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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の三 救助隊編
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第485話 救助隊の戦い

 カイト達が突入した事により、ついに警戒レベルが最大まで高まった前文明の研究施設。それが動き出したのは、地下3階とされていた研究施設に隠された階層。資料からは秘匿され、この秘密研究所に所属していた研究者達の中でも更に極一部にしか存在が明かされていない特別な階層での事だった。


『起動要請受理……全システム、オール・グリーン。前回起動時より……計測不能。少なくとも数万時間以上が経過しているものと判断。カプセル内部気密状態に問題無し。前回起動時よりの経過時間が測定不能の為、非常プログラムを優先し、機体状況の最終チェックを行う……』


 その存在は起動すると、即座に自分の状況を確認する。そうしてそれに問題が無いと判断すると、行ったのは、研究所の警備システムとの同期だ。


『敵情報についてを要請……エラー。該当情報無し。警備システムは魔力波形から対象は80%の確率で叛逆者イクスフォスまたはユスティーツィアの縁者と判断している模様』


 その存在は、警備システムとは別の判断システムを有していた。警備システムが遮断、もしくは乗っ取られた場合に備えて、それに影響されない自律システムが搭載されていたのだ。起動条件は警備システムからの警備体制レッドの発令に伴う要請か、予定に無い警備システムの遮断だった。

 ちなみに、この存在の得た情報から読み解けば、何故警備レベルが上がったのか、という原因が発覚していた。もちろん、カイトだった。彼がイクスフォスかユスティーツィアの縁者だ、と判断されていたのである。二人の娘であるティナの婚約者なので、間違いではない。

 少し下世話な言い方をすれば、ティナと交わっている期間が長かった為彼女の魔力の波形がカイトの体内に残っており、それを計器が僅かにだが感知した結果、というわけであった。

 確率が低いのは体内に残っている残留分だけなので、というところだ。とは言え、敵を考えれば警戒するに値する。それ故、念を押す事にした、というわけであった。


『敵状把握……現在敵影は二手に分かれて進行中……戦術判断……決定』


 全ての起動準備が整うと同時に、部屋に明かりが点く。その部屋は、およそ200メートル四方の広い空間だった。そこに、カプセル状の機械が幾つも鎮座されていた。これら全てが、特型ゴーレムだった。

 そう、特型ゴーレムは一つでは無かったのだ。そして、部屋にあったのは何も、彼らが眠るカプセルだけではなかった。彼ら専用の武器もまた、彼らと共に眠っていた。


『施設火器管制システムとの同期……失敗。本機の武器のメンテナンス情報に欠落有り。緊急時の為、本機は使用兵装は単純兵装を選択』


 特型ゴーレム達の中で、自分達の武器を管理する研究所の火器管制システムとの同期が取れないと判断すると、複雑な機構を有する武器を選択肢から除外する。メンテナンスが為されていない可能性を考慮して、戦闘中に使用不可となる可能性を排除したのだ。

 流石に火器管制システムを停止させないで破壊するほど、イクスフォス達とて考えなしでは無かった。此方はユスティーツァ手引きの下、確実に破壊していたのである。まあ、全てに別口の予備があるとは流石に誰も考えていないので、警備システムは無事だったのである。ここら、マルス帝国が賞賛されるべきだろう。


『戦闘システムを再構築……』


 幾度と無くシステムの確認と施設への要請を行っている彼らだが、ここまで警報が発令されてからものの5分も経過していない。おそらく3分という所だろう。長いようにも感じるが、その実700年近くも眠っていた事を考えれば、十分に恐ろしい能力であった。


『武器選択……1番機は双剣を選択。各機、使用武器を報告せよ』

『2番機。長銃を選択』

『3番機。同じく』

『4番機。尖爪を選択』

『5番機。砲を選択』

『6番機……』


 無数の返答が、指揮官役である1番機に報告させられる。幾ら自律システムと言えど、数がいる以上は連携を取るのが前提だ。なので当然指揮官が要るのである。

 1番機はそのために、この特別にカスタマイズされた警備ゴーレム達の中でも特にカスタマイズがされていた。それは見た目もそうだし、性能にしてもそうだった。


『1番機。音声認識システム確認。各機、異常を報告せよ』

「1番機。音声認識システム確認。各機、異常を報告せよ」


 内部への通信と、声を出す機能を同時に機能させる。同時に周囲の機体の聴覚機能を確認したのだ。声を出す機能は、この指揮官機だけだった。


『全機、問題なし。各番号の1番機は本機と共に地下3階、敵司令官と思しき存在との交戦に向かう。残りは全機、2階に入り込み抵抗し続けている敵の排除に移れ』

『了解』


 1番機は彼ら専用に作られた出入り口の前で、最後の確認を行う。彼らに求められるのは、確実性だ。その確実性とは、敵の排除と同時に、貴重な研究員達の保護だ。それ故、間違ってはならない事があった。


『視覚情報の再確認を開始。認識票と共に、緊急時に置ける対象の網膜・声紋等顔情報の正誤性を報告せよ。本機はフェイスガードを開放する。それと共に、本機の音声機能を使用する』

「あーーーーー」


 フルフェイスヘルメットだった指揮官機の素顔が晒される。それは端正な、少女の顔だった。彼女は声を出しながら、怒った様な表情から、真に人間にしか見えない花が綻ぶような表情まで様々に表情を変えていく。各機はそれを見ながら、備え付けられた視覚・聴覚機能の誤差を修正していく。

 この行動には、当たり前だが理由がある。通常、この研究所の研究者達には認識票を胸に掛ける事が義務付けられていた。それに登録された魔石で、警備ゴーレム達は敵味方を判断しているのだ。

 だが、当然だが戦闘時にはそれを奪取されたり、または戦闘の拍子で紛失する事はあり得る。それ故、彼らには視覚・聴覚の複合で登録された研究者達を判断する機能が備え付けられていたのである。まあ、これは同時に最重要ターゲットとされる各叛乱軍の幹部達を集中的に攻撃する為にも使われるのだが。


『全機、問題なしを確認』


 指揮する全ての機体から情報を得て問題無しを判断すると、彼女は再びフルフェイスヘルメットの前面を下ろし、素顔を隠す。彼女が少女の顔なのには、理由があった。人の顔を認識するのに、実際に人の顔に似せた物でテストをしないといけないのは当然だろうからだ。少女の顔なのは単なる開発者の趣味なのだが。

 とは言え、軍の上層部も研究所上層部も何も言わなかった。認識する為の機能としてきちんと機能しさえすれば、問題無いのだ。現場に遊び心があっても、上層部がそれを介さないのは何時もの事だった。


『各機、専用の昇降機に搭乗し、標的を排除せよ』


 この研究所に眠っていた総数50のカスタマイズド・ゴーレム達が、出陣したのだった。




 特型ゴーレム達が起動を始めた頃。カイト達地下3階へ下りるメンバーと地下2階から進む瑞樹達は分岐点に来ていた。

 と言っても、先の階段を降りただけなのだが。そうして、カイトが大声で号令を掛ける。事ここに至っては、隠す必要も無かった。


「瑞樹! 此処から先はお前が指揮しろ! だが、もし特型ゴーレムとやらと出会い、勝利が困難だと判断した場合、学生たちと共にオレ達の合流を待て! 結界は何時でも展開出来る様にしていろよ!」

「わかりましたわ!」


 特型ゴーレムが動き出すとなっては本来ならば戦力の分散は避けたい所だったが、逆に動き出すとなれば時間を掛けるわけにはいかなかった。最悪は保つと言っていた結界が破壊されかねないからだ。


「夕陽! 最前線はオレが代わる! お前は最後尾だ! 詩織ちゃんを守る事に専念しろ! 詩織ちゃん! なんとか最下層のコンソールルームまで誘導するから、君は解除に専念出来る様準備だけは整えておいてくれ!」

「うっす!」

「お、お願いします!」

「瑞樹、後は任せる!」


 その言葉を最後に、カイト達は再び階段を降り始める。一方の瑞樹達第2階層へと進軍する面子も、行動を開始した。


「承りましたわ! 警備ゴーレムは私が仕留めますわ! 遠距離が可能な方は先と同じく牽制を! ここから先の通路は広くなっているらしいですので、全員思い切り武器を振るえますわよ!」

「了解!」


 最悪な事に、目指す場所は第2階の最奥だ。まあ、それ故に出入り口が限られており、強固な結界を張る事が出来たのは、不幸中の幸いだろう。それから10分程、瑞樹達は瑞樹を先頭にして進軍を続ける。


「警備ゴーレムに影響は無し! 警戒レベルが上がったからって、何かが変わったわけじゃあ無さそうだ!」

「油断すんなよ! こんだけ通路が広くなってるんだから、なんかあるだろ!」


 地下二階に入って最初の戦闘で、声を掛け合い生徒達が注意を促し合う。敢えて声を出すことで全員と情報を共有すれば、何か違和感に気付ける事もあるのだ。

 地下二階に移動して、まず気づいた変化は通路が広くなった事だ。地下一階はおよそ3メートル程の通路だったのだが、ここに来て3倍程にまで伸びていた。また、一部屋毎の大きさも桁違いになっており、此方も満足に戦える様になったが、同時に乱戦となる事も多くなっていた。


「おっらぁ!」


 ある生徒の大声が響き、彼の振るった巨大なハンマーが唸り、警備ゴーレムを10体程纏めて吹き飛ばした。良いのか悪いのか、警備ゴーレムはそこまで強くなく、数で攻める事を目的とした構造だったらしい。今の冒険部の生徒達でも、なんとか対処出来るレベルだった。


「自爆とかしねえよな! これ!」

「上でしたの見たか!?」

「見てないが、一応ロボットだったら気をつけて正解だろ! 定石じゃん!」

「それもそうだな!」


 ハンマーで10体程纏めて吹き飛ばして行動不能にした生徒が、ふと気付いて自爆を危惧する。数が多いのだ。量産機が連鎖して自爆する戦術を取るのを警戒するのは当然と言えた。

 結論を言えば、この警備ゴーレムは魔力を極力使用しないようにしている物なので、自爆するという機能は備え付けられていない。

 魔力による自爆では、魔力を限界以上にチャージしないといけないのだ。専用にカスタマイズしておけば別だが、手を加える者が居なくなった研究所でそんな無駄をするシステムも無い。杞憂であった。


「良し! 殆どぶっ潰した!」

「全員! 一気に進軍しますわよ! この2つ先の大通路を超えれば、要救助者の待つ大部屋ですわ!」


 通路を塞いでいた警備ゴーレムを掃討し終え、瑞樹が号令を下す。それを受けて、全員武器を鞘に収める事も無く、駆け足に歩き始めた。

 ユリィから更に聞いた話だと、丁度大部屋を探索中に、何かの拍子に警備システムが再起動してしまった、との事だ。そこらは詳しくはまだ不明だ。そうして、更に扉を通り抜け、次の大通路へと到着する。


「っつ、無茶苦茶多いぞ!」

「盾持ち、前へ! グレネード行きますわ!」

「了解!」


 瑞樹の命令に従い、盾を持つ生徒達が最前線へと出る。グレネード・ランチャーを使って敵を減らすつもりなのだ。爆風に巻き込まれない様に、盾を持つ生徒が前面に出たのである。


「3発撃ち込みますわ! 終わり次第、一気に突撃しますわよ!」

「タイミングお願いします!」

「行きますわ!」


 瑞樹は声掛けと同時に、グレネード・ランチャーによる3発連射を警備ゴーレムの集団にお見舞いする。強度と数が相まって、一撃では数を減らしきれないのだ。そして、きっちり3個分の爆発音が響いた。


「全員、突撃!」

「おぉおおおお!」


 瑞樹の号令に合わせて、近接戦を行う生徒達が突撃する。それに合わせて、瑞樹も突撃する。それを援護する様に、魔術師達が後ろから魔術を速射していく。

 魔術での破壊は考えていない。弾幕を形成して、敵の動きを止める事を目的としていた。金属の装甲が分厚くて、確実に破壊出来る威力となると乱戦中での詠唱は不可能だし、そもそも魔力的に連戦に耐えられないのだ。


「動力源はどうやら胸の中心部分にある様ですわね! 可能ならばそちらを先に破壊! ですが、動力源を破壊して出来るのは動きを遅くする程度! 確実に破壊してくださいな!」

「了解!」


 ふとした拍子に装甲だけ削れ、内部に動力源らしき機構を垣間見た瑞樹が、試しにそれを突き刺してみれば、動きが鈍った。それで瑞樹はこれがメインの動力源と判断して、グライアから受けたアドバイスを含めて情報を通達する。そうして、この通路も討伐し終えると、瑞樹達は再び走り始める。


「弾数残りは……4発、ですわね……まあ、次の通路で終わりですが……出来れば帰りも考えて、残しておきたい所ですわね……」


 瑞樹は自らの装着したガンホルダーを確認して、残りの弾数を確認する。元々12発あったので、8発消費した計算だ。

 とは言え、救助が最優先だ。無駄に残しておいて命を落としては意味が無い。いざと言う時には、全弾使い切る思い切りはきちんと瑞樹には存在していた。


「次の扉に、多分警備ゴーレムが大量にいますわね……全員、一度息を整えましょう」

「おう」


 ここまで駆け足で来たが、次の大通路を超えた先に、要救助者が立て篭もる大部屋が存在していた。今の警備ゴーレムの状況を考えれば、先の通路を上回る数が殺到して障壁の破砕を行っているだろう。それを考えれば、ここで一度息を整えて、体力を回復させておくのは当然だった。

 隔壁や扉を閉じられれば良いのだが、施設のコントロールを警備システム側に取られているらしく、遮蔽出来ないとの事だった。どうやら内部には監視カメラに相当する魔道具があるらしく、警備システム側からすれば敵が見えている状態で、内部に入る前の最後の通信でも、常に攻撃が止むことは無いらしい。


「……警備ゴーレムしか敵影無し。どうやら間に合った様ですわね。では、私の合図と同時に、全員突撃しますわよ」


 瑞樹は偵察用の魔道具を使い、通路の先を覗き込む。すると予想通りに、大部屋の前には大量の警備ゴーレムが結界を砕こうと攻撃を加え続けていた。だが、そこには警備ゴーレム以外の姿は無く、先と同じ戦法を取れそうだった。


「先にグレネードを先と同じ3発射出しますわ。盾の皆さん、先ほどと同じく、お願い致しますわね」

「了解」


 結界はまだまだ余裕そうだった。なので、瑞樹達は小声で最後の作戦を調整しあう。そして、最後に瑞樹は盾を持つ生徒達と頷き合うと、同時にT字の曲がり角から大通路に躍り出て、思わず硬直した。

 大通路の両側の壁が一部上に移動して、そこから警備ゴーレムとは明らかに違うスラリとした人型フォルムの金属のゴーレムが出て来たのである。


「なっ!?」

「っつ! 盾を前面に! 曲がり角まで撤退しますわよ!」


 瑞樹の判断が早く、なんとか盾持ちの生徒達は間一髪各々が持つ盾を前面に押し出した。それと同時に、数体の特型ゴーレム達が持つガトリングが火を吹いて、盾には銃弾のあたるガガガッという音が聞こえてきた。どうやらかなりの連射力を持っているらしく、盾を持つ手は振るえ、暴風雨が窓にあたる様に間断無く銃声と銃弾のあたる音が響いていた。


「ぐぅ!」

「ゆっくり撤退! 魔術や遠距離武器での弾幕をお願いしますわ!」

「りょうかーい!」


 <<巨大盾(ラージ・シールド)>>の亜種の<<塔盾(タワー・シールド)>>という技で盾を大型化して、後ろへの攻撃を常に防ぎ続けながら、盾持ちの生徒達と瑞樹は後ろに移動する。


「一発撃ち込みますわ!」

「おう!」


 瑞樹は一撃だけでも、と思い、後退しながらグレネード・ランチャーを構え、投射する。


「なっ!?」


 盾の隙間から結果を覗き見た瑞樹の驚きが銃声の中に消える。なんと瑞樹の放ったグレネード・ランチャーの弾丸は期待した効果が全く得られなかったのである。

 警備ゴーレム達が特型ゴーレム達を守る様に前に出て、警備ゴーレムを破壊した程度に留まったのだ。そうして爆発が収まった後には、再び特型ゴーレム達による銃撃が再開される。だが、それと同時に瑞樹達もT字路に撤退する事に成功した。


「これは……拙いですわね……」


 此方も、魔術による弾幕を形成しているが、やはり敵数が尋常ではない所為で敵側の弾幕が激しすぎる。これでは接近出来ないのだ。そうして、瑞樹は一度思考を巡らせる。


「魔術は警備ゴーレムを蹴散らせる威力にまで高めてくださいな! なんとか敵数を減らさないと、近接に持ち込めませんわ!」

「了解! 持って来た回復薬を用意お願いします!」

「おう! 遠慮無くぶっ放せ! 疲れたらこっちから持ってってやる!」


 とりあえず、敵数を減らさない事には近接戦にも持ち込めない。あちらにも大剣や槍に似た武器を持っている特型ゴーレムは多い。そちらは結界の破壊に取り掛かっており、何としても数を減らす必要があったのだ。出し惜しみは出来なかった。そうして、壮絶な消耗戦が開始されたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。本日の断章投稿は22時です。

 次回予告:第485話『消耗戦』


 2017年2月11日

・誤用法修正

『根も葉もない』→『少し下世話な言い方をすれば』に変換しました。

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