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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の三 救助隊編
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第487話 傑作

 瑞樹達が大通路を駆け抜けていた頃。一方のカイト達は第3階層を目指して階段を駆け下りていた。


「なっがいな!」

「この先の階層はどうにもこの研究所全体のコンソールルームになってるみたいで、かなり広くて天井が高いの! おまけに涼しいし!」


 第2階層に降りたよりも遥かに長い階段を降りて居たカイト達は、そのあまりの長さに苛立ちを覚える。おそらく予備の司令室に踏み込まれない様に、階段を長めに作ってあるのだろうとカイトは予想する。

 まあ、正解は第2階層と第3階層の間に特型ゴーレム達の格納庫があるからなのだが。幸いだったのは、格納庫を隠す為、階段の最中に彼らの出入り口が無い事か。


「後もう少しで扉に着くよ! そうしたら、急いで大部屋の一番左奥『2』の刻印の部屋に移動! そこが、生きているコンソールがある部屋だよ!」

「今回生き返ったんなら、昔から生きてた奴は除外しろ! 大方基地の設備コントロールだろ! 死んでた奴は!?」


 ユリィの言葉に、カイトがつっこみを入れる。生きているコンソールがあったとしても、そこからの情報は既に収集済みなのだ。警備システムが生きている事が発覚したのは最近なので、それが警備システムのコンソールであったとは思えない。なので、最近まで死んでいて、今復活したのがそのコンソールの可能性が高かった。


「え、あ、そっか!……って、他全部だよ!」

「ちっ、アンリと生徒会長は何番の部屋に立て籠もってる!」

「アンリ! キリエ! 聞こえてる! 応答を!」


 ユリィは魔導学園側で使っている通信機を使用して、警備システムの解除に向かった二組へと声を掛ける。一応は聞いていたが、念の為に確認をしておきたかったのである。


『アンリですの。ユリィ学園長、現状はどうなってますの?』

『こちらキリエだ。私も問いたい』


 通信機からは直ぐに応答があった。振動や爆音等、戦闘で発する様々な音で救助が近い事を知って、通信機に常に注意を払っていたのである。


『現在救助部隊の別働隊が、そっちに向かってるところです! 私も一緒です!』


 ユリィの声を聞いて、通信機の先で安堵の溜め息が漏れたり、歓声が聞こえる。ユリィが救助に来ると知って、安堵に包まれたのである。

 クズハもそうだしアウラもそうだが、ユリィもまた、英雄の一人なのだ。が、そんな安堵や喜びを他所に、一人ふと何かを考える様な声が流れこむ。


『ユリィ学園長が一緒……ということは……義兄様の戦いが見れるんですの!』

「んな所で発作は起こすなよ!」

『やはり義兄様! これはラッキーですの!』


 カイトのツッコミに対して、アンリが興奮気味に答える。と言うか、大興奮していた。鼻息が通信機に入り込んでいるぐらいである。


『ろ、録画機が無いのが残念ですの……ですが、この際構いませんの! この眼にしっかりと』

「良いから先に質問に答えろ! お前らが立てこもっているのは何番の部屋だ! なんぞ特型ゴーレムとか言うのが起動したらしく、先にそいつらを停止させたい!」

『なっ……』


 カイトの言葉に、アンリが絶句する。警備システムを停止するということはそれは即ち、警備ゴーレムが停止することで、即ち戦いが見れない、ということだ。カイトの戦いを見たいアンリとしては、絶望の一言に他ならなかった。


『私達生徒会は確か……誰か見ていたか?』


 アンリの発作のことは知ってるのだろう。キリエは無視して話を進める。別働隊ということから、残してきた生徒達の方にも救助部隊が向かっている事がわかったからだ。特型ゴーレムなる謎の存在が動き始めたのなら、警備システムを停止させるのは戦術的に当然だった。


『……ああ、分かった。私達は5番だ。真ん中の部屋だったらしい。アンリ皇女は私達の反対の部屋に入り込んだのを見ているから、6番だ』


 キリエが生徒会の役員の言葉を受けて、カイトに告げる。大きな部屋の両横にある小部屋の総数は10個。大部屋の真ん中辺りまで来た所で、お互いに警備ゴーレムに阻まれて進軍できなくなってしまったのだった。なお、キリエ達はアンリ達が部屋に入ったのを見て、作戦失敗を判断して部屋に入り込んだらしい。


「その部屋のコンソールは起動しているか? 何かランプが灯っているとかでも良い」


 カイトの言葉を受けて、暫くの間無言の状態が続く。そして、数分で返答が帰ってきた。なお、カイト達は返答を待つ間に、最下層の扉の前に到着していた。後は返答を待って中に入るだけだ。


『うっぐ……アンリですの……此方の部屋は何も点いてませんの……』

『此方キリエ。同じく何も見当たらない。目的地は『2』では無いのか?』

「いや、2番は元々生きていた。ならば、それが警備システムだと可怪しい。ずっと警備システムが生きていないと可怪しいからな。ならば、元々死んでいた奴だ」

『……成る程。道理だ。どうやら私達は見誤っていた様だ』


 カイトの推測に、キリエが納得する。どうやら彼女たちもユリィと同じ考察で『2』を目指した様だ。が、カイトの考えを聞いて、向こうの推測が正しそうだ、と思ったらしい。


「ああ。とりあえず、此方は警備システムの解除に入る。そちらも脱出出来る様に待機しておけ。ただし、特型ゴーレムなる存在が動き始めると予想される。気を付けろよ。これで通信を終わる」

『そちらもだ』

『了解ですの……うっぐ……義兄様の戦いが……』


 激励を交わしたカイトとキリエに対して、アンリは非常に悲しそうだった。そうして、通信を終えて、カイトが最後の考察に入る。


「残り7つ……軍事施設で警備システムが手前側にあるとも思えん……なら、やはり『1』『3』『4』か」


 もし万が一室内に入り込まれても、警備システムのコンソールが奥ならばそれまでに敵を排除出来る可能性は得られるのだ。なので、カイトは部屋手前側のコンソールを除外する。そこに、ユリィが思い出した事を告げる。


「待って。『4』の部屋のコンソールは破壊されてるよ。結構な攻撃力で確実に破壊されてる。それは復旧していないと思う」

「初代陛下達が破壊された火器管制システムか。なら、それも除外するか……良し。一葉、室内の広さ程度なら、援護は可能だな?」

「はい、マスター」

「良し。二葉、三葉。お前らがアサルトを仕掛けて警備ゴーレムを蹴散らせ。二葉は双銃、三葉はガトリングを持って来ているな?」

「はい、マスター」

「はーい」


 三人娘は全員各々指示された武器を取り出して、安全装置を解除する。


「皐月、睦月、弥生さん。一応道は作らせるが、万が一は頼む。詩織ちゃん、左側の壁に沿って最奥の『1』の部屋に移動し、警備システムを解除してくれ。オレは右側に移動して囮になる」


 全員がカイトの言葉に頷く。そうして室内に入ってカイトが目にしたのは、5体の特型ゴーレムの更にカスタムされた機体だった。


「つっ!」


 刹那の一瞬。まさにそれほどの速度だった。その一瞬を持って、フルフェイスヘルメットを被った特型ゴーレムがカイトへと肉薄する。それと同時だった。彼女の左右に控えていた特型ゴーレムのガトリング砲が火を吹いた。


「きゃあ!」

「下がれ! 三葉! 弾幕を張れ!」

「はーい!」


 皐月の可愛らしい悲鳴が響き、カイトが声を荒げる。この一瞬でカイトがフルフェイスヘルメットを被った特型ゴーレムと交わした斬撃の数は100を超える。どうやら並どころか超級の腕前を持ち合わせている様子だった。

 そうして、カイトは大剣で思い切り接敵した特型ゴーレムを弾き飛ばし、自身も扉の後ろに退避した。明らかに想定外の実力だったので、作戦を練り直さなければならなかったのだ。


「……戦闘に伴い、魔力濃度が増大……通信機能にノイズが発生。影響は軽微だが、万が一に備え、対話を用いる事にする」

「了解」


 カイトとの間合いを離し、フルフェイスヘルメットの特型ゴーレムが告げる。それに答えたのは、当然彼女の左右の特型ゴーレム達だ。

 武装の構成としてはフルフェイスヘルメットの特型ゴーレムが双剣、彼女の左右隣の特型ゴーレムが長銃と長剣が合体した様な複合武器、左右両端の特型ゴーレムがガトリング砲だった。


「まずいな……」


 一方、三葉に弾幕を張らせながらカイトが忌々しげに顔を顰めた。瑞樹の方にも特型ゴーレムが現れたというし、そちらも拙いのだ。なので早急な解決が望まれたのだが、その可能性は低かった。


「ちっ、ユリィ。頼めるか?」

「うん。私も援護に出るよ。右側の警備ゴーレムは任せて」

「一葉、二葉。長剣を相手に出来るな? 三葉。ダブルを許可する。弾幕を目一杯張ってやれ」

御命令のままに(イエス・マイ・ロード)

「やた!」


 一葉と二葉がカイトの命令に応じ、三葉が歓喜の声を上げる。ダブルとは、2連装ガトリング砲を両手に持つという彼女の手持ち武器の中でも最も弾幕を張れる装備であった。


「弥生さん。最悪は、あれを頼んだ」

「ふふ。久しぶりね。腕がなるわ」


 カイトと弥生の間だけで、何かが通じたらしい。事情を知らない面々は疑問を浮かべるが、今はそんな場合では無かった。そうして、カイトが双銃を構えて再び扉の先に踊りでた。それと同時に、向こうも行動に出た。


「本機は敵総大将と思しき……修正。施設データとの情報を取得。敵、叛乱軍幹部と推定。増援を要請する。各機は標的へと集中攻撃を仕掛けよ」

「了解」

「はぁ!?」


 いきなりのセリフに、カイトが思わず絶叫する。自分を暫く見ていたフルフェイスヘルメットの特型ゴーレムだが、いきなりカイトをイクスフォス達叛乱軍の幹部と断定したのだ。何故かはわからないが、とりあえず断定されてしまったのである。


「ちょ、ちょっと待て! 何故いきなりそうなる!」


 カイトの制止だが、当然、敵は待ってくれない。彼女はカイトに肉薄すると、双剣を振りかぶる。ちなみに、これは当然特型ゴーレムの持つセンサーがティナの魔力を察知して、その縁者と交わりのある者だ、と断定してしまったからであった。


「対象の魔力波形……合致。イレブン・ナインでイクスフォスの側近と判断する。警備システムの防衛から、幹部の討伐を開始する」

「了解」

「了解すんな、ちょっと待て! 一葉、二葉、三葉! 大急ぎで左右の奴潰せ! 流石にこいつ相手に銃弾受けながらはきつい! 弥生さん、ユリィ! 作戦はそのまま! ユリィは警備ゴーレム掃討後即座にアンリの護衛に入れ!」

「……あ、はい!」

「……あ、そうね! 後はお願いね!」

「わかってるよ!」


 流石にいきなりの事態で弥生達だけでなく三人娘も呆然となっていたが、カイトの言葉に全員我を取り戻す。とは言え、どうやら特型ゴーレム達は警備システムの防衛ではなく、カイトの討伐を最優先事項として設定したらしく、護衛の三人娘はともかく、ユリィや弥生達には目もくれない。

 なお、カイトがユリィにアンリの護衛を命じたのは、カイトがイクスフォスの側近と判断されたなら、アンリはその直系の子孫だ。より危険だろうという判断だった。

 が、これは考えすぎだった。あまりに遠すぎて、彼女は似ているだけで無関係と判断されてしまっていたのである。ティナは直系の第一子であるため、濃すぎたわけであった。


「あんまやりたくないけど! <<陽炎(かげろう)>>!」


 カイトは武器を双剣に持ち替えると、即座に分身を創り出す。一気にケリをつけようと考えたのだ。だが、その目論見は躱される。フルフェイスヘルメットを被った特型ゴーレムも分身してみせたのだ。


「<<フィジカル・シャドウ>>」

「なっ!?」


 生み出された分身に、さしものカイトも絶句する。ゴーレムなのに、完璧に近いレベルで魔術を行使してみせる。肉体こそが金属製だと思うのだが、ほぼ、一葉達ホムンクルス一歩手前と呼んで良い出来栄えだった。そして、驚きはそれでは終わらない。


「<<ランス・メギド>>」

「!? 古代魔術(エンシェント・スペル)の亜種か!?」


 接敵する瞬間、フルフェイスヘルメットを被る特型ゴーレムが使用したのは最上位魔術の更に上、古代魔術(エンシェント・スペル)だった。

 驚くべきなのはそれを詠唱出来るこの特型ゴーレムなのか、それともそれを作ってみせた科学者なのか、どちらなのかはわからない。だが、確かにそれは発動に成功した。彼女の掌からは、こぶし大の尖った白い光が生み出される。


「くそっ! ティナにも黙ってたのに! <<虚無の門(ゲート・ゼロ)>>!」


 その掌に宿った光球を見て、カイトは大慌てで古代魔術(エンシェント・スペル)を展開する。ティナにさえ、カイトは戦闘中に古代魔術(エンシェント・スペル)を使えると言っていない。切り札だったからだ。その切り札を切らせるほどに、この特型ゴーレムは別格だった。ティナが見ても大興奮するだろう。

 ちなみに、カイトが使った<<虚無の門(ゲート・ゼロ)>>とは発生した魔術そのものを飲み込む対魔術防御の一つだった。

 カイト単体ならば余裕で<<メギド>>を防ぎきることは出来る。だが、その結果は目に見えていた。おそらく、この階層と瑞樹達の居る上層階はその余波で壊滅するだろう。


「射出」

「喰らえ!」


 特型ゴーレムの掌から、純白の槍が超音速で射出される。この時代のランクSの冒険者さえ余裕で殺せる威力のある槍だった。

 それを、カイトが自身の前に生み出した漆黒の穴が飲み込む。そうして飲み込まれた純白の槍はそのまま何も破壊を生み出さず、漆黒の穴と共に消滅する。


「まずいな……これは、強い」


 ちらり、とカイトは詩織達を覗き見る。出来れば、警備システムの解除を願いたかった。勝てなくはない。だが、一瞬でケリをつけることは出来ない。

 いや、正確には出来るのだが、それをやると余波でこの研究所そのものが吹き飛ぶだろう。救助隊として来ているのに、仲間も要救助者も道連れでは大損だった。そして、更に悪い事態が起きた。


「きゃあ!」


 戦闘の最中。カイトの耳に詩織の声が響いて来た。それに、カイトは再びそちらを見ようとするが、答えは先にユリィからもたらされた。


「カイト! こっちに多分量産タイプの特型来た! 多分、詩織ちゃんの方にも行くよ! 皆に気をつけさせて!」

「もう行ってる様だ!」


 どうやら、ユリィには三葉の4門のガトリング砲が生み出す轟音の所為で詩織の悲鳴が聞こえていなかったらしい。注意を促すが、もう遅かった。なんとか攻撃は夕陽が意地で防いだが、目の前で爆発が起きて思わず屈みこんでいた。そうして、それを忌々しく思いつつも、カイトはユリィに大声で告げる。


「ユリィ! お前はさっさとそいつら破壊して、アンリ達が張る非常用の結界を持って来た奴に別展開! それが終わったら弥生さん達の援護を頼む!」

「わかった!」


 ユリィに対してカイトはアンリ達が展開している結界の強化を命じる。そうしなければ、このままではカイトと特型ゴーレムの戦闘の余波で破壊されかねなかったのだ。そうして、カイトは一葉達三人娘の状況を確認する。


「一葉達は……くそっ! あっちもカスタムタイプか!」


 カイトが忌々しげに悪態をついた。ちらりと覗き見た三人娘の戦況は、あまり芳しくなかったのだ。これでは、現状はユリィが如何に動けるかどうかに掛かっていた。三人娘も完全に膠着状態だった。


「ちっ、こんなの有るならさっさと破壊しとけよ……」


 カイトが小声で、イクスフォスに対してタメ口で愚痴を言う。不敬ではあるが、そう言いたくなるのも無理は無い状況だった。そうして、最下層は最下層で膠着状態から抜け出す隙が見えぬまま、戦闘は続くのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第488話『残されたメッセージ』


 2016年8月11日 追記

・誤字修正

『軽微』を『警備』としていた所を修正しました。

・追加

『」』が抜けていた部分がありましたので、追加しました。

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