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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の三 救助隊編
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第488話 残されたメッセージ

 弥生達が『8』と明記された部屋の扉の前にたどり着いたのと、特型ゴーレムの援軍は同時だった。


「危ない!」

「うぉおおお!」

「きゃあ!」


 弥生の注意を促す声が響くと同時に、夕陽は思わず脊髄反射的に裏拳を飛ばした。『8』と記された部屋の扉が開いて、槍が突き出されたのだ。狙いは丁度その前に居た詩織の頭だった。当たり前だが、詩織にそんな物を防げる力は無い。それ故に、夕陽が護衛にあたっていたのだ。


「おぉおおお! りゃあああ!」


 夕陽が吠える。槍の先端と彼の手の甲は一瞬拮抗するが、裂帛の気合と共に、槍が砕けていく。そうして、槍の半分ほどが砕け散り、夕陽は迷わずその特型ゴーレムを蹴り飛ばして、後ろに控えた特型ゴーレム達ごと部屋の中に押し戻した。


「夕陽くん!」

「大丈夫だって!」

「でも!」


 詩織の悲鳴に似た声が響く。彼女はしゃがんだおかげで、夕陽の左手の惨状が見えてしまったのだ。彼の左手は常に嵌めている金属製のグローブの砕けた破片が手の甲にめり込み、更には骨が折れたらしくその破片に混じって骨が見えてしまっていた。当然だが、血も滝のごとく流れている。見るからに痛々しい怪我だった。


「だってそんなに血が! それに、骨も見えてる!」

「魔術あっから! 治療すりゃ治る! 空手にも影響無いって!」

「そんなことじゃないよ!」


 空手について言及してみせたのは、夕陽なりの気遣いだ。だが、それでも詩織は悲鳴に似た声を上げ続ける。それに、夕陽が脂汗混じりに笑ってみせた。


「大丈夫だって! 先輩! 睦月! こっちはまだまだ行けるっす! それに、あのカイト先輩が無茶苦茶やばそうっすから、俺たちが急ぐしか無いっしょ!」

「つっ!」


 夕陽の言葉に、詩織も前を向く。こうしている間にも後ろからは特型ゴーレムが迫り、自分達の周囲には警備ゴーレムが包囲を狭めているのだ。今は、怪我の治療をしている場合では無かった。そんな後輩達を見たからだろう。弥生が動いた。


「皐月ちゃん、睦月ちゃん……後はよろしくね」

「え? ちょっと!」


 弥生は皐月に先導を任せると、自身は最後尾に移動する。そうして、一同に背を向けた。それはまるで、特型ゴーレムにたった一人で立ち向かうかの様な状態だった。


「行きなさい! ここは私一人で十分よ!」


 立ち止まって援護に入ろうとした皐月と睦月だが、滅多にない弥生の怒号を聞いて振り返らずに進む事を決める。この場で夕陽と詩織だけに進ませた所で、数メートルもしない内に警備ゴーレムにやられるのが関の山なのだ。誰かが、二人の道を作らなければならなかった。


「……行くわよ! 夕陽! 言ったからには最後までやってもらうからね!」

「左手の止血と痛み止めは僕がやるから、夕陽くんは右手だけでなんとか頑張って!」

「わりぃ!」


 先に進み始めた一同を背に、弥生が特型ゴーレムの群れと対峙する。数は10体。どうやら此方に警備システムあると踏んだカイトの推測は正解だったらしい。近づかせない様に、と此方の方に多くの増援を向かわせたのだ。


「<<嘆きの薔薇ローズ・オブ・グリーフ>>」


 弥生は何時も持っているマフラー状の布を瞬時に丸めて薔薇の様にして、小さく呟いた。すると、変化が現れた。

 白かった布は真紅に染まり、硬度を高めていく。それだけでなく、生える様に布だった真紅の薔薇の上下に緑色の柄と白い細い刃が生まれた。そして、最後に真紅の薔薇がまるで花を散らす様に、片側に伸びて柄最後尾に接続する。

 出来上がったのは、真紅の鍔と新緑の柄、純白の刃を持つ細剣だった。布はこの武器を隠す為の偽装だったのだ。彼女本来の武器は、此方の細剣であったのだ。


「ふっ!」


 弥生は息を吐くと同時に、間合いを詰めて細剣を突き出した。そして細剣が突き刺さると同時に、特型ゴーレムの身体の内側に魔力で出来た新緑の棘が生まれ、内部機関をズタボロにする。


「はっ!」


 続く一息は切り払いだ。それで、真紅の斬撃が生まれた。真紅の斬撃は特型ゴーレムを防御したその武器ごと両断し、行動不能に陥れた。


「薔薇を散らせた事を、後悔なさい。そんな感情があるのなら、ね」


 弥生が艶然と微笑む。それは、何時もの誰しもを見とれさせる笑みだ。だがそれは、何時もの明るい誰しもを見惚れさせる笑みではなかった。

 薔薇の如き危うさを兼ね備えるが故に男が惹きつけられる女の笑みだった。そうして、ものの三分も掛からず、特型ゴーレム達は掃討されることになるのだった。




 一方、先に進んだ皐月達は少し進んだ所で、攻めあぐねていた。仕方がない。手数が足りなくなったのだ。先程までは睦月と弥生も攻撃に加わっていたのだが、弥生は背後から迫り来る特型ゴーレムと警備ゴーレムを食い止める為に残り、睦月は夕陽の怪我の応急処置、夕陽は左手が使えなくなった事で詩織の防御に専念する事になってしまった。結果、攻撃力は激減してしまったのである。


「はっ!」


 だが、皐月とて攻撃出来ないわけではない。彼女は本来の力を解き放った弥生を除けば、一同で最も強い攻撃力だったのだ。なので、皐月が気合を入れて鉄鞭を振るえば、それだけで一体の警備ゴーレムは確実に沈黙する。いや、その一体を破壊した後の鞭での一撃に巻き込まれる警備ゴーレムも居るので、時には2体3体と破壊する事もあるのだ。だが、それでも無駄だった。


「あはは……流石にこれは厳しいわね……」


 皐月が滅多にない弱音を吐いた。3体同時に倒そうとも、その後ろから直ぐに次の警備ゴーレムが湧いて出て来るのだ。最早無限かと思える程だ。

 当たり前だった。警備ゴーレムやそれを統括する警備システムにとって、この先は自分たちの行動を停止させる事の出来るコンソールがあるのだ。最早出し惜しみは無用で、残る全ての警備ゴーレムを此方に送り込んできたのである。

 だが、それでもくじけてはいられない。姉は先程から後ろで単身敵を食い止め続けているし、幼馴染は今も部屋の中空で敵の指揮官と思しきフルフェイスヘルメットを被った特型ゴーレムと激戦を繰り広げているのだ。そして、他の仲間たちにしても今も必死で抵抗を重ねているはずなのだ。くじけてなぞいられなかった。その、くじけぬ心にこそ、救いの手は差し伸べられる。


「クルツ! 準備は出来ているな! <<雷紋(らいもん)>>を展開しろ!」

「はい! <<雷紋(らいもん)>>!」


 男と女の声につづいて、皐月の目の前の警備ゴーレムの集団に雷が迸った。見れば、その上に巨大な魔法陣が展開されていた。そこから、雷が落ちたのである。


「ハイル! 思いきし吹き飛ばしてやれ!」

「おぉりゃあああ!」


 先と同じく女の指揮する声が響き、男の野太い声が響いた。そして、皐月達の目の前の警備ゴーレム達の残骸が無事だった数体を一緒に吹き飛んでいく。

 そうして見えたのは、数人の男女だった。年の頃は皐月達と同等だが、犬耳や巨大な体躯、蝙蝠羽などが見えたので、明らかに天桜学園の生徒では無かった。


「大丈夫か! 私は魔導学園生徒会会長キリエ! 苦境と見て援護に出た! 目的地は1番で間違いないか!」

「つっ! ええ、そうよ! ありがとう!」


 助けに来たのは、ユリィが学園長を務める魔導学園の生徒会の面々だった。そうしてキリエと名乗った少女は仲間を護衛する様に展開し、皐月に問いかける。彼女は兄のアベルや弟のアンヘルとは異なり、白銀の髪を持つ少女だ。そして、それに併せて白銀の犬耳に、しっぽが生えていた。母が違うのである。

 彼女らは目の前の部屋で戦闘が始まり、響く声から苦境を察すると、援護に出て来たのである。そして、2つのパーティが一つにまとまる。これで、足りなかった攻撃力が補われるどころか、増したのだ。


「そちらに対策はあるのか!?」

「ハイゼンベルグ公から、基地のシステム関連の資料が送られてきています!」


 キリエの問い掛けに対して、詩織がずっと抱きしめていた一冊の冊子を見せる。事情をハイゼンベルグ公ジェイクに告げた所、自分達の後始末を頼む、という言葉と共に情報が送られてきたのだ。

 彼女が持っていたのは、それを纏めた冊子だった。彼女をここに連れて来たのは、その冊子を見ながら警備システムを解除する人員が必要だったからであった。


「良し! では魔導学園生徒会は全員、突撃するぞ!」

「おう!」


 キリエは自らの愛刀らしい細剣を構えて、先陣を切る。それに合わせて、魔導学園側の生徒会の面々も突撃していく。一糸乱れぬ連携で、警備ゴーレム達は瞬く間に殲滅されていく。

 そして、ついに『1』が刻まれた部屋にたどり着いた。そうしてたどり着いて即座に詩織を部屋に通すと、一同は扉の前を死守する様に陣形を組む。


「部屋に入り込まない様に私達が援護するわ! 詩織、早く!」

「は、はい!」

「夕陽くん! 今のうちに手当てしちゃうから、左手出して!」

「いっつっ!」


 カイトの予想は正解だった。この部屋のコンソールとパネルには灯りが点っており、アラートを発し続けていた。そのコンソールへ向けて詩織が走って行き、その間に夕陽には治療が為される。そして、10分後。ただひたすらシステムを操り続けていた詩織が口を開いた。


「これで終わり!」


 タン、と叩くようにコンソールのスイッチを押すと同時に、警備ゴーレムが動きを止める。そして、ほっと一息かと思った一同だが、そうはならなかった。なぜなら、戦闘音がまだ響いていたからだ。


「な、何故だ! 警備システムは解除出来たのだろう!」

「え、あ、はい! 確かに解除と表示されています!」


 驚愕するキリエの問い掛けに、同じく詩織が驚愕して答えた。いや、それ以前に警備ゴーレム達は停止しているのだ。戦闘音がしているのは可怪しかった。そうして、一同は即座に部屋から出る。そこには、相変わらず戦闘を行っているカイトの姿があった。


「な!? 奴らは警備システムとは別の指揮系統を持っているのか!」


 キリエが中空で戦い続ける2つの人影に、戦闘音の原因を察した。そして、それと同時だった。部屋に備え付けられた巨大なメインモニターが作動したのは。映ったのは、純白の美丈夫。この国の誰もが知っている、初代皇王イクスフォスだった。


『あ、あー……只今マイクのテスト中……誰かマイクが大丈夫か……って、そういや今、オレしかいねえや。一回録画切って確認すっか……良し。大丈夫。あー、まあ、このメッセージ聞いてるってことは、多分特型ゴーレムが動いてんだろうと思って残す。あ、一応警備システムにばれない様に、警備システムが遮断された後じゃないと再生されないのは悪いと思ってるよ』


 どうやら、彼にはこの状況が見えていたのだろう。幾つか気になる点はあったが、もし残された者達が万が一特型ゴーレムに攻撃された事を考えて残されたメッセージだったらしい。


『あー、まあ。ぶっちゃけ多分警備システムが起動しててもジェイクもヘルメスも他の奴らも問題は無いんだろうけど……ぶっちゃけると、多分再生されない、と思うんだけど……万が一とすりゃ、レヴァかなぁ、と思ってこれ残しとく。お前が来ること無いと思うけど。後世の他の奴だったら……うん。どしよ……あ、なんでこんなメッセージが、ってのは無しな。そもそもオレ、死んだわけじゃねえし。あー、いや、まあ、死んだっちゃあ死んだんだけど……』


 長々とイクスフォスは雑談を行っていく。不敬とは思ったのだが、キリエ達は出来れば本題に入って欲しいと思った。そして、どうやら願いは通じたらしい。


『って、まず! ただでさえここに来てる時点でお叱り確定ってのに長々といらんねぇんだった! えーっと、まず、ヘルメット被ってる奴。あのデータだと未完だった奴な。で、まあ、ちょっと色々探ってっとここでこそこそやってる奴が居て、調べたらどうにもそいつを完成させようとしてたみたいだ。一応そいつは潰しといたけど、基地に残ってたログを解析させると、どうにも一歩遅くて、完成してたみたいだ。一応鹵獲もありかな、って思ったんだけど……』


 イクスフォスはそう言うと、少し申し訳無さそうにぽりぽりと頬を掻く。そうして、再び続けた。


『実は部屋に辿り着けなかったんだよ。そいつが基地から地図を完璧に抹消した所為で、隠し部屋が何処にあるかわかんなかった。まあ、すぐに違う世界に渡るつもりなんだけどさ……オレがまだこの世界の何処かに居る、ってバレても困るから、悪いけどそのままにしておいた。起動するとも思えなかったしさ……まあ、そういうわけで、起動してたらマジでごめん。一応、ちょっと手を尽くして設計図入手しといたから、それで頼むよ』


 どうやら安易に手を出すべきではないと思い、その代わりに情報を残す事にしたらしい。そして、イクスフォスの画面と共にフルフェイスヘルメットの情報が浮かび上がる。


『これが、そいつの情報な。一応、読み上げるぞ……えーっと、武器は双剣、長剣、大剣……』


 そんなことはどうでもいい。そんな情報を上げていく。まあ、万が一目覚めていない場合でも聞ける様にしたのだろう。だが、残念ながらすでに起動している。なので今欲しい情報は、どうやったら停止させられるか、だ。


『で、肝心の停止方法なんだけど、ぶっちゃけそいつは基地の指揮系統と独立してるらしい。なんで、メインユニットがある場所を表示する。そこを狙え。どうするかはレヴァや後の奴らに任せるよ』


 表示されたのは、フルフェイスヘルメットの特型ゴーレムの胸の内部画像だ。そして、その中心部には幾つもの防壁に守られたメインユニットが。それを見て、カイトはにやり、と笑みを浮かべるのだった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第489話『おちゃめな王様』

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