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第36話 バレる

 ようやく開始された朝食。カイトら一同はようやく取れる朝食を味わっている。


「あ、カイト、それとって~。」

「ん?ああ、これか?あ、右のか。」

「いいなぁ、カイトさん。」

「……代わろうか?」

「ちょっと!それどういうこと~!」


 ぼそっとつぶやいたカイトに抗議するユリィ。桜はその遣り取りを羨ましそうに見ていて、ソラは爆笑している。クズハとティナは相談している。会話の内容から何らかの新規魔導具の開発予定について話しているようであった。


「一体何者なの?天音って。」

「さあ、確か会長のクラスメイトのはずだろ?」


 クラウディアにも動じず、妖精に懐かれるカイト。さらにはティナはクズハとすでに対等な感じ―どちらかと言うとクズハのほうが敬意を払っている―で話している。

 桜はクラウディアと席が近かったので若干チラチラと覗き見ているが、あまり気にしている様子は無い。ソラは相変わらずの健啖家っぷりを発揮している。


「いや、おかしいのは2-Aの連中全員だろ……校長はわかるけどよ、あいつらもなんで普通に飯食ってるんだよ……。」


 一向に食事の進まない他クラスの生徒に対して、2-A面子と桜田校長は普通に朝食をとっている。


「えっと、そういえばサキュバスのお姉さんはなんでここにいるんです?」


 昨日までいなかった人物―クラウディア―が食卓を囲んでいるので、ソラが本人に聞いてみる。


「私ですか?昨夜は遅くまでま……いえ、昨夜偶然こちらへ来たので泊まらせていただいたんですよ。」


 途中で密かにユリィがバツ印を作り念話で事情の説明を受けてはぐらかす。


「へ?ここってそんなに簡単に泊まれるんですか?」


 そういってクズハに尋ねるソラ。一旦着いた丁寧語で話す癖が抜けていない。


「いえ、クラウディアさんは現魔王ですので、特別ですよ。」


 クズハの発言の中にありえない単語を聞き留めて一同は硬直する。


「そういえば自己紹介していませんでしたね。はじめまして、異世界のお客人。エネフィアにて今代の魔王を襲名させて頂いておりますクラウディアです。種族はサキュバスで最高位のリリスですね。」


 座りながらも優雅に一礼する一同。


「おい、魔王とあっちまったよ……どうしよ、俺まだレベル低いんだけど。」

「いや、まずどこでレベル確認した。というか、戦う必要ないだろ。」


 ソラは呆然となりながら意味不明なことを言う。その他の面子も同じように混乱をきたしている。


「魔王だからあんなプロポーションなの……?この世界では強いほど綺麗になれるの?」

「俺、あんな魔王様なら殺されてもいい……いや、できれば搾り取られて干物で……。」

「俺は人間側から喜んで裏切るぜ……。」


 などと言っており、全員意味不明な発言をしている。意外と全員大丈夫そうであった。


「いえ、余程がなければ事を構える気はありませんよ。かつての勇者殿にはお世話になっていますし。」

「あ、そうですか……」


 安心させようとクラウディアが言った言葉に桜はそう言うしか無かった。一気に静まり返る天桜学園であるが、まったく気にしていないユリィが声を上げる。彼女なりの気遣いもある。


「桜~。そこのジャムとって。ねぇ、桜~。」

「あ、はいはい。」

「桜、はいは一回。」


 復帰するために楓も話に参加し始める。


「ですが、昨夜は桜さんもソラさんも二人共私より格上の古龍(エルダードラゴン)様方と話していたんじゃないでしたっけ?私程度に今更怯える必要も無いでしょう。」


 宴会のことは他の面子には内密であったので桜とソラは大いに慌てふためいた。


「あ!昨日のことは内緒です!」

「あぁ!何もなかったよな!」

「お前も自白してないか……。」


 完全に酔っ払いと化していたことを二人は口止めしようとして、盛大に墓穴を掘る。


「カイト、昨日は楽しかったね~。」


 完全に他人事のユリィは最後のトドメを嬉しそうに刺したのであった。ティナはそもそも二人にバレていなかったので安心して眺めていた。ちなみに、ユリィがばらしたのは故意である。


「三人共……何があったか……きちんと話せるな?」


 にこやかに笑う雨宮に睨まれて三人は昨日のことを話す事となる。そうして、なんとか一同は平静を取り戻したのであった。



「ごちそうさまでした。」


 一同全員が朝食を摂り終えてごちそうさまを言う。食後の紅茶を優雅に楽しむカイトはカップをソーサーにおいて一息つく。


「何気取っとるんじゃ。」


 それを見ていたティナが一言。カイトはとてつもなく疲れた顔をしていた。


「少しは休ませてくれ……。」


 カイトは朝から始まりからかなり濃い一日であったが、実際にはまだ始まってもいない。


「ふう。全く、カイトも少しは落ち着いたら?」


 此方も落ち着いた様子で優雅に紅茶を飲むユリィ(大)。大っきくなった時は一同が驚いていた。


「どの口が言うか。」


 主にカイトが忙しい理由はユリィとティナである。ふにふにとユリィの両頬をつねっていた。


「いひゃいいひゃい!」

「……お、なかなかのもち肌。」


 カイトはユリィの頬の感触を楽しむことにする。尚、当然だがユリィの抗議は無視した。


「皆様、馬車の用意が整いました。若干時間が押しておりますので、お急ぎを。」


 朝食の後すぐに馬車の手配を始めたフィーネだが、どうやら完了したらしい。


「ふぅ、行くか。」


 そう言って立ち上がるカイト。


「では、クズハさんお世話になりました。」


 退出時にそう言って出て行くカイト。他の面子も大急ぎで用意して退出する。


「皆さん、またお越しください。」

「もし、魔族領に来られた際にはぜひ、お越しください。精一杯おもてなしをさせていただきます。」


 エントランスまで見送りに来たクズハとクラウディアはそう言って、一同を送り出したのであった。二人共各々の想い人に熱心に視線を送っていた。カイトはバレないように小さく手を上げて、それに答えた。




「あと1時間もすればまた研修かよ。」


 そうつぶやくのはソラである。


「研修て何やってるの?」


 聞くのはユリィである。


「ええ、私達はまだこの世界にきて日も浅いので、常識などを知りませんから。一から学んでいかないと行けないんですよ。」

「ふーん。大変だね。教えてあげよっか?」


 一応これでも教職者を束ねる立場にあるユリィが教鞭を取ることを申し出る。


「いえ、きちんとした冒険者ユニオンの職員さんに頼んでありますので、大丈夫ですよ。」


 そう言って断るが、桜はユリィが人を教えられるとは考えていなかった。


「ああ。ユニオンの職員のミリアだったっかな。猫の獣人だ。年齢はオレ達より少し下ぐらいか。」

「あの子ね。学園の卒業生の一人だよ。手間のかからない子だったかな~。」

「ああ、会ったことがあるとか言ってたか……。」


 カイトは公爵邸から持ってきた書物を読んでいるため、違和感を感じつつも上の空で返事する。


「あれ?ユリィちゃんはミリアさんと会ったことがあるんですか?」


 桜はユリィがミリアを知っているような言い方であったので尋ねる。


「うん。知ってるよ~。今年学園を卒業してユニオンの職員に就職した子だよ。ちょこまか一生懸命動いて可愛い子だったでしょ?」

「ええ。小さな体で頑張って黒板に板書していく姿にはみんな癒やされましたね。」

「あ、そんなのやってるんだ。多分初めて任された大任だって頑張ってるんじゃないかなぁ。」


 学園生時代のミリアを思い出しているユリィ。そこでようやくカイトが違和感に気づく。


「おい待て、なぜお前がここにいる。」


 カイトの肩の上から桜と談笑しているユリィにそう問いかける。


「え?なんでって、なんかおかしい?」


 おかしいことなど何もない、というような顔をして首を傾げているユリィ。カイトは即座にクズハに念話を送る。


『クズハ、話せるか。』

『お兄様、ちょうど良かった。ユリィがそちらにいませんか?屋敷を探してもどこにもいなくて……。』


 困った様子のクズハが先に要件を述べる。当然公爵邸でもいなくなったユリィの捜索が行われていた。


『やっぱりか……。』


 カイトは呆れた様子である。


『と、いうことはやはり?』

『うん、カイトと一緒だよ。』


 念話に割り込んだのはユリィである。


『ユリィちゃん?お仕事に戻りましょうね?いい年なんですからね?』


 額に青筋を浮かべている様が目に浮かぶような声を響かせるクズハだが、ユリィは全く応えず


『大丈夫だよ?昨日も言ったけど当分は予定フリーだしね~。』

『ですが、学園長が学園を不在にするのはまずいでしょう!しかも式典も近いというのに!』

『それも大丈夫。分身体は残しているから急な来客オッケーだし、書類は転移で送らせるからねー。』


 いきなりカイトの帰還を知ったというのに、ずいぶんと手の込んだ根回しをしているユリィであった。

『くっ……。誰です!……ええ。……ええ。なっ!』


 どうやら誰か来たらしいクズハは報告を受けて愕然としていた。


『あ、来たみたいだね~。』


 ニヤニヤしながら状況を把握しているらしいユリィは泰然と構える。


『……ええ。今学園側から業務に支障なし、と報告が来ました。』

『ふっふふーん。何時カイトが帰還してもいいように根回しは万端にしていたもんねーっだ。』


 一本取ってやったとばかりに胸を張るユリィ。


『ずるい!私もお兄様と一緒に旅したい!』


 クズハは若干幼児退行をして、自分も同行を願い出るが、当然これはカイトに却下された。


『いや、クズハ、お前が来たら収集つかんだろ……。』


 さすがに公爵家公爵代行まで同行したらもはや自分が重要人物です、と看板を背負っている様なものである。


『ですが、お兄様!私だって300年頑張ったんですよ!少しぐらい一緒にいてもいいじゃないですか!』

『頑張ったのはわかっているから……。もう少し家を頼む。』


 あえて公爵家ではなく家といって説得するカイト。


『むぅ。分かりました。夫が外にいる時は家を守るのも妻の努め。今回はお兄様にこの身を捧げられただけで良しとします。』


 相変わらずのセリフを言ってしぶしぶ了承するクズハ。かなりちょろかった。


『では、ユリィちゃん。一緒にいらっしゃるならお兄様がまた無茶というか、要らないことしないように監視をお願いします。』

『あ、わかってるよ。』

『要らないことってなんだよ?』


 いきなり訳の分からない監視をされたので聞き返す。


『どこかで女の子を拾ってくること?』

『主に女癖ですね。』


 二人して同時にカイトの質問に答える。


『いや、待て!オレ、女癖悪くないし、拾ってきてもいない……いや、孤児だったの何人か拾ってきてるが……でも、女の子だけじゃない!コフルだってそうだし、ストラもそうだろ?』


 今更ながら自分の行いを思い出すカイト。が、二人は全くその点は信用していない。300年で集まった情報が、全てを物語っていた。


『公爵邸のメイドの内、何人に手を出されました?あ、それとお二人の妹には手を出されてますよね?』

『そのうち何人がカイトが拾ってきた子だった?他にも色々届いてるよ?何なら罪状読み上げよっか?』


 そう言われて返す言葉のないカイト。本人は無理矢理は無かったと信じているし、事実そうである。さすがにカイトは権力を傘に着た非道ではない。これでも勇者である。


『申し訳ありません……。』


 とは言え、女性陣二人から女癖を責められ、謝罪するしか出来ない勇者も、そうはいないだろうが。

 お読み頂き有難う御座いました。

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