兵士数人によって部隊壊滅を知った先代魔王が自らが赴き、惨状を把握。遺体を回収して撤退を決定。死体には一切の外傷・病状などの外的・内的原因も無く、ただ死という概念のみがもたらされていたそうです。この部隊には種族の最高位の存在が多数含まれていた為、部隊の存在と壊滅は終戦まで秘されていました。」


 尚、これらの情報が記された資料については多くが近年までは秘匿されていたものである。ユリィは皇国でも有数に魔族との繋がりが強く、またクラウディアからも信頼されているのでこれら資料の精査にも参加していたのであった。それ故、詳しいのだ。


「大戦終結後にこの事実を知ったペンドラゴン様が保存されていた遺体を確認し、幽玄龍様の行為と断定したそうです。現在でも、このような概念として死のみを与えるような魔法及び魔術の存在は確認されていません。ですが、生と死の境界を操作可能とされる幽玄龍様ならば可能であるとしても、不思議ではありません。ただ、先の保護下の龍については、そもそも存在するのか、から一切不明です。300年前の動乱期における混乱で、資料が消失していますから。ここから幽玄龍様の襲撃を否定する研究もあります。」


 ユリィはそう言って、記述を書き換えていく。


「この研究では、先の全滅を未だ発見されていない存在による未知の魔法としています。ただ、この保護下の龍なのですが、これはかの勇者様によって討伐されたのではないか、とする研究がいまの主流です。」


 当然だが、ユリィはこれら全ての真実を知っている。カイトの意思を汲み、彼女が語らないだけなのだ。


「勇者様の堕龍討伐の後、この堕龍は勇者様とバランタイン様、ユリシア様、少数の冒険者で密かに葬られたのですが、勇者様の願いにより、場所は明かされておりません。一緒に埋葬した冒険者たちには記憶封じの魔術が施されましたので、知っているのは勇者様達お三方のみです。これは、幽玄龍様からの願いにより、遺体が不用意に曝されないように密かに弔って欲しい、との依頼があったのでは、というのが、研究者たちの考えです。実際、この堕龍討伐から少し後に、勇者様は他の古龍(エルダードラゴン)様と知己を得ていらっしゃいますので、この縁で幽玄龍様から紹介されたのでは、ということですね。」


 説明してひと通りの訂正が終わったらしいユリィは、ぺこり、と頭を下げて説明を一旦中断したのである。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年1月25日 追記

・誤字修正

 『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。

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