表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の一 ソラ強化編
492/3875

第470話 漆黒の巨龍

 事故によって坑道の第4階層に落下したソラ達だが、そこで出会ったフリオなる龍によって危機を救われる。その後治療が出来るというフリオに頼み、戦闘で怪我を負っていた藤堂の治療をしてもらう間、一同はフリオの正体について話し合っていた。


「誰だろー……?」

「ウィルスとかを知ってるなら、公爵家の関係者ですか?」

「さあ……それか皇国の研究者って事もあるんじゃね?」


 一応、学園にある資料は公爵家と皇国の研究者達にも閲覧の許可が下りている。それ故に公爵家の研究者か皇国が持つ研究所の研究者達ならば知っている可能性はあったのだ。

 だが、『赤人牛(レッド・タウルス)』を討伐する腕前と彼が身に纏う服装を見れば研究者と言われるよりも、冒険者や近衛兵団の特殊部隊と言われた方が納得が出来た。


「良し、後は少しの間安静にしていろ。後遺症は残らん」

「ありがとうございま……す……」


 しばらくすると、治療が終わったらしい。フリオは藤堂を寝かせると、治療を終えて此方にやって来た。藤堂は安易に動かない様に、とフリオの魔術によって眠らされた。次に目覚めるのは傷の癒着が終わり、動いても大丈夫な時だ。


「あ、部長の手当、有難う御座います」

「いや、いい。今度からは『爆弾岩(ボム・ストーン)』を相手にする時は気を付けろ。初めてあいつと戦う時には自爆に巻き込まれやすい。やるなら一撃で遠距離から仕留めろ」

「パーティ編成に難が……」


 元々坑道の中に入る予定は無かったのだ。なので調査も不十分だし、そもそもパーティにしても荷馬車の護衛がメインだ。坑道にしてもカイトの想定では事故でも第2階層までというのが想定で、第3階層は想定外だった。第4階層は言わずもがなである。考慮に入れていれば、別の選択肢を取っていただろう。


「なら何故第3階層に入った? 第3階層は遠距離が居ないと無理だろう」

「いや、ちょっとお使いで……それに、剣でも一応遠距離攻撃は出来るんっすけど……」


 責める様な口調のフリオに、ソラが少し言い難そうに告げる。それに、深々とフリオが溜め息を吐いた。


「まあ、次からはきちんと調査をして来い」

「はい……」


 言いたいことは幾つもあるが、勢いだけで突っ込むのは若い冒険者には良くあるミスだ。なのでこの程度で済ませておいた。

 というのも、彼の知り合いも勢いだけで突っ込んで失敗するのがよくあったのだ。それ故言っても痛い目を見ないとダメだろう、と思ったのである。まあ、その友人は痛い目を見ても懲りずにまたやるのだが。


「あの……それで、なんでウィルスとか知ってるんですか?」

「お前達こそ何故知っている? 若いにしては博識だな」


 取り敢えずお説教が終わったと思い暦が問い掛けたが、逆にフリオに疑問を抱かれた。少し警戒している感があったので、それを受けて暦が大慌てで訂正する。さすがに敵視されては生きて出られない事がわかっていたからだ。


「私達はあの、日本から来たんです」

「ああ、あそこか。なる程な」


 フリオはそれだけで全てを把握し、少し猪突なのにも納得が行く。そうして浮かべたのは笑みだ。


「それで、ウィルスだったな。俺は古龍(エルダー・ドラゴン)だ。当然知っている」

「……はい?」


 告げられた言葉に、一同が唖然と口を開ける。今確かに古龍(エルダー・ドラゴン)と言わなかったか、と全員耳を疑った。


「どうした?」

「今、確か古龍(エルダー・ドラゴン)って……」

「ああ、そうだ。それがどうかしたのか?」


 本人にそれがどうしたのか、と言われれば確かにそれがどうした、としか言えない。そして今さっきの力量を見れば、それが事実だろう事は簡単に理解出来た。なので暦が問い掛けたのは、ウィルスと古龍(エルダー・ドラゴン)の間にある因果関係だった。


「あ、いえ……あの、古龍(エルダー・ドラゴン)がどうして知っているのに繋がるんですか?」

「聞いていないのか? 古龍(エルダー・ドラゴン)は世界を渡る。当然だが、お前達の地球よりも遥かに進んだ科学技術を持つ世界にも行った事がある。知っていて当然だろう」

「え?」


 一同が初めて聞く情報に、顔を見合わせる。そしてそれを見て、フリオの方にもどうやら初耳だったらしいと気付く。

 ちなみに、彼の着るラバースーツの様な服もその異世界の産物なので、地球から見ても圧倒的なオーパーツである。材質は特殊な炭素系の素材らしいが、詳しいことはわからない。既にその世界は滅んでいるので加工した技術にせよ素材にせよ、全ては彼らの頭の中にしか情報が無いのだ。


「知らないらしいな」

「あ、はい……」

「かと言って、お前達を地球に送り届ける様な力は無い。そういうものだと思ってくれ」


 安易に希望を与えてもいけない、とフリオは思い直し、念の為に言い含めておく。事実、彼には自由に世界を行き来する事の出来る力は無かった。


「あ、そうですか……」

「世界を行き来出来るのは世界が滅ぶ時だけだ。その時には俺達は別の世界に渡る」


 何処か諦観にも似た苦い笑いを浮かべるフリオに、一同は何か気の利いたセリフを告げる事は出来ない。あまりに重すぎたのだ。

 世界が滅べば、当然その世界に住んでいる人々も無事では無いだろう。それはつまり、永遠の別離を何度も繰り返してきた事を表している。

 それを繰り返す事の重さは、彼らには想像も出来なかったのである。それを聞いて浮かぶソラ達の複雑な表情を見て、フリオが少し苦笑した。


「いや、すまん。知る必要の無い事だったな」

「いえ……」


 苦笑を浮かべたフリオに、暦が複雑な表情で首を振る。そうして少し気まずい沈黙が下りるが、まだ藤堂が復帰してくる見込みは無かった。そうして、その沈黙に耐えかねたのか、暦がフリオに問い掛ける。


「あの……フリオさん。こんな所で何をなさっていたんですか?」

「ん? ああ、趣味の温泉巡りと地脈の調査だ」

「地脈の調査?」


 フリオの言葉に、一同が首を傾げる。それを見て、フリオは一度藤堂を見て、まだ目覚める気配が無いのを確認すると説明を始めた。


「地脈は所謂地面の中の魔力の流れだ。それ以外にも龍脈、海脈というのもある。空気中の魔力の流れを龍脈と呼び、海の中に流れる魔力の流れを海脈と呼ぶ。俺はその調査が仕事の様な物でな。グインが常に大空を漂い続けているのは龍脈の調査の一環だ」


 ちなみに、フリオはそう言うが別に移動しなくても地脈などの調査は出来る。不具合があればそこまで出向く必要はあるが、問題が無い限りは一点に留まって調査しても問題は無い。

 まあ、グインの様に寝ていても調査出来るかどうかは別だが。意外と万能な彼女の事。出来ても不思議ではなかろう、とは同じく古龍(エルダー・ドラゴン)のティアの言葉だった。


「地脈とか調べて、何をするんですか?」

「ん? ああ、俺達はそれぞれ特殊能力があってな。俺は地脈の操作、グインが龍脈の操作、仁龍は海脈の操作、ティアが環境の操作、グライアが空間の操作、レヴァが生死の操作だ。自分達の力として使うなら、当たり前だが調査もするだろう?」


 フリオが笑いながら告げる。ティアが移動を続ける浮遊大陸に居を構えているのも、グライアが旅をし続けているのも、仁龍が湖の中――実はあの湖は湖底で海に繋がっている――で眠っているのも実はこれに起因している。各々が自分の力として利用出来る場所を調べられる場所に居を構えていたり、逗留していたりしたのである。

 まあ、全員異変さえ起きなければ自ら出向く必要は無いのだが。結局の所、各々好きなことをしているに等しかった。現にフリオも調査と銘打って温泉巡りをしている。


「ス、スケールが大きいですねー……」

「そうだな」


 暦が苦笑しているのに、フリオも応じて苦笑する。長身で仏頂面そうな見た目なのだが、どうやらそれなりに感情は豊からしい。彼は此方に合わせてころころと表情を変えていた。

 そうしてふと、古龍(エルダー・ドラゴン)について少しは知っているソラ達さえ聞き慣れない名前が入っていた事に気付いた。


「レヴァ?」

「ん? ああ、幽玄龍だ。奴の名前でな、民草が勝手に付けた幽玄龍は渾名だ……実は仁龍というのもその渾名だ。燈火らは知っているがな」


 どうやらこっちは知られていないという自覚はあったらしい。フリオは苦笑して更に仁龍の意外なうんちくと共に告げる。


「レヴァイアサンが奴の名だ」

「あ、そうなんですか」

「まあ、奴は引き篭もりだ。滅多に出て来ないから、覚えておかなくていいぞ」

「あはは」


 フリオの言葉に、一同が笑う。彼らは超常の存在と言われているのだが、意外と人臭いのだな、と思ったのだ。そうしてそんな事を話していると、藤堂が身動ぎを行う。どうやら目覚めが近いらしい。一同が近寄ると同時に、藤堂が目を覚ます。


「大丈夫か?」

「……ええ、はい。フリオさん、有難う御座いました」


 フリオの問い掛けに藤堂は一度傷跡をさすり、違和感が無い事を確認する。そうして十分に動ける事を確認すると、藤堂は起き上がってフリオに頭を下げた。


「問題は無さそうだな」

「ええ、はい」


 何度か屈伸して傷口が開かない事を確認すると、フリオも頷く。そして目覚めた藤堂を交えて情報を共有する。さすがに藤堂も自分を治療してくれた人物が古龍(エルダー・ドラゴン)だと知ると驚きを隠せなかったが、望外に命を拾った事が理解出来たので自らの幸運に感謝するだけだった。


「脱出は案内しよう」

「え?」


 説明が終わり、どうやって脱出しようかとなった所でフリオが申し出る。まさかこの上脱出にまで手を貸してもらえると思っていなかった一同はきょとん、とフリオに注目する。


「ここの温泉はそれなりにお気に入りの一つでな。入る度にお前達の死を思い出しても厄介だ」

「そ、そうですか……有難う御座います」


 理由はともかく、助けてもらえるのは事実だ。なので藤堂は苦笑しつつも頭を下げる。ちなみに、お気に入りと言うのは照れ隠しでも何でも無く、事実である。

 というのもフリオは先にソラ達が確認した通りの巨体だ。本来の姿で入れる温泉は数少なく、そう言う意味ではこのドワーフの里の奥の坑道4階層の温泉は非常に貴重だったのだ。


「ついて来い」

「はい!」


 歩き始めたフリオに合わせて、一同も移動を開始する。そうして出発した一同だが、道中には何の問題も無かった。


「……つよ」

「敢えて言わせてくれ……もうあいつ一人でいいんじゃないかな」

「……分かるぜ……」


 いや、問題は有るには有った。思わず木更津が軽口を叩くぐらいにドン引きであった。ソラも同じく軽く引いた表情でそれに返す。


「ふんっ!」


 フリオの気合を入れる声が響く。第3階層にまで戻ったソラ達だが、先ほど苦戦した『爆弾岩(ボム・ストーン)』に囲まれた。再びの戦闘に身構えるソラ達だが、身構える必要は無かった。

 なにせ、気合と共にフリオが地面を踏み抜くとそれだけで大規模な地震が起きて――<<震脚(しんきゃく)>>と呼ばれる(スキル)――、突進してこようとしていた『爆弾岩(ボム・ストーン)』達の動きを縫い止めたのだ。


「はっ!」


 続くフリオの裂帛の気合で周囲を取り囲んでいた『爆弾岩(ボム・ストーン)』が全て吹き飛ぶ。そして岩壁に衝突した『爆弾岩(ボム・ストーン)』が衝撃で爆発し、爆炎が巻き起こる。だが、今度は誰も怪我を負う事は無かった。フリオが巨大な障壁を張っていたからだ。

 圧倒的なのはそれだけでは無かった。例えばソラ達が苦戦した『溶岩スライム(レイブ・スライム)』は最早指先一つだった。


「……えー……」


 由利が潰れた『溶岩スライム(レイブ・スライム)』を見て唖然とする。フリオが人差し指をくん、と上に持ち上げると、それだけで『溶岩スライム(レイブ・スライム)』が乗っていた地面が勢い良く隆起し、更には同じ大きさの半径で天井が落下していく。『溶岩スライム(レイブ・スライム)』はその間に挟まれてコアを破壊されて潰されて討伐される。


「あ、あはは……」


 他にも苦労して暦が切り裂いた『炎石巨人フレイム・ストーンマン』であればただ単なる正拳突きの一撃で完全に崩壊し、道中で出会ったドワーフに出会えばその防御力に唖然となる。彼は偶然道中で階下から上がってきていた『赤人牛(レッド・タウルス)』に襲われていたのだ。


「ん?」


 後ろから近づく『赤人牛(レッド・タウルス)』に気付かなかったドワーフの男性だが、フリオが一瞬で両者の間に割り込み、薙ぎ払われようとしていた大斧を防ぐ。防ぐ、と言っても何か特別な動作をしたわけでは無い。ただ単にその間に割り込んだだけだ。


「うそぉ……」


 そうして響いたのは、金属が砕ける澄んだ音だ。フリオの防御力に勝てず、大斧が砕け散ったのだ。さすがにこれには『赤人牛(レッド・タウルス)』も唖然としたらしく、何処か目を丸くする様な気配があった。


「ん?」

「大丈夫だな?」

「これは旦那……って、こりゃすいません」


 だが、驚いているのはソラ達と『赤人牛(レッド・タウルス)』だけだ。救ったフリオの方にも救われたドワーフの方にも驚きは無かった。それがまるで当然かの様に会話が交わされる。

 ちなみに、目を丸くしていた『赤人牛(レッド・タウルス)』は振り向きざまのフリオの裏拳によって一撃で討伐された。

 そんなこんなで一同は何の危険も無く、出口まで辿り着く。そうして出口に辿り着いてみれば、偶然外を出歩いていたオーアに出会った。


「おう、帰ったね……って、フリオの旦那。一緒だったのか」

「ああ、オーアか。もう少し道中には気を配ってやれ」

「ん?」


 フリオからの苦言を聞いて、オーアが首を傾げる。そんなオーアに対して一同は一度彼女の仕事場に移動し、道中での事情を説明する。


「ああ、小僧達は遠距離出来ないのか。そりゃ済まなかった」

「聞いていなかったのか」

「そりゃ、こんなとこで即断で坑道に入る事を了承するぐらいだからね。行けると思うじゃないか」


 オーアが笑う。どうやらソラ達が直ぐに来た事で問題無いと判断した様だ。まあ、オーアにして見ればどうでも良い事だったので、直ぐに次の話題に入る。


「っと、フリオの旦那。公爵家から付け届けが来てるよ」

「付け届け?」

「酒が樽で。来てたんなら言え、だってさ」


 どうやらフリオはカイトに来ている事を告げていなかったらしい。オーアの使いがカイトにフリオ来訪の事を告げて、その使者が今日帰って来たのであった。


「そうか。何処に有る?」

「ウチの倉庫に置いてるよ。呼びに行こうと思ったんだけど、そっちから来てくれたからね」


 どうやらオーアが洞窟の前に来ていたのは偶然では無かったらしい。それを受けてフリオが再び立ち上がる。


「分かった。勝手に持って行く。ツマミももらえるか?」

「一緒に来てるよ」

「さすがだ」


 ツマミを一緒に送ったのはカイトだ。彼も酒飲みなので、酒の肴は必要だろう、と含めておいたのである。なのでフリオはその手腕を褒め、歩き始める。ちなみに、フリオも酒好きだ。


「これからどちらへ?」

「もう一度入り直す」

「そうですか……ご助力、有難う御座いました」


 フリオが出て行こうとしたのに合わせて、藤堂が腰を折って頭を下げる。それを背に、フリオは出て行くのであった。


「で、小僧達も荷物をご苦労さん。今日は休んでいいけど、ソラの小僧は武器と防具を置いてきな。それで微調整をかける」

「うっす。ありがとうございます」


 オーアがソラから小袋を受け取って、その労を労う。そうして、更に続けての指示にソラが武具を脱ぎ、一同公爵家の持つ別邸へと戻るのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。明日24時にソート作業を行います。

 次回予告:第471話『新たな力』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ