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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の三 救助隊編
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第481話 残った者達

 ソラや瞬達がキャラバンで帰還していた頃。当然だが、カイト達残った面々も普通に冒険者として活動していた。


「<<咲き乱れる刃(せんぼんざくら)>>! カイトくん、トドメをお願いします!」

「ああ」


 桜が薙刀を振りかぶり、地面に突き刺す。そうして出来たのは、剣山の様に地面から生える無数の薙刀の山だ。その攻撃で、魔物は地面に縫い付けられた。

 そうして桜の掛け声に合わせて、カイトが攻撃態勢に移る。桜達他のパーティーメンバーのお陰で、魔物には多大な隙が出来上がっていたのだ。

 ちなみに、今日のカイト達の受諾した依頼は、魔物の討伐だった。とは言え、既にカイトはランクBとして公表しているし、他の面々にしてもそれなりには実力が付いて来ている。なので今日は少し背伸びをして、ランクBの魔物の中でもネームド・モンスターを狩る事にしたのだ。と言っても、そこまでやばい魔物ではなく、きちんと討伐可能な実力の敵を、だったが。

 上の魔物と戦うことで、一方上の世界を見せようと考えたのである。カイトだけでも可能だが、外聞があるので念の為に旭姫も一緒に付いて来てもらっていた。


「はっ!」


 一息に放たれた居合い斬りは、完全に魔物の身体を両断しきる。だが、カイトはそこで刃を止める事は無い。そのまま袈裟懸けに斬撃を繰り出す。


「よくやった。<<鮮血人形(ブラッディ・ドール)>>の討伐はこれで終わりだな」


 完全に四分割された魔物を見て、旭姫が此方に近づいてくる。ちなみに、二人共説明はしていないが、カイトが連撃で攻撃を仕掛けたのはきちんと意味がある。

 <<鮮血人形(ブラッディ・ドール)>>と呼ばれた魔物の大本は、ただ単に上半身や下半身を分離させた所でまた動き出すのだ。人形、という事からも分かるように、その身体は作り物だ。それ故コアを破壊しなければ、簡単に再び活動を始めてしまうのだった。

 その体の中身は空洞らしく、コアは常に動き続けている。スライム系統の魔物も同じだが、此方は厄介な事に外からではコアが何処にあるのかわからない。一撃で破壊出来たのならそれで良いが、出来ていなかったので連続で攻撃を放って破壊したのであった。この魔物を相手にする時の基本中の基本であった。


「ありがとうございます、小次郎さん」

「ああ、いいっていいって。お前らの調練を見るのがウチの利益になるからな」


 カイトの形ばかりのお礼に、旭姫も形ばかりの謙遜を示す。調練だが、実は報酬の先払いに近い。なので旭姫にしてもそう言ったのである。


「さて、まあ流石に格上だから、今日の訓練はこれでいいよ」


 今日連れて来た冒険部の面々に対して、旭姫がそう告げる。さすがに皇都に居た時ならばまだしも、今はもう普通に活動を始めているのだ。全員を引き連れて延々と修行などという荒業は出来ない。なので、可能な面子に可能な時間だけ、修行をつけているのだった。


「はい……はぁ、さすがに疲れた……」


 旭姫の言葉を受けて、生徒達が一息吐いた。さすがに格上のランクかつ指名手配される程の魔物が相手だったのだ。かなり真剣に戦闘に打ち込み、精神的にかなりの疲労を得たのだ。肉体的にしてもほぼ常に全力を尽くし続けていたので、夏である事も相まって全員が汗だくだった。


「ちょっと休憩したら、直ぐに街に戻るぞ。」

「おーう。」


 カイトの言葉に、生徒達がかなり疲れた様子で手を挙げる。当たり前だがこんな魔物が闊歩する場所でいつまでも休憩していられるはずがない。なので、移動ができる程にスタミナが回復したら、直ぐに移動を始めないといけないのだ。


「はぁ……もう少し私も何か考えた方が良いのでしょうか……」


 手頃の岩に腰掛けた桜が、少し悩ましげに横のカイトに問い掛ける。先ほどの戦いでいまいち活躍できていない感覚があったらしい。


「んー……とりあえず今の戦いだと、牽制させている内に<<咲き乱れる刃(せんぼんざくら)>>を打ち込めたから良しだろう」


 そんな桜に、カイトが少し空を見つめながら返した。先の魔物は動きとしては遅くは無い。おまけに言えば、身体そのものが作り物のおかげなのか痛覚が無いらしく、切り裂こうが突き刺そうが大したダメージにはならないのだ。それ故ダメージは大したものにならず、倒せたか倒せていないかにしかならないのだ。

 そういう敵の場合は、一撃大出力による面攻撃での一掃が基本だ。それを考えれば、牽制は重要だろう。<<咲き乱れる刃(せんぼんざくら)>>を使って動きを縫い止めた桜は十分に活躍出来ていた。

 どちらかと言えばカイトの様に切り裂いてコアを探り出してそれを斬り裂くのはある種、正道から外れた討伐方法だった。


「そうでしょうか……」

「まあ、あれを一人で潰すにはまだ早い。それは考慮しとくべきだろう」

「はい」


 カイトの言葉を受け、桜は今の相手なら仕方がないと受け入れる事にする。本来ならば、相手に出来ない様な相手なのだ。それを相手に牽制が出来る様になっただけでも、十分に成長していると言えたのであった。今戦った相手になら新武器を手に入れる前のソラでさえ、満足に牽制は出来ないだろう。


「んー……」


 そうして下りた沈黙に、カイトは少し考えこむ。既にオーアからソラの新武器については聞いている。確かに、そろそろ全員が手札を増やす事を考えなければならない時期には来ていた。単に一つの武器だけでは何時かは、手詰まりになるのだ。

 確かに、一つの武器を極めることは重要だ。一芸は百芸に通ず、とも言うので、極めてさえおけば応用は出来る。薙刀ならば、なんとか槍に応用させる事は出来るだろう。それに一芸を極めれば強い相手にも戦う事は出来るし、そうしなければ圧倒的な魔物相手に戦う事は出来ない。

 だが、それでももう一つ別種類の手札を持っていることは大事だった。なにせランクB以上の上の魔物は、特定の攻撃を完全に無効化する奴も多いのだ。そんな時、もし唯一つの手札だけとなれば此方に勝ち目は無い。一芸は百芸に通ずといえど、武芸では刀使いが槍使いに即座に転向出来るわけではないのだ。

 ちなみに。当たり前だがこれにも例外は存在する。旭姫はその最たる例だ。彼女はその無効化を無効化するというとんでも芸当を披露する。なので結局は、一芸を極めればなんとかなるのだろう。まあ、そこまで辿り着くまでに大半は死に絶えるのだが。


「なんか考えるか……」


 桜や瑞樹達が傷つくのは、カイトとしては最悪だ。それ故、何かを考えなければならない。


「んー……」

「どうしたんです?」


 ぶつくさとずっと考え続けているカイトに、桜が笑いながら問い掛ける。


「ん? ああ、ちょっと考え事」

「そうですか。でも、そろそろ出発した方が……」


 その桜の言葉に、カイトは腕時計を確認する。確かに、そろそろ良い時間だった。なのでカイトは目で旭姫と会話すると、了承を取って立ち上がる。


「おーい、そろそろ全員出発するぞ」


 その声を合図に、全員が立ち上がり、マクスウェルへと戻るのであった。




 それから数時間後。カイトは殆どの書類仕事が終わったので、公爵邸の自分の執務室に顔を出していた。


「と、言うわけだ」

「お姉様が最適かと思います」


 カイトの考えを聞いたクズハがそう答えた。カイトの後ろにベッタリとへばりついているアウラもこくこくと頷いている。


「だろうなー……ユリィは相変わらずか?」

「イイザマだと」


 クズハの回答に、アウラが再度こくこくと同意する。そう、ソラ達が出発したのよりも少し前から、彼女はとんでもなく忙しくなっていた。ずっと彼女の姿が見えないのはその為だった。

 と、そんな噂をしていたからだろうか。彼女がふらふらー、と現れて、ぽすん、とカイトのフードの中に落下した。ふらふらと不安定な飛行をする幼なじみを見て、アウラが背中を空けたのだ。


「うぅ……いぞがじい……」


 涙目でユリィが呟く。そうしてつぶやいて、即座に大声を上げる。


「うわぁーん! 忙しいー!」

「いって! 人のフードの中でバタバタ暴れるな!」


 涙目になったユリィはカイトのロングコートのフードの中でじたばたと暴れまわる。どうやらそれほどまでに忙しいらしかった。


「カイト! 手伝って!」

「無理言うなよ……」


 あまりにじたばたと暴れまわるので、カイトがユリィをフードの中から回収する。時折飛んでくるキックが後頭部にあたってうざかった事も大きい。


「だってー……そもそもカイトのとことの交流会があるから忙しいんだもん」

「知ってる。だからっつってもオレが執務室に出入りすると今度やべえだろ。オレのこと知らない教師多いのに」


 カイトの手から離脱したユリィは、カイトの執務机の上にポトリと落下してうだー、と寝転がる。今日の服はスカートなのでパンツが完全に丸見えになっていたのだが、それも気にせずそのままだった。


「パンツ見えてるぞ」

「直して」

「はぁ……はいはい」


 カイトの指摘を受けてユリィが言い、カイトがやれやれと思いながらもユリィのスカートを元通りに直してやる。


「むー」

「お兄様。少々ユリィに甘すぎます」


 義姉と義妹から、不満気な抗議の声が上がる。それもそのはずでカイトはユリィを甘やかし気味だ。というより、ユリィに対してはカイトは激アマと言っても良かった。


「あはは……」


 そんな不満気な抗議の声に、カイトは苦笑するしかない。なにせずっと一緒の相棒だ。元々女子供に優しくが標語のカイトなら、甘くもなるだろう。


「カイト、ジュース」

「それは自分でやれ」

「うぅ……ユハラ、お願い……」

「はいはーい」


 カイトに却下されたので、ユリィはユハラに依頼する。ユハラの方はそれが仕事なので問題は無い。なので彼女は持って来ていた台車から、よく冷えたミックスジュースをユリィに手渡す。ミックスジュースは疲労回復に良いりんご、ももをベースに、少し隠し味にレモンを加えたお手製だった。


「でだ。どんなもんだ?」

「とりあえず皆が帰って来る頃には通達出来るかなー。そっちから誰が来るかわかんないとどうにも出来ないしねー」


 大きくなったユリィはカイトの膝の上に座りながらジュースを飲んでいたのだが、カイトの問い掛けを受けて進捗状況を報告する。

 さて、そんな彼女が何をしているのかというと、簡単に言って学校同士の交流を行おうという事だった。今でも天桜学園は普通に数学などの授業を定期的にやっている。基本が学校生活なのは変えていない。自分達が何なのかを理解していないと、何時かは道を踏み外しかねない、という判断だった。

 とは言え、授業内容こそエネフィアの文化風習、簡単な魔術の講習等を取り入れた為に数学等の授業はかなり短くなっていたが。まあ、その分授業日数的には4倍なので問題は無かった。なお、なら休みも4倍に、という提案が学生達からあるが、そこは現在考え中、である。


「とりあえずオレが確定だな。取り纏めは居る。桜と一条先輩は来ない事で確定だ。あの二人は、な」

「まあ、生徒会長と部活連の会頭が留守にしちゃったら拙いしね」

「じゃあ、お兄様の書類はそちらにお届けした方が良いですか?」

「ん……まあ、そうするしか無いな。ステラ、悪いが寮に届けてくれ」

「わかった」


 クズハの言葉を受けてカイトがステラに指示を下す。基本的に、魔導学園の生徒は寮生活だ。そこでなら基本的に好き勝手に仕事が出来る――もといさせられる――のである。後はステラに届けさせれば問題は無いだろう。


「椿、悪いがその間の冒険部の取り回しは頼む。オレも適度に戻りはするが、学生らしくしてないといけないからな。あまり顔出すのも問題だろう」

「かしこまりました」


 カイトは横に居た椿にそう命じておく。本来ならばこれを機会に長期休暇でも与えられれば良いのだが、彼女には生憎と帰れる場所も休める場所もカイトの所しか無い。なので基本カイトの冒険部の留守は彼女に一任しているのであった。

 とは言え、彼女も学園の寮に連れていけるか、と言われればそうではない。当たり前だが高貴な貴族でもないのに寮にメイドを連れ込むのは大問題だった。

 ちなみに、魔導学園でも外出は認められていないわけではないが、きちんと門限がある。一応交流の一環、それも今後の本格的な交流に向けてのお試しである以上、放課後にも何か魔導学園関係の活動を行うつもりだ。それを考えれば、ギルドホームに戻った所で自由に動き回れるわけではないだろう。


「さて、どうするかな……」

「だったら私の所で仕事手伝って」


 放課後何しようか、と悩むカイトに、ユリィが上目遣いにおねだりする。可愛らしくはあったが、カイトとしてはそこまで甘いわけではない。なのでスルーした。


「無視はやー」

「……あ」

「どしたの?」


 ユリィの更なる抗議をスルーしてふと何かに気づいた様子のカイトに、アウラが小首を傾げる。


「日向はどうしてる?」

「何時も寝てるよ。でも、丁度今入ってきた飼育当番の娘が頑張ってて、なんとか餌を食べてくれてるかな」

「ふーん……」


 日向ことカイトの天竜は基本的に学園の敷地で飼育されている。理由は定かではないが、いつの間にかあそこに居座る様になったらしい。今では学園の守り神的に畏怖されていた。


「あれをどうするか、だよな……」

「……あ」


 カイトの言葉に、全員がはっとなる。天桜学園から魔導学園にカイトが行くのは確定だ。これは桜や瞬と言った天桜学園の生徒側の役員が供出出来ない事から、仕方がなかった。

 だがそこで問題になるのが、カイトのペットの一匹である日向だった。一応、日向も天竜であり魔物の一種である以上、安全に配慮して魔法銀(ミスリル)製の鎖で繋いである。が、これが役に立ったことは無い。強すぎて魔法銀(ミスリル)でも簡単に鎖を引きちぎる事は容易なのだ。

 そして、日向は何よりカイトが大好きなのだ。近づけば大興奮で尻尾を振る。犬ではあるまいし、とも思うが、実際に尻尾を振ってご機嫌さをアピールするのだから仕方がない。そして近くにいればなんとかして近づこうと努力する。つまり、鎖で抑えきれる筈は無かった。


「鎖、緋緋色金(ヒヒイロカネ)に変えとく?」

「あのきゅーん、という悲しそうな声で気付かれませんか?」

「おー、あれは堪える……」


 全員揃って溜め息を吐いた。基本的に全員、小動物には甘い。実態が数十メートルの天竜であっても、彼らにとっては小動物である。


「はぁ……小型化させて、魔術で分身を作っておくか……」

「気休めにしかならないとは思いますが……そうするしかありませんね」


 カイトのため息混じりでの提案に、クズハが同じくため息混じりに同意する。学園には当然だが、鼻の効く獣人の少年少女達は山ほど居る。日向の臭いは直ぐにわかってしまうのだった。


「はぁ……とりあえず、あそこに居てくれる様に当分躾けるか……」

「調教師……閃いた」


 カイトの言葉にアウラが何かをひらめく。カイトはろくな予感がしなかったが、とりあえずはスルーすることにして、この日は解散する事になったのであった。ちなみにその夜、アウラがコスプレして現れたのだが、どんなコスプレだったのかは明言しない。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第482話『緊急事態』

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