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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の二 冒険者達編
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第474話 弔い

 キャラバンの護衛の最中で偶然出会った少女の仲間を弔う為に森へと入っていった瞬達。そして20分程進むと、少し開けた場所に出た。だがその場所は自然に開けたのではなく、木々が吹き飛んだ事で出来た場所だった。


「ここだ」

「こりゃ酷い……」


 その場所に辿り着いて、プロクスが盛大に顔を顰めた。それもそのはずで、周囲には幾つもの『人牛(ミノタウルス)』の死骸が幾つもあり、ひしゃげた大斧が大量に散乱していた。しかも周囲の木々にも戦闘で出来たと思われる痕跡が残っており、激戦の様子を物語っていた。


「自爆したんか……」

「キング、だろう。この角の大きさはな……群れの長と戦って、だろうな。円形になっているから、おそらく……」

「仲間の一人が最後の力で結界を、か……あの子は随分可愛がられとったようやなぁ……俺らも聞こえんかったから、あの子も聞こえんかったんやろ……あの子はしっかりと助かっとる……安心して、逝ってくれや……」


 中心にあった冒険者らしき死体を見て、プロクスとカイトが手を合わせる。その死体の腹には大きな大穴が空いており、近くにはその大穴と同じサイズの『人牛(ミノタウルス)』の折れた角があった。

 おそらくこれに貫かれたのだろう。そして一度手を合わせて死体に黙祷を捧げた瞬が同じく顔をしかめながら、プロクスに問い掛ける。


「自爆……?」

「ああ、瞬くんらは知らんかも知れんなぁ……この男は多分俺と同じく魔族か、魔族のハーフや。魔族の中にはコアを暴走させて自爆めいた事が出来る種族もあってな。まあ、自爆つーぐらいやから当然使用者は死ぬ。その代わり、こんな大それた事も出来るわけや」


 瞬の質問を受けたプロクスは、半径100メートル程も吹き飛んだ様子を指し示した。つまり、この開けた場所を創り出したのは、彼の自爆による物なのであった。


「これが……」


 瞬が半ば戦慄を伴い、周囲を見渡す。周囲の惨状を見れば、その威力の程は考えるまでも無かった。ほぼすべてが、吹き飛んでいた。

 そして瞬が再度腹に大穴の空いた遺体の顔を見れば、まるでその惨状が起きる事を知っていたかの様に、遺体の顔には獰猛な笑みが張り付いていた。


「少し向こうにも死体がある。おそらくあの少女を逃がそうと、最後の意地で自爆を試みたんだろう」


 カイトが少し離れた所を指さして告げる。そちらへ歩いて行こうとした瞬や冒険部の面々だが、カイトがそれを差し止めた。


「見ないほうがいい。すまない、プロクスさん。あちらは私と貴方だけで弔ってやりましょう。瞬、君たちは此方の遺体を集めておいてくれ。一応遺体から登録証は回収しているが、他に無いかどうかだけ確認してくれ」

「そうか……わかった、従いましょ」

「わかりました。確か貴方が持って来られたのは5枚でしたね?」

「ああ、向こうに一つ、少し離れた所に少年の遺体があるから、こっちに遺体が3つ以上あれば確認してみてくれ」


 カイトの言葉からプロクスは状況を察すると二人は連れ立って歩き始める。そうして残された瞬達は、沈痛な面持ちで遺体を一箇所に集め始めた。そんな最中。カイトとプロクスの行動に疑問を抱いた生徒の一人が瞬に対して疑問を口にする。


「どうして俺らは向こうにいっちゃダメなんっすかね?」

「わからん……」

「おそらく遺体は原型を留めておらんのじゃろうな」


 意図が理解できなかった二人に対して、ティナが推測という形で答えを与える。


「え?」

「ここのはまだ大斧で半ば断たれた様な遺体じゃが、あの『人牛(ミノタウルス)』の巨碗で殴られればどうなる?」

「あ……」


 ティナの指摘で男子生徒が気付く。先ほど戦った事で、『人牛(ミノタウルス)』の腕力の高さについては把握出来ていた。それはもし直撃を受ければ確実に死ぬぐらいの威力であったのだ。


「見たいか、そんな遺体を」

「……いや、思わない」


 ティナの問い掛けに対して男子生徒は頭を振って遺体を運ぶ担架を持ち直す。そんな原型をとどめていない遺体なぞ、見ないで済むならば見たくは無かった。


「終わった」


 それから暫くして、プロクスとカイトが戻ってくる。それとほぼ時同じくして遺体を一箇所に集め終わっていた。


「頼みます」

「おう」


 カイトの言葉に応じて、プロクスの右手に赤い火が灯る。後に瞬が聞いた話だと、焔魔族に与えられた力の一つらしく、魔術などでは無いらしい。この炎は彼らの一族で死人が出た時に火葬する為の炎らしく、旅の最中で遺体を運べない様な状況でも使われるらしかった。


「原初の炎に抱かれて迷わず還れ……<<送還の焔(そうかんのほむら)>>」


 プロクスが手をかざすと、彼の右手から炎が迸る。どれだけの高温なのかはわからないが、肉の焼け焦げる嫌な臭いさえも出さず、一気に遺体が燃える。そうして数秒彼が手をかざし続けるだけで、後には骨も残らず、灰さえも燃え尽きた。


「俺らの一族で死者を弔う際の言葉や。ちょっとくさいけど、大切やからな」


 プロクスは自身が火葬する前に言った言葉の意味が理解出来ないだろうと思い、火葬を終えると振り返って瞬達に告げる。その顔には苦笑が浮かんでいたが、瞬達はそれに頭を振って否定した。


「いえ、送る言葉は必要だと思います」

「……そう言ってもらえると幸いや」

「あ、そうだ……プロクスさん。遺体から2枚登録証を回収しました。先ほど火葬した球体の側に、これが……後は少し離れた所の女性の遺体からも。一応他にも無いかと周囲を見渡しましたが、他に遺体は無いと思います」

「そか……まあ、君らがもっといてくれ。で、カイムさん。おたくはこれからどないします? 北へ向かうんやったら乗せてきますけど……」


 瞬から提出された登録証を瞬が持つ様に依頼すると、プロクスはカイトに問い掛ける。尚、カイトが偽名を名乗ったのは正体を隠す為だ。


「私はこのまま南へ向かう。元々その予定だったからな」

「そうですか。まあ、仕方ありませんな」

「まあ、街道までは一緒に行く。そこからは別行動だ」

「わかりました。じゃあ、帰りましょか」


 プロクスの言葉で、一同はその場を後にする。そうして再び20分程歩き続けた所で、キャラバンの下に辿り着いた。そうして撤収の準備が終わっているのを確認すると、プロクスが最後まで一緒に警戒をしてくれていたカイトに声を掛ける。


「じゃあ、カイムさん。ご武運を」

「ああ、そちらも良い儲けが得られる事を願っている」

「そりゃ、ありがとうございます。まあ、縁があったらノース・グレイス商会をよろしゅう」

「覚えておこう」

「良し、こっちも出発や!」


 南へ消えていったカイトを見送りつつ、プロクスが声を上げて御者達に指示を送る。そうして、再びキャラバンは速度を上げ始めたのだった。




 それから数時間後。今日の行軍が終了して少しした所で、気を失っていた少女が目覚めた。


「ここは……」

「目が覚めた?馬車の中よ」


 少女が目を覚ました事に気付いて、一緒に居た女子生徒が声を掛ける。彼女は少女を馬車に連れて来た生徒で、ずっと横に付いて看病をしていたのだった。


「あの……皆は?」

「……」


 少女の不安そうな問い掛けに、女子生徒が沈痛な面持ちで首を振る。それを受けて、少女は嗚咽を漏らし始める。


「すい……ません、少し一人に……」

「……わかった……でも、何かあったら言ってね」


 少女の言葉を受けて、女子生徒は頷いてその場を後にする。それを察して、一緒に看病をしていた他の生徒達も部屋を後にした。そして全員が出て行ったのと同時に、少女の慟哭が響いた。


「……目が覚めた様じゃな」

「ティナちゃん……うん。」


 部屋の中から響く沈痛な慟哭の声を聞きつけてやって来たティナに、女子生徒が頷く。横には同じくそれを聞きつけたらしい生徒達が何人もやって来ていた。慟哭の中には何人もの人名と思われる言葉があり、おそらくそれが少女の仲間の名前なのだろうという事が察せられた。


「こればかりは、仕方がないのう……」


 少女の心情を慮り、さすがのティナも少し沈痛な面持ちで俯いた。彼女の来歴や仲間がどういった者なのかは知らないが、それでも仲間をいっぺんに失ったのだ。ティナ自身も幾度もの戦いで同じ経験をしているので、その悲しみのほどを察するのは簡単だった。


「少々放っておいてやれ。何時かは泣き疲れて眠るか、気が晴れて出てこよう。一応、頃合いを見てこの香を焚いてやれ。気分が落ち着くじゃろう」


 ティナはそう言うと、女子生徒にお香を渡して踵を返した。一応あまり心配していない風を装っているが、密かに部屋の中には使い魔を放っている。万が一には備えていたのだ。

 尚、ティナが女子生徒に渡したお香だが、精神安定作用のあるお香で、かつて学園が襲撃された時に冒険部の面々に処方された物と同様の物だった。今回の旅路に合わせて念の為にカイトが用意した物であるが、それが思わぬ形で役に立ったのである。


「どうだった?」


 そうして踵を返し、ティナはキャラバンの中心近くの焚き火の側にまで移動する。そこには今回のキャラバンの指揮者に相当する面々が集まっていた。


「まあ、こればかりは時が解決するのを待つしかあるまいよ」

「そうか……」


 ティナの返答に綾崎が頷く。自分達も仲間を失った時の事を思い出せば、立ち直るのは時間が掛かると思ったのだろう。


「で、行軍予定としちゃ、どれだけの遅れなんだ?」


 ティナが帰って来た事で、会議が再開される。少女の仲間の弔いで一時間程度の遅れが出ており、その状況を確認していたのである。丁度少女が目覚めた事と会議に出ていた綾崎がプロクスに状況を確認しに向かった事もあり、中断していたのだ。


「遅れとしては殆ど無いらしい。幸いあの後戦闘が無かったからな」


 プロクスから情報を得た綾崎が聞いた内容を伝える。当然だが、戦闘の為に一度立ち止まればその分再び走りだす必要がある。スタミナの問題もあるし、竜達の気分の問題もあって、なるべく立ち止まらない方が常に一定の速度で走れる。常に一定の速度で走れれば、その分距離は伸びるのだ。

 そして戦闘だがこの日は珍しく『人牛(ミノタウルス)』との一度しか無かった為、なんとか予定した地点まで移動する事が出来たのであった。


「なら、護衛内容についても変更は無し、か」

「そうなるだろう」


 瞬の言葉を綾崎も同意する。致し方がないだろうし誰も文句を言うつもりは無いが、やはり少女の慟哭の声は全員の心に重い雲を漂わせているので、会議は何処かお通夜の様な暗さになってしまっていた。


「現在の行軍状況はどれぐらいだ?」

「今は……地図があっただろう? 何処に有る?」

「あ、ちょっと待ってください……はい」


 綾崎の質問を受け、男子生徒の一人が荷物から地図を取り出して机の上に展開する。地図はマクスウェル公爵領全体の略図を書き記した物で、重要な街道や宿場町が記された物だった。

 ちなみに、公爵家が持つ詳細な地図では無いので、裏道に近い街道などは書かれていない。地理が未だ軍事機密となるエネフィアにおいて、さすがにカイトもそんな軍事機密をほいほいと与える事はしていない。


「今は出発して2日目で、現在地はここだ。明後日の昼には『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』に到着する予定らしい」


 地図を示しながら、綾崎が現状の説明を行う。どうやら今で丁度予定の半分を経過した所であった。


「なあ、その『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』ってどんな所なんだ?」


 そうしておおよその議題を消化して、後は細々とした話題だけになった所で、男子生徒の一人が疑問を呈した。よくよく考えれば目的地が何処でどういうルートを通るのかは理解していたのだが、目的地がどんな場所なのかは知らないのだった。


「む……」


 その疑問を聞いて、瞬も綾崎も多くの幹部陣が頭を悩ませる。誰も知らないのだ。それもそのはずで、『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』の情報は何故か滅多に表に出ない。出ないが故に情報が流通しておらず、誰も知らなかったのである。

 そうして、ティナに瞬と綾崎の視線が注がれる。二人共ティナが『魔女達の庭園ウィッチーズ・ガーデン』を治める魔女族の一員である事を知っているからだ。


「むぅ……どんな場所かと言われてものう……あそこは男子禁制の場所じゃ。知った所で意味は無いぞ?」

「へ?」

「あ、私達は入れるんだ」


 ティナの説明を聞いて、生徒の様子が男子生徒の肩透かしを食らった様子と、女子生徒のほっと一息吐いた様子に二分される。


「まあ、男でも入れぬわけでも無いが……まあ、というのもあそこには結界が敷かれておってのう。大本は空間の内部の気候を保ち、中の異変を外に漏らさぬ為の物じゃ。その結界が男を拒んでおる様でな。弄くれば解除も出来るのじゃろうが、誰も必要を感じておらぬが故にそのままらしいのう。作ったのはなにせ前大戦……叛逆戦争で活躍されたババ様……ユスティエルで、余も詳しい意図は知らんのう。入れるのは初代皇王と領主カイトしかおらん、というのが通説じゃ」

「……てことは、ハーレム?」

「まあ、そうなるのう。時折中の魔女族目当てに入り込もうとする馬鹿が新聞を賑わわせるが、成功した例は聞かぬな」


 男子生徒の言葉をティナが認めると、その男子生徒は血涙を流しかねない程に悔しがっていた。そんな男子生徒に軽蔑の眼差しを送る事も無く完全に無視して、女子生徒が問い掛ける。


「で、中はどんな所なの?」

「知らぬよ。結界があることは有名でも、中の様子が伝わる事は稀じゃ。伝わってこん物を知り得る筈があるまい」


 女子生徒の質問に、ティナが苦笑して返す。女子生徒の質問一応念の為に言えば、ティナは中の事を知っている。知っているがそれを言うと何故知っているのか、という事になるので知らないと告げたのだ。


「まあ、入れる様じゃったら入れてもらえば良いじゃろう」

「まあ、そうね」


 女子生徒の方にしても、ティナの正体を知らないので知らないとの答えが帰って来ても不思議では無かったらしい。女子生徒の方もそれに頷いて、会議はお開きとなるのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第475話『閑話』


 2016年6月14日 追記

・説明

『火葬した球体』という瞬の言葉が有りましたが、これはこの表記で正しいです。この球体が何だったのか、については、後々分かるかと。

 後、その近辺の少々言い回しが可怪しいと感じましたので、それに合わせて少しだけ見直しました。

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