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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の二 冒険者達編
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第473話 唯一の生き残り

 カイトが偵察に出て直ぐ。綾崎は先頭車両へと幌馬車の上を駆け抜けていた。これは瞬が護衛の総隊長を務めている事と、用意を整えなくても綾崎も戦う事が出来るからだ。


「プロクスさん!」

「おう、確か綾崎つー小僧やったな! 何があった!」


 先頭の馬車に乗り込んで居るプロクスの下へと辿り着くと、即座に綾崎がプロクスを呼ぶ。すると、直ぐにプロクスが反応する。


「使い魔からの連絡だと、戦闘らしいです。此方に向かっているらしいので、接敵は不可避、と。方角は11時。魔物同士の戦いなのか、冒険者の討伐なのかはまだ不明です」

「ち、まあ、時々あるっちゃあ、あるからしゃーない。全車両緊急停止!」


 プロクスはそれを聞くと即座に全車両に指示を飛ばし、御者達に馬車の緊急停止を命ずる。移動しながらでは防御の為の結界を張り巡らせる事は出来ないのだ。もし移動している所に流れ弾や攻撃を受ければ、最悪積み荷を失いかねないのだ。それに、この程度の時間の遅れは十分に想定の範囲内だった。


「自分達も出ますので、皆さんは馬車の中で待機を。敵は『人牛(ミノタウルス)』が十数体らしいので、少々お時間を頂きます」

「ち、意外と多いな。まあ、しゃーない。積み荷を確実に守ってくれりゃそれでええわ」


 綾崎が更に情報を提示していく。敵数と種類を聞いたプロクスには顔に若干に苦々しさが浮かぶが、それも仕方がないだろう。討伐出来ないとは思っていないが、それでも時間のロスはロスだった。


「では」

「おう、まあ、頼むわ」


 綾崎はプロクスの声を背に、自分も仕事に取り掛かるのであった。




 一方、先頭を目指して走っていった綾崎に対して、幌馬車の中に戻った瞬はと言うと、直ぐに各荷馬車の護衛にあたる生徒達へと声を掛ける。ベストは荷馬車が止まるまでに準備を終わらせる事だ。


「全員、急いで準備を整えろ! 敵は『人牛(ミノタウルス)』! 数が多い! 盾持ちが防ぎつつ、一体ずつ仕留めていくぞ!」


 『人牛(ミノタウルス)』は魔物のランクで言うと、ランクC程度と言った所だ。瞬やソラ達上層部の面々や第一陣の中でも実力者であれば単騎でも相対する事は出来るが、多くの冒険部の生徒達では取り囲んで相手にするしかない。それを考えれば、主力を中心に陣形を整えるのが妥当だろう。

 なので瞬は安全策として倒せる面子が一体ずつ確実に討伐していき、その他の生徒には防御させて時間稼ぎをさせる事にしたのだ。時間は掛かるが確実性に富んでおり、積み荷への影響が最も少ない策だった。


「止まると同時に全員で外に出るぞ!」

「おう!」

「ユスティーナ! 魔術師達の指示は任せる!」

「仕方がないのう。全員、幌馬車の上に登り、遠距離で牽制し続けろ」


 ティナの指示を受け、魔術師と弓兵達が幌馬車の上に上がる。それを見て、瞬は前に出る面子に合図を下す用意を整える。と、そこへ先頭車両へ出ていた綾崎が帰って来た。


「綾人か」

「プロクスさんに事情を説明してきた」

「こっちは使い魔から連絡が来た。どうやら更に奥に要救助者が居るらしく、冒険者を追っている『人牛(ミノタウルス)』は全て此方に任せるそうだ。他にも居るかもしれないから気を付けろ、だそうだ」

「そうか」


 だんだんゆっくりになっていく馬車の上で、二人が会話を交わす。そうして問題なく下りられる速度になったのを見計らって、瞬が合図を下した。


「全員、出るぞ!」


 その瞬の号令を合図に、全員が馬車から飛び出す。まだ敵影は見えないが、それでも近くの森から轟音が響いているのが聞こえてきた。と、それと同時に、森から一人の少女が飛び出してきた。


「誰だ!」


 瞬の誰何に少女はびくり、となるが、先にカイト――の使い魔――から聞いていたキャラバンだと気付くと大声で助けを求める。


「あ、あの! さっき森でこっちにキャラバンが居るって! 助けてください! 魔物に追われてるんです!」

「っ、君がそうか! 聞いている! おい、誰か急いで馬車の中に収容してやれ!」


 少女の答えを聞いて、瞬が近場に居た生徒に向けて指示を飛ばす。それを受けて直ぐに一人の女子生徒が少女の手を引いて、馬車の中に撤退していく。そして少女が馬車の中に入ると同時に『人牛(ミノタウルス)』が森の中から現れた。


「大斧に気を付けろ! あれに当たると痛いじゃ済まないぞ!」


 瞬の言う通り、『人牛(ミノタウルス)』は『赤人牛(レッド・タウルス)』と同じく大斧を持っている。尚、大斧の大きさについては『人牛(ミノタウルス)』の方が若干小さく、大斧の禍々しさについても同じだった。

 ちなみに、『人牛(ミノタウルス)』は普通の斧を大きくした様な見た目だが、『赤人牛(レッド・タウルス)』は赤黒く変色した禍々しさがある大斧である。


「行くぞ!」

「おう!」


 瞬の号令に合わせて、一気に全員が『人牛(ミノタウルス)』へと距離を詰める。なお、さすがに瞬も現在開発中の二槍流を使う事はしなかった。


「<<雷炎武(らいえんぶ)>>!」


 瞬は『人牛(ミノタウルス)』と接触する寸前、雷と炎を身に纏う。今回は攻撃力重視では無いので、槍の方に纏わせる事はしなかった。


「はっ!」


 そうして瞬は突撃の勢いそのままに『人牛(ミノタウルス)』へと槍を突き出す。さすがに『人牛(ミノタウルス)』では瞬の速さに追いつけず、そのまま槍が突き刺さる。だが、大して効果は無かった。


「硬い!?」


 瞬が驚きで目を見開く。筋肉の鎧に覆われた『人牛(ミノタウルス)』はどうやら身体そのものがかなりの防御力を有しているらしく、瞬の槍は障壁を貫き通しただけに留まる。


「障壁は柔らかいんだがな……」


 一旦距離を取って瞬が呟く。『人牛(ミノタウルス)』が身に纏う障壁は数も固さもそれほどでは無いのだが、それ以上に筋肉の鎧が固かった。信じたくは無いが槍を通さない以上、事実らしかった。


「さて……どうしたものかな……」


 ふと横目に見ると、他の面々も攻めあぐねている様だ。半分ほどは瞬と同じく筋肉の鎧の固さに唖然となっていた。


「これは近接は相性が悪いか……」


 瞬は少し悩む。やろうと思えば攻撃力を高めて討伐することは不可能ではないだろうが、カイトの念話でまだ『人牛(ミノタウルス)』が居る可能性があると聞いている。連戦を考えればスタミナを消費するのは避けたかった。


「良し……ユスティーナ! 魔術師達に遠距離から魔術で仕留めさせてくれ! 障壁はなんとかなるが、筋肉が分厚すぎて貫きにくい!」

「うむ! 一体ずつ集中砲火で仕留める! 余に続け!」

「はい!」


 言っておいて奇妙なセリフだ、と思う瞬だが、事実なので仕方がない。そしてティナに援護を頼み、他の生徒達に指示を飛ばす。


「全員、攻めから防御に変更! 攻撃は程々に、動きを止める事に専念しろ!」

「了解!」


 返事を聞いて、瞬自身も『人牛(ミノタウルス)』の動きを止める事に集中する。幾ら集中砲火を浴びせようにも、動かれて避けられれば意味が無いのだ。


「くぅ!」


 そうして動きを止める為に『人牛(ミノタウルス)』の大斧の攻撃を防御してみたのだが、手にしびれが来た。おまけに踏ん張っていた筈なのに、地面を3メートル程も後ろに滑る。


「これはダメだな」


 手のしびれを振るって吹き飛ばして、瞬が苦笑する。受けれて今の一撃だった。本当ならば『人牛(ミノタウルス)』を動かしたく無いのだが、回避を重視するしか無かった。


「先輩! こっちで攻撃を受け止めますんで、気を逸らしてください!」

「すまん!」


 苦笑した瞬を見て、討伐が終わった生徒が此方にやって来る。それを受け、瞬は少し距離を離して牽制に回る。そうして数分牽制に回っていると、瞬が相手をしていた『人牛(ミノタウルス)』へ遠距離の生徒から集中砲火が浴びせられる。


「ふぅ……」


 爆炎に包まれた『人牛(ミノタウルス)』を見て、瞬が安堵の一息を吐いた。そうして爆炎が晴れた後にはボロボロになった『人牛(ミノタウルス)』の姿があり、ゆっくりと後ろに倒れこむ。そして倒れた後にはもう動く事は無く、瞬は別の戦闘へ移るのであった。




「これで最後、か」


 最後の『人牛(ミノタウルス)』が地面に沈んだのを見て、瞬が槍を消失させる。それから暫く警戒はしていたが森の中から新たな『人牛(ミノタウルス)』が現れる気配は無く、物音が響いてくる事も無かった。


『先輩』


 と、そこにカイトから念話が入る。とは言え、瞬に念話を返す事は出来ないので、どうすれば良いかわからずに困った表情を浮かべていると、向こうから苦笑が来た。


『ああ、そのまま聞いてくれるだけでいい。こっちは森の中の討伐を終えた。取り敢えず中はもう安全だ』


 瞬はその言葉で、警戒を解く。そしてそれと殆ど同時に、戦闘が終わった事を聞きつけたプロクスが出て来た。


「終わったか?」

「あ、プロクスさん。ええ、取り敢えずは戦闘が終了しました」

「じゃあもう出れるな。準備終わったら」


 瞬の答えを聞いてプロクスが指示を出そうとした所で、後ろから声が掛けられる。


「あのすいません……奥にまだ仲間が居るんです。助けて貰えませんか?」

「何?」


 声を掛けたのは、馬車の中に収容した少女だった。少女も戦闘が終わったのを待って出て来たのだ。それを受けて、瞬とプロクスが顔を見合わせる。


「どうしますか?」

「ん……まあ、そっちは行けるか?」


 プロクスは少し悩むも、ここで見捨てるのも寝覚めが悪いし、後々の風評にも関わると考えた。なので取り敢えずの了承を示し、瞬に問い掛ける。それを受けて瞬は声を張り上げた。


「はい……誰か一緒に来れる奴は居るか! 森にまだこの子の仲間が居るらしい! 救助に向かうぞ!」

「なら、俺は撤収の準備を整えておこう」


 瞬の言葉を受けて、綾崎が撤収の準備の取り纏めを受ける事にする。それを受け、ティナが挙手した。


「余も向かおう。敵の防御力を考えれば、魔術師は数人連れて行くしかあるまい」

「そうか、頼む」


 そうして人員と準備を整えて出発しようとした所で、森の中から襤褸を纏い仮面を被った蒼い髪の人物が出て来た。まあ言わずもがなでカイト――の使い魔――である。


「誰だ!」


 冒険部の誰何が飛ぶが、それにカイトは両手を上げる。一応攻撃の意図は無い、という事なのだろう。


「待ってください! その人がさっき私にこのキャラバンの事を教えてくれた人です!」

「そういうことだ。無事で何より、だ」


 カイトは一つ頷いて少女の言葉を認める。


「こちらには一足先に辿り着いて、キャラバンを見ていたから彼女を此方に避難させて貰った。どうやら正解だったようだ。貴方がこのキャラバンの隊長か?」

「ああ、そや。おたくは?」

「北から来た冒険者だ。南へ向かう途中に偶然爆音を聞きつけて森に入った」


 カイトの方は当然プロクスを知っているが、正体を隠している以上は初めてあった体を装う必要があった。なので適当に理由をでっち上げて偶然此方に来た事にする。


「そか。で、申し訳ないんやけど、このお嬢さんのお仲間がまだ森に居るらしい。手、貸してもらえへんか?」

「いや、その事で此方に来た」


 カイトから発せられる少し残念そうな気配で、プロクスも事情を察する。そうして、カイトは襤褸の内側から数枚の冒険者の登録証を取り出す。殆どが血糊がついていたり折れ曲がったりしていた。酷い物では半ば断たれた物もあった。


「これは、君の仲間の物で間違いないな?」

「え……」

「すまない。私が着いた時には、もう……」

「そんな……うそ……」


 ぱたん、と少女が意識を失い、地面に倒れこんだ。防衛本能が意識を失わせたのだろう。それをカイトもプロクスも沈痛な面持ちで見て、少しだけ俯いた。


「私はこの通り独り身でね。すまないが出来れば彼女はキャラバンと共に連れて行ってあげて欲しい。これは間に合わなかった事へせめてもの詫びだ。彼女だけでも近くの街まで連れて行って上げてくれ。こっちはその運賃だと思って欲しい」

「……わかりました。受け取りましょ」


 カイトから差し出された二つの小袋――中身はお金――を受け取り、プロクスが頷く。カイトは独り身かつ旅の最中という設定だ。連れていけないので、という事だった。

 冒険者は助け合いが基本だ。それ故、こういった不幸において香典の様に渡す年長者の冒険者は少なくはなく、プロクスはそれを受け取る事にしたのである。


「瞬くん、誰かに頼んで君たちの所で寝かせてやってくれ。まだ同じぐらいの年齢の子らの所の方が安心やろ」

「分かりました……頼む」


 少女を連れて来た近くにいた生徒に頼み、少女を自分達が使う馬車の中に運ばせる。それに頷いて、プロクスがカイトに問い掛けた。


「で、おたくはどないします?」

「出来れば弔ってやりたいのだが……如何せん私一人では人手が足りない。出来れば手を借りたいと思って来た」

「そういうことやったら、自分も行きましょ。これでも焔魔の端くれ。火葬ぐらいやったら出来ますわ」

「すまない。案内しよう」

「瞬くん、護衛、頼むわ」

「はい」


 そうして、カイトを先頭にして、少し沈痛な面持ちで一同は森へと分け入っていくのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。今日からは断章は再び21時投稿です。

 次回予告:第474話『弔い』


 2016年6月14日 追記

・誤字修正

『敵の防御力』が『ボウイ魚力』になっていたのを修正しました。多分某アニメの『Dボ○イ』方のパチもんか・・・

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 最後の方に「……わかりました。受け取りましょ」とありますが受け取りましょうだとおもいます。
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