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第37話 教え子の授業

 道中ユリィがついてくることが確定し、更に賑やかさがました馬車の中であるが、すぐに講習の場へと到着する。


「あ、ここでやってたんだ。てっきりホテルでやってると思ってた。」


 異世界の学生たちを集団で移動させるのもどうか、と思ったユリィであるが、場所を見て納得する。


「知ってるんですか?」


 馬車の中で一番ユリィに話しかけていた桜であるが、なんとか仲良くなれたらしい。


「うん。普通に商工会とかが会議でも使っているような大講堂もあるからねー。何度か使ったよ。」

「はぁ、そうですか。私達はここの2階にある第三講堂を使わせて頂いています。」

「何人ぐらい?」

「教師も含めれば60人ですね。」


 正確には学生50人の教師10人であった。


「ああ、それじゃホテルじゃ無理だね。異世界から来ました、って宣伝するようなもんじゃない。」


 そう言って再びカイトの肩の上に座る。


「おい、頼むからバレるなよ……。」

「うん、分かった。」


 ちなみに、その日の午後には発見されるが、今は頷くユリィ。一応隠形系―姿を隠す系統―魔術を使用しているが、彼女が熱くなった為に、効力を失ったのである。




「皆さん、おはようございます。午前中は、この世界において最も重要な事の一つ、古龍(エルダードラゴン)様について説明します。」


 そう言って講習二日目が開始された。どうやら今日の講習では古龍(エルダードラゴン)についてを説明するらしい。


「まず、皆さんに言っておきます。これから名を挙げる方々には絶対に喧嘩を売らないでください。」


 今まで見てきた中で最も真剣な顔をするミリア。その表情に講義に参加する面子全員が息を呑む。少なくとも、日本では滅多にお目にかかれないような真剣な表情であった。同年代か少し下に見える女の子にこんな真剣な表情をさせる相手とは、と一同が一気に緊張に包まれる。


「古龍様方は全員で6体いらっしゃいます。その全員が単体で大陸一つの全国家を纏めて相手にしても、余裕で勝利されるようなお方です。」


 あまりにぶっ飛んだ戦闘能力であるが、事実である。普通ならば誰かから冗談だろう、という声の一つでも挙がりそうだが、あまりに真剣なミリアの表情に誰もが事実であると理解したのであった。


「数百年前……でしたか。ある国家で内乱が起きていたのですが、その内乱に乗じて野盗をやっていた集団の一人が古龍(エルダードラゴン)の一体、仁龍様に喧嘩を売ったらしいです。どんな内容だったのかは、伝わっておりません。追求前に即座に処刑されました。」


 ちなみに、この際の一件で仁龍に拾われたのが燈火である。彼女は実は中津国の生まれでは無いのであった。


「その後、仁龍様に喧嘩を売り激怒させたこと、しかもそのまま逃走していることがその国中に伝わると、当時の貴族達は大いに焦ったそうです。このままでは自分たちも滅ぼされる、と。当然の如くこの集団は懸賞金が掛けられました。その額は当時最高額の総額ミスリル銀貨50枚。それも、おっきい方です。結果、全国民を巻き込んだ捜索が行われ、たったの3日で発見されたそうです。この三日間は内乱していた全貴族が休戦し、挙国一致での一斉捜索が行われた結果、内乱が終結したそうです。冗談の様に聞こえますが、こんな話が真実として語られるぐらいには怒らせれば恐ろしい方々です。」


 呉越同舟、まさにその状況であった。ミリアはそこまで言って、今度は肩の力を抜いた。脅すのはこれぐらいで十分、と思ったらしい。


「といっても、古龍(エルダードラゴン)様は怒らせさえしなければ気のいい方々らしいですので、心配する必要はないそうです。まあ、そうは言っても滅多に表に出てこない方々ですから、まずお会いできません。喧嘩を売ること自体が不可能に近いですね。そもそも伝説の存在とさえ言われる方に喧嘩を売る事自体が狂気の沙汰です。」


 尚、この話を聞いてソラも桜も怯えているが、昨夜一緒に酒を飲んでいた5人こそがこの古龍(エルダードラゴン)であることを彼らはまだ知らない。


「では、古龍(エルダードラゴン)様について、わかっている事を説明していきます。」


 と言ってもわかっていることなんて殆どないんですけどね、そう言って苦笑するミリア。


「まず、先の仁龍様。別名は老緑龍神。中津国の統治をされています。古龍の中で最も高齢のお方です。と言っても、あの方々の年齢なんて誰もわからないんで、彼らの自称らしいですけどね。」


 実際は中津国の統治は燈火らに任せきり、更に誰も古龍(エルダードラゴン)の年齢を把握していないため、噂に近いのである。


「先のお話から恐ろしい印象を受けるかもしれませんが、実際には孤児を引き取るなど温和な方だそうです。他にも怪我をされた勇者カイト様へ秘蔵の薬湯の使用を許可することもあったそうです。また、中津国と皇国の間では国交・交易が結ばれていますので、政治的視点も持ちあわせていらっしゃいます。」


 この国交樹立や交易、おまけに薬湯を進言したのも燈火である。ちなみに、薬湯でカイトの傷の治療をしたのは別に居たりする。

 いつもはぐーたら寝てるよ、そう言いたくなるカイトであるが、薬湯では世話になったので―そもそも言うわけにもいかない―スルー。


「次はペンドラゴン様。別名は白龍神姫。浮遊大陸を統治されています。ペンドラゴン様は逆に最も年若の古龍(エルダードラゴン)様です。浮遊大陸はここ数百年で発見された大陸であることは昨日話しましたね。300年前には勇者様の騎龍として大戦で活躍されたそうです。他にも先々代魔王ミストルティン様の育て親でもあったそうです。」


 ティナの本来の姿が彼女の人間形態の姿に酷似しているのは、もしかしたら育て親だからかもしれない。また、口調が彼女に似ているのは、明らかに彼女の影響が大きい。

 ちなみに、ティナがティアを姉と呼ぶのは幼少期に母上と呼んだところ、非常に良い笑顔をされて姉上にしなさい、と言われた、とは本人の談である。


「3体目はファフニール様。別名紅龍女帝。居場所は不明です。わかっていることはエンテス大陸以外の大陸でも目撃情報があるぐらいですか。ファフニール様が最も有名なのは700年前、エンテシア皇国建国時に初代皇王陛下に支援されたことが有名ですね。その縁で皇帝陛下の家紋には赤龍の意匠が施されており、皇国の国旗には龍が象徴として飾られています。尚、エンテシア皇国で龍の意匠を象った家紋を掲げる事が許されているのは、皇族と公爵以上の貴族に限られます。」


 一般に広く詳細がわかっている古龍(エルダードラゴン)はこの3体のみである。故に、ここからの説明は一気に簡単になった。


「4体目はティアマット、もしくはティアマト様です。説明することなのですが……実はここからの方々は殆ど資料がないので名前と別名しか分かっていないんです。ティアマット様だと別名は黒龍帝王ですね。大抵地中にいるらしいのですが、それ故に居場所が掴めないらしいです。目撃証言は殆ど無し。一応、300年前の大戦では参戦なさったそうなのですが……これは次のラードゥン様、先のお三方も同様ですね。」


 どうやらこれで終了らしい。


「5体目はラードゥン様。別名黄龍皇帝。同じく資料が無いため、居場所は不明。ただ、時折空を飛んでいるのが目撃されているので、目撃頻度は高い方です。まあ、何を思ったのか時折、空からラードゥン様が落ちてきた、などという冗談が報告されていますが、ありえませんよねー。」


 かなり少ない説明だが講習を受けている学園一同は、伝説の存在なんてそんなものか、と思っている。


「で、最後のお方なのですが……実は名前が判明していないんです。別名は幽玄龍、もしくは蒼源覇龍。どこかにはいらっしゃるらしいのですが……ちなみに、当然居場所は不明。目撃情報は全歴史上で数えられる程度しかありません。と言うか、もう彼を見た、と言ったら正気を疑われるレベルです。おまけに、その多くが青い天龍の見間違いであると結論付けられています。尚、彼ら6体はそれぞれが色が違うため、6色始龍とも渾名されますが、滅多に使いませんね。」


 ここに来て遂に名前さえ判明しない古龍が登場し、遂に質問が挙がる。


「えっと、名前もわからない、どこにいるかも分からない、どんな存在なのかも分からない、ってほんとにいるのでしょうか?」


 この場にいる全員の疑問である。が、この疑問は当然ミリアも思っていた。


「ですよねぇ。私もいないと思うんですけど……。でも、古龍様方は全員幽玄龍様の存在を肯定していらっしゃるんです……それで誰も表立って否定出来ないんですよ……。」


 実は皇国の歴史には、誰にも―皇帝や記録者も含め―知られず数少ない公式記録としての幽玄龍の存在が確認されているが、これを知っているのはエネフィアでも両の指にも満たない。


「……ねぇ、カイト。昨日からこんな調子?」


 さっきまで興味津々という感じで講義を聞いていたユリィだが、古龍の説明が半分を超えたあたりから何かを堪えるように苛ついていた。さっきからカイトの肩にかなりの威力の踵があたっているので、カイトとしてはやめて欲しかった。


「ん?いや、昨日はもっとまともだったぞ?まあ、古龍の説明をしろなんて、古龍を専門に研究している奴でもないとあの程度になるだろ。」


 古龍(エルダードラゴン)と知己を得て普通に呼び出せる自分がおかしい、それぐらいはわかっているカイト。それ故に説明に疑問は得ず、題材のほうが悪い、そう判断したのである。が、ユリィは納得していなかった。


「それでも限度があるよ。間違いが多すぎ。こっちは普通の龍の見間違いの一件だし……」


 黒板に板書されている記述に対して逐一間違いを指摘していくユリィ。カイトは教育者としてのユリィを垣間見た気がした。


 その間もミリアによる古龍(エルダードラゴン)の説明が続いていたのだが、更にユリィのボルテージは上がっていく。


「……間違いだらけ。というか、勉強しなさすぎ。だめ、全然だめ……。古龍の知識は冒険者として以前に、エネフィアで生きていく上で最重要の基礎知識の一つ。間違ったことを教えたら大変なことになるって言うのに……」


 そう言って、ユリィは深く溜め息を吐いた。


「まあ、最悪は避けれるだろ。一応脅しが効いてるみたいだからな。」


 そう言ってカイトがユリィを宥める。先ほどミリアが脅した時には、全員が少し怯えた表情を見せていたので、まあ、忘れなければ大丈夫だろう、と考えたのだ。最悪、カイトがそっと手助けをすれば、何とか取りなせるだろう。それだけの知己は得ているのだ。


「……あー、ごめん、カイト。これ、我慢できない。」


 とは言え、それとこれとは別の話であった。ユリィは教育者として、教え子が間違った事を教える事に堪えられず、遂に立ち上がったのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。


 2018年1月25日 追記

・誤字修正

 『中津国』が『中つ国』になっていた所を修正しました。

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