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影の勇者の再冒険 ~~Re-Tale of the Brave~~  作者: ヒマジン
第二七章 其の一 ソラ強化編
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第469話 前門の虎後門の狼

 すいません。前回予告ミスりました。

 遠足は帰るまでが遠足だ。誰が言った言葉だろうか。これはどうやら冒険者達の坑道探索にも当てはまるらしい。


「なんだよ、こいつ! 硬いし丸いし多いし!」


 ソラの叫び声が響く。敵の特徴はソラが言った通りなのだが、まあ、端的に言えば某有名RPGゲームに出て来る丸い石の敵モンスターを思い浮かべれば良い。

 某RPGでも自爆されるとうざいモンスターなのだが、ソラ達が相対している魔物も同じく自爆するという厄介な特徴を有していた。とは言え、現実はゲームよりも厄介だ。

 この魔物はそれが自分の意思でも可能だし、死ぬ寸前にも爆発するのだった。なので安易に近場で討伐すれば爆発に巻き込まれるのである。


「藤堂先輩! あんま動かない方がいいっすよ!」

「つぅ……わかっては居るが……さすがにこの状況ではな!」


 ソラが敵の体当たりを防ぎながら、後ろに守る藤堂に声を掛ける。気配だけで察したのだが、ソラが攻撃を防いだ隙を狙って斬撃を繰りだそうとしたのだ。

 そんな藤堂だが、安易に近づいて爆発に巻き込まれ、腹部に魔物の破片が突き刺さってしまっていた。破片はまだ抜いていない。安易に抜けば血が吹き出すからだ。なので抜くのは戦闘が終わった後である。

 厄介なのか有り難いのかは判断出来ないが、どうやら自爆した後の破片は簡単に消失することは無いらしく、突き刺さったままになってくれていた。だが、それも何時までかはわからない。戦いを急がねばならなかった。


「くぅ……」


 ソラは背後で痛々しげな苦悶の声を聞く。ソラも爆発には巻き込まれはしたのだが、全身を守るフルプレートアーマーのおかげで破片が突き刺さる事は無かった。軽装備である彼らが故の弱点だった。


「これ、どうします?」

「木更津か……逃げたい所だが……」


 自爆と体当たりしか出来ない魔物であるが故になのか、敵の動きはかなり素早かった。おまけに数も多く、とてもでは無いが逃げ切れる様子は無かった。


「一か八か……すんません、藤堂先輩。賭けていいっすか?」


 戦いは此方に不利。援軍も無し。藤堂の怪我にしても芳しくは無いだろう。時間は敵に有利になるだけで、此方に有利になってくれない。なのでソラが覚悟を決める。


「……やってくれ」

「全員、俺の側に来てくれ!」


 ソラの発案に、藤堂が少し考えて了承を示す。ソラの覚悟を見て、彼も覚悟を決めたのだ。それを受けてソラが全員に声を掛け、各々敵を牽制すると、ソラの周囲に集合する。


「何をするつもりだ!」

「敵を一掃するんだよ」

「何!?」


 近づいてきた木更津の問い掛けに、ソラが呼吸を整えながら答える。それに一同驚きを露わにするが、何か考えがあるらしいソラに任せる事にする。現状で手詰まりなのは手詰まりなのだ。そうして、此方が一つに集まった事で敵もソラ達へ向けて一点に集中する。


「暦ちゃん、一体でいい!敵を仕留めてくれ!」

「でもそんな事したら!」

「いいから!」

「っつ、わかりました!」


 集合した敵に攻撃して自爆されれば、連鎖反応で自爆が連続する。その爆発力は単体の比では無いだろう。それを危惧したのだが、ソラはやれと命じる。そこに何かの自信を見た暦は、少し逡巡するも一つ頷いて、最も近い敵に対して斬撃を飛ばす。


「<<風よ>>……マジで頼むぜ、風の大精霊様!……<<球盾(スフィア・シールド)>>!」


 暦から斬撃が放たれると同時に、ソラが全力で加護を使用して周囲に巨大な風の渦を作り出し、更に全力で全員をすっぽりと覆うように球形の魔力の盾を創り出す。

 風の加護で爆風を防いで、更に加護で盾の力をブースト、それに加えて魔力の盾という二段構えの防御だった。それらが全員を覆うと同時に、爆発が始まる。


「おぉおおおおお!」


 連続する爆発音と、ソラの裂帛の気合だけが響き渡る。爆発は10秒にも満たなかったが、全員には長い時間に感じられた。そして、ついに爆発が終わり、それと同時にソラが肩で息をして、膝を屈する。ほぼ持てる全ての力を費やしたのだ。


「はぁ……はぁ……」

「終わった……?」


 爆音が止み、ソラの盾が消失する。それを確認して、伏せていた暦が顔を上げる。そうして爆炎と煙が晴れた後には、敵の影は一つも残されていなかった。


「勝った……ようだな……」


 若干苦しそうではあるが、藤堂が状況を認める。それを合図に全員が尻もちを着いた。


「逃げれねえってのも辛いっすね……」

「今度からは走って逃げ……ん?」


 ソラの言葉を受けた木更津が提案している最中、違和感に気付く。なにか地面が揺れている様な感があったのだ。


「何だ? 音?」


 ごごご、と響く様な音が全員の耳に響いて、全員が周囲を見渡す。先の爆音で他の魔物に気付かれたのか、一同は疲れた身体に鞭打って、再び立ち上がる。だが、地響きの原因は魔物などでは無かった。


「……え? うそぉー……」


 ドゴン、という轟音と共に、ソラ達が居た地面に穴が空く。本来は次の階層――順繰りに左右に階層があるらしので、1階層毎にかなり深い――数十メートルあるという地面だったのだが、どうやら運悪くここだけ脆くなっていた様だ。いや、まああれほどの爆発が起きれば普通の地面でも崩落するだろうが。


「いてて……って、藤堂先輩、大丈夫っすか!」

「ぐっ……なんとか、受け身は取れた……」


 第4階層の地面に落ちて、なんとか受け身を取って怪我なく着地したソラだが、即座に藤堂の容態を気にする。そうして見た藤堂だが、受け身を取ることになんとか成功して傷の悪化は防ぐ事が出来たらしい。とは言え、強引に身を捩って更に着地の衝撃を受けたので、額から脂汗を流していたが。

 崩落した地面に巻き込まれ、更に下の階層に落下したソラ達だが、どうやら溶岩に落下するという最悪の事態は免れた。まあ、後で調べた所によると4階層だけは特殊らしく、この階層だけは交互に掘られていなかった。

 落下した一同は何かゴツゴツとした漆黒の岩の上に落下した。周囲には蒸気が立ち込めているものの、見通しは悪くなかった。高さ30メートル半径一キロ程のかなり広大な空間となっていた事が幸いしたようだ。どうやら近くに魔物は居ない様子なので、木更津は怪我をした藤堂の治療を行う事にした。


「取り敢えず、先輩。破片を抜きましょう。取り敢えず寝転んでください。」

「ああ、すまん……」

「歯を食いしばってください。抜きます……3……2……1……」

「くぅ!」


 木更津の指示に従い、藤堂が横になる。そうして木更津が一息に破片を抜き取り、止血を始める。そうして止血をしながら、木更津がソラに横目で告げる。


「天城、悪いが荷物から回復薬を取ってくれ」

「おう……この怪我だと、一番高い奴がいいな」

「すまん……」


 木更津によって包帯を巻かれながら、痛みに耐える藤堂がソラの気遣いに小さく頭を下げる。そうして藤堂の怪我の治療を終え、開けた場所に暫く休めるか、と思った一同だがそうは問屋がおろさなかった。


「由利さーん……」


 異変に気付いた暦が妙な笑いを浮かべながら由利を見る。男性陣一同は藤堂の治療に忙しく、その異変に気付いていなかった。そうして由利の方だが、彼女も異変に気付いていたのか、同じく満面の笑みで暦を見返した。尚、二人共顔が真っ青だった。


「これ……」

「だよねー……」

「「あははー……」」


 二人は同時に乾いた笑い声を上げる。そんな奇妙な女性陣に、男性陣が首を傾げる。


「……どうした?」

「こっちは怪我の治療は終わり。後は血が止まるのを待って、移動しようぜ……って、どした?」


 藤堂を横に寝かせて安静にして傷の治癒を待つ間に今後の話でもしようか、とやってきたソラと木更津だが、由利と暦の異変に気付く。


「あははー……木更津先輩、この地面……ゆっくりと胎動してませんか?」

「ゆっくり上下してるよねー……」


 二人が告げた言葉に、ソラと木更津が周囲を見渡し、そして更に地面を見る。そこには少し下に水が見え、そこから湯気が上がっていた。

 そこで、二人も異変に気付く。地面だと思っていた場所は、かなり高かったのだ。そして地面は地面では無かった。何か黒い岩だと思っていたのは、巨大な超硬質の皮だったのだ。


「……このゆっくりってもしかして……」

「多分、寝てる……」


 一気に声のボリュームを落として全員がヒソヒソ声で相談しあう。岩だと思っていた物体の大きさは数百メートルある。それが寝息に合わせて緩やかに上下しているのだ。

 あまりにゆっくりかつ微妙だったので、今の今まで異変に気付かなかったのである。そうして一同は自分達が最大の危険の上に乗っている事を察すると、静かに大急ぎで藤堂の下へと急ぐ。


「どうした?」

「先輩、辛いの分かるんっすけど、移動します」

「どういうことだ?」


 回復薬の鎮痛作用が効いてきたのか、藤堂の顔色は若干良くなっていた。まだ動かすには不安が残るのだが、それでも動かないのは最悪中の最悪だ。


「これ、魔物の上だったみたいっす」

「部長、ちょっと痛みます」

「ぐ……いや、大丈夫だ。自分で歩ける」


 ソラと木更津が手を貸そうとしたが、藤堂はそれを制して自分で歩き始める。寝ているのなら、起こさない様にゆっくりと逃げるだけだ。それならなんとか出来ないわけでもないらしい。


「移動しよう」


 一同が連れ立って移動を始めようとして、そこで悪運が尽きた。巨体が身じろいだのだ。巨体が身じろげば、当然上に居たソラ達は落下するしかない。


「またこうなんのかよー!」


 ソラの叫び声と共に、一同が落下していく。今度は受け身を取れなかった。だが、今回はその必要は無かった。なぜなら、地面を満たしていたのは水、というより火山の近くにはつきものの温泉水だった。まあ、かなり熱かったわけだが。


「あっぢぃー!」

「あっつ!」


 全員の悲鳴が第4階層のタダっぴろい空間に響き渡る。例えるならば生粋の江戸っ子好みの熱湯、といった所だろうか。とりあえずかなり熱かったらしい。一同大慌てで近場にあった岩の上に脱出する。


「ぜぇぜぇ……」

「は、はは……藤堂部長、大丈夫……ですか?」

「き、傷口に響く……」

「熱いお風呂は苦手なんですよ、私!」

「ウチも苦手ー……」


 5人はこの時点で忘れていた。自分達が何の上から落下したのかを。そして、それが5人の方を向いた。


「大っきいですねー……」

「顔だけで長さ20メートルぐらいねえ?」


 暦とソラが目の前に広がる顔に呆然と呟いた。そうして離れた事で全容が見えたのだが、その全貌は一同に戦闘を諦めさせる様な物だった。なので取る手段は逃げの一手だ。だが、振り返った先にも危機が待ち受けていた。


「前門の虎後門の狼か……!」


 なんとか刀を構えた藤堂が苛立ち紛れに呟く。後ろには5メートル程の巨大なミノタウルスの様な魔物――正式名称は『赤人牛(レッド・タウルス)』――が待ち受けていたのだ。しかも、一体だけでは無く、5体も並んでいた。単純計算で一人一体だ。だが、ソラ達にはそんな余裕は無い。


「ちぃ……万事休すか……全員、覚悟を決めるぞ!」

「うっす! 最後まで足掻いてやりますよ!」


 さすがにこれは無理か、誰もがそう諦めるが、天は彼らを見捨ててはいなかった。どう戦って良いかわからない巨大な竜を相手にするよりははるかにまし、と『赤人牛(レッド・タウルス)』へと突撃していったソラ達だが、その彼らを追い抜いて黒い影が通り過ぎ、一瞬でミノタウルスの様な魔物へと肉薄する。


「え……?」


 暦の唖然とした声が響く。呆然となる一同に対して、黒い影の動きは正確だった。ドゴン、という轟音が響く度に『赤人牛(レッド・タウルス)』が吹き飛んでいく。轟音の元凶は黒い影が徒手空拳で『赤人牛(レッド・タウルス)』を打ち据えた時の音だ。

 そしてものの10秒も掛からない内に全ての赤い巨体が消えてなくなる。どうやら一撃で完璧に倒しきったらしく、吹き飛ばされた『赤人牛(レッド・タウルス)』はそのまま起き上がることは無かった。

 といっても起き上がれた所で数百メートルも吹き飛ばされているので、直ぐに此方に来ることは出来ないだろうが。


「危険な事はするな」


 黒い影が此方を振り向いて告げる。それは闇の様に漆黒の髪を持つ長身で、ガタイの良い体躯の男だった。服装はどこかの特殊部隊の様に漆黒のゴムの様な特殊素材の様な服だ。ソラ達は後ろを振り向くと、そこには何処にも先の巨大な竜の影は無く、完全に危機が去った事を理解させていた。


「今の貴様らでは『赤人牛(レッド・タウルス)』には勝てん。無茶はするな」


 男の何処か怒った様な言葉だが、望外に命を得た一同の頭にはいまいち理解出来なかったらしい。そういう名前の魔物なのか、と一同が奇妙な感慨を得る。


「あの……ありがとうございました」


 木更津が黒い巨躯の人物に頭を下げる。それに呆然となっていた他の4人も頭を下げる。それを黒い男も受け入れると、忠告を続けた。


「貴様らの実力ではここに来るな、と言われなかったのか?」

「いえ……つぅ」

「ああ、藤堂部長。自分が……実は上の階層で丸い岩の様な魔物と乱戦に陥り、自爆の衝撃で地面が崩落。えっと、先の黒い龍は貴方ですか?」


 責める様な男の言葉に背を押され、木更津が説明を買って出る。本来ならば年長者でまとめ役に近い藤堂に説明をさせるのが良いのだろうが、どうやら水に落ちた挙句に戦闘に入ろうとした事で傷が開き、痛みに顔を歪めていた。


「ああ」

「でしたら、申し訳ありません。崩落した地面に巻き込まれて、貴方の上に落下してしまったのです」

「ああ、さっき落ちてきたのはお前達だったのか……」


 どうやら今の木更津の説明で男の方も彼らが事故に巻き込まれた事を理解する。それなら仕方がないか、と男も納得して、矛を収めた。


「怪我をしているな? その戦闘の影響か?」

「ええ、はい……出来れば休ませたいのですが、共に護衛をお願い出来ますか? 私達ではどうしても相手にならないのです」

「ああ、ついでに怪我も診てやろう」

「有難う御座います」


 一同がそれに再び頭を下げ、男の指示に従って藤堂を運ぶ。回復薬は傷の治癒力を高める物で外傷にはふりかけて使うのだが、それ故水に濡れたりすると薬効が無くなる。再度の治療が必要だったのだ。


「ここならいいだろう。服を上げろ」

「ありがとうございます……えっと、貴方は?」

「フリオニール……フリオで良い」

「はい、ありがとうございます、フリオさん」


 横に寝転がり、フリオの指示に従い藤堂が服を脱ぐ。そこには15センチ程の傷口があり、癒着仕掛けていたのが再び開いていた。それを見て、フリオがその部位に手をかざす。かざす、といっても手を当てるわけではなく、フリオの手から淡い白い光が放たれたのだが。


「ミースさんの診察の時の光と同じ……」

「……良し。ウィルス性の感染症などは無いな。破傷風の恐れも無い。破片も残っていないし、内蔵も傷ついていないな。運が良かった。さすがの俺も外科手術は出来ん。グインに来てもらうかするしかない」

「ウィルスを知ってるんですか!?」


 一同が目を見開く。当たり前だが、ウィルスなどの微生物の存在はエネフィアでは未だに知られていない。カイトのお陰で存在を知られていないわけでは無いが、知っているのは相変わらずカイトの研究家が大半で、その意味を正確に把握しているものは少なかった。


「少し待て……」


 治療をしながらなので、フリオの方は逐一説明している暇は無い。なので一同は一度藤堂の治療が終わるのを待つことにしたのであった。

 お読み頂き有難う御座いました。

 次回予告:第470話『漆黒の巨龍』

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