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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第28章 元魔王のお仕事編
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第494話 大国というもの

 カナンやその他のエネフィア出身の冒険者が入ってきて少し。カナンやその他新規の冒険者達の存在は概ね好意的に受け入れられて、カイトの方針変更についても逆に好意的に受け入れられた。

 もともと此方で活動する中で仲良くなった同年代の冒険者達について冒険部への所属に関する要望は寄せられていたのだ。特にそういった生徒からの受けが良く、ならば、と他のギルドに所属していた冒険者達が転向を考える事も出てき始めていた。


「はぁ……人数を増やすとなると忙しくなるのは道理か……」

「内部分裂は面倒だ、か?」

「その通り。ギルド崩壊と言うか組織崩壊の最たる要因は、内部分裂が大半だからな」


 クズハ達から提出されてきた書類を持ってきたステラが、苦笑しながらカイトに話掛ける。当たり前だが、人数が増えれば増えるほど、内部分裂の危険性は高まる。その危険性は大昔に友から口酸っぱく聞かされていたので、対処法も把握済みだった。と言うかだからこそ、カイトは自らがトップである事を入団の折りに知らしめていたのである。

 そんな話をしていたからだろうか。丁度面接に出ていた桜達が帰ってきた。帰ってきたのだが、何故か支部長のキトラも一緒だ。


「お久しぶりです、カイト殿。どうやら更に人を増やされるご様子で」

「まあな……そろそろ人手を増やさないとな」

「公爵としては、街への貢献の一貫、ですか」

「そんな所だ」


 応接用のソファに二人で腰掛けて、椿がお茶を用意する間にしばし雑談を行う。


「まあ、ちょっと面白い事になる」

「?」

「ちょっとしたら、フリオあたりも冒険者やるかも、とか言ってた」

「ごふっ」


 カイトの言葉を聞いて、お茶を飲んでもいないのにキトラがむせ返る。カイトの指すフリオとは、どう考えても古龍(エルダー・ドラゴン)の一人であるフリオニールだ。どうして、と言われると、グライアから登録証が便利だ、という事を聞いたらしい。

 とは言え、キトラとしては彼まで来るということは考えたくもない事だった。なにせ来るなら冒険者の一人として、彼を出迎える必要は有るのだ。おまけに有事には指示を下す義務も存在していた。心労を今から感じそうだった。


「フ、フリオニール様がですか? な、何用で?」

「登録証が便利だそうだ。当分は滞在するかも? とか言ってた」

「なっ……この街に定住……されるのですか?」

「可怪しくは無いだろう? なにせ、この街はオレの街だ。あいつらが居ても可怪しくは無いし、冒険者としてのあいつは正体を隠す事になる。ウチにしばらく滞在した所で不思議じゃない……と言うか、大昔には数ヶ月単位で滞在してるぞ」


 青ざめたキトラに対して、カイトがこの街が特殊である事を思い出させる。この上に大精霊達までしょっちゅう出入りしているのが、この街だ。たかだか数ヶ月で驚いていてはやってられない。


「まあ、そっちはどうでも良い。どうせ気まぐれな奴らだ。来たとしても来年とか5年後とかザラにある。で、そっちは何の用だ? 仕事の依頼か?」

「……はぁ……有難う御座います」


 キトラは差し出された紅茶を口に含み、一度心を落ち着ける。流石にそうでもしないと本題に入れそうになかった。


「ええ、仕事の依頼です。出来れば、みなさんも来ていただけますか?」


 キトラは執務室に居た全員に声を掛ける。そうして声を掛けられた一同は、一度取り掛かっていた仕事の手を止めて応接用のエリアに集まった。

 ちなみに、居ないのは魅衣、由利、ティナの三人だ。彼女らはカナンの必要な物やここら一体の魔物の特性等でこの一週間忙しかった。


「此方が、今度の仕事の依頼になります」

「ああ、これか……護衛対象の決定には早くないか?」

「ええ、まあ……色々と理由が有りまして」

「大陸間相互協定会議の防衛要請書?」


 一同が集まったのを見て出された依頼書の一番上にかかれていた名前を、ソラが読み上げる。それはソラ達には馴染みが無かったが、カイトには馴染みが深かった。


「300年前から続く会議だ。大陸間での協定や通商条約なんかの国際条約を一括で取り纏める……まあ、国連の総会みたいなもんだ。モチーフそれだからな。その間、このレインガルドの護衛は通例で冒険者でな……そうか。まあ、来るよな」

「ええ、名も上がってきていますし……今回は確実に天桜学園の処遇も話し合われるでしょうからね。既にそちらには?」

「ああ、学園側として正式にはまだだが、既にオレ宛には陛下より招聘要請があった。断れないだろうな」


 この会議は一ヶ月近く使った大規模な会議だ。それ故に、数カ月前から予定を組む必要があるのだ。なので、もう既に公爵家には天桜学園の招聘に関する要請が来ていた。今の皇国の暫定的な処遇ではなく、エネフィアとしての天桜学園の正式な処遇はそこで決まるのだった。


「まあ、幾つか手は打った。現状は維持出来る」

「それはそれは……っと、話題がそれましたね。その護衛にギルドを上げて参加せよ、とのことです」

「せよ? 命令ですか?」

「ええ……曲がりなりにも冒険者ユニオンも組織ですからね。トップから命令が来る事もあります。今回はユニオン・マスターと預言者様の連名での依頼です。断った所で除名等はありませんが、あまり良い事ではありませんね。まあ、そう言っても8大ギルドの精鋭達にカイトさん達と同じランクEXであるユニオン・マスターも集まりますので、そこまで護衛に気をつける必要はありませんよ」


 キトラの言い回しに気付いて瞬が問いかけると、彼は頷いて告げる。当たり前だが、幾ら独立独歩の冒険者達と言えど組織として成り立つ以上、組織に関する事で組織から命令はされるのだった。特にこういった多くの国が関わる場合には、なるべく受ける様に命令、という形で為されていた。


「まあ、どちらにせよ今回は断れん。師よりあの街に行く依頼も既に受諾しているし、桜田校長以下桜と先輩にも招聘が来ている。オレ達も護衛名目で行くのが良しだろうな」

「私達にも、ですか?」

「生徒会会長と、部活連の会頭だからな」


 桜の訝しんだ様子での問い掛けに、カイトが頷く。調書がとられるわけではないが、各国王侯貴族から幾つか話は聞かれるだろう。


「あの……預言者様ってなんですか?」


 カイトの言葉に割り込んで、凛が問いかける。どうやら全員気にはなっていたらしく、カイトとキトラに注目が集まった。それに、キトラが苦笑して答えた。


「ああ、いえ……素晴らしい軍略家なのですが、あまりに策略が当たりますので、まるで未来を見通している様だ、と着いた渾名が、預言者なのです。二つ名も<<預言者(ザ・プロフェット)>>です」

「ああ、なるほど」


 納得できる話だ、全員そう思う。そして、更に苦笑しながらキトラが告げる。


「まあ、預言者様というのも彼の名前を誰も知らないので、呼ぶ時は『仮面の君』や『謎の男』『預言者』というのが通例です。まあ、おまけに言えば性別もわからないんですけどね」


 彼でそうなると、当然カイトに注目が集まる。だが、カイトは肩を竦めて告げた。


「んなユニオンの極秘情報を明かさせて貰えると思うなよ……」

「あ、極秘なのか」

「今の情報ランクは?」

「相変わらず、最高ランクです」


 カイトの問い掛けに、キトラが答えた。実は冒険部の情報管理システムはユニオンのそれを参考にしている。なので、ユニオンにも情報を得る為の権限があった。カイトの位階はランクEXで、支部長であるキトラよりも特例的に上なのであった。なので、キトラの知らない情報をカイトが把握していたのである。


「だろうな……正体を知ってるのは多分、オレ達とユニオンのトップを飾る馬鹿共ぐらいだろうさ。で、それがわかったらさっさと本題に入れ」

「ああ、すいません……で、その護衛依頼は受けていただけますね?」

「ああ、受諾する。あの馬鹿にも、そう伝えておいてくれ。奴の事だ。そろそろ、オレの帰還は勘付いてるだろうからな」

「あはは。わかりました」


 キトラは笑ってカイトがサインした受諾のサインを受け取り、再度懐に仕舞う。そうして、それを見て再びカイトが口を開いた。


「で、本題は?」

「あはは、やはりお分かりでしたか」

「入れ、と言っただろう?」


 カイトの問い掛けに、キトラは一度笑みを浮かべる。だが、それも直ぐに収めて真剣な顔で告げた。


「ランクB冒険者カイト・アマネに対して命令が来ています。当該冒険者はランクAへの昇格を決せよ、と」

「……誰だ? いや、何処だ?」


 絶句するソラ達を他所に、カイトも真剣な顔で問いかける。通常、ランクBの冒険者が試験も受けていないのにランクAに昇格する事はあり得ない。だが、それが起こったのだ。油断ならない状況だった。

 どこかから、とんでもなく強い横槍が入ったに違いなかった。この話題をするために、キトラは情報の防備がユニオン支部以上である冒険部の執務室にまで出向いたのだった。


「千年王国です。これ以上は、流石に教えてもらえませんでした。ただ、お話は直接ユニオンマスターから持って来られました。おそらく、読み通りにカイトさんの帰還に気付いておられて、大丈夫だろう、と判断されているのだと」

「ちっ……やはり王侯貴族が増えると策略が読みにくいな……」

「ええ……それで、受諾していただけますか……とは言えませんよね」

「それ以外にあるまいよ」


 キトラとカイトは苦笑しあうしか無かった。というのも、相手はエネフィア最大国家の一つだ。歴史で言えば世界最古の国だ。下手をすれば影響力は皇国をも上回る。

 おまけに、皇国にも少しは影響力を行使出来る。カイトが公爵としての地位で断るならまだしも、冒険部部長として断るのは得策では無かった。

 それに、エネフィアでの冒険部の地位を盤石にするためには、千年王国からの横槍は是が非でも避けたい。あの国の根回しの状況に応じては、最悪は天桜学園の解体、各自は割り当てられた国での保護、という事もあり得る。断るのはどう考えても得策では無かった。


「では、私はこれを本部に上げますので、これにて。依頼の詳細は此方にお書きしています」

「ああ、助かった」


 それから2、3の打ち合わせの後、キトラはそそくさと執務室を後にする。流石に今回はカイトも見送りはしなかった。即座に動き出す必要があったからだ。


「ステラ。クズハ達に告げて大陸間会議にはオレ達も行くと伝えろ。出来れば武蔵先生に連絡が取れるかやってみてくれ。会場の見取り図とレインガルドの現状が今直ぐ欲しい。出来ればどの王侯貴族がどの宿に泊まるかについても情報を集めろ。オレの護衛よりもそちらを優先しろ」

「ああ、分かった」


 カイトの命令を受けて、即座にステラが行動に入る。こういった裏事に携わるのが、彼女のもう一つの本職だ。最高の暗殺者は最高の密偵でもあるのだった。


「……ちっ。相変わらず腐ってやがるな……」


 ステラを送り出して直ぐのカイトの悪態に、一同がぎょっと目を見開く。一体今の会話で何処にそんな言葉が出る物があったのか、理解出来なかったのだ。


「……まあ、お前らに依頼書を見せても問題は無いか。見てみろ。多分、目を丸くする」


 カイト自身は、依頼書の内容を見ていない。それなのにカイトがそう明言したので、一同気になってまだ封をされたままで丸まっている依頼書を読んで見る。


「えっ!?」


 全員、カイトの護衛対象を見てぎょっとなる。それに、カイトがやっぱりか、と諦めの溜め息を吐いた。


「椿、今代の千年王国の国王陛下は?」

「情報ではシャーナ・メイデア・ザビーネ・ラエリア女王陛下です」

「御年は?」

「57歳、即位37年だそうです。お姿は不明……が、性格等についてはご想像の通りかと」

「ちっ……見切りをつけやがったか、より良い傀儡を見つけたか……」


 椿の言葉を聞いて、カイトが忌々しげに吐き出した。そうして、一連の流れを見ていたソラがぎょっと驚く。カイトが問い掛けたのは、彼の護衛対象だった。


「わかるのか?」

「それぐらいしか無い。あの王国が横槍を入れる理由はな。大方、自作自演でオレに襲撃を仕掛け、護衛の失敗か女王を危機に合わせた事を理由に天桜学園から何か珍しいか役立つ物を分捕ろうと考えているんだろう。はぁ……57歳……まだまだ二次性徴も終わらないぐらいの少女だろうに……もうお役御免か」


 カイトは忌々しげに吐き出す。千年王国の王族はクズハやアウラ達と同レベルかそれ以上に超長寿の一族だった。成長こそ彼女らと違うので純粋な比較は出来ないが、57歳は種族的に言えばまだまだ10代半ばにも満たない年齢だった。そうして、カイトがため息を吐く。


「建国より1300年……長寿故に国は保ったが、内部の腐敗が進んだか……」

「なあ……そういえば俺達は違うのか?」

「違うだろうさ。多いと今度は護衛が成功してしまうかもしれないし、それでも突破されたなら今度は不手際と言い難くなるからな……っと、そっちも見ておく必要があったな」


 瞬の問い掛けを受けてカイトはふと冒険部の手配を忘れていた事を思い出した。そうして、もう一通の丸まった羊皮紙を開封する。


「護衛場所は……街の東南部。桜田校長達の護衛だな。まあ、こっちは気を回してくれたか」


 カイトが依頼書の詳細を見て、覚えている限りの街の地図を思い出す。そこは特に武蔵達によって手が加えられ、日本風に誂えられた旅館がある所だった。護衛にしても冒険部を選択したのは、これ以上の冒険者への横槍を嫌ったが為だろう。

 念のために言うが、護衛の対象を決定するのは本来はユニオン本部だ。その為、カイトがもし何か不手際を起こせば、彼らの任命責任にもなりかねない。そして一度任命さえしてしまえば、戦力的に多数の強者や英雄を抱える冒険者ユニオンならばよほどの大国でなければ突っぱねられるのであった。


「桜、先輩。二人は多分会議にも出席を求められる。学園側に連絡して、今から打ち合わせをしておけ。幸い理由なら今度の交換実習とでもなんとでも言えるからな……ティナはあと少しすると、これに関する仕事で当分は殆ど動けん様になる。意見はオレに求めるか、クズハとアウラに頼め」

「ああ」

「はい」


 カイトのアドバイスを受け、桜と瞬も動き始める。そして、次の指示はソラ達だ。


「桜と先輩はおそらく会議の対応で動けん。ソラ、翔。お前らが実際に動かす事が多くなるだろう。軍略書は読んでおけ」

「げぇ……」

「軍略書って意外と面白いぞ?」

「お前……変わったな」


 ソラの言葉を受けて、翔が嫌そうな顔をする。過日のカイトとのやり取り以降、ソラも軍略書を読む事がある。その際に、少しだけ面白さに目覚めたのだった。まあ、それでもやはり読書や密談よりも、外で身体を動かす方が好きなのだが。


「さて……忙しいのに仕事持ってきてくれたおかげで、今日は書類と会議で終わりそうか」


 一同、今の通達を受けて各々自分達の仕事に取り掛かっていた。どうやら今日は全員書類仕事や各部署との連絡で終わりそうだった。そうして、その予想通りに、この日一日はその対応に追われるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第465話『元魔王のお仕事』


 2016年7月5日 追記

・誤字修正

『キトラ』と『キラト』の名前を間違えました。『キトラ』が正解です。父親の方を記載しちゃいました。

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