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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の二 冒険者達編
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第477話 里帰り

 少女を救い出して二日。キャラバンは当初の予定より少し遅れて『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』に到着する。遅れた理由は単に朝方から想定より多く戦闘があったからだ。


「なんだ、これは……?」


 到着した、とノース・グレイス商会の職員に告げられて下りた瞬だが、目の前に広がる光景に首を傾げる。庭園(ガーデン)というぐらいなのだから草木生い茂る場所なのか、と思ったのだが、周囲には草原と、その中にぽつんと一箇所だけストーン・ヘンジの様な石で出来た門の様な物体があった。


「すいません、荷降ろしの方を頼んで良いですか?」

「あ、はい。分かりました」


 馬車から降り立って顔に疑問を浮かべていた瞬だが、そこにノース・グレイス商会の職員が荷降ろしの開始を依頼する。そうして、瞬は力仕事を行う面々を引き連れて、荷降ろしを開始する。

 荷物の3分の2は生鮮食品で、残りはドワーフの里で購入した実験器具だ。生鮮食品はともかく実験器具は精密機器らしく繊細な扱いを要求されるかと思ったが、どうやら内部の梱包材に特殊な素材を使用しているらしく、普通に運んで良いらしかった。


「ああ、そこまでで」


 そうして荷運びを始めた瞬達だったが、石で出来た門らしき物体の前にまで運ぶとそこで下ろす様に指示される。それに首を傾げていると、荷降ろしと荷運びの統括をしていた職員が笑って告げる。


「此処から先はあなた方は入れませんから。少々お待ちください」


 そう言うと、彼女は石の門をくぐる。それだけで、何故か彼女の姿は見えなくなる。それを見て目を白黒させる瞬達荷運びを行っていた面々だが、直ぐに彼女は帰って来た。


「話が付きました。もう少ししたら引き継ぎが出て来ます」


 ここで引き継ぎ、としか言わない所を見ると、彼女は少しお茶目な性格なのかもしれない。そうして門から次いで出て来たのは、無数のゴーレム達だった。

 材質は様々で、木で出来た物もあれば、金属で出来た物まであった。大きさは150センチ程だ。力の程は大した物では無いらしく、一つの荷物を複数体のゴーレムで運んでいく。


「何!?」


 いきなり現れたゴーレム達に瞬達が目を白黒させている内に、数百体に及ぶ大量のゴーレム達は人海戦術で一気に全ての荷物を持ち上げると、そのまま再び門をくぐり消え去る。その手際は見事なもので、彼らが現れてものの数分で全ての荷物が消え去っていた。


「これで終わりか?」


 ゴーレム達が全て消え去った後。次いで現れたのは、漆黒のローブととんがり帽子を身に纏った高身長でスタイルが良く、面立ちはクールそうな美女だった。

 その漆黒のローブはティナが冒険者活動開始に使っていたローブに似ていた。まあ、それもそのはずでこの中で作られた服なのだから当然だ。


「あ、アルル様。ええ、これで終了です」

「そうか。では、ババ様も待っている。商談に入るぞ」

「あ、少々お待ちください。一応社長に伝えてきます」

「そうか」


 職員の女性はアルルと言うらしい若い魔女族の女性にそう告げると、少し急ぎ足でキャラバンの一角で職員達と商談についての取り纏めを行っているプロクスの下へと歩いて行く。その間、アルルの興味が瞬達に移った。


「む……貴様らは何処かあれと同じ気配がするな……」

「あれ、ですか?」


 ずい、と身を乗り出して瞬を観察するアルルに対して、瞬は少し仰け反る。いきなり美女から覗きこまれれば瞬とて少し気恥ずかしい思いもするのだった。


「ああ、日本から来た男だ」

「日本から来た男……勇者カイト、ですか?」

「ああ、そいつだ」


 まじまじと興味深そうに瞬を観察していたアルルだが、瞬の言葉を認めると再び距離を取る。


「それはその筈じゃのう」

「む……ああ、貴様か」


 横合いから掛けられた声に一瞬怪訝な顔を浮かべたアルルだが、その声の主がティナだと気付くと表情を元のクールな物へと戻す。二人は知り合いだったのである。

 まあ、そう言うのもアルルとティナは昔からの馴染みで、ティナが魔族統一に乗り出す前、彼女が下界に興味を持った頃からの知り合いだった。お互いの年齢を考えれば幼なじみと言っても良いだろう。その縁でこの『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』の再建に伴って族長補佐をしているのであった。


「久しいのう、アルルーナ」

「貴様もだ、ユスティーナ」


 二人は握手などを交わすわけでもなく、ただ単に挨拶だけを交わす。二人共興味を持った物以外には基本クールなのでこんな物だろう。ちなみに、ティナは何時もの子供状態だが、アルルの方はきちんと気付いたらしい。

 そうしてティナが居た事で、アルルは瞬達が日本から来た面々だと把握する。それを受けてティナが連れて来た少女を前に出した。


「ほれ」

「あ、あの……これ」

「ん?」


 ティナが連れて来たのはカナンだ。そうして挨拶を終えると、ティナはカナンを前に出す。そうして、荷物から小袋を持って来ていたカナンは、緊張の面持ちでアルルに差し出す。だが、差し出された方のアルルは顔に怪訝な表情を浮かべる。


「これは?」

「あの、依頼で……」

「うん?」


 依頼と言う言葉にアルルは頭を撚るが、どうやら彼女が出した依頼では無かったらしい。思い当たる節が無く、一頻り頭を悩ませた後、カナンに問い掛けた。


「誰の依頼だ?」

「え、あ……」


 アルルの言葉にカナンは依頼内容を書き写したメモを見る。するとそこにはアルルの名前は無かった。


「えっと、あの、お名前は?」

「アルルーナだ」

「すいません。違う人でした……」

「だ、大丈夫なのか……?」


 さすがのアルルも少し心配になったらしい。カナンの態度に少し怪訝な顔を浮かべる。それに、ティナが小声で告げる。


「二日前他のパーティメンバーを失ってのう。それで、丁度通りかかった余らが保護しておる」

「ああ、成る程」


 簡単に説明を受けて納得したアルルに、再び女性職員が戻ってきた。どうやらプロクスとの話し合いは終わったらしい。手に幾つかの書類を携えていた。


「アルル様、商談が始められますので、お願いします」

「ああ、分かった。そこの少女二人も入園を認めよう。他に同行を望む者が居れば入るといい。茶ぐらいは提供しよう」


 元々カナンは依頼だ。アルルとしてもそれがわかっているのに拒否することは無い。ティナは名目上はその支援だった。


「では、行くぞ」


 一足先に歩き始めたアルルに従い、冒険部で望む面子も歩き始める。だが、門をくぐった所で、異変に遭遇した。


「あれ?」

「あれ?」


 男女二つの異変に気付いた声が響く。それは同時だった。お互いにお互いの姿が見えなくなったのだ。男子陣は相変わらず門をくぐり抜け、その先の草原が見えている。だが一方の女子陣には見えていた草原では無く、別の景色が見えていた。


「わぁー……」


 女子陣が目の前の光景に心奪われる。現れたのは、西洋風の庭園と、西洋風のレンガ造りの建物だった。その光景はまさに里全てが庭園(ガーデン)だった。外は夏なのに少し肌寒かったのに対して、中の気温はほぼ常春の気候だった。そうして一同は暫く、庭園を観察し始めるのであった。





「おい、何処へ行ったんだ?」

「わかんねえよ」


 一方の男子陣はと言うと、消えた女子陣を探して首を振って周囲を見渡していた。そんな男子陣に対して、ノース・グレイス商会の男性職員が笑って告げる。


「ああ、無理だよ。君たちは男だからね」

「どういうことですか?」

「結界がね。何か男が嫌いらしいよ。中は綺麗な人多いらしいんだけどねー」


 何処か残念そうな男性職員の言葉は、先ほどアルルを見た男子陣には真実に感じられた。まあ、事実なのだが。

 男子陣にとって残念なのは、外に出るのは先ほどのゴーレム達や使い魔達で、滅多に外に出ない事だろう。そのせいでお近づきになれることは滅多に無いのであった。アルルとて、実は結界の外に出たのは数週間ぶりであった。


「まあ、その二日ぐらいは暇だから、ゆっくりしてるといいよ」

「あ、はい……」


 周囲を見渡していた男子生徒達にそう告げると、男性職員はそのまま片手を上げて休息を告げると去って行った。


「って、言ってもよ……」

「どうします?」


 男子生徒達は対処に困り、瞬に問い掛ける。元々の予定は『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』に入ってゆっくり休息を取る事だったのだが、その予定が崩れたのである。瞬はその問い掛けに少し悩んで、近くを通りかかった男性職員の一人に問い掛ける。


「さて……あ、ガインさん。当分は護衛を含んでの自由行動でいいですか?」

「ああ、それでいい。と言ってもここら周辺には魔除けの結界が展開しているから、護衛は殆ど必要無い。好きにするといい。流石に結界の外に勝手に出たなら、それは自己責任だからな」


 簡単にそう通達すると再び男性職員は去って行く。それを受けて、瞬の今後の方向性も決定する。


「良し、じゃあ、全員好きにしろ。俺は適当にそこら辺で鍛錬をしておく」

「俺も付きあおう」

「そうか、分かった」

「え、あ、ちょっと! 行っちゃった……」


 各自好きにするように、と言い含めた瞬は綾崎を連れて少し離れた所に移動する。瞬は丁度移動も無しに鍛錬が出来るので、調整を終えた二槍流の調整を行おうと思ったのだ。この隙を逃す手は無かった。そうしてすたすたと歩いて行った二人に、残された男子生徒達の方は再度顔を見合わせる。


「どうする?」

「どうするったって……なぁ?」

「なんとか入れねえかなぁ……」


 そうして彼らも各々望む様に待機を始めるのであった。




 一方、優美な庭園に見蕩れていた女子陣はと言うと、次いで里の雑務を取り仕切ると言う使い魔に案内されて、広場の様な所に居た。


「『魔女達の秘薬ウィッチーズ・エリクサー』です」

「あ、どうも」

「ふむ、ご苦労」

「いい香り……」


 テーブルの一つに腰掛けていたティナとカナン、魅衣の三人に対して執事服に身を包んだ――男性型女性形両方共執事服である――人型の使い魔が紅茶を注ぐ。注がれた紅茶はカイトお気に入りの紅茶だった。そうしてティナは注がれた紅茶を一口口に運び、カナンに問い掛ける。


「ふむ……で、カナン。届け先は何処じゃ?」

「あ……うん。えっと……ユスティエルって人」

「ティナちゃん、知ってる?」


 元々ティナの里帰りだ。それ故、名前を聞いて魅衣はティナに問い掛ける。そうして問い掛けられたティナは、少し驚いた様な顔で答えた。


「知っとるも何も、ババ様ではないか。ここの族長じゃぞ。おまけに初代第一皇妃ユスティーツィア殿の妹御じゃぞ? 何故知らん」

「え……?」

「お主ら……一応公爵領内の有力種族の族長の名は全て覚えておけ……それに、ババ様は叛逆大戦終結に尽力した傑物じゃぞ……」


 冒険者としてマクスウェル領で活動をする際に、有力種族の族長の名前を知っておくのは重要だ。出来れば写真などで見知っていれば尚良い。それを把握していなかった二人に、ティナが溜め息と共に告げた。


「ほれ、その西洋風の……っと、カナンにはわからんな。あの一際でかいレンガ造りの建物が、ババ様の家じゃ」


 そう言う彼女が指さしたのは、里の中でも有数の大きな西洋風の建物だった。それは『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』滞在中に望むものに宿泊施設として貸し出される部屋のある建物だった。

 ちなみに、女性陣の殆どが此方での宿泊を希望した。当たり前だが寝にくい馬車の中よりも、きちんとしたベッドの上の方が良い。


「ババ様にアポは取れるか? ババ様から依頼された荷物を持って来た冒険者が来ておると伝えてくれ」

「承りました。」


 執事服の使い魔は腰を折って了承を伝えると、代わりの使い魔と入れ替わりに去って行った。それから暫く待っているとどうやら来意は伝わったらしく、再び使い魔が戻ってくる。


「ユスティエル様がお会いになられます。此方へどうぞ」

「うむ。では行くぞ」

「あ、うん」

「む? 魅衣も来るのか?」

「一応カイトから手紙預かってるし」


 使い魔の言葉を受けてティナが立ち上がり、カナンを連れて行こうとして、魅衣も立ち上がった事に気付いて問い掛ける。魅衣もソラと同じく、ユスティエルに手紙を預かって来たのであった。


「では、此方です」


 立ち上がった三人を案内するように、使い魔が歩き始める。そうして案内された建物はティナの言葉通りに西洋風のレンガ造りの建物だった。建物の中も西洋風の見た目に相応しく、地球の西洋風の貴族邸宅の様にエントランスがあり、と豪華極まりなかった。

 そうして階段に近づいて行く使い魔だったが、階段をそれて直ぐ横に移動する。それを見て、魅衣が目を丸くした。上に上がると思っていたし、階段横には部屋は無かったからだ。


「え、あれ? そっち行くの?」

「はい。ユスティエル様は現在、地下で秘薬の調合中です」


 魅衣の疑問だったのだが、使い魔は階段横にある扉を開ける。その中には石造りの下り階段があった。そうして暫く下っていくと、石造りの少し広めの地下室に辿り着いた。

 ちなみに、石造りの階段を靴を履いて下りるものだからこつ、こつ、と言う足音が響いて、薄暗い事もあって魅衣とカナンがかなり怯えていたのは置いておく。


「おや、放蕩娘のお帰りだねぇ」


 そこに居たのはまさに魔女という老婆だった。しわがれた声に、黒いローブ、同じく黒いとんがり帽子をかぶり、大鍋の前に立ち大鍋を大きな棒でかき混ぜるその姿は何処に出しても恥ずかしくない魔女だろう。彼女は三人の姿を見とめると棒から手を放して階段の方を向いた。

 ちなみに、手を放したにも関わらず、棒はそのまま回り続けている。ティナの言によれば、ゴーレムの一種らしかった。


「余は元々ここの生まれでも無ければ、育ちでも無いよ」

「はん。それもそうだね。まあ、とは言え魔女には変わりないんだから、嫁に行っても顔ぐらいは出しな……それとも何かい? まさか旦那が愛想つかしたかい?」

「なわけあるか。良好も絶好調じゃ」

「……どういうことですか?」

「お嬢ちゃんは知らなくていい。で、どっちが荷物を持って来たんだい?」


 唯一事情を知らず怪訝な顔をするカナンに対して、ユスティエルが素っ気なく告げて問い掛ける。


「あ、はい」

「お嬢ちゃんかい……ん? こりゃカシムんとこに頼んだ荷物じゃ無いか。レーヴも来ないでこんな小娘をよこすなんて、何考えてるんだい?」


 ユスティエルは小袋からそれがカルナのパーティの物だと気付いたらしい。初めて見るカナンだけで来た事に不信感を露わにする。


「あの……カシムさん達は……死に……ました……」


 カナンは無事に依頼を達成できた安堵感や、ただ一人生き残った事に対する罪悪感等がこちゃ混ぜになってやって来たらしい。再び涙を流しながらカナンが答えた。告げられた言葉に、さすがにユスティエルの方も困惑するしかなかった。


「死んだ? 何があったんだい?」

「あの……ひっぐ……森……で……うぐ……」


 そうして再び泣き始めたカナンに、一同は彼女が泣き止むまで待つことになるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第478話『魔女の一夜』


 2016年6月18日 追記

・誤字修正

『カルナ』となっていた所を『カシム』に修正。最初期の名前がまだ残っていたみたいです。すいません。

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